軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

631 ドラゴンの花嫁修行

ちゃお、俺です。

農場の主にしてプラティの夫、かつ二児のパパとなった俺です。

人魚国での相撲大会から戻ってきたばかりですが、すぐさま次の騒動が舞い込んできた。

アードヘッグさんにブラッディマリーさん、シードゥルに先代ガイザードラゴンのアル・ゴールとドラゴンファミリーが千客万来。

「一体何事ですか?」

何しに来た?

長年の俺の直感でわかる、これは厄介事もしくは面倒事の始まりであると。

「いやあ聖者くんに検分役をお願いしたくてね」

検分?

何を?

「マリーのヤツが、皇帝竜の妃に相応しいかを?」

「なんで疑問形なんですか?」

相応しいも何も、マリーさんはもう既にアードヘッグさんの奥さんなのでは?

え?

まだ違う?

まだ他人以上恋人未満みたいな微妙な距離感だったの!?

結ばれたら終わるから引き伸ばしにかかってる恋愛マンガかよ!?

こちとら所帯持ちなんだからそんなの今さらもどかしいだけでしかないんだよ!

とっとと結婚しろ!

「するわよ! ついにプロポーズ?ってヤツをされたんだから! 一瞬で受諾したわ!」

逆ギレ風に答えるマリーさん。

え? だったらいいんじゃない?

無事ゴールインでめでたしめでたしじゃないですか?

「いや、それだとつまらんだろう?」

つまらなくなくなくないですよ?

そもそもプロポーズにつまるもつまらないもないでしょう?

現実に結婚関連で波乱が起きたらそれはただの修羅場ですよ?

「でもまあアレよ。アレだからさ。マリーがより皇帝竜の妃に相応しいかを聖者に判定してもらいたくて来たんだよ」

「『面白そうだから』っていう本音を隠そうとして取り繕えませんでしたね?」

「そもそも今までドラゴンにつがいという概念がなかったからさ。それを持ってるニンゲンに、夫婦というのがどういうものかレクチャーを受けつつ正しさのジャッジを頼もうというわけよ」

「取り繕えないまま押し切らないでくれますか?」

それで俺の下へ来たと?

相変わらずドラゴンはヒトの都合考えないなあ。

俺だって相撲大会のイザコザから帰ったばかりで、疲れを癒しながらジュニアをお風呂に入れて上げたりノリトの夜泣きに備えたりしたいんですが。

農場留学生たちの卒業試験の準備も進めなきゃだし。

「申し訳ありません! でもこれは聖者さんにしか頼めないことなんです!」

ズイと出てくるシードゥルさん。

一体どうした?

「わたし一生懸命考えたのですわ! よい妻とは? よい夫婦とは? それで出てきた答えが聖者さんたち夫婦なのです!」

「それは……!? ありがとうございます!?」

俺たちが理想の夫婦なんて照れますなあ?

「そしていつだったか聞いたことがあるのです。よい妻とは夫のために美味しいご飯を作ってあげるものだと!」

あれ?

それは何か引っかかるな?

何故かというと我が農場で料理を作るのはもっぱら俺。

そして出来た料理を目ざとく食べにくる狩人のような存在がヴィールと、我が妻プラティなのだから。

「だから私たちドラゴンの歴史において初めてお嫁さんとなるマリーお姉様にも、愛しい旦那様のためにお料理を作る能力を身に着けてほしいのですわ! その指導をできるのは、聖者様をおいて他にありません!」

「いや、ドラゴン初のお嫁さんというのも、実はね……!?」

ずっと前にヴィールが俺のお嫁に来たことがあってね?

いや、まあいいか。

「というわけでマリー姉さまに料理をレクチャーくださいませ! 最低一品でもマスターできなければアードヘッグ様との結婚は認めませんことよ!」

「よろしくお願いします!!」

いやシードゥルさん?

何の権限があって認めるだの認めないだの言うんですか?

しかもそれにまんまと乗せられて大いにやる気のマリーさん。

「いや、料理を習いたいというなら別に教えるのはやぶさかじゃないですが……!?」

物凄い今さらだけど俺も料理好きだしね。

でなきゃ毎回こんなに新料理に挑戦しないし。

しかし教える相手がドラゴンとなると、俺だけが出しゃばるわけにもいくまい。

もう一人、このシーンに打ってつけの存在がいる。

「ふっふっふ……! このおれ様を差し置いてお料理ドラゴンの道へ入ろうとは、モグリなのだー」

出てきたなヴィール。

一番スタンダードな我が家住みのドラゴン。

ドラゴンがメインキャストの話でコイツが出てこないわけにはいくまい。

「ヴィールは、俺の料理を食ってるうちに自分でも料理をするようになっちゃったからな。お料理ドラゴンの第一人者と言っていい」

「「「「おお!?」」」」

驚く皆様。

ではヴィール、研鑽を積み重ねたキミの腕前をご披露してあげなさい。

「任せるのだ! ラーメン一筋三百年のヴィール軒の味を見るがいい!」

そう。

コイツとりあえずはラーメンに凝りまくってるからなあ。

今では俺より研究が進んでいるんじゃないかラーメンに限っては。

なんでこうラーメンって関わる者を底なし沼に引きずり込むのだろうか。

「ご披露するのは、おれが幾多ものラーメン作りを繰り返して編み出した最高ラーメン奥義!」

ヴィール、ドラゴン形態に戻って突如、上空へ高く飛翔する!?

