作品タイトル不明
504 温泉風物探し:卓球
さらに開発するぜ。
温泉に付きものな風物を。
色々記憶をさらって心当たりを物色した結果、いいものを思い出した。
浴衣。
温泉卵。
次に続くものはこれだ!!
「卓球だ!」
卓球と言えば温泉地で行うもっともオーソドックスなスポーツ!
湯上りの弛緩した体を引き締め、汗を掻き、またサッパリするために温泉に入る。
この無限ローテーションを完成させる卓球は温泉地におけるマスターピース。
現在建設中の異世界温泉宿にも必要不可欠となるだろう。
ということで取り急ぎ作ってみた。
卓球台を。
* * *
「おおおおお……!? 何これ!?」
試作は農場で行ったので、プラティやらヴィールが物珍しさで寄ってきた。
「なんだーまた食い物じゃないのかー? また美味いもの作ってくれよご主人様―?」
次は温泉饅頭作りにでもチャレンジしてみるからしばらく待っておれ。
しかしその前にまずは卓球だ。
俺の作り上げた卓球セットの出来栄えを見るがいい!!
「なんだご主人様? ちゃんと美味しそうな食い物拵えてるじゃないか! 早速試食なのだ、あーん……!」
「ッ!? 待て待て待て待て!! それは食べ物じゃない! 口に入れるな飲み込むな!?」
何をしているかというと。
ヴィールが食さんとしているのは飴でも饅頭でもなく、丸いピンポン玉だった。
卓球のために俺が研究を重ねて開発したのだ!
「丸くて美味しそうだが食べ物じゃない! 食べたら健康を害します! いやドラゴンなら平気かも知らんが!!」
「なんだつまんねー? じゃあ結局これらは何なのだ?」
よくぞ聞いてくれた!
できたばかりの卓球台を、存分に自慢させてくれたまえ!
「これは……、言うなれば決闘のための設備かな?」
ちょっともったいぶった言い方をしてみた。
「決闘!? なるほどこういうことね!?」
いきなり卓球台の上に飛び乗るプラティ。
「この狭く小さなフィールド! この上で逃げ隠れせず、正面からぶつかり合うガチンコバトルってことね!?」
「おおー、小細工の余地なしで面白そうなのだー!」
ヴィール(人間形態)まで卓球台に飛び乗り……!?
「おいプラティ、前々からこの農場で、ご主人様の次に偉いのは誰か決めたいと思っていたのだ! ご主人様が作ってくれた舞台こそ決着の場に相応しい!!」
「いいわねえ! ドラゴンがいつまでも最強面できると思ったら大間違いだと教えてあげるわ! 人魚の底力を見るがいい!」
なんでそんなに自信たっぷりなのプラティ!?
ドラゴン相手に!?
っていうか違う!
卓球台はそんなナイフエッジデスマッチみたいな下がることも避けることも許されない正面衝突の舞台じゃない!
「とりあえず降りなさい! 卓球台は上っていいところと違う!」
「「はーい」」
プラティヴィールを降ろし、仕切り直し。
改めて卓球について説明しよう。
こっちの世界が、卓球をどれくらいスムーズに吸収できるかも二人を通して試験しておきたいし。
「いいかい二人とも? 卓球と言うのはこのラケットとボールを使って競い合うんだ」
「ラケット? このフチで殴りつけるの?」「美味そうな団子なのだ」
ラケットは武器じゃない。
だからピンポン球は団子じゃないぞ!!
