軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

556 天の女王の呟き

女は皆クズかゴミ。

だってわたくしの夫を誘惑するんですもの。

偉大なる天神ゼウスの妃ヘラですわ。

『いや、それは父上が勝手に口説きに行っているだけで。女たちもいい迷惑なだけでは……!?』

何よアルテミス?

ゼウス様と浮気相手の間に生まれた娘のくせに生意気な?

『ケンカはダメよ二人とも。私たちは今、一つの勝利に向かって一緒に進む同志。仲違いは勝利を遠ざける一因よ』

と偉そうに言うのは、これもゼウス様が浮気相手に産ませた娘の一人アテナ。

戦争を司るとかいう、女神のくせに野蛮なヤツだわ。

きっと混じった浮気相手の血がゼウス様の品性を貶めているのね。

『なんか思いましたヘラ様?』

『この鬼嫁の考えていることなんて大体わかるわよ。夫の浮気相手全員死ねばいいと思ってる主神の妻と、その浮気相手から生まれた女神の同盟ってハナから無理があるんじゃない?』

ええい煩いわよ小娘ども。

愛するゼウス様が幽閉などという理不尽な目に遭わされてより数百年……。

『まだ十年と経ってないけど……?』

これはゼウス様をお助けする絶好のチャンスなのよ!

地と海の神を屈服させ、ゼウス様の封印を解くことに同意させることこそ必要なのに、ソイツらと盟約を交わしてどうします!

アテナとアルテミス!

アナタたちだって仮にも大神ゼウス様の娘であるなら愛する父親を救うために全力を挙げなさい!

それこそ子の義務というものではなくて!?

『正論だけど、ここまで虚しく聞こえる正論はないわ』

『私は別に父上が解放されようがずっと封印されたままだろうが、死のうが消えようが地獄の苦しみを味わおうがどうでもいいんだけど?』

まあ、なんてことを言うのアテナちゃん!

愛すべきパパにそんな物言いをするなんて、育て方を間違えたかしら!?

『アンタに育てられた覚えはない。……私はね、協定なんて結ばれること自体に反対なの。私は戦争を司る神なのよ。それなのに平和を許容できるわけないじゃない!!』

『同じ戦神であるベラスアレスちゃんは協定派に行っちゃったけど?』

『アイツは負け犬だからどうでもいいのよ! しかし私は勝ち戦を司る神! 平和とは、敵を蹂躙し滅ぼし尽くし、奴隷として従わせることで得られるものなのよ!!』

『性格最悪だコイツ』

『敗者を踏みつけながら過ごしてこその平和でしょう! それをせずヘラヘラ手を取り合って平穏に過ごすことに何の意味があるの!』

『性格最悪だコイツ』

本当アルテミスちゃんの言う通りね。

性格最悪な女神だわ。この子の半分はゼウス様の血脈なのになんでこんな性格最悪な子に育ったのかしら?

きっと浮気相手の血が悪いのね。

『それに比べてベラスアレスはどうしてあんなまともなんですかね? ゼウスとアンタという、考えうる限り最低最悪のハイブリッドだというのに?』

まあ、口の悪い。

でもまったくだわ。ベラスアレスちゃんたら、どうしてママを裏切って敵の方へ行ってしまったのかしら?

こんなにもママが困っているというのに、意地悪な息子!!

『いや、だからそれこそベラスアレスがまともな証拠だと……!?』

『煩いわよアルテミスさっきから。そういうアンタこそなんでこっちに加わったのよ。向こうの総大将はアンタの同種で同腹の兄貴でしょう?』

『だからこそよ。なんで私があのクソ兄貴に味方してやらないといけないのよ』

この子も少々歪んでいるわ。

『アポロンのすることは何でも間違っているから、その都度私が反対してバランスをとるのが妹の務めというものでしょう?』

『いや、常に間違っているというわけでは……!?』

『間違ってるわよ!! アイツいつも寒いギャグかまして滑りまくってるし、洗濯ものは裏返して洗わないし! 足臭いし! あんなのが兄だと思うと恥ずかしくてたまらない! だから私は常にアイツの敵に回るのよ!』

まあ、天邪鬼な子だわ。

最近ではツンデレっていうらしいけど。

ちょっと可愛いとか思っちゃったりもするけど所詮コイツもゼウス様を誘惑したクソ虫の生んだ娘。

最終的には敵ってことね。

でも今は、協力して戦うべき仲間よ! 目の前の問題を直視しましょう!

『そうね、我々の状況は圧倒的不利とみなしていいわ』

『半神たちがこぞってアポロン側に回ったからね。実質こっちには私たち三神だけしか残ってないじゃない』

おのれ……、半分人の子の混じった雑種どもめ……!

その汚らわしい出自に目を瞑り、天界に引き上げてやった恩を忘れたというの!?

しかもアイツらのほとんどはゼウス様が地上の人族の娘に生ませた子だというのに!

お父様を助けようという気はないのかしら!?

『いや、半神たちにゼウスを父として敬う心なんてないと思いますよ? 純神である私たちにすらないのに』

『ゼウスに対してノー尊敬であることに加え、ヘラ様への恨みが骨髄に徹してるからねえ。アナタがまだ地上にいた頃の半神たちにどんな仕打ちをしたか覚えてないとでも?』

それは……、仕方ないのよ?

