軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

567 古きよきエルフの苛立ち

私はエルフのエルザリエル。

かつては盗賊団『雷雨の石削り団』を率いた義賊だった。

しかし紆余曲折あって盗賊団は解散。

私自身も虜囚の身を経て、今では故郷の森に帰っている。

ここで私は、木を植えている。しかもたくさんの。

そうすることで森を広げ、かつての広大な我らが故郷を取り戻すのだ。

元々私が故郷を出た理由も、人間どもの手で森を削られて、住む場所がなくなったからだからな。

植林作業が始まってから、そろそろ二年。

少しずつ成果は上がってきているが、相手は木。我々より遥かに長く生きる樹木を相手に急いても仕方がない。

これは一生ものになるなー。

エルフの森が完全に復活する頃には私は生きていないなー。

とか考えて日々を生きている。

一時は盗賊として、生涯無宿のまま野に屍を晒すものと思っていたのだから、こうして故郷で過ごせるようになったのは有り難い。

しかもそのきっかけを与えてくれたのが、かつて共に盗賊団として駆け回った手下たちというのも複雑な気分だ。

同じ盗賊団で盗み働きをしていたエルロンやマエルガ、ミエラルにポーエル。

皆すべて故郷を追われたエルフの仲間。

苦楽を共にし、荒野や山間や異種族どもの街を渡り歩いてきた。『雷雨の石削り団』結成の際にも共にいた古馴染。

私と別れたあと、ヤツらが『聖者の農場』なる場所に住み着き、なんか皿やらコップやらカバンやら様々作り出しては売りに出している。

そしてなんか大儲けしている。

稼いだ銭が植林作業の資金になっていくので嬉しいやら呆れるやらだ。

……ん?

何故呆れるのかだって?

それはそうだろう。

私含め、かつての仲間たちは全員、元盗賊団。

盗む、奪う、掠め取るが生業だった。

それが真っ当な労働で対価を得るなど、とんだ不順であるし怠惰だ。

なのに私の元仲間は盗み回った過去も忘れ、真っ当に働き、真っ当に賃金を得て、それで満足してしまっている。

特に私が頭目だった時代の副頭目で、私が抜けてから正式な頭目になったエルロンは、一層酷い。

アイツは土を捏ねて焼いた器を売りさばいても受けているそうだが、皿とか、杯とか。

まあ食事に欠かせないものだから別に無駄とは言うまい。

しかしアイツの作る器は、その売値がハンパではないらしい。

元が土くれだから材料費なんてかからんだろうと思うのに、クソ凄まじい値段が付けられている。

なのにガンガン売れていく。

私も様子を伝え聞くだけなのだが、それでも恐ろしさに震えるよ。

何で土を捏ねて焼いただけのものが、そんな法外な金額で売れるのか?

盗人やってた時よりずっとあくどいんじゃないのか!?

……と私は素人目にも思ってしまう。

しかしエルロン当人は、悪気など少しもなく……。

「私が焼く器には私の情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さのすべてがこもっているのです! 私が焼く器の一つ一つが私の人生なのです!」

とわけのわからぬことをほざきおる。

何が人生か。

皿を焼くようになってからのエルロンは、いっぱしの芸術家気取りにでもなったようで、盗賊だった頃とが別人のようだ。

最近ではドワーフの連中とまで付き合いをし始めたようで、たまに苗の調達に農場を訪れる時に、激しく論争しているのを見かけることがある。

ドワーフと言えば、エルフとは対極の生き方をする種族で地底にこもって穴ばかり掘り、掘り出した鉱物でもってモノを作り売りさばくのが生業。

自然から離れ、小手先の技術に頼る者とエルフから見下される連中だが、そんな連中と生き生き意見を戦わせるエルロンの姿は閉口しつつ眩しくも見える。

一体アイツはどこを目指してどこへ行こうとしているのか。

かつてアイツの姉貴分だったはずの私にも皆目見当がつかない。

最近ではハイエルフであるエルエルエルエルシー様や、さらにはエルフ王までも傾倒。エルロンのことを『宗匠』などと呼んで敬う始末。

ヤツの提唱する何かに影響され、それぞれの森で茶室なるものを築いている。

なんとした堕落。

自然と共にあって人工のあらゆるもの極力排除するのがエルフ族ではなかったのか?

それがモノの売り買いで金銭を得て、異種族どもの商業に浸かり、あまつさえ森の中に家を建てようというのか?

屋根の下で寝起きしないことがエルフの誇りではなかったのか!?

