軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

671 宰相の見る雪まつり

引き続き、魔国宰相ルキフ・フォカレだ。

来てしまった。

国境をまたいで人間国、その外れ辺りにある領へ。

名目は視察。

大雪の降り積もった被災地を直接確認するという目論見であった。

実質上の支配者たる魔王様に加え、本国の政務を預かるこの宰相まで付き添ってきたのだから現地は大わらわで、行く先々での反応が物凄かった。

『魔王様は本当に我々を心配くださっている……!?』と涙を流す人族までいた。

『かつての人間王はそんなことまったくしなかったのに……!?』とも。 そんなに?

そうして各地を巡って、最終的にたどり着いたのがワルキア辺境領。

例のナントカ城なるイベントの開催される地だった。

こんな大被害のあった年ぐらい中止にせんのか、とも思ったがどうやら逆で、大々的にイベントを執り行うことで暗く沈んだ空気を吹き飛ばさんとしているらしい。

そういう姿勢は悪くないと思える。

それに取り組まれる企画がユニークなものであった。

総じて雪を使用した祭りであった。

これは例年通りのものではなく、今年の大雪に対応して趣向を変えたものであるらしい。

「祭りの材料として雪をふんだんに利用している……。各地で除雪したものを、ここで盛大に再利用しているというわけですな?」

「聖者殿らしい斬新な趣向だ。彼は、いつもこういった我々には及びもつかないアイデアで我らを驚かせる。宰相も参考にするがよいぞ」

魔王様もそのように浮かれて。

日頃より王者の重責を担う御方が、かように少年のような浮かれぶりを見せるのはいつ以来であったかな?

彼の方が幼少のみぎりよりお仕えしている私としては感慨深いものがある。

父親の方の大魔王が浮かれまくっているのはしょっちゅう見かけるがな。

こっちは純然にムカつく。

その大魔王は、転移魔法でとっくに先入りしていた。

アスタレス、グラシャラ両魔王妃も先着しており、それぞれのお子も一緒であった。

魔王御一家勢揃いではないか?

このような地方の一イベントに豪勢すぎやせぬか?

「聖者殿の催す祭りであれば、それぐらい当然だ。宰相もすぐに納得するであろう、聖者殿の起こす偉業の凄まじさを」

ええ。

それなら既に、いくつか実感しておりますが……。

まず何より、現地に到着するずっと前から視界に入ってきておるアレ。

遥か遠方から……、隣の領にいる頃から既に存在感があったぞ。

何だあの巨大な塔は!?

あれも雪で作られているのか、総面真っ白であった。

しかし、ただの雪をあのように高く積み上げられるものか?

いや雪でなかったとしても、レンガや石積みであったとしても、あのような天にも届かんばかりの高さにするのは不可能であろう。

であれば、あの雪の高塔は、我々の建築技術を遥かに凌駕する常識破りのものだ。

つまりは我々を超える文明の所持者であるということ。

そんな連中が、持てる高技術を軍事などに転用し、我らに牙剥いた時はどうなるのか?

我々の国力兵力で対応できるのか?

「余計なことを考えておるなルキフ・フォカレよ。肩の力を抜くのだ」

「はッ、魔王様!?」

「聖者殿は、不埒なことを使嗾する輩ではない。あの方がその気になれば、地上はとっくに支配下に置かれている。そうならぬのは、あの方の心根が支配欲などというものと常に無縁であるからだ」

はは……ッ!?

「決して無闇に恐れるでないぞ。濫用された恐怖は碌な結果を生まぬ。せっかくの和平を台無しにし、この世界を滅亡へと追いやることにもなりかねんのだからな」

「それは……真理でございましょうが……!?」

「聖者殿とやり合ったところで勝ち目もないし、彼の深い思いやりを無下にすることにもなる。我を愚かな魔王として歴史に刻んでくれるなよ」

もちろんでございます。

愚かな魔王は私の知る限りで一人で充分にございます。

しかし英邁なる魔王ゼダン様をして、そこまで言わしめる聖者とは一体……!?

ともかく現地では、私の目を驚かせたのは巨大なる雪の塔だけでなく、他にもたくさんあった。

数多くの雪の展示物よ……!

何よりまず目を引いたのは展示物群の最前列で、まるで一セットであるかのごとく勇壮に向き合った二神像であった。

「ベラスアレス像にヘパイストス像か……!?」

双方天界に属する神であるだけに、冥神ハデスを崇拝する魔族側としては眉をひそめた。

人族側の、魔族支配へのささやかな反抗ともいえなくもない題材だが……。

もしそうであればゼウス像なりもっと相応しいモチーフもあったように思える。

戦争神としては同系のアテナ女神に劣るベラスアレスに、造形神というマイナー趣向のヘパイストス。

魔族占領府からの取り締まりをかわすため、あえてメジャー級を避けたとか?

「何でも深読みしすぎるのは悪い癖だぞルキフ・フォカレ。エルフ、ドワーフ両族がそれぞれの氏神を讃えているだけではないか」

エルフとドワーフ!?

人間国の催事なのだからてっきりこれも人族が手掛けていると思ったら!?

