軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

591 喫茶店後話

俺です。

なんと言うことでしょう。

こっちの世界には存在しないと思っていたコーヒー。

それが真魔国……もとい魔島の方に存在していたとは!?

「あちらの方では昔から親しまれる飲み物らしい。彼らの祖先が島にたどり着いた時からコーヒーの木が自生していて、時間をかけながら有効利用していったそうだ」

と説明してくれるのは、俺がプロデュースした喫茶店『ラウンジアレス』のマスターを務めるグレイシルバさんだ。

店を作って終わりとでは少々無責任なため、定期的にこうして様子を見に来る。

そしてコーヒーの一杯を楽しむ。

「魔王は喜び勇んで魔島と貿易を結び、コーヒー豆を輸入するそうだ。魔国全体にコーヒーが広がる日もそう遠くないかもしれんな」

「ほう、いいね」

「意外に慌てないんだな。別の産地が見つかって供給が確立されると、もうコーヒーはアンタの独占物じゃなくなるんだぜ?」

「俺はコーヒーを独占したいなんて思ってないよ」

独占したいんなら最初から農場に秘匿したままにする。わざわざ外に喫茶店を建てようなんて思わない。

むしろコーヒーを世に広めたいから色々したわけで、そんな中で別方面からもコーヒーを知らしめる流れが起きたというなら大歓迎だ。

「そもそも世界中の人たちにコーヒーを飲んでもらうためには、ウチで生産してる分だけじゃ絶対足りないからね。どうやって生産量を増やすか考えてた矢先だからむしろ助かるぐらいだよ」

「大らかな人だな。そんな自分の得にもならないことをなんでしたがるのかわからん」

というグレイシルバさんは、火をつけてコーヒーを焙煎中。

この人もすっかり喫茶店のマスターが板につきつつある。

「商会を通して、魔島から渡ってくる豆を貰ってね。量が少ないんで有効活用する方法を模索しているんだ」

「というと?」

「アンタから貰った豆と交ぜる」

ブレンド!?

このマスター、誰に教えられるまでもなくオリジナルブレンドに挑戦し始めたというのか!?

「どの割合で組み合わせるのが一番美味いか、今模索中だ。できれば味見に付き合ってほしいんだが……?」

「喜んで!」

「商会長も喜んでたぜ。コーヒーの供給元が見つかったんで、自分たちでもコーヒーを飲ませる店を立ち上げようって話だ」

ほうシャクスさんがそんなことを……?

まあ、喫茶店を作ろうとした時に随分協力してもらったし、かつ大儲けを夢見てたところに思い切り肩透かしを食らわせてしまったからな。

ビジネスチャンスには大いに乗っかってもらおう。

「で、構想はこの店をまんま真似しようってハラのようだぜ。一応聞いとくがいいのかい?」

「俺は別にいいけれど、グレイシルバさんこそ問題なんじゃない?」

ライバル店がボコボコ出てくるってことじゃないか。

「日を追うたびに客が増えてね。正直そろそろ捌ききれなくなってきたってところなんで、分散してくれるなら却って助かるよ」

「たしかに繁盛してるなあ」

見渡すと、店内はほぼ満席。

皆美味しそうにコーヒーを飲んだりホットケーキを食んだりしている。

「落ち着いた雰囲気ってのも、この店のウリなんだろう? それなら適度に密度が薄くないと。こっちはお陰様でそんなにあくせくと働かなくても食っていける身分だからな。本当にいい隠居先を紹介してくれた」

「バイトやってるんですっけ?」

このグレイシルバさん。

今でこそ喫茶店のマスターをしているが、元々は傭兵。そして傭兵でなくなったあとは政府(?)に雇われエージェント的なことをしていたんだとか。

これこそまさに喫茶店のマスターに相応しい経歴!

そして今でも求めがあれば現役のエージェントチームに合流し、悪者退治に協力しているらしい。

表の顔は喫茶店のマスター、そして夜には悪を狩るエージェント。

益々それっぽい!!

「テロリストどもの報復で引退にまで追い込まれたオレだが、さすがのヤツらも魔国の奥深くまで付け狙えはしない。転移魔法なんて便利なものもあるから。その日のうちに帰ってこれるし、いいこと尽くめだなあ」

「それでもマスターの仕事をちゃんとしてくれるところに好感持てます」

「どんな仕事でも任されたからにはしっかりこなす、それがプロさ」

カッコいい!!

「そんなわけで、これから同業者が増えたとしてもここを潰すつもりはないから安心してくれ。まあ、アンタから卸してもらっている豆がある限り他店に負けるとは思えんがな」

え?

それってウチで育ててるコーヒー豆の方が余所よりおいしいってこと?

そんなこと言われると素直に嬉しいんだが。

「それに、この店の看板は他にもあるしな」

「美味いコーヒーを淹れる、渋いマスター?」

「違うよ……」

なんか照れとる!?

