軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

488 自家製世界樹に挑戦

バッカスの居酒屋も無事安泰なようで、俺も様子見を終えて農場へ戻る。

帰ってくるなりプラティからおねだりされた。

「世界樹を生やして旦那様!?」

「うん?」

また強烈なおねだりだった。

っていうか世界樹?

「……を生やせって? 農場に?」

「そうよ!」

もはやおねだりを越えて無茶ぶりだった。

世界樹ってそんな簡単に生えてくるものだっけ?

世界の始まりから既に聳え立っているイメージなんだが?

「それはやっぱり……、青汁から派生して?」

「そうよ! 今や世界樹の葉は、このアタシのオリジナル青汁に欠かせない素材なのよ!」

なんか釈然としない。

世界樹の葉は、場合によっては最高クラスの回復アイテムで死人を蘇らせることすら可能なのに、それを青汁にしちゃっていいの?

『不味い、もう一杯』とか言って『もう一杯飲んでいいの!?』ってなってしまう。

豪勢すぎる健康食品、世界樹の葉入り青汁。

プラティ作成の品が魔都では飛ぶように売れているらしい。

万病に効くから。

それも致し方ないか。だって世界樹の葉だもの。

「でもホラ、今のところ世界樹の葉って商会を通して仕入れてるじゃない? だから経費がかさんでお高くなっちゃうのよねー」

ちなみに青汁売って得た利益はジュニアの養育費として貯蓄されている。

我が子を立派に育て上げるためのお金だった。

「しかしね……、商会を通して青汁を売りさばいていて思ったの」

「何です?」

「このままでいいのかって。私の作った青汁を飲んで、多くの人が健康になっているわ。でも世界樹の葉を仕入れてる分経費がかさみ、その分値段もお高くなって、一部の余裕ある人しか青汁を飲めない……!」

世界樹の葉仕入れ費がネックになって、そんなに値段上がっちゃってるの?

え? これが今の世界樹入り青汁の価格?

……。

めっちゃ高いや。

これだけのお金があれば、バッカスのおでん屋で豪遊できる。

俺も魔都に行き来することが多くなって、あっちの価格相場がわかってきたんだ。

「この価格の八割が、世界樹の葉の仕入れ費として上乗せされているわ……!」

「すげえ」

「農場で世界樹を育てて、その葉っぱを収穫できたら青汁の価格を半額以下にできるのよー! ねー、いいでしょ旦那様! 世界樹を生やして旦那様! より多く人々に青汁をお届けするために! 世界の健康のために!」

プラティが謎の使命感に目覚めてしまっていた。

彼女の優しい気持ちに応えたいが、それ以前にいかんともしがたい問題がある。

「簡単に世界樹生やしてって言うけどさ……」

実際可能なんですかねそんなこと?

世界樹ってアレでしょう? 滅茶苦茶貴重なんでしょう?

基本的に世界に二つとない系のカテゴリに入っているものとイメージしている。

「そんな気軽にすね毛かなんかみたいに生えてくるものなの世界樹って?」

「大丈夫! できるわよ旦那様なら!」

妻からの信頼感が途轍もない。

「今まで旦那様は、不可能と思われていたことをいくつも成し遂げてきたわ! だから大丈夫! 今回もきっとできるわよ!」

プラティはそう言うけど、可能にしようと思って挑んだ不可能って実は今まで一個もないんだよな。

気づいたら不可能が可能になってたというか。

だから最初から欲目をもって当たると却って失敗しそうで怖い。

しかし、期待の眼差しで見つめてくるプラティを無碍にもできず……。

「わかった、やってみよう」

「わーい!」

……結局、根負けしてしまった。

* * *

しかしまあ、世界樹を芽吹かせ、育て、葉っぱを収穫できるぐらいにまで成長させると、これもまた一種の農作業と言える。

料理の新作とかはよく作っていたが、純粋な農作業で新たな試みは久々なので腕が鳴るものよ。

「では、どうやって世界樹を栽培しようか?」

そもそも世界樹を芽吹かせ育てるんだったら、何よりまず世界樹の元になる何かがいるだろう。

世界樹の種とか、苗木とか。

そんな物あればの話だけど。あるとしてそんなのどこから貰って来ればいいんだ?

