作品タイトル不明
512 ドラゴン温泉殺人事件・捜査編
ルキフ・フォカレさんには落ち着いてもらうために再び温泉へ。
そして推理ゲームはまだまだ続くよどこまでも。
とりあえず容疑者から謎解きに入るのはやめておこう。
各自の性格能力がぶっ飛びすぎていてミステリーの枠に収まらない。
たとえば容疑者リストの中にノーライフキングの先生がいるが、この人が犯人だったらノックスが十戒の刻まれた石板を叩き割るレベルだ。
万能すぎてあらゆるトリックが成立しない。
それよりも現場の状況から手がかりを探していこう。
大魔王バアルさんが殺された、この温泉旅館の一室は完全な密室……ということになっている。
それを確認するところから始めていこうか。
「ぐぶぇ、いてぇ……!?」
おっと。
死体役で寝転がっているバアルさんを踏んずけてしまった。
めんごめんご。
「旦那様ー、ジュニアが退屈してるからその辺見て回ってくるわねー?」
「うーい」
順当に皆飽きてどこぞへと離れていく。
「ま、マズいのだ! ご主人様! 皆が飽きてしまう前に事件を解明するのだ!」
仕掛け人のヴィールがもっとも焦って、無能警部のごとく徒に事件解決を促す。
「へいへい……!」
まず俺が気にかかったのは、この部屋が本当に密室だったか、ということだ。
この部屋には出入りのできそうな場所が二つ。
通常の出入り口たるドアと、外へとつながる窓だ。
そのうちドアは、鍵がかかっている(という設定)が俺たち自身によって確認されている。
これが本当に通行不可であったかは鍵の所在を改め直さなければならないんだろうが、面倒なのでパス。
もう一つは窓だ。
ただここは五階なので、窓を開けたら雄大な風景が広がるのみ。
「高い、高いなあ……!?」
こんな高さを地上からよじ登る、あるいは飛び上がってこれる者なんて……。
「……割とけっこういるな?」
俺の心の中でかけた検索に、思ったより多くの件数ヒットが挙がった。
ゴブ吉だったらこの程度の高さ容易に飛び上がってくるだろうし、翼を持っているホルコスフォンなど言わずもがなだ。
レタスレートも最近とみにフィジカルだから普通に壁掴んでよじ登ってきそうだし。
エルロンたちなんか元盗賊のスキルでどこからでも入ってこれそうだし。
博士とか『ネコはいかなる場所にも現れるにゃ』とか言いそう。
「やっぱりファンタジー異世界に推理ものは食い合わせが悪いな……!?」
ノックスの十戒が百戒ぐらいになりそう。
「ふほーん? どうしたのだご主人様―? わからないのかー?」
仕掛け人であるヴィールが、さも得意顔ですり寄ってくる。
「このレベルの推理は、ご主人様には難しかったかなー? ほーん? ふーえ?」
「……諦めて帰るか」
「待って待って待つのだ!! もう少し頑張って考えてみよう! すぐ諦める姿勢はジュニアの教育によくないのだ!!」
取りすがってくるヴィール。
わかったわかった、ただ意地悪しただけだって。
「外に出て聞き込みをしてみるのはどうだ? 部屋の中では見えないことも浮き彫りになってくるかもしれないぞ!?」
えー?
このゲーム室外までフィールドになっているの?
仕方ないなヴィールが満足するまで付き合いますか。
「先生はどうします?」
律義に残ってくれている先生にも一応聞く。
『そうですな……、体もいい具合に冷めてきましたので、もう一度温泉に入って来ますかな……』
そこまで言ったところで先生、唐突に『はッ』となる。
『こ、こんな殺人犯と一緒の部屋になどいられませぬぞ! ワシは自分の部屋に帰らせていただきますぞ!』
「ありがとうございますー」
先生も見事に乗っていただいて俺も意気揚々とホームズ気分で事件解決へと向かうのだった。
あと大魔王バアルさん。
「あの……、ワシもそろそろ飽きてきたんだけど動いちゃダメかな?」
「死体が動いたらダメだろ? 事件解決までそこで寝ていなさい」
「でも、背中がめっちゃかゆくなってきたんだが……!?」
現場の保存は捜査の鉄則。
死体はその場に放置しておいて、外へ捜査に出かけようではないか!
