軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

572 異世界喫茶計画進行中

こうして花見も充分楽しんだところで再び困難に挑戦していこう。

子ども受けする喫茶店メニューの開発だ!

コーヒーを世に広めるために、喫茶店を異世界で開業するために。

家族が皆で訪れたくなるようなメニューが必要なんですって。

で、どうしようか?

前の世界にいた時の記憶と照合すれば、適切なものを探し求めるのに苦労はないと思う。

喫茶店にあるようなメニューで、子どもが好みそうなものでしょう?

色々あるじゃないか。

たとえばホットケーキ。

絶対子ども大好き。

砂糖ガン混ぜした小麦粉で生地つくって焼く。

ただそれだけなのにどうしてあんな、ふんわりもっちりの舌触りになるんでしょう。

粉もので意外にどっしり腹にも溜まるから喫茶店に置かれる。

そして何よりホットケーキは既にこっちで作ったことがある。

材料も揃っているし、プラティやヴィールが食べたがるから定期的に作っていて慣れたものよ。

そうした手軽さもホットケーキの有利な点でもある。

そうした様々な優良点を加味した結果……。

よし、シャクスさんから出されたお題には、ホットケーキでファイナルアンサー!

「いや待て……!」

答えを出すには早計ではないか?

いかにすべての条件を満たした無敵のメニュー、ホットケーキといえど……。

その完璧さがむしろ欠点になったりしないか?

「……またなんか面倒くさいこと考えているわね旦那様?」

そんなことないよプラティ?

とにかく、そんな完璧すぎるホットケーキだからこそ無難というか、安パイ感が出すぎていて、こうした出し物に不可欠のサプライズ性が失われたりしないだろうか?

「そもそもホットケーキは喫茶店以外にもありそうだしな」

ご家庭スィーツとしても王者の座にあるホットケーキ。

『喫茶店を代表する』という趣旨からは外れるかもしれない。

そして何より前に作ったことがあるから目新しさに欠けるというか……。

まあ、メニューに加えるとしても他にあともう一品欲しいな、という気がする。

それこそ喫茶店でしか味わえない、かつ子どもが大好きそうなメニュー。

そんなものがあるだろうか?

うーん。

うーん?

うーーーーーーーん……。

こうして記憶の底をドブ浚いし続けること数分……。

「あ」

思い当たった。

己自身が子どもの頃に喫茶店で出会った、輝く緑色の記憶……。

「クリームソーダだ!」

子どもが大好き。

喫茶店でしか味わえない。

この二つの条件を取り揃えるのに、これ以上適したものはあるまいよ。

炭酸で、鮮やかな緑色で、アイスクリームが乗っている!

子どもが喜びそうな要素をこれでもかと詰め込んだ、究極の子ども向け飲料。

しかしながら常温で保存不可のアイスと、液体であるメロンソーダを合わせるというアンバランスさから保存性は極めて悪く市販品としてスーパーとかに並ぶこともない。

かといってドリンクとしてもフードとしても微妙な立ち位置だから一般的な食事処で扱われることもなく、同じように中途半端な立ち位置の喫茶店でこそしっくりくるメニュー!

まさに今俺が求めているメニューではないか!

よし、今回の目標は決まったぞ!

俺はこの異世界でクリームソーダを開発して見せる!

『コーヒーを広める』という当初の目的からいささか外れている気がしないでもないけれども……。

細かいことには気にせず突き進むのだ!

* * *

しかしながら異世界クリームソーダ作り。

かなりの困難が予想される。

なんと言ってもまずクリームソーダはソーダでなくてはいけない。

ソーダと言ったら炭酸飲料。

飲めばシュワシュワッと口内で弾けるアレ。

あれをこっちの世界でどう再現したらいいやら?

