軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

691 花よりあんこ

「饅頭ってさー。元々は『生贄を差し出せ!』って言う神様に献上したお菓子が元ネタとされているんだよ。だから名前に『頭』がついている。生首のフェイクってことだね」

「うえーグロいのだー」

「ホント神様ってどこの世界もカスばっかりね」

他愛もないトリビアを披露しつつ、前回から引き続き甘い和菓子のご紹介に精を出している俺。

今作っているのは、甘い和菓子の中でも定番中のド定番、饅頭。

エルフたちの数年越しのお茶プロジェクトの情熱を受けて俺も、心がヒートアップしているぜ。

「饅頭を考案した人はこう思ったんだろうな。『生贄はいけにえんだぞ』ってね」

「「……」」

一気にクールダウンした。

その脇では、我が長男ジュニアが今の話にリスペクトを受けて東南の風を吹き起こしていた。

……色々出来る息子だなー。

まあ、エルフどものお茶に触発された和菓子作りはまだまだ続いていくぜ。

しかし酒蒸し饅頭まで作って、唐突に思った。

もう甘いもの飽きた、と。

さすがにもうこれ以上の糖分は脳に負担をかけるから当分勘弁願いたい。

なので、今度はちょっとアプローチを変えて、お茶に合うものを生産していく。

食うこと自体は止まらないのだった。

「しょっぱいものを食べたい……」

なので俺はまず、もち米を蒸して捏ねて生地を作ると、適当に薄く延ばして焼く。

炭火の上に金網(マナメタル製)をセットして、その上に載せて焼くのだ。

適度に熱せられたらハケで醤油を塗っていき、裏返しては焼き、また醤油を塗っては裏返して……。

できました。

おせんべい!

これもまた立派なお茶うけのスタンダード。

あんこ&あんこ&あんこの甘味大進軍でダルッダルとなった舌には尚更、このカリッとした歯ごたえとしょっぱさが堪らない!

「うおおおおおおッ! これもいいぞぉおおおおおッ!! パリッパリのせんべいで水気の奪われた口内をお茶が潤していく! 甘味とはまた別種の永久サイクルが完成されたああああッ!!」

と言いつつせんべいをバリバリさせるエルロン。

彼女、変なテンション入ってない今日?

皿焼く時も常に変な神が降りてるような珍妙不可思議なテンションだが、今日はまた輪にかけて変というか。

むしろヤバいというか。

頼むから元のキャラを見失わないでね。

あとせんべい食う時に、噛み砕けた細かいカスを盛大に撒き散らかさないで。子どもらの教育に悪い。

「せっかくだから色んな味のバリエーションにも挑戦してみるかー。味噌を塗って味噌せんべいにしてみるぜ」

「うおおおおおおおおおおッ!? おいしそうううううううううッッ!?」

これも皆に大好評。

さらには胡椒を振りかけたこしょうせんべい。さらに砂糖醤油を塗った甘からせんべいも行ってみるぜ!

いかんまた甘味が戻ってきた!?

「んッ? 待てよ!? 味噌せんべいがアリなら豚骨スープを塗りたくったとんこつせんべいもアリなんじゃないか!? よしおれ様秘蔵のゴンこつスープで……!!」

「やめなさい」

またヤベーもんを作り出そうとするな。

ドラゴンのエキスを煮だしたスープ、名付けてゴンこつスープは完全に人類の手に余る危険物として全面的に使用制限されている。

そんなゴンこつスープを隙あらば消費しようと余念のないヴィールであった。

不良在庫をこれ以上抱えておきたくない思いが滲み出ている。

とかくそんな感じで、お茶によく合う茶菓子がバンバン作り出される。

大盤振る舞い。

そんなことをする俺もエルロンの熱にうかされてタガが外れてしまったか?

「おいしそうなものばっかっす!」

そこへ釣られて現れる酒飲み代表、酒神バッカス。

「このように酒のつまみをたくさん用意してセンキュー! 今日の花見は益々盛り上がってばっかっす!!」

「いやそれは……!?」

そうだった。

今日は花見のお祭り最中で、まだ全然宴もたけなわ状態であった。

舞い散る桜の花びらの下、広がる敷物の上に所狭しと並べられたご馳走と酒杯。

さらにお菓子も投入されたら……!?

