作品タイトル不明
673 苦労人たちの雪合戦
まだまだ魔国宰相ルキフ・フォカレだ。
類は友を呼ぶ、などという言葉があるそうだが……。
完全無作為、運任せで組まされたはずの雪合戦チームの顔触れ。
何故かその面々は一定の法則によって揃ったらしい。
苦労人。
あれも苦労人。
これも苦労人。
もっともっと苦労人。
ここに集まった者たちは、皆いずれもそれぞれの環境で並々ならぬ苦労を強いられる者たちだったのだ!
「うおおおおおッ! 誰も彼も言うこと聞かなくってよおおおおッ! 特にゴールデンバットのヤツが自由すぎて! いつの間にかギルドマスターにさせられた私が責任ばっかり増えていくしいいいいいッ!!」
「わらわだって! いつでもシーラ姉様の言うことには逆らえんのじゃあああああッ!! いつでもオークボに会いたいのにいいいいいいッ!!」
「わかります! わかりますぞシルバーウルフ殿とゾス・サイラ殿おおおおおおッ!!」
ウチの四天王マモルが、他種族の者たちと肩を抱き合って泣き濡れておる。
なんでそんなに仲がいいんだ、コイツら?
「そういうマモル殿だって、今日もベルフェガミリアってヤツから割を食わされておるんじゃろう?」
「もちろんですとも!」
そこは力強く頷かないで。
「本当ならいつもだらけて暇しているベルフェガミリア様が参加すればいいのに!『コーヒー飲むのに忙しくてパス』とは何だよ!? アナタの分まで働いている私が行く羽目になったんだよ!」
「いつも通りのマモル殿で安心したぞ!!」
「しかし! 今日はさらに上がいらっしゃるのです! このルキフ・フォカレ魔国宰相こそ、世界最強の苦労人と言っても過言ではありません!!」
ババーン、と私のことを紹介してくるマモルくん。
「ルキフ・フォカレ様は、先代魔王バアル様の代より重臣として魔国を支えております! バアル様といえば現役魔王時代、無茶な政策で家臣に負担をかけることで有名なお方! その負担を最前線で受け続けた御方こそがルキフ・フォカレ様なのです!!」
うん、まあ……。
その通りではあるが……。
「そんなバアル様にブチ切れて、ゼダン様を擁し世代交代を強行した功労者もルキフ・フォカレ様! その後は魔国宰相となり、もっとも重要な立場から魔国を支え続けてきたお人! 今日まで数多くの異変もあれば改革もありましたが、それを無事乗り切れたのもルキフ・フォカレ様が宰相としてあったればこそ!」
「つまり、並大抵の苦労ではなかったというわけだな!?」
「だからこその桁外れな苦労人力だったのじゃああ……!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ……!
なんか知らんが複数の拍手が上がる。
「そんなルキフ・フォカレ様様と同チームで競えるなんて光栄です! 今日は供に苦労人の負担を見せつけてやりましょうぞ!」
「そうだなあ、たしかに苦労の多い人生だった……」
指摘されて尚更、実感が湧いてくる。
毎日のように無茶ぶりされてたバアル様の現役時代はもちろんのこと。
ゼダン様が魔王になられてからも、それはそれで大変な官僚生活だったんだよ?
ゼダン様は明君であるせいか、あの人の下で逆にやるべきことが多くてな。
改革やら改善やら。上がよく働くため、下もたくさん働かなきゃならない。
その中でも特になあ……。
ゼダン様の治世になってから一番大変だったのが……。
……マモルくんよ。
「キミんところの舅がやらかした一件だったんだけどなあ……!?」
「はははは、はい! ウチの義父がすみませんでしたあ!!」
説明しよう。
このマモルの前に『貪』の四天王であったラヴィリアンというヤツが、ちょうど私と同じ世代の魔族軍人であったのだが……。
自分の娘をゼダン様に嫁がせようと画策してなあ。
それで当時ゼダン様が一番懸想していたアスタレス嬢を失脚させんと画策したのがラヴィリアン。
そんな姦計に賢王ゼダン様が乗せられるわけもなく、目論見を見抜かれて失脚したのだが……。
そのラヴィリアンがマモルの義父に当たるのだ……!
「あの事件の折、ゼダン様が一時不在になられただろう? 当時まだ人間国が健在な状況で、最高司令官が雲隠れするわ、それに浮かれて野心家どもが蠢きだすわ……! あの状況で必死に政情を維持したのは誰だとお思いかなあ!?」
「それこそ魔国宰相ルキフ・フォカレ様です!」
ってことだオラァ!!
あの日の私の苦労は誰のせいだと思ってんだコラァ!?
