軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

458 虎の群れに交じって

この私、領主ダルキッシュは、自分が猫程度のものであると充分に自覚している。

猫程度の才覚の持ち主ということだ。

そんな私が、虎の群れに交じったらどうなるであろう?

それを実感するのが、この日だった。

* * *

聖者様の結婚式当日。

精一杯に着飾って私と妻ヴァーリーナは会場へとやってきた。

そして思い知った。

想像する限り最大の準備をしてきたが、それすら全然足りなかったということに。

「おお久しいな! 人間国領主のダルキッシュであろう!」

タイミング的には、まだ本格的に開会していない出席者歓談の段階。

そこで私に話しかけてきたのが……。

……魔王だった。

魔王……様が、私の名前を覚えている!?

「ご無沙汰いたしております! まさか私ごときを覚えていただけているとは!?」

「当然であろう、あのオークボ城のある領の主だろう。我もあの城には幾度となくしてやられているのでな。次こそは最終関門まで残ってみせる!」

……。

これ、ネガティブな意味合いで記憶してるわけじゃないよね?

人間国が魔族に占領されてからもう、けっこうな時が経った。

魔族の長である魔王様が、人王に代わる我が主であることは充分わかっているんだが。

何故その君主が気さくに接してくる!?

答えはわかりきっていた。この場所が特殊だからだ!

「貴公も結婚式に招待されたのだな。まあわかりきったことだがな。貴公と聖者殿は仲よしであるから」

「そう見えましたでしょうか!?」

周囲からそんな風に見えていたとなれば、喜ぶべきか怖がるべきか!?

やはり聖者様は恐ろしい。

結婚式に出席して、最初に歓談する相手が地上の覇者、魔王様だなんて!

弱小領主の私などが間違っても直に喋っていい相手ではないのだが!?

それができちゃうのは、ここが聖者様のお膝元だから!

そう思考を巡らせても最終的に『聖者様恐ろしい!』という結論にしか至らない!

「おお、そうだ。せっかくなので紹介しておこう」

「え? どなたでしょう?」

「このたび正式に人魚王に即位されたアロワナ殿だ」

ふぇえええーーーーーッ!?

地上の覇者の次は、大海の王者が来た!?

「アロワナ殿アロワナ殿、ちょっとこっちに来てくだされ!」

「なんですかな魔王殿?」

呼んだ!? 来た!?

この魔王様にも劣らぬ威厳と鷹揚さを兼ね備えた青年が、新たに即位した人魚王!?

「紹介しよう、人魚王アロワナ殿だ。アロワナ殿、こちらは人間国の領主ダルキッシュだ。かのオークボ城を有する領のな」

「おお! そういえば顔に見覚えがありますぞ! 一緒に全関門突破の表彰台に上がったな!」

え?

ということは今年の風雲オークボ城参加者ですか?

ヤバいこっちは全然覚えてない。

今年はけっこうたくさん制覇者が出たからいちいち全部の顔なんか覚えてられないというのに。

この方は覚えていたというの!?

なんという視野の広さに記憶力!?

「ダルキッシュ殿は、領主として誠実に自領を治め、その仕事は適切で滞りがない。実に見事な為政者だ」

そしてなんか魔王様が私を評価しだした!?

「オークボ城のために現地へお邪魔して、私もそう感じました。考えてみればここにいる三人、魔族に人魚族に人族、世界の主立つ三種族が揃ったことになりますな」

「たしかに、では我で三種族和合の誓いなど立ててみますか!?」

やめて!!

アナタたちのような大物と私ごときを同列に扱わないで、誓いの重さで潰れてしまう!

助けて妻! と思ってヴァーリーナを探したが、生憎彼女も各国の王妃たちに挟まれて苦笑するので精一杯だった。

何ここ本当にレベルが高い。

* * *

聖者様の農場は本当にすごい。

初っ端の魔王&人魚王のダブルパンチでもう撃沈しそうであったが、他にも出席者が物凄いのだ。

まずシルバーウルフが来ていた。

人間国が誇るS級冒険者の一人。オークボ城でも見かけたが、こんな有名人が出入りするなんて、やっぱり聖者様は凄い!?

