作品タイトル不明
625 結びの一番
取組が終わってからアロワナさんがこっち陣営に挨拶に来た。
「このたびは本当に申し訳ない」
もとい、お詫びに来た。
「聖者殿や魔王殿には本日、相撲大会を存分に楽しんでいただくはずが、このような種族間対立のような構造となってしまい、まことに心苦しく思っています。どうか我々に他意はないことをお伝えいたしたく」
「わかってますよー、俺とアロワナさんの仲じゃないですかー」
もはや以心伝心の間柄でしょう俺たち。
それでなくてもプラティを間に置いた義兄弟なんですから何を遠慮し合うことがありましょう。
「どうも今回は父上の暴走が顕著で……。引退前でもこのように強引な施策はしない御方だったのに一体どうしたのやら……」
「やはり人魚族が弱いと思われるのは我慢ならなかったんじゃないですかね?」
見た目からしてマッチョな王様だから。
最強であることに拘りのある御方ではないのだろうか?
「残り二戦……、何事もなく終わって欲しいものです」
「そういえば次の人魚側の力士は誰なんです?」
取組表に出ている名前は、俺にはまったく聞き覚えのないものだった。
さっきプラティにも聞いてみたが、彼女の記憶にもないという。
「プラティが知らないのも無理ありません。アイツはそもそも男人魚の戦いに興味がない上に、世代的にも彼の全盛期から外れていますから」
彼というのはもちろん、次の取組に参加する……。
「ホウボウです。彼は元々は人魚国を代表する戦士の一人。彼の回遊武術は世界屈指と言われ、武泳大会にも毎年のように出場しては好成績を残したといいます。しかし優勝したことは一度もない」
それは……。
「もちろん我が父ナーガスの連覇期間に当たってしまったからです。いかに稀有の戦士でも、父の剛力は次元違いのところにあった。いかに努力しても届かない目標に、彼はもがき苦しんだといいます」
「よく知ってますね」
まるで見てきたかのように……!?
「さっき本人から聞きましたので」
「直接聞いたの!?」
語りたがりなのその人!?
ではここからは、当人へのインタビューのような装いで語っていくことにしよう。
* * *
ここ十数年の間、世間から遠ざかり人目に触れることのなかった戦士ホウボウ。
彼がこれまでどうしていたか直撃してみた。
『……オレの人魚戦士としての人生は、偉大な王の影に塗りつぶされたようなものだった』
ホウボウさんは語る。
『ナーガス王の強さは、もはや別の生き物であるかのようだった。……今はもう王様じゃない? そうだったな失礼。世事に疎いものでね。オレにとっては強くすることだけがすべてなんだ』
皮肉めいた笑みを浮かべる。
『しかしナーガス王がいる限りオレは最強になれない。思うようにいかない当時は荒れていた。毎年の武泳大会でナーガス王に挑むことだけを生き甲斐にしてきたが、それすらままならず凡ミスで予選落ちしてしまって、もう踏んだり蹴ったりだったよ』
ナーガス王とは戦えず仕舞いになってしまったが、気が収まらずにナーガス王(当時)と戦うため単身人魚宮へ突入。
近衛兵数十人に重軽傷を負わせてやっと捕縛。弑逆未遂罪に問われる。
『その当時、ようやく陸人化薬が完全な形で実用化され始めた時期でな。強制的に陸人化されて地上追放という刑罰を受けたのはオレが最初じゃないのかな? それでも軽い罰で済んだといっていい。王は恩情を施してくださったのだろう』
王を殺そうなどという大罪に対しては、未遂であっても死刑以外にあり得ない。
それでも減刑されて地上へと追いやられたホウボウ氏。
人魚にとっては異域ともいうべき地上で、本当なら途方に切れるべきところ、しかしどこにいようと生まれついての戦士は戦士だった。
地上でも修行に明け暮れることしかしなかった。
『陸人化され、尾びれの代わりに二本の足を得て気づいたんだ。これは強力な武器だと。本来海中を高速で泳ぐ、推進力を得るために人魚の下半身はある。それが脚と化し、蹴りを放つため武器として利用した時、信じがたい破壊力を生むと!』
ホウボウ氏の地上での生活は、ほぼすべて修行へと注ぎ込まれた。
人魚でありながら脚を得た。その脚を必殺の武器へと変えるべく来る日も来る日も、蹴りの素振り。
あまりに熱中しすぎて一日中蹴り続け、気づいたら日が暮れていた時もあった。
地上に追放され十年以上。
その間、放ち続けた蹴りは総計で何百万回になるかわからない。
果てしなき鍛錬の末に開眼。創始せし流派は名付けて『人魚蹴脚術』。
泳ぐことをやめた人魚の尾が、代わりに凶悪なる脚爪となって敵を裂く!