「うおおおおおおッ!? この甘味は酒にも合うぞおおおおおッ!? まさに酒のために出されたものおおおおおッ!?」

「何を言う!? これはお茶のために用意されたんだぞ! だからこそお茶請け! 茶菓子! 酒飲みは大人しく乾き物でも齧ってろおおおおおッ! そして歯がイカレてしまええええええええッ!?」

「何ぃいいいいッ!? 神の歯はまだまだ大丈夫うううううッ!?」

益々カオスな状態になった。

甘いものでも充分お酒飲めるよね。

ブランデーやウイスキーのお供にキャンディやらチョコレートがいいと言われるし、洋酒でそんなこと言われるんなら和菓子で和酒だってアリな組み合わせ!

せんべいなんか素材は米だし、同じ米が原料の日本酒と中々合う。

飲めます! 甘いものでお酒は飲めるんです!

そんなわけでお茶の前に長年の宿敵コーヒーよりもまず先に、酒が立ちはだかった。

花見なんて大体酒宴なのでお茶が不利。

しかしエルロンさん、全お茶の期待を背負って、果敢に酒神へと挑む。

こういう時は中をとってアレだ。

緑茶ハイだ!

「「かんぱ~いッッ!!」」

こうして酒派とお茶派の対立は、双方を混ぜ合わせることによって解決した。

エルフが半神とケンカしている間も、花見の宴席は賑やかで華やかであった。

舞い散る桜吹雪に、笑い声が混ざって鮮やか。

今まで冷たく閉ざされていた冬の雰囲気が去り、春がやってきたという実感が伴う。

鮮やかな花の色という、冬の間にはけして見られなかった原色が、寒さを越えて生命力あふれた季節を迎えられたという実感を伴わせ。

さらに料理の様々な色もカラフルさに賑わいを添え、酒やらお茶やらバリエーション豊富で、ますます春の色鮮やかさを演出するのであった。

あまりの春っぷりに……。

「ねがわくばー、はなのしたにてはるしなむー」

……またジュニアが一句読んでいた。

いやー。

エルフどもが乱入して一時はどうなるかと思ったが、無事盛り上がってよかったぜ。

「凄まじいお茶を提供してくれたことで俺のお菓子インスピレーションも上がって、色々生み出してしまったもんな。これから大変そうだ」

何が大変かというと、ここで羊羹や饅頭、せんべいの味を知ってしまった農場の住人たちが再び同じ味を求めて『せんべいを出せー』『饅頭を出せー』という要求が巻き起こることだった。

既にケーキとかアイスクリームとかではそういうことが何度も起こっているので、いつでも要求に応えられるよう常時材料を確保しておかなければなあ……!?

「しかし、それにしてもエルフたちは凄いお茶を作ったなあ?」

どういう原理か知らんが世界樹の効能を取り込んだ、世界樹の茶ノ木を生産してしまうなんて……。

そんな茶葉で抽出したお茶なんてどんな効能になるんだろう?

死人が飲んだら生き返る?

「そんな超絶効能付き飲料が市場に出回ったら、爆発的に売れることだろうなあ……。そうなればたしかに狙い通りで、一年以上の準備期間を置いた甲斐があったんだろうが……!?」

別の意味で不安がてんこ盛りなんだけど。

そんな中、当のエルロンは今回のお披露目で好感触を得たようであり……。

「聖者にここまで認められたんだから、世界樹の茶葉は売れたも同然だな! ここからガンガン広範囲に売り出していくぞ!」

「あんまり意欲的になっては欲しくないんだけど……!? 一応聞くけどどんな風に売り出すつもり?」

他の商品よろしくパンデモニウム商会に委託するのか?

「なんなら私の巫女たちに託して売ってもらうようにしてもいいばっかす?」

とバッカスも言っていた。

語尾の使い方間違えてるぞ?

数千年を生きる半神は、自分を崇める教団の教祖兼ご本尊でもあり、信者同士のネットワークを使って広々とお酒を売り出している。

でもそこにお茶を組み込んだら確実に緑茶ハイにされてしまうことだろう。

「心配無用だ……! 私はもう、どのようにしてお茶を売り出すか考えをまとめてある!」

「えッ? そうなの?」

「私たちは元盗賊! その時のノウハウを生かした独自の購買法をとっていこうと思うのだ!」

……。

聞いて一気にイリーガルな匂いが立ち込めてきた。

不安になってきたぞ。

盗賊のノウハウを生かしてどうやってお茶を売ろうというんだ!?

「まず深夜にー、人知れず民家に潜入してー」

「うんうん」

この時点で既に犯罪っぽい。

「茶葉を置いて、去っていく」

「それ何の意味があるの?」

ちょっと強引で、謎に満ちたサンプル品の押し付けだった。