だって愛するゼウス様が気を逸らして生ませた子どもなんて嫌って当然じゃない。

だからちょっとね? 嫌がらせの一つぐらい……!

『アナタのやることなすこと嫌がらせの範疇で済ませられることが一つもない』

『よく考えたら私たちもその被害者だわ。ムカついてきた、死ね』

ああ、今いる同盟者まで敵意を!?

神々ですら恨みを忘れ、共に手を取り合うことなどできないの!?

『テメーのせいだよ』

『まさに日ごろの行いのおかげで半神は軒並み敵に回り、対立の性質上、海の神や地の神も向こうに味方するでしょう。しかも情報によればヘルメスが交渉してアレキサンダーを味方につけようとしているらしいわ』

『超竜アレキサンダーが参戦したら、天地海の全神が一瞬で消し飛ばされるんですけどー?』

我々はどこまでも劣勢ということね。

状況は厳しいわ。敵は膨大で屈強、対して味方は少ない。

神は何と厳しい試練を私たちに与えるのでしょう?

あ、神は私だったわ。

でも私は挫けない!

愛するゼウス様をお救いするために、どんな手段でも取るつもりよ!

というわけでこれを用意してみたわ!

逆転の最終兵器を!!

『うっわ何これ? 箱?』

『こんなもの持ち出してどうするつもりですかヘラ様?』

アナタたちも神なら知っているわよね?

神が与える加護にまつわる厳正なルールのことを?

『何です唐突に……!?』

『そりゃあ知ってることは知ってますけれど……!?』

『神はさらなるものを人の子に与えてはならない。神は一度与えたものを取り上げてはならない。ですよね?』

そうよ。

その掟があるために、人の子へ加護や祝福を与えるのは一生一度になってしまうし、一度与えた加護祝福はなかったことにもできないのよ。

思えば面倒くさい掟だけど、そんな面倒な掟がどうしてできたかご存じ?

『そりゃ知ってますよ。現場をナマで見てきましたから……?』

『何千年前だっけ? ゼウスが一人の英雄を大層可愛がって、色んな祝福や加護を与えまくったのよね?』

『私たちまで命じられて、寄ってたかって祝福と加護を与えたわ。神由来のスキルも。最終的に一人で何百っていう神の加護を抱えた英雄が出来上がることに……?』

その人の子は地上最強となり、もはや敵などいなくなったわ。

ゼウス様はその力でもって地上制圧をさせたかったらしいけど……。

『……まさかソイツが裏切るとはね』

『天空の神々を。チューンさせるだけさせといて最後に裏切るとかタチが悪いにも程があるけれど、神から分け与えられた最強の力があれば慢心したくもなるわ』

ホント神ってロクなことしないわよねえ。

あッ、私が神だったわ。

結局その超ハイブリッド改造英雄を調伏するのにハデスやポセイドスの力を借りなければならなくなり、冥神や海神の勢力に大きな借りができたのよねえ。

『そんな思い出話みたく言わないでください。間違いなく世界が滅びかけた危機の一つだったんだから』

『もっと戦慄しながら反省の態度を見せて語れ』

いやねえ、神は反省などしないわよ?

そうして三界神の協力の下に封じられた究極英雄。

封じるしかなかったのは、与えられたたくさんの加護の中に不老不死があったからだけども。

誰が与えたのかしら不用心なことするわねえ。

『あの……ヘラ様? もう随分長く思い出話してますけど……?』

『そろそろ本題に戻らない? 結局アンタが持ち出してきた箱は一体何なのよ?』

せっかちさんねえ。

慌てなくても、これまでの話がちゃんとこの箱に繋がってくるのよ。

要するに、究極英雄はこの箱の中に封じられているのよ。

『『はああああああああッッ!?』』

フフフのフ。

今を去ること二千……三千年前?

多分その間ぐらい。

神からあらゆる寵愛と能力を受けながら裏切った愚かな人の子は、天地海の三神の力によりこの箱の中に封じ込められたの。

この箱こそパンドラの箱!!

この箱を開け放ち、封じられた究極英雄を解き放てば面白いことになると思わない? 少なくとも世界は混沌に見舞われることは間違いないわ。

我ら天界神の対立などどうでもよくなるほどにね!

『いやそれヤバすぎるでしょ!? かつて世界を滅ぼしかけた害悪でしょ!?』

『ゼウスがどうして幽閉されたのか原因を忘れたのか!? ヤベーことが繰り返される! さすがあの夫にしてこの妻あり!?』

ウフフ、大袈裟ねえ。

慌てなくても私にこの箱を開けることは不可能よ。何しろ封印は天地海の三界神が総がかりで行ったものだから、解封するにも三界神全員の同意がなきゃダメよ?

『なーんだ、なら安心』

『ハデス伯父もポセイドス伯父も、そんなトチ狂った行いを承認するわけないもんね。よかった世界はまだまだ平和だ』

ウフフでもねえ。

三界神の同意がなくても、この箱を開ける方法を私は見つけたのよ?

ヘルメスちゃんも愚かねえ、夫ゼウスの度重なる浮気をつぶさに見破るこの私は、神々一の情報収集能力を持っていると言っても過言ではないのよ。

その私に隠し事をし続けるなど無謀の極み。

ヘパイストスちゃんも恐ろしい加護を作り出したものねえ。

造形神の母神であるこの私が、今度はその力利用させてもらうわよ?