ラケットでピンポン球を打ち、卓球台でバウンドさせて相手のコートへ。
打ち返してまた相手のコートへ。
その繰り返し。
「ミスして打ち返せなかったら負けというルールだ」
「ほー、じゃあそれでやってみましょうか」
血の気の多さが時折判断を誤らせるが、基本プラティはこの世界屈指の頭脳を持ち合わせ、理解は早い。
ヴィールも実はハイスペックなので、すぐにちゃんとした卓球のルールを覚えた。
そしてルールに則り、ちゃんとした動きで打ち合っている。
「地味かと思ったけど案外楽しいわね! ヴィール! アタシの離岸流スマッシュを受け切れるかしら!?」
「ニンゲン風情が小癪なのだー! だったらこのおれがたった今編み出した必殺! ドラゴンクラッシュファイナルエレクトリックレボリューションなのだ!!」
「結局どういう技なのよ!?」
ラリーが激しすぎてボールが見えなくなっている。
普通のラリーでボールを打ち合う音が、カコン、カコン、カコン、カコン、カコン……というリズムで鳴るとしたら。
プラティとヴィールが打ち合う音は、カカカカカカカカカカカッ! という感じ。
さすが強者同士がぶつかり合うと卓球でも違うな。
「よし、よし! 試しはここまでにしておこう!」
これ以上放置したら、二人がどんな殲滅型の必殺スマッシュを閃くかわかったもんじゃない。
「二人とも基本は覚えたということで、応用編に行ってみよう! 卓球によりゲーム性を加えてみるぞ!」
「ゲーム性? どういうこと?」
「これからする卓球は……、ただの卓球ではなく、古今東西卓球だ!」
「「古今東西卓球ッ!?」」
声を上げて驚く二人。
本当リアクション体質に磨きがかかっている。
「では実際にやってみよう」
ここからは俺もラケットをもって試合に参加。
変則的な三人マッチだ。
「お題! 野菜の名前!」
「「お? おうッ!?」」
「トマト!!」
叫ぶと同時に球を打ち放つ俺。
打球はプラティへと向かって飛んで行き……。
「えッ!? ええと……、キャベツ!」
見事お題に適った野菜名を唱えつつ打ち返す。
次に向かう先はヴィール。
「おろろろろろろッ!? ご、ゴリラなのだ!?」
スカッ!
空振りした上にゴリラは野菜じゃない。
「ヴィール、アウトだ! ……このようにお題に合ったものを言いつつラリーするのが古今東西卓球のキモだ。卓球の技だけでなく、記憶力、知識力も求められる」
「なるほど、体だけでなく頭脳までも問われる対戦ってわけね? 面白そうじゃない」
内容を実感で覚えてもらうためとはいえ、説明なしのぶっつけ本番を対処しきったプラティはやはり理解が早い。
対して何故か『ゴリラ』と言ってしまったヴィールは……。
「うがー! 説明なしで酷いのだ! 今のは無効試合だ!」
「もちろん今のはただの練習だよ……!? 今からが本番、何ならお題はヴィールが決めていいぞ?」
ヴィールの悔しがり方が本気だったので譲歩してしまった。
まあお題を決める権利ぐらい譲ってあげてもいいだろう。
「よーし! だったらメッチャ難しいお題で圧勝してやるのだ! ……えーと、そうだな……!」
ヴィール、サーブを打ちながら言う。
「お題! 歴代ガイザードラゴンの名前なのだ!」
「えッ?」
「アードヘッグ!」
カコン。
ヴィールの打った球がプラティへ向かう。
「アル・ゴールさん」
「えッ? えッ? えええええええッッ!?」
ドラゴンじゃない俺たちがその二人以外知るわけがないじゃないか!?
俺は何も言えず、見事配球を見送った。
「それズルい! ドラゴン以外知りようがないじゃないか! 偏りのある知識は不公平だ!!」
「でもプラティのヤツはちゃんと答えたのだ?」
「アル・ゴールさんは実際ここに訪ねてきただろうが!!」
面識のある当代と先代しか知りようがない!
公平性を欠くのはアウトだぞ!
「じゃあ次はアタシねー」
ピンポン球を持ったプラティが、ラケットを振りかぶる。
「お題、歴代人魚王の名前! ナーガス!」
「アロワナ!」
「ちょっとおおおおおおッッ!?」
また答えを言えずに見送りした。
偏った知識のお題を出してこないで! やっぱり面識のある当代と先代しか言えないじゃない!?
「甘いわね旦那様! 徹底的に自分の有利な状況を作り出すのは当然のことよ!」
「すぐガチ勢になるんだから!」
それだったら俺もアメリカの歴代大統領の名前で勝負してやろうか!?
…………ッ!
何も出てこなかった!?
「さあ楽しくなってきたからキリキリ行くわよ! 次のお題は、薬草キリトリニゲスとクラトライロゲスを調合してできる魔法薬の名前!」
「ついに答えが一個しかないものを!!」
こうして俺は古今東西卓球でプラティとヴィールにコテンパンにやられるのであった。
支障はあったが卓球セットの出来栄え自体は充分ということで……。
また一つ温泉に必要なものが揃った。