軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

549 蘇る銀狼

あんな反則技で天守閣に到達されたとなったらオークボ城の名折れ。

守城スタッフの手により必死の対空迎撃が試みられる。

こんなこともあろうかと用意された高射角用クッションカタパルトで弾幕を張る。

『ふはははははは! そんなヘロヘロ弾でオレを撃ち落とすなどできるか!』

正真正銘の巨大蝙蝠へと変化したゴールデンバットは、次々襲い来るクッション弾を華麗にかわして、かする気配もない。

蝙蝠は、みずからに備わった超音波探知で石つぶてもかわして飛行できると聞くが……。

ともあれ撃ち落とすには至らないが、張られた弾幕でなかなか天守閣へ近づけないのも事実。

「今にゃーん! 蝙蝠野郎が攻めあぐねている隙にシルバーウルフちゃん! 関門を突破してゴールするにゃー!!」

「そうだー!」

「頑張れシルバーウルフさん!!」

「悪者に敗けないでー!!」

観客は一丸となってシルバーウルフを応援しだした。

さすがに対戦者のルール無視っぷりが腹に据えかねたのだろう。日頃の行いも関係しているんだと思える。

ということで蝙蝠野郎は一気に観客全体のヘイトを掌握し、対戦カードのどちらがヒールで、どちらがベビーフェイスかが決定した。

したからには善玉シルバーウルフさんは是非とも逆転勝利して勧善懲悪を成してほしいところだが、そのためにはあまりにも勝負は厳しい。

状況を即座に理解し、必死に駆け上がるシルバーウルフさん。

しかし第二関門、大岩が転がってくる坂はそれほど容易い障害ではなく(そうでないと主催者側としても面目がない)、大岩に当たれば即失格というルール上、慎重に進むしかない。

ということで苦戦のシルバーウルフさんだ。

「私も……私も『獣性解放』ができればゴールデンバットに後れを取ることも……!?」

しかもシルバーウルフさんは、相当な精神揺さぶりを受けていた。

「他者を顧みずに自分を鍛えることだけに明け暮れていたゴールデンバットのヤツが、新たなステージに立つ……。ではやはり私の方が間違っていたのか?」

あんなに心が乱れていては、いつケアレスミスで大岩に当たってしまうかわからない。

そうこうしているうちにも蝙蝠はクッション弾幕を掻い潜って天守閣に到達しそうだった。

このままでは正義が悪に屈してしまう。

「がんばえー!」

「オオカミさんがんばえー!」

ほら、子どもの観客たちまでシルバーウルフさんを応援している!

今こそ頑張る時だ!

「状況は理解したのだー」

「おおう、ビックリした!?」

気づけばすぐ後ろにヴィールがいた!?

どうしたのいきなり!?

「過去の体験でおれは、エンターテイメントの何たるかを学んだのだ。こういう時、負けてる方が逆転して勝つと盛り上がるんだろう?」

「まあ、そうだが……!?」

「だったら、このおれがエンターテイナーとして花を添えてやるのだ。すべてはお客さんを喜ばせるためにー!」

そう言ってヴィールが懐から取り出したのは、なんと……!?

「ラーメン!?」

懐からラーメンが!?

「今回の露店販売用に試作してみたラーメンの一つなのだ。プラティのヤツに協力して健康面に拘ってみた」

「二人して何やってるの!?」

そういや一時期からラーメンに凝りだしたヴィールは、次々新作ラーメンを開発していたなあ。

今年のオークボ城でも露店を開き、ラーメンをたくさん振舞っている模様。

で、その新作ラーメンとは?

「使用したドラゴンエキスを普段の五倍に濃縮し、副作用を抑えるためにプラティがクスリをあれこれ投入した薬膳ラーメンなのだ! でも結局副作用が出たので販売中止になった!」

「失敗作だ!!」

「それどころかプラティの入れたクスリがいい感じに効力を発揮し、頭が冴えて体力回復。動悸、息切れ、気つけにと様々な効能があるラーメンができたのだ。これを……!」

ヴィール、振りかぶって……投げた!?

ラーメンをどんぶりごと!?

アンダースローのフォームなのでどんぶりはフリスビーのように猛回転。

中のラーメンをこぼすことなく飛んでいく!?

そして飛翔するラーメンが辿りついた先は……。

シルバーウルフさんだった!?

「ごぶうぅッ!?」

どんぶりがシルバーウルフさんの口部へと命中、無理やり口をこじ開け、中身のラーメンを喉奥まで流し込む。

「どういう慣性でああなったの!?」

なんか魔法でも使っている!?

絶対そうだよね!?

