軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

463 魔王、肥える

魔王さんが遊びに来られた。

アロワナさんや俺自身の結婚式に参列されてちょくちょく会ってる感じはするが、こうしてただ俺と会って茶飲み話をするだけに訪問されるというのは随分久しぶりな気もする。

そのせいだろうか?

久々に差し向かいとなった魔王さんだが……。

「か、変わりましたね?」

「そうか」

魔王さんは言葉少なに答えるだけだった。

今はテーブルを挟んで、のんびりと茶をすする俺たちだが……。

どうも謎の緊張感に包まれていた。

どう言えばいい?

もっと踏み込まないとダメか?

「なんというか、貫禄がついたというか……?」

「そう見えるなら嬉しい限りだ。我は国家の主として、誰より貫録を備えねばならん」

そういうことじゃなく!

ああもう、もっと直接的に言わないとダメか!?

いやしかし問題の性質はデリケート。

下手にハッキリ言ってしまって空気をぶち壊しては……!

取り返しのつかないことになるやも……!

「そう思い悩まずともよい」

「えッ?」

「ハッキリ言ってくれてかまわんということだ。この我が、この魔王ゼダンが……」

ぽっちゃりデブになってしまったことに。

「いやー、太りましたねえ魔王さん」

「本当に直で言ってくるとはな……!」

魔王さんといえば、それこそ魔族の長。

種族を取り仕切り、国を治める立場ということで、その偉大さは無限大だ。

ゆえにこそ外見も威厳の塊であって、初めて会ったときは見上げるほどの身長に逞しい筋肉。

間近に立たれると壁が迫ってくるようで、威圧感たっぷり。

対して今は……。

「……見る影もない」

「ハッキリ言っていいといった傍から本当にハッキリ言ってくる……!?」

体全体が丸みを帯びている。

顔の輪郭もそうだし、指や腕も太い。

元々が筋肉隆々だったから、その上に贅肉を盛ればさらなる大男の出来上がりであった。

威圧感はあるものの、その質は迫ってくる壁というよりは、迫ってくる肉壁だった。

暑苦しそう。

「……太ってしまった」

「はい」

本当によく肥えられまして。

しかし俺、こんなになるまで魔王さんの状態をよく気付けずにいたな。

ついこないだの俺の結婚式でもお会いしたはずなのに。

こんな肥満体一朝一夕で出来上がるはずがないだろう!?

いやしかし、あの時は他に本題があったしな。

そっちに意識が行ってて魔王さんの変調を見落としていたというか。

……見まいとしていた?

「人族との戦争が終わり、世も平和となった。我もかつては戦事に追われていたが、敵もいない今は内政に注力し、書類仕事がもっぱらになった」

それで体を動かす機会が少なくなったと?

「マメに時間を見つけては稽古していたつもりだったのだがな。思った以上に運動量が減っていたらしい。気づけばこのザマだ」

「魔王さんのお仕事の大変さは察して余りありますからねえ」

なんせ王様だから。

魔国の運営のすべてがこの人の判断にかかっている。

ストレスで過食することもあろう。

その結果が、このザマなんだけども。

「……あと、まあな、我も妻に二人も恵まれ、子どもまでできると毎日帰宅するのが楽しみでな。家族全員でテーブルを囲むとついつい食が進み、酒も過ごしてしまう……!」

「幸せ太り……!?」

「我としてはそれでも別にいいかと思っていたんだ。年を取れば恰幅よくなるのは自然の流れ。若い頃は精悍でも中年に差し掛かって一気に太ましくなった知り合いが何人もいるしな!」

デブの言い訳定例句!?

「だからこのままでもかまわんかと思っていたのだ、しかし先日ついに『痩せろ』と言われてな」

「誰から?」

「ベルフェガミリアから……!」

あの魔軍司令の人。

なんの思惑があって主君にそんな直言を?

「ヤツは言うのだ『魔王様、最近ブクブクと肥え太られましたね』と」

「直球!?」

しかも手加減なしの剛速球!?

なんだ魔王様に対して、その口の利き方は!?

