軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

581 訪れる客:サボり編

我が名はオルバ。

偉大なる魔王軍四天王『堕』のベルフェガミリア様の補佐を務める者である。

……いや、今となってはベルフェガミリア様は魔軍司令の職権を下賜され、もはや魔王軍の最高権力者。

ほんの数年前よりもその存在は遥かに大きなものとなっている。

そんなベルフェガミリア様の助けとなるようにこの補佐官オルバ、全力を尽くさねば!

……と、いつも思っているのだが。

「うわーい面倒くさーい」

いつものように怠けまくっている我が主であった。

上司ベルフェガミリア様が自堕落であることは今日に始まったことではない。

それでも魔軍司令の座につき、より大きな責任を負えば少しは気も引き締まるかと思いきや、まったくそんなことなかった!

今日も軍務もそこそこに、絶賛自堕落中。

「…………ベルフェガミリア様? 午後から軍議があったはずでは?」

「それならマモルくんに代わってもらったよー。いいよね彼、真面目で誠実で」

同じ四天王で責任感のある人に負担が集中している!?

ダメですよ! いくらマモル様が苦労性で何でも率先して引き受けて、かつ有能だから結局は何でも解決してしまえるからって!

すべてをあの人に丸投げしたら!!

「あ、そうだオルバくん今暇? なんか街によさげなお店ができたって言うから一緒に行ってみようよ?」

「暇じゃないですよ!?」

ただ今絶賛職務中ですよ!?

しかし私ごときがベルフェガミリア様を説き伏せられるわけもなく、押し切られる形であの御方のお供をすることになってしまった……!!

* * *

そしてやってきたのが、何やら飲食店と思しきかまえの建物だった。

もしや酒場ですか?

いくら何でも最高司令官が昼間っから飲酒をしては軍の規律が……!?

「ダイジョーブイスリー、ここはお酒を出さないお店だよ。代わりになんか変わったものを飲ませてくれるんだって」

変わった飲み物?

何だろう? よくはわからないが上司がズンズン進んでいくため、私もあとを追って入店するしかない。

チリンチリーン。

おっ、何だ?

ドアにベルがついていて、開け閉めするたびに鳴るのか。面白い仕組みだな。

「いらっしゃいませ、二名様ですねー?」

それで客が来たことにいち早く気づく仕組みか。見事だな。

「巷で噂となっているコーヒーというのを飲みに来たんだけど、ある?」

「もちろんですよー」

「深煎りでガッツリ濃いのをちょうだいねー。ミルクと砂糖は抜きで」

「かしこまりましたー」

……あの?

ベルフェガミリア様、ここには初めて来たんですよね?

注文慣れてません?

「いや、こういう風に注文するのが通らしいよ。友だちに教えてもらった」

誰ですその友だち!

魔軍司令なんだから人付き合いにも気を付けてくださいね!

「お連れの方は何になさいますかー?」

「お、同じものを……!」

どこでも通じる魔法の言葉。

注文を受けたウェイトレスが奥へ戻ると、改めて二人だけでテーブルを挟み、静寂が訪れる。

……いや、それほど静寂でもないな。

店内はそれなりに席が埋まっていて、そこかしこから賑々しい話声が聞こえてくる。

なかなかに盛況のようだ。コーヒーとかいう謎の飲料がそれだけ人気ということなのだろうか?

見回してみると……あっちの席に座っているのはパンデモニウム商会の商会長シャクス殿ではないか?

食通との評判高い彼が利用しているなんて、やっぱりここで飲めるコーヒーというのは凄く美味しいもの!?

しかも……、シャクス殿の向かい側に座っているのは居酒屋ギルドのマスター!?

あの二人は犬猿の仲だったのでは!?

「こらこらオルバくん」

なんでしょうベルフェガミリア様!?

「店内をキョロキョロしてはいけないよ。他のお客さんが迷惑じゃないか」

「は、はい……! そうかもです……!?」

「ここに来る人は、一時の落ち着きを求めているんだ。それをジロジロ眺めていたら気になって安らげないだろう。ヒトの休息を無暗に邪魔してはいけないよ」

まったくその通りなのですが。

それだけ他人を気遣いできるなら、同じ魔王軍の部下たちを気遣ってもらえないでしょうか!?

「ところでオルバくんは彼女と上手くいってるの?」

「その……、彼女は今の仕事がとても充実しているらしくて……!?」

とめどもない話をしていると、ついに注文のコーヒーがやってきた。

「おまたせしましたー」

これがコーヒーッ!?

黒くて泥のような!?

「これ人が飲むものなのですか? どこからどう見ても……!?」

「大体みんなの感想がそうらしいよ。でもまあ飲み物の判断は飲んでから下そうじゃないか」

そう言って一口……。

「苦い、それがいい」

そうですか?

