作品タイトル不明
493 ハイエルフ対峙
ここで少々過去を振り返る。
エルエルエルエルシーさんは、人間国で出会ったハイエルフだ。
かつて人間国では自然が荒れ果て、エルフたちの住む森も消滅寸前まで行っていたが、それを改善するために植林事業に乗り出した。
その途中に遭遇したのがハイエルフのエルエルエルエルシーさん。
最初は衝突したが、最後には俺たちの意図を理解して、今では植林に協力してくれている。
名前が長いのでL4Cさんと省略している。
エルフ王国は魔国側にあり、L4Cさんの住む森は人間国側にある。
違う集落ではあるが、同じハイエルフなら話も通じるだろうと思い、お願いしてみることにした。
代表してエルロンが転移魔法で飛び、小一時間ほどして……。
「来てやったぞ。ハイエルフを呼びつけるとは傲慢じゃのう」
来てくださった! ハイエルフのL4Cさん!
しかも、なんか突然霧がかかったと思ったら、その中から現れた。呼びに行ったエルロン共々引き連れて!
「アナタも使えたんですね、その魔法!」
「『飛仙霞』ならハイエルフなら誰でも使える初歩技よ。魔族どもの転移魔法はあらかじめ設置した座標へしか飛べんようじゃが。我らの転移は大きな自然マナが活動しておるところへなら大体飛べる」
へー。
「この辺りにやたら大きな自然マナの反応があることは気づいておったからの。しかも最近になって。何事かと思ったら、そなたらの仕業であったか。相変わらずやらかしとるの」
彼女とは一回会っただけなんだけど、どういう認識されてるんだろうな?
まあ、やりたい放題したままの印象か。
「出現した新しい反応って?」
「あれであろう?」
L4Cさんの視線を追っていくと、問題の世界桜樹に行きついた。
アレか。
「世界樹級のパワーを発しておったら、嫌でも我らハイエルフの気に留まるわ。そっちのアホも恐らくそれを辿ってここまで来たんじゃろうしの」
「その通り!」
一応まだ捕虜身分なエルフ王さんが轟いた。
「つい最近まで何もなかったところに大きな反応ができたんじゃ! アホでも怪しいと思うものよ! それを頼りに転移してみたら大当たり! 墓穴を掘ったの悪党め! ほほほほほッ!」
「ハイエルフ専用の『飛仙霞』は、世界樹くらい特殊な自然マナじゃないと目標にして飛んで行けんからの。便利なようでまったく使えん魔法じゃ」
転移できる目標が実質一つしかないってド◯クエ1のルーラか。
しかし、この農場に第二の世界樹ができたことで新たな転移目標ができてしまうとはなんと皮肉な……!?
「さて久しいの。エルフエルフ・エルフリーデ・エルデュポン・エルトエルス・エルカトル・エルザ・エルゼ・エルヴィーラ・エルマントス・エルカトル・エルーゼ・エルフエルフ・ミカエル・ウリエル・ガブリエル・アリエル・アリエナイ・ラファエル・エル・エルファント。まさか現世で再びそなたとまみえることになろうとは思ってもみんかった」
「貴様こそエルエルエルエルシー! 本拠の森共々朽ち果てるものかと思ったが、まだ生きておるとはしぶといヤツじゃ!」
なんで上位のエルフって、こんな厄介な名前ばっかりなんだろう?
「それよりもお二人、お知り合いなんですか?」
「ハイエルフなど地上に何人もおらんからの。それに上位種ともなれば自然集落の長になるから調停で嫌でも顔を合わせることになる。特にこやつんところは世界樹を保有する集落ゆえ、有名なんじゃ」
二人とも『のじゃ』口調だし、案外気が合うのかもしれない。
「用件は既にエルロンから聞いておる。……フン、このような痴れ者の説得にわらわを駆り出そうなど不遜の極みじゃ。見返りがなければ、とても引き受けられたものではなかったぞ」
やっぱり気が合ってなさそう。
「エルエルエルエルシー見下げ果てたヤツよ! よもやエルフの敵たる者どもに味方するとは! 朽ちた森に引きこもることでプライドまでも朽ち果てたか!」
「なんで、そなたの集落一つに敵対しただけでエルフ全体の敵になるんじゃ? そなたは何百年も前からそうじゃな。たまたま世界樹のある集落を取りまとめているだけで頂点気取り、調子に乗ってエルフ王まで名乗るから、他の集落の長たちから嫌われておるんじゃ」
「ぬぬぬぬぬううううううッッ!?」
なんか正論でボコり始めた。
どうやらあの二人はああいう関係性らしい。
「しッ、しかし、ここの連中がニセモノの世界樹を持っておることは、たしか! 世界樹がエルフ族全体にとって神聖なれば、そなたとて懲罰に加わるべきじゃ!」
「そう来たか……! なるほどたしかにわらわもエルフの一人として世界樹を敬っておる。その世界樹を侮辱する者あれば、必ず殺すであろう」
怖い。
「そうであろう、そうであろう! ならばともに世界樹のニセモノを作った悪党を……!」
「しかしそれは本当にニセモノなのか?」
「え?」
L4Cさんからの率直な問いに、エルフ王は言葉を詰まらせる。
「よく考えてみろ。わらわやそなたはどうやってここまでやってきた? 『飛仙霞』は前に言った通り、世界樹級の自然マナに向かってしか飛ぶことができん。巨大かつ清浄なマナにしかな」
「そ、それは……!?」
「そなたがここを見つけ出し、やってきたこと自体が、ここに真っ当な世界樹があるという証ではないか?」
そういやそうだ。
エルフ王さんは、こっちをニセモノ呼ばわりしときながら、本物の世界樹にしか対応しない魔法を使って、これじゃ語るに落ちてるじゃないか?