「旦那様の力があるじゃない。あれでバーッと生やせないの?」

プラティがあっけらかんと言う。

彼女が期待しているのはアレだろう。俺の手に宿る『至高の担い手』という能力のことだろう。

神様からの贈り物であるこの能力は、触れた者の潜在能力を百パーセント以上引き出すこと。

そのデタラメすぎる効果で剣を握れば剣聖になり、包丁鍋など調理器具を握れば料理鉄人となれる。

それだけに留まらず、土に触れたら土壌のポテンシャルを最大以上にし、蒔いてもいない種を芽吹かせて、農作物を栽培することも可能だった。

俺が異世界で農場生活を続けられているのもすべて、この能力のおかげだと言っていい。

プラティもその力をアテにしていて、『至高の担い手』でゼロから世界樹を芽吹かせようと狙っているのだろう。

他にいい手も思い浮かばないので試しにやってみた。

しかし無理だった。

いつもだったら地面に触ったら感じ取れる、土に命の宿った手ごたえが感じられない。

いくら土壌のポテンシャルを最大以上引き出す『至高の担い手』でも、世界樹を芽吹かせるだけのポテンシャルまで届かなかったか……!?

「さすがに世界樹は、他の農作物とは比べ物にならないな……!」

「じゃあ別の方法を考えないといけないってわけね?」

さすがプラティ。

一度ぐらい思い通りにいかなかったぐらいじゃビクともせず、すぐさま次に手段を講じる。

俺も何やら考えてみるか。

しかし完全なゼロから世界樹を栽培するのはさすがに無理であろう。それはもう認めなければ。

せめて何か少しでもとっかかりがあればなあ。

それを元に世界樹を芽吹かせて、育成し……、そう上手くはいかないか。

「とっかかりになりそうなものはあるわ」

とプラティ。

「世界樹の葉よ!」

そうか、既に彼女の手元には、遠く世界のどこかにあるオリジナル世界樹からもぎ取ってきた葉っぱがある。

青汁の原料にするためにパンデモニウム商会を通じて買い取ったものだ。

「この世界樹の葉を元にして培養し、いずれは世界樹本体を……、って無理だよ」

さすがに無理だよ。

種とか、幹とか、せめて小枝ぐらいなら別の樹木に接ぎ木して育成……とかも期待できるけど。

さすがに葉っぱは、人間で例えれば髪の毛みたいなもので、伸びたらあとは散るだけのもの。

「葉っぱから培養なんて到底無理だろう?」

「どうかしら? 旦那様は覚えてない、ゾス・サイラを?」

「んー?」

ゾス・サイラといえば六魔女の一人で、とりわけ凶悪な魔法薬使いだ。

専攻はホムンクルスの製作で、自然の理から離れた人工生命体を魔法薬で作り出す。

さすがにあんな濃いキャラを忘れるわけがないが、何故このタイミングで彼女の名を?

「アタシも共同研究で、彼女の技を多少は盗むことができたのよね。いつも旦那様に頼ってばかりも悪いから、今回はアタシの手で行けるところまで行ってみることにしたわ」

「というと?」

「ゾス・サイラの研究を応用して、世界樹の葉を素体にして世界樹の遺伝子を抽出することに成功したわ! これを元に、ホムンクルス世界樹を作製するのよ!」

「ホムンクルス世界樹!?」

また倫理的に問題ありそうなワードを!?

大丈夫なのそれ!? 禁忌に触れてない!?

「ずっと前にホムンクルス馬を生み出したこともあるし今さらでしょう? 問題は、抽出した世界樹の遺伝子を何とかけ合わせるかね。さすがに遺伝子だけじゃ大きく育ちようがないし、宿主というべき合成相手が必要だわ」

ということで俺たちの次の行動は、その合成相手とやらを見つけ出すことだった。

掛け合わせるんならやっぱり木がいいということで、ダンジョン果樹園に入って相性のいい木を探す。

樹霊たちの協力でスムーズに選別が行われ、もっとも世界樹に合成させやすい樹木が決定した。

それは桜の木だった。