これではダメだ。

せめて私だけはエルフ族の誇りの何たるかをしっかりと忘れず、後世に語り継いでいかねば……!

ハイエルフの方々がエルロンに篭絡されてどうにもならないのは痛いところだが……!

それでも私一人だけになっても、エルフの誇りを守り抜いてみせる!

* * *

「エルザリエルよ!!」

「はい、なんでしょう!?」

決意の矢先にエルエルエルエルシー様……略してL4C様に呼び出された。

「実はお前に頼みたいことがあるのじゃ! 茶室の周りに庭を造ってほしい!」

「ニワ、ですか……!?」

エルロンから誑かされて、なんか変なものを作製したくなったらしい。

あのチャシツなる珍妙な家屋はまだいいとしても、その周囲に見栄えのよい草木を配置しろとは、また面妖な仰せ。

「宗匠や聖者の言うには、そうして自然の風景を楽しみながらお茶を飲むのが風流だというのだ! お前は前々からたくさん木を植えているからいいのがわかるだろう? 頼んだぞ!」

いや、そんなこと言われても……!?

唐突な無茶ぶりに戸惑う私だがハイエルフであるL4C様からの依頼では無下にはできない。

「わかりました。なんとかやってみます……!」

「うむ! それでこそエルフ戦士エルトエルモエルスの孫娘! よろしく頼むぞ!」

ここで勇猛な祖母の名を出してほしくなかったなあ……。

エルロンのアホな影響で、エルフの森がどんどん浸食されている。

本当なら農場に殴り込んでぶん殴ってやりたいところだが、ハイエルフの方々が心酔なさっている以上それも叶わず、ただ粛々と命令を遂行するのみ。

「しかしニワってどう作ればいいんだクソッ!?」

ただ普通に生えている木や草を眺めるだけではいかんのか?

まったく最近のエルロンどもの考えることはわからん!

アイツ自身が考え付いたことだからアイツに聞くのが一番手っ取り早いのだが、元妹分に教えを乞うなどそれはそれで私のプライドが許さぬ!

というわけでマエルガなど他の 妹分エルフに話を聞いてみるのだが『知りませんよ、んなことは』と冷たくあしらわれる始末。

元盗賊団の仲間たちにとってもエルロンは遠い世界に行ってしまったようだ。

仕方ないので、一人で色々研究してみる。

要は見栄えがよければいいのだろう?

見晴らしがいいようにある程度の範囲を更地にして芝を敷いて……。

……木にも生い茂る葉の形で、見る印象が変わるものもある。

上手く組み合わせれば、より面白い形にもなるか?

季節の移り変わりも大事にしなければな。

木は種類によって冬前に落葉し、さらに赤や黄など鮮やかな色に変わるものもある。

そういう木を植えたら時の流れも感じることができていいかもしれんな。

……でも落ち葉を掃除するのは大変か。

草木だけではどうしても景色が単調になってしまうから、別のものを置いてはどうだろう?

草木で自然のものと言えば……石とか?

庭先に大きな石を置いて、これを庭石と呼ぶことにしよう。

苔が生して斑模様となればまた風情が出ることだろうな。

うむ!

なんか楽しくなってきたぞ!!

平面なだけでは芸がないので立体的にしてみてはどうだ!? この区域を一段上げて、かつ遠くまで見渡せるように……!

あと花畑もいるな! 花が一番花がある!

それから、そうして……!!

* * *

そんなこんなしていたらエルロンから感動された。

「凄いです姉様! まさか姉様がこんなにも上質な庭園をお造りになられるとは!!」

「そ、そうか……!?」

一応完成したので農場からエルロンを呼び、感想を聞いてみたところ想像以上に喜ばれた。

そんなにリアクション派手にされたら逆にこっちが戸惑うのだが。

「嬉しいです! 姉様もやはり風流を解するエルフだったのですね!」

「えッ!? いやその……!?」

「でなければ、こんな見事な作庭の仕事ができるはずがありません! 嬉しいです姉様! こんな形で姉様と一緒にまた仕事ができるなんて!!」

といって私の両手を握ってくるエルロン。

めっちゃ強く握ってきおる。

「私が道具を揃え、姉様が庭を造る! これで新たなるエルフ茶道をガンガン世に広めていきましょう! ここに『雷雨の石削り団』初代頭目副頭目コンビの再結成ですね!!」

いや……!?

私は、お前らのような浮ついたエルフに腹を立ててだな……!

私は認めんぞ!

お前らのようなエルフを私は絶対に認めないんだからな!

わかったか!