「さらに言おう。そなたもわかっていることだろうが、わらわたちハイエルフは森の中でしか生きられん。森と共にあり、一体化しすぎたがゆえに森の木々が濾過した清浄マナしか取り込むことができんからじゃ」
「何じゃ改めて? そんなこと今さら言われるまでもないわ!?」
「忘れておらんかったのか? では何故気づかん? 我々が今どんなに危険な場所におるかを?」
「えッ? ……あッ!?」
今俺と、二人のハイエルフさん(他多数)がいるのは、農場の一角にある開けた平地。
元々耕作予定地であったので、森の木々どころか草まで刈られて生えていない。
今の二人の話が本当であれば、二人は今思いっきり森の外に出て、いわば無酸素状態なんじゃないか?
「言われてみればッ!? うわー死ぬッ!? なんでわらわこんなところに転移してしまったんじゃ!?」
「危険がないと判断されたからじゃろ? そもそも『飛仙霞』が強大な清浄マナを感知して飛ぶ仕組みは、術者たるハイエルフを危険から守るためでもある。この場所には充分清浄マナが充満し、わらわたちを守っているのじゃ」
「どうして!? 木の一本も生えておらんのに!?」
「生えとるじゃろ一本。そこに」
L4Cさんが指さす先にあるのは、さら地に立った一本だけ聳え立つ桜の木。
問題の世界桜樹だった。
「世界樹は、特別な木じゃ。森一つ分の清浄マナをたった一本から放出する。だからわらわもそなたもハイエルフでありながら無事でいられるのじゃ」
「なんと……!? なんと……!?」
「たしかに世界樹は唯一無二のもの。最初の一を除けば皆ニセモノと言えるかもしれん。しかしここまでの清浄マナを発し、本物と遜色ないのであれば、それも本物と言えまいか?」
「そう言われれば……!?」
反論が出てこないエルフ王さんは、この農場にある世界樹も本物であると認めざるを得ないのだった。
結局は、お互いの世界樹の葉を供給し、社会に貢献しようねと合意することで話はまとまるのだった。
* * *
「本当に我が王国以外で世界樹が存在していたなんて……! 我が王国唯一無二のステータスが……!」
なんかショックを受けているエルフ王さん。
彼女に引き連れられてきた一般エルフさんたちには、お団子でも振舞った。
「せっかく来てくれたんだから、いい思い出も持って帰ってもらいたいからね」
「だったらわらわも同じじゃ。アホの同族の説得役だけを担わされて、あとは帰るだけとか、あまりに報いがないわ。いい思い出一つもない」
とL4Cさん。
まったくですね。今日は本当にこちらの望みばかり聞いていただいて申し訳ない。
「というわけで、わらわは報酬をきっちりもろうて帰るぞ。そらエルロンや、最初に約束したものを差し出すがいい」
え?
L4Cさん、エルロンから何か貰う約束をしてたんですか?
たしかに彼女を呼びに行ったのはエルロンだが、その際何か交渉でもしたのだろうか?
対するエルロンは心得たとばかりに……。
「では、無事エルフ王の説得を成し遂げた謝礼として。私の新作をお受け取りください」
「よっしゃー!」
叫ぶL4Cさん。
そんなに嬉しいの?
農場の陶器作り担当、エルロンがその道に凝りすぎて芸術性ばかりを追求した器。
何やら形が歪んで前衛的になってきて、俺ももう理解が難しくなってきている。
「この私の最新作で、銘を『エルフ三段腹』としました。その価値をわかっていただけるL4C様に受け取っていただけて、むしろ光栄です」
「さもあろう。こんなに美しいご褒美がもらえるなら、そなたからのお願い事も大歓迎じゃ。またいつでも頼るがいいぞ!」
L4Cさんは、いつぞやエルロンの作品をプレゼントされてからドハマリしてしまっているらしい。
なら進んで頼みも聞いてくれるか。
「ああああーーーッッ!?」
そこへエルフ王さんが絶叫と共に乱入。
「それはッ! ファームブランドのハイセンス陶器ではないか!? 何故そなたらが持っておる!?」
「何故と言えば、彼女が作っておるからじゃが?」
「何いいいいいいッッ!?」
エルフ王さん、エルロンに詰めよる。
「あの素晴らしい器を作り出す芸術家が、ここにいたのか!? なんと素晴らしい出会い! わらわ、アナタの作品のファンなのじゃ! こないだの新作も真っ先に買いましたぞ!」
「えッ!? そうなんですか!? 嬉しい!?」
意外なところにもエルロンのファンがいた。
彼女の作品は、ハイエルフに殊更好まれるようだ。
「それでそなた金を得ようとしていたのか? 世界樹の葉を売って? でも最速の最新作はわらわが貰ったがな、しかも無料で!」
「ズルいぞ貴様! ……先生、わらわにもさらなる新作を拵えてたもれ! 報酬は糸目をつけんぞ!」
「職人への直接注文は仁義破りじゃぞ! それにエルロン先生は人間国側の森出身じゃ! 余所集落のそなたの頼みなど聞かぬわ!!」
ハイエルフ同士がエルロンを先生呼ばわりしつつケンカしている……!?
こうして世界樹を巡る問題は一様の解決を見せ……。
エルロンの作る陶器に顧客が増えた。