私は苦いのがダメなんで案内通りにミルクと砂糖入れて飲みますが……。

「苦過ぎて頭を殴りつけられたようですよ。ぼんやりしたところが一気に吹き飛びました」

「うん、それ苦いせいじゃないらしいね。コーヒーの効能なんだって」

え?

「コーヒーには覚醒作用というのがあって、眠気を覚まし、意識をスッキリさせるんだそうだ。気分がだるくて仕事が捗らないときにピッタリの飲み物だね」

それが本当ならば、こんなにありがたい飲み物はないじゃないですか!

問題はそれを飲んでる目の前の人が、何が起こっても働こうとしないことだけどね。

「なら意識がスッキリしたところで、今からでも戻って仕事しませんか?」

「いやー、しかしここは落ち着くねえ。雰囲気もいいしコーヒーは美味いし、何日でもいれちゃう」

ダメだ。

この喫茶店の居心地がよすぎてベルフェガミリア様、本格的に腰を据えつつある。

ここもしかしたら……。

ベルフェガミリア様の格好のサボりスポットにッ!?

たたでさえ停滞しがちなこの人の仕事がますます進まなくなる!

その分マモル様にさらなる負担が!?

「よぉーし、小腹もすいてきたから、この十三段ホットケーキとかいうのを頼んじゃおうかなー? オルバくんも好きなの食べていいよー、僕の奢りー」

「わぁいたくさん食べるぞー! とか言うと思いましたか!? いいから帰って仕事しましょう! 酒飲まなきゃ許されるわけじゃねえんだぞ!」

しかし補佐役の私の言葉など虚しく、この困った上司を改心させることなどできない。

一体どうすれば!?

ああ仕方ない四天王のマモル様、アナタ一人で頑張って!!

「…………ッ!?」

するとどうしたことだろう?

突然ベルフェガミリア様の表情が変わり、カタカタ震え出した。

顔面蒼白で視線は泳ぎ、動作も挙動不審。

「いきなりどうしたんですベルフェガミリア様?」

「何故……!? 何故アイツがここにいるんだ……!?」

アイツ?

なんとか上司の視線を追ってみると、その先にいたのは切れ味鋭い雰囲気の中年男性。

カウンターの内側に立っているのを見ると、この店の従業員かな?

しかし、あの肌の色は人族?

魔都で働く人族など珍しい。

「そんな話じゃない……! ヤツは……ヤツはこの世でもっとも恐ろしい男の一人なのだ……!」

どういうことです?

これでも一応、魔王軍最強であるベルフェガミリア様が恐れる相手なんているはずが……!?

「キミは若いから知らないだろうが過去、僕は何度もあの男に苦杯を舐めさせられた。人魔戦争中、あの男が率いる傭兵部隊は一番嫌なタイミングで現れ、一番嫌なところを突いて魔王軍を半壊させた。人間軍の傭兵隊長『燻し銀』のグレイシルバとはヤツのこと……!」

当時のことを思い出したのかベルフェガミリア様の体がブルブル震え出した。

この人にも戦場でのトラウマなんてあったのか……?

「し、しかしいくら何でもベルフェガミリア様より強い者がいるなんて信じられませんが……?」

「剣の強さだけが戦場の強さではないんだよ。特にグレイシルバは部下を率いさせたら厄介この上なく、とても粘り強い用兵をする男だ。魔王軍にとって幸運だったのが、ヤツが傭兵でせいぜい一部隊の指揮しか任されなかったことだよ。もし将軍にでもなっていたら、魔王軍はヤツによって倒されていたかも……」

そんなに!?

そんな男が何で、こんなところで飲食店経営をしてるんですかね!?

とか混乱していたら……ヒィッ!?

噂の最悪傭兵が、いつの間にか私たちのテーブルのすぐ傍へ!?

いつの間に!?

「コーヒーのおかわりをお持ちしました」

「まだ注文してないけれど」

「この店からのサービスです。……で」

傭兵の鋭い視線が、ベルフェガミリア様を刺す!

「あまり部下を困らせてはいけませんな? 下にいる者よりたくさん働くのが上に立つ者の務めでしょう?」

「申し訳ありません! すぐ仕事に戻ります!」

「折角淹れたコーヒーを飲まずに?」

「申し訳ありません! 一滴も残さず飲み干してから仕事に戻ります!」

「そう、大切なのは緩急の入れ替えだからな。疲れた時はまた来るといい。コーヒーを飲んで頭をスッキリさせるのだ」

ベルフェガミリア様を説き伏せるなんて……!

そんなことできる人間がいたんだ!!

* * *

いっそこの人を秘書官にでもしようと思ったが、喫茶店のマスターの仕事が大事と言われて断られた。

そしてベルフェガミリア様はこんな天敵のいる喫茶店でも、ちょくちょく通っているようだ。

それだけコーヒーが気に入ったってことかね?

それで長居するとマスターに怒られて帰ってくるから、それで釣り合いとれていることにするか。