『いかなる状況にも対応できるよう技を整え、一流完成の域へと至った。そのちょうどいいタイミングでナーガス王からお声がかかってな。海へと呼び戻された。人魚国では既に御世が代わり、王位は受け継がれたそうだがオレにとっては関係ない』
彼が目指すのは、常に最強。
『ナーガスを倒す、その息子の新しい王も倒す。名のある戦士はすべて我が蹴りで打ち砕き「人魚蹴脚術」が世界最強であることを示す! そのためにオレは帰ってきた!』
地上にて大いなる成果と、大いなる自信を得て帰ってきた人魚戦士ホウボウ。
その編み出した技で、人魚国に蹴り旋風を巻き起こすことができるか!?
* * *
以上、インタビュー風にまとめてみました。
「ホウボウが、多いなる野心を持った戦闘者であること間違いありません。その強さは今まで大海にこもりきっていた多くの男人魚とは次元を画する。この戦い、流れによっては人魔魚の三界に新たな波乱をもたらすことになるかも……」
説明を聞いて緊張が高まる。
ホウボウが出場する第四戦。
俺たちのチームから出場するのはオークボだ。
土俵で二人の猛者がにらみ合う。
「……オークとは意外な対戦相手だが侮りはせんぞ。懐かしき祖国の連中に初めて見せる蹴脚術の、お前を生贄としてやろう」
「えー、始める前に一応言っておきますが……」
審判を兼ねた行司が言う。
「相撲では蹴りは反則ですので使わないでくださいね。はっけよい、のこった!」
「えッ?」
* * *
オークボ、圧勝。
また一瞬にして勝負がついた。
ルール上、もっとも得意な蹴りを封じられてあたふたしているうちにオークボの超パワーでねじ伏せられて終了。
地上で十年かけて磨き上げた技も、土俵の上では役立てることができなかった。
元気出せよ、アナタの努力が報われる次の機会が必ずあるって!
「よっしゃー!! さすがわらわのオークボじゃ! オークボ無双でわらわのゲージはフルチャージじゃー!! イベント開いた甲斐があったーッ!!」
ゾス・サイラさんも大喜びのところで、さて、これまでの戦績を見直してみよう。
人魚連合 人魔連合
1.テトラ ●-○ゴブ吉
2.アロワナ ○-●マモル
3.ヘンドラー●-○魔王ゼダン
4.ホウボウ ●-○オークボ
……という感じで。
最終五戦目を迎える前に、我がらがチームが三勝先取!
勝利が確定しました!
やったぜー!
こんな形で圧勝叶うとは!
あッ、でもこれだと俺の活躍の機会が奪われて、ジュニアやノリトにカッコいい父親の姿を見せてあげることができない!
なにしろ人魔連合チーム最後の選手は他ならぬ俺なのだから。
俺はもっと責任の低いポジションがよかったんだが、皆から持ち上げられて大将になってしまった!
でも、総合で勝ちが決まったからには俺の役割はないも同じ!
勝利は喜びたいが活躍の場も欲しい、贅沢な悩み!
「それなら問題ないわ」
そこへ現れるのは……シーラ前王妃?
我が義母上様!?
「このまま終わらせるわけがないでしょう。何しろこれからが本番だというのに」
「もーっす!」
そんなシーラ王妃の背後からヌッと現れる巨体。
前人魚王のナーガスお義父さん。
「ダーリンは、この日をズッと待っていたのよ。公の場で婿殿と再戦できる日をね。ダーリンこれでも生涯負けなしの人で、試合で敗北したのがアナタだったのよ。絶対リベンジするって張り切ってたのに武泳大会に出ないんだもの」
「それは……!?」
いつぞやの武泳大会で、俺が緊急参加した時のことですか?
たしかにあの時準決勝でお義父さんと手合わせさせていただきましたが……。
「この相撲大会にアナタが出場すると聞いて、絶好のチャンスと思ったんですって。だから強引に横やりを入れてでも参加しようとしたのよ。その望みがようやくにして叶ったわ」
「もすもすもすッ!!」
「……ですって」
なんだってえええええッ!?
それじゃあ、たとえチーム的に勝利したとしても俺は戦いを避けられないのか!?
しかも最後の対戦者はお義父さん。
かつて海底で過酷を極めた戦いが、今度は海上の土俵で再び繰り広げられるというのかッ!?