軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

595 シェミリ・トライアングラー

はい俺です。

いかにドラゴン馬サカモトの健脚をもってしても転移魔法の速度を超えることはできなかった。

あー、疲れた。

たくさん走って息切れした。

なんて知った風な口を聞いたらサカモトからギロリと睨まれた。

そして戻って来てみたらまた大変。

なんか人が縛られていた。

二十歳前後の若い女性が……実に美しい亀甲縛りにて手足の自由を奪われていた。

……誰だ? こんな見事な仕事をしてのけたのは?

どこで覚えた亀甲縛り!?

そんなことよりもそうして縛り上げられた問題の人物に見覚えのある俺だった。

つい最近見たばかりの顔ではないか?

そうだ、真魔国改め魔島で会ったシェミリちゃんではなかったっけ?

親善試合に参加した四人の闘士の一人。しかもその中で最強を誇っていた王女様ではなかったっけ?

そんな彼女がどうしてここに!?

「リテセウスくんッッ!?」

思い当たる節といえば一つしかなかった。

この農場で唯一、俺と一緒に魔島へと渡った同行者の一人。

コイツは転移魔法で俺より先に農場へと戻っていった。どんな場所からでも一瞬で目標の場所へと行ける転移魔法で。

あの魔法は使った本人だけでなく、術者と接触した人や物もある程度なら一緒に飛ばすことが可能。

謎はすべて解けた!

っていうか目撃してた。

魔島でリテセウスが魔法使って飛んでいく瞬間を、俺はその場で見届けたからね。

そして本人とは別アングルでその様子を目撃していたから転移の瞬間、彼女が飛びついてきたのもバッチリ確認できたよ。

つまり犯人はお前だ!

リテセウスくんの転移魔法にくっ付いてきたシェミリさんは、息を潜めつつ農場に侵入。

まったく発見されることなく奥深くまで忍び込むことができた。

なんてこたーない。

聞き取り調査を進めた結果、まず農場外縁の農地に入り込んだ途端、オークのオークザシキとオークスフォードの二人に発見されたという。

両名、オークボの指揮下で働くウォリアーオークたちだ。

この二人が『若い女性とトラブることによってオーク風評被害を助長したくない』と怖気づき、捕まえず泳がせるに留める。

それに伴い他の者まで、この堂々過ぎる侵入者に及び腰になって野放しにするという始末だった。

最終的には先生が指摘してやっとお縄という顛末。

やっぱり先生は強い。色んな意味で。

「私は、この場所でリテセウスくんが強くなった秘密を探りに来たのよ! そして解明した暁には私もそれを取り入れて、私も最強になるのよ!」

と供述しており、犯人の動機は明らかになりました。

「でも一番最初にリテセウスくんが処理していたら、ここまで長引かない案件だっただろう?」

彼が気づかなかった?

そんなことはない。

先生や魔王さんからも天下無双の達人と称されるリテセウスくんが、女性一人気づかないなんて、ありえない。

「何で気づかないふりをしたのかなリテセウスくん? まさか公になって怒られるのが嫌だったとか?」

もしそんな理由であったら俺はリテセウスくんへの認識を改めればならない。

事なかれ主義で目の前の問題から目を逸らすようであれば、そんな人材を魔国や人間国の責任あるポストにつけることはできない。

「だって……!」

それに対してリテセウスくんの申し開きは……。

「女の子と二人きりになるの、怖くて……!」

「ああ」

そういう理由か。

そういやリテセウスくんが今の彼女と付き合いだしたきっかけって、二人きりの時に一方的に襲われたんだっけ。

もしやそれがきっかけで女性恐怖症に?

若い女性と一対一になるのが死ぬほど怖い?

