作品タイトル不明
471 学生たちの葛藤
引き続きワルキナだ。
悩みが解消されないまま、日々が過ぎゆく。
今日は実戦訓練を目的とした課外授業だった。
ヴィール様の山ダンジョンに入り、実際にモンスターと戦って狩る。
「無論モンスターとは真剣勝負だ。模擬戦などにはなりようがない。皆、気を引き締めるように」
「「「「「はいッ!!」」」」」
引率はオークのオークラさんだ。
「危険だと察したらすぐ逃げるように。そうした判断力を磨くのも今日の訓練の意義だ。ただ大声で助けを呼ぶのはやめときなさい。仲間じゃなくモンスターを引き寄せる可能性もあるからな」
テキパキと注意事項を伝えてくれる。
しかし、こんな風にダンジョンに入るのも初めてのことではなく、ぶっちゃけよくあることだ。
農場にとっては、お肉や素材補給を兼ねたことなので頻度も高く、オレたちにとっては慣れてしまったものになっている。
「今日は二人一組の構成になってもらおう。肉がたくさん欲しいから効率重視だ」
ほらこういうことだよ。
課外授業と銘打った、学生を使っての肉補給だよ!
「特注ターゲットはスクエアボアで、いつも通り一番多く狩ってきた者に敢闘賞を与える。それでも大事なのは無事に過ごすこと。安全第一でな」
「「「「「はいッ!」」」」」
そういうわけで山ダンジョンへ入るオレたち。
しかし二人一組という縛りが厄介だな。
彼氏持ち彼女持ちだと当然カップルで組もうとする。
「リテセウス! 私と一緒に組もうではないか!」
「う、うんいいよエリンギアさん……!?」
あんな風に。
いつも二人組じゃなくて三人パーティ、四人パーティの場合もあるが、今日二人なのはマジで効率重視なんだろう。
構成素が少ない分チーム数自体は増えて、その分広がれる。
獲物の遭遇率も上がるってわけだ。
「ラーティル一緒に行こうぜ」
「あ、うん……!」
オレはラーティルと組むことにした。
この状況に男同士チームになるってことは、どっちも彼女いないってことだ!
「ワルキナは変わってるよな。モテるのに彼女作らないなんて……」
「お、オレはそういうのはいいんだよー!?」
「人間国に恋人がいるからってマジ?」
「ち! ちげーよ! お嬢様はそういうんじゃねーよ!」
そういうのに関わらず、今日はラーティルと組みたかった。
先日の言葉がどうも気にかかったからだ。
二人、山ダンジョンの中をしずしず進んでいく。
もうとっくに人員は散って、周囲にオレたち以外の人の気配はなかった。
「……あのさ、種族間の差なんてあまり気にしない方がいいぞ?」
昨夜のうちに色々考えておいた励ましの言葉を並べる。
「人族の生体マナが、他より保有量多いって言っても知ってる? 他種族を十として、人族は平均して十五~七ぐらいのもんだって。所詮その程度の差なんだよ」
レタスレート姫はさすが王族というべきか二、三百の保有マナ量らしいけど。
リテセウスは千とか二千。
先生のようなノーライフキングは、自己のマナだけでなく周囲の自然マナを吸収して使うから無限なんだそうな。
「その程度の差ならさ、お前らの得意な魔法で充分挽回できるって、今はその方法が見つかってないだけで……!」
「よしてくれ!」
鋭い声で遮られた。
「励ましてくれてるのはわかるが、却って惨めな気分になっちまう。オレのことは放っておいてくれ……!」
「えっと……ッ!?」
ラーティルがここまで思い詰めていたとは。
「わかってるんだ、魔族がどうこうじゃなくて才能がないのはオレ自身なんだ。オレはここにいるには才能が足りなすぎるんだ。戻ったら元の場所に戻してもらうよう頼んでみる」
「いや待って!?」
何とかして思い留まらせようとするも、邪魔が入った。
気づけば、折り重なる木々の細い隙間から、こっちを窺う赤い眼光があった。
「クソこんな時に……!?」
モンスターだ。
元来、モンスターと戦う実地訓練で山ダンジョンに入ったオレたち。
獲物を前にしてスルーはできない。
「話はあとだ、アイツを倒すぞ」
「合点だ」
オレもラーティルも各々の武器をかまえる。
オレが愛用しているのは肉厚の手斧。
皆からは『カッコ悪い』と言われるが、刃が厚く頑強で、多少の毛皮や甲殻でもまとめて裂く威力を持っている。
刃渡りが短い分取り扱いも簡単だし、ダンジョンに持ち込むには相当具合のいい武器だぜ!
