軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

544 未知こそ歓喜

「聖者様、本当に申し訳ありません。アイツら自分の興味しか頭にない勝手者たちで……!」

シルバーウルフさんが冷や汗掻き掻き平身低頭。

いや……狼の獣人で顔中毛むくじゃらの彼が冷や汗を掻いているのかどうかもわからんが。

「かまいませんよ。彼らの言う通り、こっちから呼びつけたんですからね」

まずは願い出た方が代償を支払うのが道理だろう。

五人のS級冒険者のうちピンクトントンさんとカトウさんはそれぞれ一番の興味が別にあるようだから、置いておいて彼らだけを案内することにした。

「フン、冒険者たる者が冒険以外に気を取られてどうするというのだ? これだから俄かでS級になった連中は……」

「そうにゃーん! 冒険者が考えることと言えばダンジョンのことだけで充分にゃーん!」

恐らく冒険者という職業としては彼らの方がスタンダードなのだろう。

ダンジョン探索のために発祥した冒険者という職業。

その極限に達したのがS級ならば、ダンジョンをこそ最優先に置くのもまた道理と言える。

それを利用して、彼らをここまで連れ出すことに成功したしな。

目論見通りというヤツだ。

そして……。

* * *

「到着しました。こちらです」

「「ふぉおおおおおおおおッッ!?」」

昂揚するネコとコウモリ。

入り口だけ見てこんなにテンション上がれるものなのか?

「本当にあったにゃーん!! ダンジョンにゃーん!!」

「うぬううううッ!? オレの知らない未発見ダンジョンが本当にあったとは! 屈辱だが心躍るううううううッ!!」

なんか尋常じゃないぐらい身悶えしている。

ダンジョンフェチ。それがS級冒険者の条件なのか?

『おやおや、騒がしい来客ですの』

ダンジョンの奥底から出てきたのは、ミイラのごとく干からびた人間の死体。

死体ではあるがみずから動き、喋りもする。

最強最悪アンデッド、ノーライフキングの先生だった。

「ノーライフキングだあああああああッ!?」

「主のいるダンジョンにゃあああああッ! 超レアにゃああああああッ!!」

落ち着け。

驚きぶりがあまりにも過剰で、傍から見ている俺が引くレベル。

「スミマセンスミマセン! アホどもが自嘲せずにスミマセン……!!」

シルバーウルフさんが身内の恥に恐縮しまくりだが、かまいませんよ。

それにシルバーウルフさんだって初訪問の時はこれぐらい騒がしかったし。

「彼らに来てもらうための条件が、農場にあるダンジョンの探索許可ですからね。むしろ、これぐらい喜んでもらえないと目的達成になりませんよ」

目論見の次の段階に進むためにも。

「フッフッフ……」

ダンジョン探索は、冒険者の仕事であり存在理由。

その最上級というべきS級ともなれば、それが習性にまで極まっていてもおかしくない。

その推測通り、標準的な冒険者であるゴールデンバット、ブラックキャットの二名は、いまだ公になっていない未発見ダンジョンがあると知らされれば、直に確認せずにはおけない。

しかもそれが、主の住む超レアダンジョンともなればなおさらのこと。

「主ありダンジョンは、それだけで五つ星に認定されること間違いなしの最上級ダンジョンにゃーん!! ズルいにゃ! シルバーウルフくんズルいにゃーん! こんな凄えダンジョンの存在を知りながら隠していたなんてズルいにゃーん!!」

「そうだぞ! 冒険者には発見した未知ダンジョンを報告する義務がある! S級冒険者の風上にも置けない裏切り行為だ!」

非難囂々のシルバーウルフさん。

「そのルールは所詮ギルドの内側でのことだろう。このダンジョンは既に冒険者ギルドを遥かに超える力の持ち主が管理しているのだから、そちらに従うのが筋だ」

しかしながら真っ向から批判を跳ね返す彼も、さすがS級の貫禄の持ち主だった。

「貴様、それでも冒険者かあああああッ!?」

「S級となれば冒険者全体の利益と安全も考えなければならないのだ。お前らこそ頼むからそっちに考えを巡らせろ」

「嫌にゃ! 私は死ぬまで自分のことしか考えないのにゃ!!」

「コイツら……!?」

この自分本位な方こそがオーソドックスなS級冒険者というのだから、同じくS級冒険者でありながら周囲を気にするシルバーウルフさんの気苦労は計り知れない。

さすが『クローニンズ』の一人に数えられることはある。

「今思えば、アレキサンダーさんが彼を講師に選んだのも根拠あってのことだったんだなあ」

シルバーウルフさんが先んじて農場に招かれたのは、ウチにいる学生たちにダンジョン探索の心得をレクチャーしてもらうためだったが。

今目の前にいるゴールデンバットやブラックキャットたちではそれは絶対務まらなかっただろうなと確信できる。

「ゴチャゴチャ言ってる場合じゃない! 未発見ダンジョンが目の前にあるなら何はともあれ探索あるのみ!!」

「穴があったら入りたくなるのが冒険者にゃーん!!」

このダメ人間のスタンダードども、周囲への配慮そっちのけで自分の願望を満たすことしか頭にない。

「お騒がせして申し会わけありません先生!!」

『いやかまわんよ、シルバーウルフ殿にはうちの生徒たちが世話になったでの』

シルバーウルフさんの積んだ徳が、赤の他人どもによって消化されていく!?