他にもドラゴンやノーライフキングとか、『凄い』の水準が次元違いの存在までいるし。

……あとレタスレート様もいた。

かつての人間国の王女レタスレート。

前の反乱騒動でお見かけしたのは幻影じゃなかったのかあ……!

さらにバッカス教団の教主バッカス。

え? あっちにいるのはドワーフの王様?

最初からわかっていたことだが。

自分が場違いなところに来てしまったのが身に染みて実感される。

「もう帰りたい……!!」

極めつけはあれだ。

地の主神と海の主神の一騎打ちデスマッチだ。

どっちが聖者様の婚姻の誓いを受け取るかで神々が争うなんて。

しかしそれに際して主神二神に説教する聖者様も凄い。

神に説教できる者がいるっていう事実自体が凄い。

そんなことができるのは聖者様を置いて他に誰もいないだろう。

と思ったら、さらに例外が現れた。

グラウグリンツドラゴンのアレキサンダーが、聖者様にバトンタッチして主神たちへの説教を引き継いだ。

「……あなた方は神として恥ずかしくないのか?」

聖者様の結婚式が本格的に始まってからも、ちょっと離れたところで座らされる神々。

それを押さえつける超竜アレキサンダー。

最強のドラゴンであるという伝説は伝え聞いているが、この目で直に見ることになろうとは。

主神を見ただけで我が眼球が『もう無理!』って悲鳴を上げてるのに!

「アナタ方は世界の主として、支配者として、誰より一層威厳を持たなくてはならぬ存在であろう? それなのに目先の欲に囚われなんと見苦しい。聖者からの供え物が欲しかったか? そのために争うなど限度を超えておるわ」

『だって……!』

『やめろポセイドス! 口答えすんな! 余ら二神まとめてボコボコにされるぞ!!』

主神たちと最強竜の力関係そんななの!?

やだもう怖い! そんな最強竜が何食わぬ顔で結婚式に参列している事実自体も怖い!

やっぱり来るんじゃなかった!

ここはごく一般の小領主には場違いすぎた!!

「あ、ダルキッシュさんお久しぶりです」

「ふぎゃああああああッ!?」

ビックリした!?

気がつけば背後に聖者様!?

私が衝撃に翻弄されている間に式終わってた!? そしてつつがなく饗宴に移行している!?

式中ボケっとしてたなんて、またしても私は大変な失態を!

「いや仕方ないですよ。やっぱりいきなりだと衝撃受けますもんね。俺だってこんな凄い人たちに囲まれたら緊張で思考も止まりますよ」

アナタだって充分に凄い人でしょう!?

何これ聖者様の一流ジョークか!?

「あああああ! あの聖者様! 本日はお日柄もよくりりゃれ……!」

「落ち着いてください。今日はダルキッシュさんが夫婦でいらしてくれて本当に嬉しいです。お二人はオレの大切な友達ですからね」

そんなもったいないお言葉を!?

それより私たちの結婚式に招待できなかったお詫びと事情説明を……。

「ダルキッシュさんたちの結婚式については気に病まないでください。領主さんだから細かいしがらみもあるでしょうし、仕方ないことはわかっています。むしろダルキッシュさんが気に病む方が俺は辛いです」

先回りでフォローされた!?

なんだこの気配り感。

「あっ、あとお土産もありがとうございました。やっぱり同じ年ごろの子どもを持ってると考えてることが似通りますよねー。本当に助かりました」

そして私たちが贈った、きっと貧相な結婚祝いのお礼までー!

「さて、ちょっと失礼。……アレキサンダーさん、お説教そのくらいでいいですよ。神々も反省したことでしょうし」

「うむ、聖者がそう言うのであれば」

「アレキサンダーさんも折角ご参列してくれたのに説教役をさせてしまってすみません。これから披露宴になりますんで、アレキサンダーさんも飲んで食って楽しんでくださいね」

さらに聖者様は、神々にも優しい言葉を掛ける。

「ハデス神もポセイドス神も、披露宴のご馳走食べていってください。たくさん用意しましたから」

『ええー、本当!?』『嬉しい!』

やらかした神にまで寛大な!

聖者様こそ、究極神にあらせられるのか!?