「そうだな、キミは悪くないな?」

「黒い影が……! うう……ッ!?」

トラウマを抱える若者を優しくいたわるのだった。

完全無欠と思われたリテセウスくんにも唯一と言っていい弱点があった、それは女。

案外よくある話だなあ。

「ええい生意気な! リテセウスの周囲を騒がせる羽虫女め!」

そしてこちらがその問題の彼女、エリンギアになります。

リテセウスと同じく留学生として農場で学ぶ、いわばクラスメイト。

青春真っ盛りです。

「このような不法侵入者、さっさと強制送還すべきです! いや、不埒なマネを二度とできぬよう罰を与えねば! そうです、打ち首です!」

トントン拍子で極刑まで行きつくな。

このエリンギア、シェミリさんを排除するに脇目もふらない。女の勘で気づいたのかな強敵であることを。

「このような傍若無人の女、農場に置いておけばトラブルになることは必定! 一秒でも早く元の場所へ返すべきです! もしくは消すべきです!」

キミだって充分なトラブルメーカーだよ。

そしてここまで好き放題言われたら、言われた方だって黙ってはおらず……。

「なんですって? この私……魔島の主アザルの娘シェミリに対して無礼な! 見たところアナタだって魔族でしょうに、貴族を敬う心はないの!?」

「私は魔王軍に所属する者エリンギア! その忠誠は魔王ゼダン様にのみ捧げられる! お前のような田舎貴族なぞ敬う理由はない!!」

いや、敬おうよ。

理由はなくても人を敬うことは大事だよ。むしろ理由がいるのは敬わないことに対して。

「なんですって、アナタがエリンギア!? ……フン、やっぱり大陸の魔族は野蛮で下劣なのね。リテセウスにはまったく相応しくないわ!」

「なッ、何故そこでリテセウスが出てくる!? かかか、勘違いするなよ!? 私は別にリテセウスのことなど何とも思っては……!?」

「あらそうなの? 聞いた話ではアナタが一方的にリテセウスに付きまとってるという話じゃない?」

「んなッ!? 何を言う!? 付きまとっているというなら、お前こそそうではないか!」

「んにゃにゃッ!?」

はいストップストップ。

一回呼吸を整えようか。

吸って。

吐いて。

……はい再開。

「つきまとったからこそ、こんなところまで来ているのだろうお前は!? 選ばれた者しか踏み入ることの許されない聖者様の農場にまで無断で押し入るとは! 筋金入りの付きまとい犯ではないか! 自分のその浅ましい姿を客観的に見て恥を知れ!!」

「はぁー!? 何を勘違いしているのかは知らないけれど私の目当ては、リテセウスくんのように強くなる秘訣であって、リテセウスくん本人じゃないから! 不埒な気持ちなんて一切ないから!」

「だったら私だって、不埒で淫らな気持ちなど一切ない! 私はあくまでリテセウスの強さを尊敬しているのであって! 恋とか愛とかHとか微塵もないんだからな!」

なるほど。

ツンデレにツンデレをぶつけるとああなるのか。

なんかチキンレースの様相を帯びてきたぞ。

あれで一言でも『好き』と言ったら、色々と総取りしてライバルをコースから蹴落とせるんだが、同時にプライド的なものを色々失うことになる。

恋愛は『好き』と言った者が負けらしいので。

「私の方がリテセウスのことなど何とも思ってないしー!」

「私こそ窓際の虫程度にも思ってないしー!」

脇でリテセウスくんがさめざめと泣いていた。

彼のトラウマがこれ以上の広がりを見せませんように。

「とにかく! リテセウスくんの強さの秘密はわかった! この農園で受ける教育こそが特別! それが彼をここまで強くしたでしょう!」

農園じゃないです、農場です!

「つまり、私もここで学べばリテセウスくん並に強くなれる!」

「それはない」「無理です」「誰でもあそこまで強くなれるんなら苦労しねーわ」「先生の教育にも限界があるんですよ」「努力の量質が同じならあとはモノを言うのは才能だけなんだよ!」

「あれッ?」

同級の生徒たちから集中砲火を食らってキョトンとするシェミリさん。

「はッ、どうせ目当ては強くなることよりも、リテセウスと一緒に学ぶことなのだろう? もっともらしい理屈で取り繕うのはやめたらどうだ?」

「んきゅぅッ!?」

エリンギアから図星を突かれるシェミリさん。

「す、既にそのポジションにいるアナタからとやかく言われる筋合いはねーわよ!」

「だからこそライバルを同じ土俵に上げてたまるかぁー!!」

そうして再び姦しい争いが再開するかと思われたところへ、とある人物の鶴一声がすべてを覆した。

『取り込み中すまんが……』

ノーライフキングの先生だった。

折角の授業がシェミリ乱入で中止になってしまいすみません……!

『彼女が入学しようとどうしようと、リテセウスと一緒に学ぶのは無理じゃぞ』

「えッ!? なんで!?」「やったぁ!」

戸惑うシュミリさん、歓ぶエリンギア。

二者二様のリアクションを受けてから先生は続ける。

『今回リテセウスが外で大活躍したのを受けて思ったのじゃよ。そろそろ頃合いではないかとな』

「頃合い? 何のです?」

『卒業』

出会いがあれば、別れもある。

『そろそろおぬしたちに教えることが一区切りつく。そこで今まで学んだことが充分に身についているかを審査したのちに、資格ある者には晴れて卒業の認可を与えようではないか』