「うぐッ!? ……ぐおおおおおおおおおおおおおッッ!?」

スープまで一滴残らず流し込まれたシルバーウルフさんに驚くべき変化が!?

なんかいきなり凄まじい雄叫びを!?

「覿面にドラゴンエキスが効いてきたな。ラーメンの隠し味として欠かせない一匙なのだ」

「とても隠されてませんけど!?」

シルバーウルフさん、なんかヤバい薬を打たれて人みたいに苦しみながら筋肉モリモリになっていく!?

いやそれ比喩でもなんでもない?

「薄味ゴンこつラーメン五倍濃度は常人に耐えられない強化をもたらすのだ。プラティのクスリでも中和しきれないからお蔵入りになったんだが、アイツはエスキューってヤツなんだろ? 凄いヤツなら耐えられるかもしれないのだー?」

「それでも限度があるだろう!?」

あああ……!?

人が摂取してはならない禁断のエキスを取り入れて……!?

シルバーウルフさんの体がどんどん変容していく……!?

彼が元々有していた狼の獣性が極限まで大きくなり……、見た目の気配もまるで本物の狼のように!?

いやあれはもはや普通の狼すら遥かに逸脱した姿!

フェンリル!?

フェンリルってヤツじゃないんですかねアレ!?

いや俺も詳しくは知らんけど!?

「五倍濃縮薬膳ラーメンの力で、無理やり『獣性解放』したのだなー。それだけじゃなくドラゴンエキスの効能で竜性まで獲得したのだ。今のアイツは竜であり狼。二つのカルマを併せ持った竜狼というべき存在だ!」

「竜と狼!?」

なんかヤバいことになってません!?

とにかく、よくわからんがシルバーウルフさんも『獣性解放』して、蝙蝠野郎に並んだ!

いや、竜の力も併せ持って明らかにそれ以上の存在となった!!

フェンリルなシルバーウルフさんは、遠吠え一つ上げたと思うとすぐさま四本足で駆け出す。

第二関門の転がる岩、その数々を稲妻のような軌道ですべて回避したのは一瞬足らずのことだった。

「速いッ!?」

本当に稲妻のような移動速度じゃないか!

あっという間に第二関門を突破すると、第三関門はもっと早くクリアした。

叩けば増えるホムンクルスを無視し、脇を掻い潜って通過。

フェンリルシルバーウルフさんは、身も心も獣性に染まっているかのように見えてそうではない。

ちゃんとこの競技のルールを覚えていて、それに則って攻略しようとしている。

そんな紳士的な振る舞いがいかにも、普段からのシルバーウルフさんだ!

『え? え? えええええええッ!?』

一方の蝙蝠は、地上での快進撃に目を剥きながらも、まだ天守閣に取り付けないでいた。

一応天守閣にたどり着きさえすればゴールなので、ルール上では空から飛来しても勝ちになってしまうんだが、我ら農場の優秀なゴブリンたちが次々カタパルトからクッションを飛ばして蝙蝠を寄せ付けない。

ちなみにゴブリンたちが全力を出したら蝙蝠なんてあっという間に寸刻みになるんだが、それも競技としてルールを尊重している証だった。

そうこうしている間に全関門をクリアした巨狼、天守閣へと到達。

『あああああ……!?』

「ゴールを確認! 勝者はシルバーウルフさんです!」

湧き起こる歓声。

天守閣で待ち受けていたオークボの宣言で、シルバーウルフさんの逆転勝利が決定した。

ドーピングという概念をぶっちぎった何かによる逆転勝利。

でも気にしない。

観客たちは完全にシルバーウルフさんの味方をしているし、そうであれば多少無茶しても許されるのさ。

それが悪玉と善玉の差なのさ。

「そんな……オレが負けるとは……!?」

「ゴールデンバット。お前が『獣性解放』にまで辿りついていたとは。その研鑽は驚愕に値するが、しかし私には勝てなかった」

勝負終わって、速やかに人間形態に戻る二人。

蝙蝠はともかく、シルバーウルフさんが無事戻ってくれたのは本当によかった!

「私は自分一人の鍛錬では『獣性解放』できなかったが、多くの人の応援と助力によって絶域に踏み込むことができた。やはり人間にとってもっとも大切なのは皆で助け合うことなのだ。それを学ばぬ限り、さらなる上へはいけないものと知れ」

いや、シルバーウルフさんが最後になっちゃったのは獣を超えた何かだったけど……!

……まあ、終わりよければすべていいか。

風雲オークボ城セレモニー、S級冒険者ライバル同士による宿命エキシビションマッチは、我らがシルバーウルフさんの勝利という誰もが納得の結果に終わった。