そんなにワールドワイドなのか、このイベントは。

「聖者殿自身がエルフ、ドワーフ両族と深いよしみを通じているから当然と言えなくもない。しかし双方、相変わらずの高い意匠よ。これ二つを拝むだけでも充分に開催された甲斐があるな」

くッ、魔王様の仰られる通り……。

エルフもドワーフも、魔族にはない独自のテクノロジーを持つ種族ゆえにの。

かつては、その技を魔国にも取り入れようと積極的な融和政策が取られたものだ。

特に先代バアル魔王は、文化的とかそういうものが大好きであったためエルフドワーフの器用さを心底欲しがった。

ヤツの現役時代は、他の政策を置いてもエルフやドワーフを魔都に定住させよと勅命が下ったもので、我らも仕方なく優先的に動いたものだった。

でも結局は上手くいかなかったが。

ドワーフはまだ交渉の余地があったが、他種族との接近を徹底して嫌うエルフは取り付く島もなく、こちら側がいくら譲歩しても魔都への移住を検討すらしない始末。

まったく思うように進まない案件を押し付けられた当時は本当に辛かったなあ……!

他にもやらなきゃならないことがいくらでもあったのに……!

「宰相よ。思い出しても仕方のない過去もあるぞ。未来に目を向けるのだ」

そうだった!

今は賢王ゼダン様の御世! 散々手を焼かされたバアルの時代とは違うのだ!!

「深く考えすぎるなと言ったであろう。今日くらい仕事のことは忘れて祭りを楽しむといい」

「そ、そうですな……!?」

本当は温泉につかって仕事のことも何もかも忘れたかったのだが、しかし状況に対応してこそ真の智者よ。

この雪まつりとやらが、古今稀に見るクオリティの高さであることは間違いない。

いつもはカタブツといわれる私も今日はハメを外し、祭りを存分に楽しもうではないか!

「よし! それでは早速イベントへの参加申請をするぞ!」

「参加申請ですな!?」

参加って……何に?

「言ったであろう? 魔王である我の言を忘れるなど宰相としては頼りないぞ?」

「はは……、申し訳ありません……!?」

「オークボ城はな、元々入場者参加型のイベントなのだ。今回は趣向を変えてあるが、基本となる部分はちゃんと残してあるらしい。つまり、我々はただ見物するだけでなく、みずからの手足を動かして参加するのだ!!」

何ですと!?

「くっくくくく……!! 去年のオークボ城では一気に第三関門まで進んだからなぁ……! 今年こそ全制覇を目指しておったが、それを来年に譲る代わりに今年は今年でしっかりとした成果を挙げてくれよう。今年の……雪合戦という争いでな!!」

「雪合戦ですと!?」

なんですかそれは?

『合戦』という言葉が付随してそれはそれは物騒なのですが?

魔王よ、せっかく長きにわたった人魔戦争が終結し、世界全体が和平に向かっていくこの時代……。

支配者がみずから血生臭いイベントに傾倒するのはよろしくありませんぞ!!

「だから宰相は、ほとほと深読み深考えが身に染みているようだな。安心せよ。雪合戦と言えども所詮は遊び。競い合う催しゆえに『合戦』の名がついているが何、真のいくさを知る我らなどから見れば、それこそお遊び以外の何者でもない」

「そ、そうですか……!?」

ホッと一安心。

いくら併合済みとはいえかつての敵国で、魔王様が戦闘を行ったと知られれば、どんな尾ひれがついて世界中に広まることやら……!

今はひたすら和平、融和を推進すべき時期ですからな。

まあ、そういう意味では遊びと言えども魔王様が率先して臣民と交流するのはよいことかもしれない。

うん、いいぞ、この傾向!

けっして自分に言い聞かせているわけではなく!

「と、ところで魔王様。その『雪合戦』とやらはどういった遊戯なのですかな?」

「我もあらかじめ聖者殿から説明されたのだが、雪を使い、団体でぶつかり合う競技なのだそうだ。……くふふふ、遊興とはいえ兵を率いて戦うのは久方ぶりよ。血が騒ぐわ!」

……あの、魔王様?

平和なイベントなのですよね?

「というわけで宰相、卿が敵として当たった時も全力で争わせてもらうのでな。卿も親の敵に立ち向かうつもりでやってほしい」

「私も参加するのですか!?」

「卿もたまには思うさま体を動かした方がいいであろう。運動不足こそ健康の敵だぞ。我などは毎年、このオークボ城へ向けて鍛えることで、政務に耐えられる健康体を整えておるわ!」

戦争が終わったご時世に、そのような形で壮健なお体を維持していたとは。

さすが賢君ゼダン様。

あの憎たらしいだけの先代魔王とは何もかも違う。

「そういえば、毎年のオークボ城には親父殿も参加しているゆえ、この雪合戦にも出てこような。ルキフ・フォカレも参加すれば、相対することがあるかもしれんぞ?」

「な!?」

「その時は手加減してやるのだぞ? 何しろ一応は臣下なのだからな?」

わははははは、と冗談めかして笑う魔王様だったが、その瞬間私の闘志に火が付いた。

つまり、雪合戦に参加したら、運次第であの大魔王を競技の名の下にボコボコにできるかもしれない?

アイツが現役時代に、気まぐれ思い付きの無茶ぶり政策を押し付けられ四苦八苦させられてきたアイツに!?

俄然やる気が湧いてきた!

魔王様、この魔国宰相ルキフ・フォカレ、是非とも雪合戦に参加させていただきますぞ!!