「私の妻の父上のせいです! まことに申し訳ありません!!」
「これが苦労の連鎖って言うヤツかのう……?」
周囲が見守るのもかまわずマモルを締め上げる私。
まあ、そんな迷惑野郎のラヴィリアンが唯一したいいことといえば、この苦労性のマモルを後継者にしてくれたことか。
入り婿となることで『貪』の四天王となる資格を得た彼だが。有能だけれど相当ヤバくならない限りは働かないベルフェガミリアや、まだ若くて頼りない他二人と比して唯一と言っていい全幅の信頼を置ける人材。
彼がいなかったら、今頃魔王軍はどうなっていたか。
その分彼に負担が覆いかぶさっているのはまたアレなのだが……。
「……貴公らがそれぞれ苦労を背負っていることはわかったが、しかしそれならなおさら何故このような場に?」
いや、そんなに忙しくてやることが多いなら、こんなところに遊びに来ず、仕事に専念した方がよかったのでは?
と、聞いてしまうのは野暮なことだろうか?
ウチのマモルも半分仕事できたようなものだし、かく言う私もそうだしな。
「私も仕事の延長という感じだな。オークボ城には一昨年から欠かさず参加している」
と言うのは人族のシルバーウルフとやら。
とはいえ彼は獣人という、人族固有の少数人種で人の五体を持ちながら頭部は狼そのもの。
獣の因子を持つだけあって通常人族より身体能力が高いと聞くが……。
興味深いな……!?
「世話になった聖者様への礼の意味もあったし、腑抜けた上位冒険者に活を入れ直すという新たな意義も見出せたしな。活用させてもらっている」
なるほど。
このような遊興事にも無理やり意義を見出そうとするところ……。
いかにも苦労性っぽいな。
しかしもう一人は違った。
「わらわはただの気晴らしじゃ」
などと言うのは人魚のゾス・サイラ殿。
「宰相なんぞを任されてからストレスがフレキシブルじゃからのう! たまには発散せんとブチ切れて世界を滅ぼしそうじゃあ!!」
「ゾス・サイラ殿の場合マジで滅ぼしかねないから余計に怖い」
なんか外野が怖いことを言っておるのだが?
「本当は去年みたいに鬼畜コース作って、それに玉砕する者どもを見下して楽しみたかったんじゃが。今回はわらわも一参加者としてストレス発散するつもりじゃ。無双して爽快感を得る!」
こっちはこっちで明快だった。
「まあ、実は私もそれが目的なんですけどね。長いこと仕事ばかりに忙殺されるとどうしても鬱憤が溜まって……」
「我々の身体能力を存分に発揮できる場とかなかなかないからなあ。その点オークボ城は力を抑えなくていい」
「我々クラスが本気になるとどうしてもどこかに差し障りが生じますからね」
という若僧ども。
なるほどな。
世の中に一定はいる、何故か自分から苦労を背負い込んでしまう者たち。
そんな彼らがクソッタレな娑婆を生き抜くために必要なのがこの場なのだろう。
……私にも必要だな、そういう場所。
「まあ、本当ならストレスの原因となる相手を叩きのめして全解消と行きたいのだが……!」
「それが対戦型競技の醍醐味ですもんね」
ああ、わかる、わかるぞ。
大抵のストレスには原因となる人物がいるもんな。
私にもいるぞそういうヤツが!!
「ゴールデンバットのヤツは、『異世界百名山』の拡販作業で忙しいとかぬかして今年の参加はパスしやがった……! ヤツの著作が魔国での冒険者受け入れに一躍買ってるだけに文句も言えない……!」
「それは苦しいですね。……私のところも、ベルフェガミリア様が不参加なのは前言った通りですし……」
「シーラ姉様がこうしたイベントに参加するわけないしのう。そして参加したとしても勝てるわけないんじゃが……!」
三人とも、意中の目の上の瘤が不在でいかんともし難いようだ。
……フフッ、しかしそうなってくると申し訳ないな。
私にとってのストレスの大原因……大魔王バアルの野郎は確実にこの雪合戦に出場してくるのだから。
何せ最初はヤツ自身から誘ってきたのだし、ヤツがこの会場に来ているという情報も得ている!
上手いこと雪合戦で当たった暁には、必要以上に雪玉ぶつけてストレス解消してくれるわ!
そしてその解放感をもって明日への仕事の活力としてくれるわ!
わーっはははははははは!
「あッ、そうだ宰相、報告し忘れてましたが……」
そこへマモルのヤツが言ってくる。
「大魔王様は雪合戦に参加しませんよ」
「えッ?」
「どうも展示されている雪像の方に興味を全部持っていかれたそうで『こんな文化的なものを満喫せずしてどうする!』といって、今日はずっと向こうに張り付いてるみたいですね。予定はすべて変更のようです」
こうして大魔王バアルのクソ野郎は、見事雪合戦に欠席し……。
私は他のクローニンズと共に、ただひたすら体を動かすことによってのストレス解消に努めるのだった。