対してラーティルが持っているのは、剣だった。
魔王軍の正式支給品とはいうが、どうにも細身で頼りない。
「おッ、スクエアボアじゃねーか。特注ターゲットだぜツイてるな!」
「肉が美味いから消費が激しいんだ」
木陰から姿を現す、角付きのイノシシ。
口元から生える二本の牙、頭部から生える二本の角。その先端を結んで四角形になることからスクエアボアと名付けられたらしい。
そのスクエアボアを狩って皆から褒められるとしますか。
「行くぜ!」
「あッ、おい……!?」
相方の制止も振り切り、オレから先に仕掛ける。
生体マナでしっかり筋力強化してあるので瞬発力、跳躍力も上がっている。
周囲にたくさんの木が生い茂っていることから、その幹を蹴って右へ左に飛び交い、あっという間に獲物の背後へ。
見たか、ゴブ吉さんの超高速移動の見様見真似だぜ。
当然、本家本元に比べたら死にかけのミミズみたいな速さだが、それでもモンスター相手なら上手くかく乱できるぜ!
野生動物の反応速度も越えて、その眉間に斧を振り下ろした。
文句のつけようがない致命傷で、狂猛なイノシシは足から力を失い、ガクリとその場に崩れ落ちた。
絶えた?
絶えたか……!
仕留めたあとには獣の健やかなる冥福を祈る。亡骸を貰い、血肉とし生活に役立てるためのルールであるという聖者様の教え。
「よし、じゃあ早速血抜きしようぜー。臭味が残ったら全然美味くないからなー」
「お、おう……!?」
ラーティルがキョドッていた。
……いかん、一人で全部片づけてしまった。
アイツに自信回復させるためにも少しは花を持たせるべきだったか。
「あの……、ごめんな?」
「いいよ気を使わなくて……」
ラーティルが気を落とした様子もないのは、元々気を落としていたからだ。
既に最底辺にまで落ちてしまったらそれより下がりようがない。
「身体強化ができるようになってから動きが全然変わったな。まるでゴブ吉さんみたいだった」
「いやいやいやいや!?」
「それくらいできるようにならないと農場にいる意味はないんだろうな……」
益々ラーティルが気落ちしてしまった!?
二番底あるんかい!?
もうどう励ましていいかわからなくてオロオロしていると。
「……おッ? またスクエアボアがいるぞ?」
「また!?」
連続で出るな少しは落ち着かせろ!
こっちは友の気遣いでそれどころじゃないっていうのに!
「ええい、こうなったらまた速やかに瞬殺してやる!」
あッ、でもそうなったらまたラーティルが気落ちすることに!?
一体どうしたらいいんだのジレンマに悩まされつつ、問題の獲物に向かうと。そんな悩みは些末なことだとすぐにわかった。
目の前のモンスターはたしかにスクエアボアだった。
さっきのように、ほぼ危ないことなく狩れるだろう。
単体だったらな。
今目の前にいるスクエアボア『たち』は……。
どう少なく見積もっても二十頭はいた。
「団体さんで来たぁーッ!?」
こんな群れというべき規模で、こっちは二人。
なんかヤバくね?