軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

616 レタスレート巡業奮闘記

これも、モモコたちのプロレス興行が始まる少し前のお話……。

* * *

私こそはレタスレート。

偉大なる豆の使者よ。

念のために確認しておくと『偉大な』という形容詞は私でなく豆の方にかかるわ。

豆は偉大なのよ!

そんで今回、私の下に舞い込んだのはプロレス興行の話。

豆の使者たる私は頼まれたら基本『嫌』とは言わないの。

何故かって?

豆はすべてを救うからよ!

そんな豆の使者たる私は、助けを呼ばれたら全力で助けてあげるのが我が使命。

ということで本日から私は謎の覆面レスラー、ミス・マメカラスとして地方巡業のドサ回りに出かけることとなったわ。

元王女である私は身元がバレたらヤバいので正体隠しよ。

もうこうなったら王女様って経歴が負債でしかないわね。

とにかく初興業を成功させるために、前もって宣伝して知名度を上げるのが私の仕事。

張り切って魔国内の各町村を回り、ビラを配ってパフォーマンスして興業を宣伝してやろうじゃないの!

あッ、ちなみにチラシはまたエルフたちが作製したらしいわよ?

相変わらずオーバーテクノロジーかってぐらい綺麗な絵を量産するわねー。

* * *

で。

早速一つ目の村に宣伝に訪れたところ……。

村人全員が私から逃げて、各自の家に閉じこもってしまった。

次いで出動する衛兵。

彼らに追いかけられ逃げる私。

……一体どういうこと!?

いや考えてみたら当然か。

覆面着けた正体不明の人物が予告なしに乗り込んできたら、まず何と思うか、まあ強盗かな。

覆面で顔隠すなんて後ろ暗いことがあるヤツしかやらないのよ!

くっそぉー!

何とか衛兵をまいた先で、一人の小さな女の子を見つけたわ。

木の下で泣いて……どうしたの?

「ミーちゃんが木に登って降りられないのー」

見上げると木の枝に、子猫がしがみついてミャーミャー必死に鳴き叫んでおる。

彼女の飼い猫かしら?

そういうことなら、えいッ、とうッ、スタッ。

豆のパワーを得た私なら垂直飛びで自分の身長十六倍分ぐらいの高さまで飛べるわ!

従って木の枝の高さぐらい余裕の吉村!

子猫を無事キャッチして地上へと生還した。

「はい、もう逃がしちゃダメよ」

「ミーちゃん!」

子猫も飼い主の元へ戻って幸せそうだ。

「ありがとうお姉ちゃん! ……お姉ちゃん?」

少女はここで初めて私の覆面に気づいて動揺していた。

さっきまでは子猫が心配で他のことが目に入らなかったのだろう。

「やっと気づいたわね! 私こそ偉大なる豆の使者ミス・マメカラス!」

ここで女の子に泣きわめかれたら完璧に犯罪者なので、何とか勢いで誤魔化す。

「このチラシを上げるから、パパママに頼んで見に来なさい! 子猫ちゃんも一緒にね! イザさらばー!」

ちゃっかり宣伝もしつつ、それよりも我が身の安全のために脱兎のごとく駆け去る私!

その背中に投げかけられる『ありがとーおねーちゃん』の言葉!

『えーへいさん、あのひとです』かと一瞬思っちゃったわ!

* * *

……フッ、そうよ私は所詮嫌われ者。

不審者扱いされて衛兵呼ばれるなんて今さらじゃない。

人間国が滅びて、城から連れ出された時なんて街の人たちから石投げられたし。

こうなったらむしろ嫌われ者を突き詰めてやるわ!

聞くところによればプロレスにはあえて悪役を演じるヒールとか言うポジションがあるそうじゃない!

私もそこを目指して、せいぜい一般市民たちに嫌われる方向で印象を持ってもらうことにするわ。

そして新たに訪れた村で、凶行の限りを尽くしてやるー!

お前もロウ人形にしてやろうかー!

「「「「…………」」」」

「あれ?」

今回の村人さんたちは、なんかリアクションが違うわね?

不審な私の姿を見ても、恐れて逃げたりしないわ。

「何だねアンタは? 顔なんか隠して強盗かね?」

「違いますが……!?」

やっぱり覆面しているとそう見えちゃうのね。

「残念だけどウチにゃとるものなんて何もありゃせんよ。作物が不足でのう。自分たちの食ってく分だけでカツカツじゃあ。それも場合によっては足りないかもと、どうすべえか皆で知恵を絞っとる最中じゃよ」

「お上に訴えるのがいいじゃろうが、ここの領主はボンクラで中央から言われんと何もせんからのう。魔都におられる魔王様へ直接訴え出て、返事が貰えるのは何ヶ月先か……」

「その間にオラたちが飢え死にしちまったら何にもならねえ……」

うーん、なかなかシビアな状況のようね。これじゃあ興業を見に来てなんて、とても言える状況じゃないわ。

こうなったら……、そうよ!

「豆よ! 豆を食らいなさああああいッ!」

「「「「うわあああああああああッッ!?」」」」

急遽、農場から運んできた豆を寒村の皆さんへ大放出してやったわ!

豆俵ざっと三十俵分よ!

農場には現在、私個人で栽培した豆の備蓄がたんまりあって、その保存のために倉が四つほど建っているから、私個人の判断でこれぐらい動かしても全然問題ないわ!

「ひえええええッ!? 豆!? しかしこれだけあれば当座凌ぎには充分……! いや次の収穫まで余裕で食い繋げられる……!?」

「こんなにポンと施してくださるなんて、アナタは一体何者? 神様でごぜえますか!?」

私は神なんて御大層なものじゃないわ。

あえて言うなら豆が神!

私は、ほぼ神と同義と言っていい豆の使者! ミス・マメカラス!

興業をよろしくね!

* * *

そうして宣伝の興業を続けて言ったら意外に作物不足で喘いでいる村落に多く行き渡ったわ。

そのたび倉から豆を放出して施してあげるのよ。興業の宣伝にもなるからね。

そんで今日も、とある村にお邪魔してこれまた不作に喘いでいたから豆を送りつけてあげたわ。

プロレス興行の宣伝ポスターと共に!

「うおおおおおッ! 救いの神じゃ、女神様じゃあああ!」

「覆面してて怪しいけれども! しかしどこかで見たような!?」

村人からも感謝されてまあ気分はいいわよね。

しかし今まで回った村の中でもダントツで貧しい村ねえ?

まだまだ未発展というか開拓村?

これから土地を切り拓いて住んでいこうって感じね。

さすがにこんなところで宣伝しても来てはくれなさそうだし……アレ? ちょっと待って?

豆に群がる人だかりの向こう、一歩引いたところで私を見詰めているオッサンは……。

お父様!?

つまり元人間国の王!?

そういえば聞いたことがあるわ。お父様も私同様、表向きは処刑されたことになっているけど。どこかの辺境で人知れず生きていると!

ここがその辺境だったのね!?

こんなところで図らずも、親子の再会が叶うなんて!

ああ、今すぐにでも覆面を脱いで抱き付きたいところだけれど、それは許されないわ!

何故なら今の私は豆の使者マメカラス!

豆を伝道する使命は親子の情を上回るのよ!

……じゃなく!

せっかく魔族の恩情から生かされてる私たちなのに、勝手に流刑地を離れて再会しましたとかなったら裏切りになっちゃうじゃない!

ここで会ったという事実すらあってはいけない!

ゴメンナサイお父様! せめて私が丹精込めて育てた豆を食べて、私のことを思い出して!

今は豆こそが、私の生きる道なのよ!