『しかしよいのかの?』

「え?」「はいにゃ?」

『この土地にあるダンジョンは、ワシの住むここだけではないぞ。ほんの少しだけ移動した先に、もう一つのダンジョンがあってな』

「「ええええええええええッッ!?」」

『あっちは山タイプ。しかもドラゴンのヴィールが治める広域ダンジョンじゃ』

「「何だってええええええッ!?」」

先生、揺さぶりかけるのがお上手で。

爆弾発言を受けて益々興奮する一流の冒険者ども。

「ドラゴンが治める!? それって、そこも主ありダンジョンってことではないか!?」

「概要だけで五つ星確定にゃーん! 主ありダンジョンがこんなに隣接するってありえるにゃーん!? しかも洞窟タイプと山タイプで色分けできてるにゃーん!!」

「もしこの辺りに適度なダンジョン管理都市ができれば、王都を凌ぐ賑わいになるぞ! スーパーダンジョン都市! ダンジョン新時代の突入だああああ!!」

門前に立っただけで沸き上がる一流冒険者ども。

その勢いはもはや余人がついていけない段階に入る。

「興奮するのはかまわんが、いい加減に中へ入らなくともよいのか? ダンジョンで大事なのは中身だろう?」

汎用性のある言い回ししてくるシルバーウルフさん。

「たしかにその通りだ! 内部が充実してこそのダンジョン!」

「採取できる素材が何もないダンジョンなんてクソにゃーん! このダンジョンのお手並みをとっくりと拝見させてもらうにゃーん!!」

二人のテンションはまさに新作ゲームを買ってもらった子どものよう。

胸ときめかせてゲーム機の電源を入れるかのようにダンジョン内へ足を踏み入れようとするが……。

「だが、ちょっと待ってほしい」

「なんにゃーん!?」

おもむろに引き留めるシルバーウルフさん。

「よく考えても見ろ。ここはノーライフキングの先生が支配する主ありダンジョンだぞ?」

『そうじゃな』

ダンジョン主である先生御本人からして同意された。

「普通主ありダンジョンと言えば、数ある中でもっとも危険なダンジョン。何故なら主であるノーライフキングかドラゴンに遭遇しただけで死が確定するからだ」

「ふん、何を言いだすかと思えば。そんな初心者でも知ってることを言い聞かせて何様のつもりだ?」

「主が怖くてS級冒険者は務まらないにゃーん」

ダンジョン主は本来、冒険者にとって最高の恐怖。

遭遇と死が直結している万能者。そしてダンジョンに潜ることを生業としている冒険者は、上を目指す限りダンジョン主は避けて通ることのできない障害なのだ。

「その障害を乗り越えた者だけがS級冒険者になりえる!」

「そうにゃーん! ダンジョン主は遭遇したら死あるのみだけど。ならば遭遇さえしなければ何も問題ないにゃん! 要するに逃げまくればいいにゃん!!」

彼らはそうすることでS級冒険者にのし上がった者たち。

無論全冒険者の中でもダンジョン主……ノーライフキングかドラゴンを倒したことのある者など一人としているわけがないが、倒せないなら逃げ切ればいい。

……ということだった。

「S級冒険者たる我ら! ダンジョン主に追い回された経験だって一度や二度ではない!」

「全部逃げ切ってやったにゃん!! 私たちのお耳やお鼻を駆使すれば、遭遇する前に気配を察して距離をとるなんて朝飯前にゃん!!」

奇しくも構成メンバーのほぼ全員が獣人というS級冒険者たち。

それはただの偶然というわけではなく、獣の因子が交じっているからこその鋭敏な感覚で何度も命拾いしてきたということだった。

恐ろしいダンジョン主にも出会いさえしなければ問題ない。

そんな意識で主ありダンジョンに挑んできた彼ら。

「しかし、今回はそういうわけにもいかないがな」

「え? なんでにゃん?」

「我々はもう既にダンジョン主と遭遇しているのだから」

シルバーウルフさんの指摘に、全員の視線が一点へと集まる。

干からびたお顔がしかし朗らかな、ノーライフキングの先生の下へと。

『ようこそ』

「もう目の前にいるにゃあああああんッ!?」「オレたちもう死んでたあああああああッッ!?」

ダンジョン主との遭遇が死を意味するのなら、彼らはとっくに死んでいた。

ラスボスが入り口まで出迎えしてくれるダンジョン。

というと何やら至れり尽くせりな感じではあるが、別の見方をしたら始まった瞬間ゲームオーバーと言うこともできる。

なんとも斬新なダンジョンだった。