「えええええええ!?」

「どこに行くのヴィールは!? お料理するんじゃなかったの!?」

一見料理とは何の関係もなさそうなロケットのごとき急上昇。

そのままお空の彼方へ切れるかと思いきや、ゴマ粒よりも小さくなって何をしているか判別できないところで動作を変えたのか、遠ざかって小さくなっていたのが一転、急接近して大きくなる。

急降下だ!

今度は隕石のごとく急転直下に地に迫りくるヴィール!

このままでは地面と激突し、ドラゴンの速度と質量と熱量でクレーターでも作るかと思いきや、地表激突の寸前再び人間形態に変身し、フワリと着地した。

地上への被害ゼロ。

でも一体何がしたかったんだ?

「ふっふっふ、これを見るがいいのだー」

「こっ、これは!?」

ラーメンの麺が入ったザル!?

よくラーメン屋の店員さんが、お湯から麺を掬い上げるために使っている道具。

しかしザルを使う目的は、麺をお湯から出すためでなく、もう一つ。

まさか……!?

「湯切りか!? あのドラゴンの全速をもってした急上昇と急降下の目的は!?」

「さすがご主人様、よく気づいたのだ。麺に残っているお湯をどれだけ完璧に落とせるかで完成したラーメンの味が決まるのだ! だから麺の外側に残った湯を一滴残らず切り落とすための技が必要なのだー!」

それでヴィールは急降下と急上昇を!?

音速を越えるドラゴンの飛翔。それによってかかるGが麺の水分を押し込め、ザルの網目から落とす!

さらに急降下からの急停止で、最後に残った一滴までを完璧に落としきる!

ラーメン作りに重要な湯切りを、ドラゴンの力と技で成し遂げたドラゴンならではのテクニック!

「ドラゴンであるおれ様が編み出したことにちなんで、この技を『昇竜湯切り』と名付けたのだ!」

「わあ、カッコいい!?」

職人系のラーメン屋っぽい!?

「さらに遠心力を利用した『竜巻旋風湯切り』!!」

「おおッ!?」

「そして竜魔法で麺に微振動を与え、その動きで水分を飛ばす『波動湯切り』! これらの湯切り技を状況に応じて使い分けるのが職人芸なのだ!」

凄いぞヴィール!

そんなヴィールの職人ぶりを目の当たりにしたお客様ドラゴンたちは……!?

「なんだこれ……!?」

「何が何だかサッパリわからない……!?」

当惑の極みにあった。

さすがにそうなるよね。

「戸惑うのも無理はないのだ、お前ら全員今は素人だからな! しかし修行しラーメン作りの何たるかがわかることで、その奥深さを理解できるようになってくるのだ!」

「あんまりわかりたくない……!?」「習いたいのは料理全般で、ラーメン作りに限定したわけでは……!?」

困惑するばかりのアードヘッグさんやマリーさんとは対比的に、熱狂するドラゴンたちもいる。

「凄いですわ! さすがですわヴィールお姉さま! お姉さまこそドラゴンに新境地を開くに相応しいドラゴンですわね!」

「もう面白けりゃなんだっていいわー」

興奮バリバリのシードゥルと、もはや投げやり気味のアル・ゴールさん。

「よーしセレモニーはこれくらいにして、いよいよ始動本番に入るのだ。これからお前らに実地でラーメンを作ってもらう! おれの指導は厳しいことで有名なのだー!」

「わかりましたわ!」「これをマリー姉さまより上手くやれれば、私こそがグィーンドラゴンに選ばれるかも!?」「ここが頑張りどころよおおおおおッ!?」

ん? 誰?

気づけば見覚えのない綺麗なお姉さんたちまでもが仮設キッチンでラーメン作りに挑戦しだした。

あの女の人たちも人間に姿を変えたドラゴン?

「あの泥棒猫どもまだ諦めていなかったのね!? アードヘッグの妻の座を離さぬためにも必ず一番美味しいラーメンを作らなければ! 行くわよおおおおおおッッ!!」

それにマリーさんまで触発される。

女性ドラゴンたちによるラーメン作り修行が勝負のごとく発信したが俺の心には一つの疑問が浮かんだまま消え去ることはない。

……ラーメン作りが花嫁修業になるのだろうか?