ああいうのって、どういう風にして作ってたんだろうか? 工業的な匂いがしてきて鬼門っぽい。

異世界においては。

作るのに何か特別な機械とか薬品とかがあったら、科学的な下地のないこっちの世界ではお手上げだ。

まあ理屈が伴わなくても、いよいよとなったら『至高の担い手』さえ使えば単なる水からボコボコ泡が噴き出すんだろうけどな。

しかし今回は、農場の外で売り出すことを目的としているから『至高の担い手』に頼り切るにも限度がある。

個人で楽しむ分にはいいんだけどな。

農場から遥か離れた魔都で、俺以外の人たちに扱わせて安定供給できる仕組みにならないとダメだ。

ということで炭酸飲料の炭酸が入る工程を今少し探究していこう。

なんか巷では炭酸水が作れる機械とやらが家電売り場にあった気がするが、どういうメカニズムになっているのかとんと知見がない。

まあ、あったところで家電量販店もないこっちの世界では手も足も出ないんだが。

ヒントぐらいになるかと思ったが無理だったな。

あるいは炭酸水は、炭酸水というジャンルのミネラルウォーターとしてその辺から湧き出てくる……という話も聞いたことがある。

正直、俺は『ホントかよ!?』と眉唾感を拭い切れないんだが。本当に炭酸水って井戸掘りよろしく地面を掘り進んで運がよかったら湧き出てくるもんなの?

こうして考えれば考えるほど謎めいた存在だ、炭酸水。

前の世界にいた時は何も考えずにサイダーやらコーラやらガバガバ飲んでたんだが、俺は文明におんぶにだっこで凄まじいものの恩恵にあずかってたんだなと今さらながら思う。

そして俺は今、そうした文明の加護から離れて自分一人の知恵と霊感で炭酸飲料を再現しないといけないわけだ。

機械もなく、化学薬品もない。

そんなファンタジー異世界でどうやって炭酸水を再現すれば。

……あッ。

* * *

「先生、お願いします!」

ノーライフキングの先生に頭を下げてお願いした。

そう、この世界に機械も化学もなくったって、それに匹敵する超便利なツールがあるではないか。

それが魔法。

科学文明にも余裕で比肩できる魔法。

魔法の力を持ってすれば炭酸水だって容易に作れるに違いない。

科学がなければ魔法を使えばいいじゃない。

という言葉だってある!

ない!!

「そういうわけで、こう……中に空気が入ってシュワシュワとする水を作りたいのですが、魔法でなんとかならないでしょうか?」

『空気が水の? 中? ですかな?』

俺の要領を得ない説明になんとか理解を追い付かせようとする先生。

いい人だ。

『何やらよくわかりませんが、水の精霊と風の精霊の力を借りれば何とかなるのではないですかな? 言葉で伝えるのは難しそうなので、聖者様の心中を覗かせてもらいイメージを直接把握すれば齟齬も減りましょう』

さすが先生!

俺の拙い説明でそこまで理解を深めてくださるとは!

『では、イメージ直結のために体に触れさせてもらいますでの。その上で精霊に語り掛け……』

あらかじめ用意しておいたコップ一杯の水に手をかざす先生。

『風と水の聖霊よ、この者の願いを聞き届け、杯を奇跡で満たしたまえ……。「ダ・サイダー」!!』

先生がなんか呪文みたいなものを唱えると、即座にコップの水がグラグラと揺らめき、次いで内側から沸き立つように泡がボコボコしだした。

まるで沸騰しているようだ。

そしてほどなくボコボコが収まり、波静かになったと思えば……。

ポーエル謹製ガラスコップだからこそわかる、透明の表面越しに確認できる、水中に蟠る小さな気泡。

『では聖者様、確認ください』

「はい……!?」

俺は恐る恐る、コップの水を口に運ぶ。

ゴックゴクゴクゴクゴクゴク…………。

……ゲップ。

「炭酸水だあああああああッッ!?」

さすが先生! こんなにも簡単に魔法で炭酸水を作り上げてしまうとは!

「聖者様のイメージを具現化した通形を、術式として固定化しました。要するに一つの呪文として仕上げたということですが、これを他者に教え広めれば一定の魔術師がいる限り世界中どこでも、この水を作り出せるということですな」

そんな先生何から何まで!

なんて頼りになる不死の王者なんだ!

そして先生は、お代わりに用意されたもう一杯の水に魔法をかけて炭酸水にし、みずからも飲んだ。

『美味い』

しかしこんなことを頼まれる水と風の精霊たちもご苦労様ですよ。

『何やらすんですか?』って気分だろうな、きっと。

この炭酸水製造魔法『ダ・サイダー』は、先生から農場で学んでいる留学生たちへと伝授され、さらにそこから世界中へと広がっていくことだろう。

これが魔法の平和的活用だ!