* * *
しかし、こうやって部屋の外に出てきたはいいが……。
「どうやって調べていけばいいんだ?」
まさかゲームに関係してるかどうかもわからないすれ違う通行人に片っ端から『お前が犯人かッ!?』って聞いていくのか?
それは度胸が必要すぎる。
かといって旅館の別の部屋を調査しに入ったらナイフが飛んできたり、落とし穴開いたりしそう。
怖い。
「大丈夫なのだご主人様! ここはゲームの進行役であるおれ様が、正しい調査についてレクチャーしてあげるのだー!」
一緒についてきたヴィールが勇んで言う。
まあ、ここは歩くゲームブックでもあるコイツの指示に従うとしよう。
で、どうすればいいのかね?
「聞き込みといえば捜査の基本だ! 捜査は足でするもの! たくさんの人に聞いて情報を集めれば、その中に事件解決に繋がる重要証言が出てくるかもしれないのだ!」
「お、おうそうだな……!?」
だから、それを関係あるかどうかもわからない人に聞くのが度胸いるんだって。
「そのためにまず……観光名所に行くのだ!」
「え? なんで!?」
何故そこで観光名所出てくる?
「わからないかご主人様!? 温泉地で起きた殺人事件では、名所の紹介が必ずセットなのだ! 聞き込みというていで周囲を歩き回り、さりげなく温泉地の名所旧跡をアピールして、観光客を誘い込むのだ!」
それミステリーって言うよりサスペンスの手法……。
まあ、どっちかといえば温泉殺人事件はサスペンスのカテゴリか。
しかし、事件のついでに観光紹介というのは地味に有効な手段かもしれない。見てくれたお客さんが興味をもって遊びに来てくれるかもしれないからな!
「よし、その案乗った! 早速、選り抜きの観光スポットへ聞き込みに行こうではないか!!」
「あくまで聞き込みなのだー!!」
しかし、建てたばっかりの温泉旅館に都合よく観光スポットなんてあったかなあ?
あった。
秘宝館だ。
温泉地ならつきものだろうと勢いで建てたものだが、いわゆる温泉地における秘宝館っていわゆる隠語で、その中身は卑猥なものオンパレード。
さすがに妻子ある身でそんなものを建てると、どんな目で見られるかわからない。
恐怖に屈した俺は途中で路線変更し、秘宝館に本物の秘宝を置くことにした。
精霊の鏡、天使の翼、真実の目、イージスの盾、女神像……。
オークボたちが世界各地を回って集めてくれた秘宝が、秘宝館には所狭しと並んでいる。
展示期間終了後にはすべて返却予定。
「展示期間は限られているので、皆急いで見に来てね!」
「待ってるのだー!」
捜査にかこつけた宣伝も炸裂したが、捜査的に何の進展もなかった。
どうすりゃいいんだ?
「なら次は温泉に入るのだー!」
「だからなんで!?」
「わからないのかご主人様! 温泉でリラックスすると、思わぬグッドアイデアが浮かんでくるものだ!」
そうか……!
温泉地が舞台のサスペンスドラマでも、登場人物が温泉で一っ風呂浴びるシーンはつきもの。
それが美人女優だったら即座にサービスシーンだ。
それは聞き込みにかこつけた観光案内というコンセプトと同じで、要は舞台となった温泉地を売り込むことが目的なんだが、それゆえに劇中でも重要なシーンにされがちだ。
入浴中に呟いた何気ない一言がヒントになって、捜査が前進したり!
「俺も温泉に入ったら、何か重要なことを呟くかもしれないってことだな!? まったく関係ない一言が事件の核心をついているとか!?」
「そういうことなのだ! ご主人様! 早速温泉に入りに行くのだー!!」
ヴィールに促され、早速おれは旅館に取って返し、浴場に突入し、湯船に浸かる。
……上がる!
そして浴場から出てくると、ヴィールが待ちかまえていた。
「どうだったご主人様!? 何かいいアイデアは浮かんだか!?」
「何も浮かばなかった!!」
やっぱり早々上手くいくことなんてないね!