「さらにこうも言われた。『平和が訪れたとはいえ魔国は尚武の国。常に圧倒的な武力で外敵を脅し、引け腰にすることで平和を維持する』」

ああ、はい……!

「『その魔国の長たる魔王様がブクブク肥満し、武とは程遠い様相になってしまえば国は侮られ、引いては戦禍の元となりましょう。何より見苦しいからさっさと痩せろ』と……!」

「全力でぶん殴りに来ているではないですか!?」

凄いな魔軍司令。魔王にそこまで遠慮なしにものが言えるとは。

不敬罪ってないの魔国!?

「それで我も認めないわけにはいかなくなった……! そう我は見ようとしていなかったのだ! みずからの贅肉から! 腹に溜まった柔らかい肉から! 人族を下し地上の覇者となった魔族。その責任をまっとうするためにも我は今なお最強の魔族であらねばならない!」

悲憤慷慨する魔王さん。

肥満のせいか、それだけで体温が上がって額に汗を浮かべている。

「というわけで聖者殿! 我が痩せるのに協力してくれまいか!?」

「俺ですか?」

「難しいことは言わん! 場所を提供してくれるそれだけでもいいのだ! この魔王が痩せんと腹肉揺らして走り回る見苦しい姿、民には見せられんのでな!」

たしかに農場なら魔族たちの目は届かんでしょうが……。

でも留学中の魔族生徒とかはいますよ? 彼ら未来の幹部候補だからとりわけ見られたらヤバいんでは?

「減量のため公務も少しの間離れられるようにしてきた。数日、こちらに泊まり込んでみっちり鍛え直すつもりだ。場所を貸してはもらえぬだろうか!?」

「いやあの……!?」

たった数日で肥えた体を元の筋肉質に戻せるとでも?

そう思っているのなら魔王さんの認識は甘いと言わざるを得ない。

既にアナタの腹回りに付いている脂肪は数ヶ月、下手すりゃ数年かけて培ってきたものでしょう。

それをたった数日で落としきろうなどと計算が合わない。

体重は、増やしたのと同じ分だけの時間をかけねば減らせないのだ。

魔王さんのダイエット計画。

大きな不安を覚える……!?

* * *

しかし魔王さんの頼みとあれば断る理由もない。

とりあえず農場の一角にある平地を提供してみた。

ウチには手つかずの更地たくさんあるからね。

「よし! では久々に体を動かすとするか!」

魔王さん、腹肉を揺らしつつ言うのだった。

「ところで、どんな運動をなさるつもりなんです?」

試みに聞いてみた。

なんだか心配で目を離せない。

「うむ、久々に乗馬をしたくてな!」

「乗馬?」

「心配無用、騎馬も一緒に連れてきてある! ブラックフレイム号、こちらへ!」

魔王さんの呼びかけに応じて、真っ黒な毛並みの巨馬が近づいてくる。

「政務続きでお前にまたがることも久しくなかったからな。今日は共に風となって千里を駆けようぞ!」

いや待って魔王さん。

乗馬って、馬が走るんですよね?

その馬に乗ってるだけでダイエット効果あるんですか?

きっと専門家に言わせりゃ色々あるのかもしれないが、やっぱり不安だ。

「では共に行こうぞ愛馬よ! よいしょ! ……よいしょっとぉッ!」

太い体は取り回しがきついらしく、二回目の挑戦でやっとまたがることに成功。

このまま人馬一体として颯爽駆けだすのかと思いきや……。

「うおおおッ!?」

馬、すぐさま棹立ちになって魔王さんを背から落とす。

「な、なんだどうしたのだブラックフレイム号!? 何故我を振り落とす!?」

困惑する魔王さんに対し、お馬さんは冷たい目で見降ろすのみ。

その瞳が……。

『お前重いんだよ。乗っけてられるか』

と物語っていた。

『お前痩せるまで乗せないからな。次までにその見苦しい体絞っとけよ』

と言わんばかりに駆け去って、単独で遠駆けに行ってしまった。

やはり不安的中した気がした。