「あっちの方だよ。アレ目当てで来る男性客もけっこういるぜ」

「なんですって?」

示された方を振り向くと、そこには店内を忙しなく駆け回るメイドさんがいた。

「はいはーい! ご注文承ります、少々お待ちくださーい!」

あれは正真正銘のメイドさんではない。

職業をあえて指摘するならウェイトレスと言った方が正しい。飲食店で客の注文を聞き、料理を運ぶ女性スタッフだ。

つまりはメイドのコスプレをしたウェイトレスだ。

ここはメイド喫茶だったのか!?

違う。

こうなるまでに至った経緯を聞いてほしい。

そもそもグレイシルバさん一人でこの店を回すのは不可能と思われたので、補助スタッフの募集は最初から行われた。

それで商会から紹介されたのが女性スタッフで、なので女性用の制服を用意しなければならなくなった。

まあ、商会辺りから出来合いの制服を売ってもらってもよかったが、せっかくだからオリジナルで拵えようぜって話になった。

そしたらバティの出番だ。

栄えある農場の被服担当バティに、服のことなら相談しないわけにはいかないと持ち込んだのが運の尽き。

即座に彼女のスイッチをオンにしてしまった。

――『あああああああッッ!! ウェイトレス! ウェイトレスですか! それならメイド服にするのがいいですよ! むしろメイド服以外に選択肢がありませんね! 何故かって? メイドもウェイトレスも奉仕する職業だからです! 親和性があるんですよ! だからメイド服のウェイトレスは当然アリなんです!!』

ちなみに異世界生まれ異世界育ちのバティが、メイド喫茶など知る由もない。

俺も特に吹き込んでいない。

つまり彼女はみずからの発想と霊感で、メイド喫茶にたどり着いたのだ!

時代を先取りする女!

――『だからウェイトレスに着せるのはメイド服以外にあり得ません! ミニスカ? 何言ってんだ殺すぞ? メイド服はロングスカート以外ありえないじゃないですか! メイドは肉体労働なんですよ! 足を保護するためにもスカートはくるぶしまで覆ってないといけないんです!!』

バティはクラシカル派だった。

――『アン〇ラ!? 神〇屋!? 何ですかそれは!? とにかくまずはメイド服ウェイトレスですよ! 他は認めません! というか既に私の脳内では一三〇〇種のデザイン案が浮かんでいます! その中から選定していって最終的にたった一つの究極的メイド型ウェイトレス制服を作り上げてみせます!!』

と言って出来上がったメイド服があれ。

さすがバティの職人仕事だけあって、デザイン的にクールでありながらも機能性はまったく損なわれず、丈夫で動きやすい。

通気性がいいのに保温性も高いから、夏涼しく冬温かい。屋外でも屋内でも快適に作業できる完全無欠のメイド服。

メイド服じゃないか!?

「まあ、メイド服なんだけどね」

「何を言ってるんださっきから?」

で、そのメイドウェイトレスのいる店の現状だがたしかに集客に貢献している。

席のほとんどを埋めている客のうち、男性客の幾人かは完璧にウェイトレス目当てで来ている。

コーヒー一杯で粘りやがって居座るならさらに頼まんか。

ここまで来るとストーカーまがいの変客が出てこないかが不安だが、そこはグレイシルバさんがいる限り大丈夫だろう。

こんな強面なマスターがいる店でヤンチャするバカはそうそうおるまい。

「っていうか……ウェイトレスさん増えてません?」

「あれからさらに追加で一人雇った。さすがにこの大繁盛を手伝い一人だけで回すのは無理だからな」

それはまあまあ。

「シャクスさんからの紹介? あの人経由なら大丈夫だとは思うけれど……」

「いや、直接働かせてくれと申し込みに来た」

直撃!?

なんと思い切りのいい働き手がいたものよ。でも身元とか大丈夫なんです?

「大丈夫だ、スパイであることは既に判明しているからな」

「それって大丈夫なの!?」

「正体バレてるスパイなんて大丈夫に決まってるじゃないか。ベルフェガミリアが送り込んできたんだ。オレがここで何をしているか突き止めたいらしい」

「何やってんのあの人?」

魔軍司令にまでなって喫茶店のマスターに恐れを抱いているとは!?

『別に危険はないですよ』と教えてやった方がいいか?

「オレのことを怖がっている間はアイツも真面目に仕事しているようだからしばらくこのままがいいだろ。オレも天下の魔王軍に貢献できて光栄ってところさ」

隙あらばすぐサボろうとするからねあの人。

そんな感じでグレイシルバさんの喫茶店は、つつがなく魔都に溶け込んでいっているようだ。

* * *

さて、これとはさらに別件で、この魔族騒動の後日談をもう一つ語っていきたい。

時間は少しだけ巻き戻り、舞台は俺の住む農場で……。