軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

450 ドワーフへ発注

ドワーフとの付き合いもけっこう長くなる。

最初は何だったかな?

そうそう俺の作った魔法蒸気船作りを手伝ってもらったんだ。

それからことあるごとに、金属で細かい仕組みが必要なものを作る際、彼らの腕を借りている。

元々は魔族を源流として、そこから枝分かれした亜種族であるらしいドワーフ。

しかし、その身体的特徴は魔族と似ても似つかず、肌の色は白いし、身長も平均的に低く、また体つきも全体的に太い。

ずんぐりむっくりしていた。

すべては彼らが定めた地下暮らしの影響らしく、地底に広がるドワーフ帝国では、今なお鉱石採掘もかねて四方八方に穴が掘られ、地下空間は拡充している。

そんなドワーフ地下帝国に、お邪魔する俺であった。

* * *

「ようこそようこそ聖者様! よくぞお越しいただいた!!」

手放しで俺を出迎えるのは、ドワーフ族の代表で、ここドワーフ地下帝国の王でもあるらしいエドワード親方。

つまり長みずからの歓迎に、俺は内心ビビる。

「あの……、ここまで全力で歓迎の意を示さなくても……!?」

「何をおっしゃる!? 今や聖者様は我が地下帝国最高の上客! 最大限おもてなししますぞおおおおおッ!!」

そこまでVIP扱い?

何故だろう、そんな大口注文をいくつもした覚えはないんだが……!?

「それで聖者様? こたびはどのようなご注文を?」

ドワーフ族の王が、何やら媚びた表情で伺ってくる。

いや、エドワードさんは役柄的にドワーフの王と言っていい立場なんだが、王とは呼ばずに親方と呼ばせている。

職人的な拘りなのかなあ?

「……ええ、実はドワーフさんに作ってほしいものがありまして」

「でしょうな! 我らドワーフに用事と言えばもの作り! エルフどもらの土こね回しとはわけが違いますからな!」

「…………」

相変わらずエルフへの対抗意識が凄まじい。

これは種族的な対立心からなのか? あるいは個人的な遺恨か?

「で、何を作りましょう!? 聖者様のことだ、きっと我々の想像も及ばない大スケールなものを構想しておることでしょうなあ!!」

「指輪を作ってほしいんです」

「え?」

用件を告げると、エドワードさんは目に見えてテンションがしおしお下がっていき……。

「指輪ですか、はあ……」

なんでそんな肩透かしを食らったような顔つきになる?

誕生日プレゼントが百科事典だった時の子どもか?

「ああ、いえ、いいんですよ。指輪でも。……はあ……、いやしかし指輪ですか? 聖者様にしては何とも普通な……?」

「客の前で少しは落胆を隠せよ」

どうやらエドワードさんは、今まで目にしたこともない突飛で奇抜なものの製作を、俺が注文するものと勘繰ったらしい。

そんな予想(期待?)に反して指輪の注文は、あまりにも普通だったようだ。

「……まあ、指輪はドワーフ族が受ける仕事の中でもっとも有り触れていますからな」

「そうなんですか?」

「ものが小さいだけに単価も安いですし、魔族から毎日のように注文が来ますな。半人前に場数を踏ませるためにもちょうどいい仕事です」

そんな有り触れた、心躍るもの何もない注文を俺からいただいたことで肩透かし感が果てしないようだ。

「いやいや! それでも上客からの注文です! どんなにしょぼかろうと誠心誠意真心こめて仕上げさせていただきますぞ!」

『しょぼい』と言ってる時点で真心こもってないんだが。

『別のところに頼もうかな?』とも思ったが、とりあえず相談だけはしてみることにしよう。

「妻に贈る指輪が欲しいんだ。ついでに俺自身が着けるものと二つワンセットで欲しい」

「奥様に贈り物? 指輪を?」

何か?

「いや、珍しい使い方をするものだなと思いましてな」

えッ? 珍しいの!?

こっちの世界では?

結婚指輪の風趣がないとしても、男性が女性にプレゼントすることぐらいは普通では!?

そして指輪は一番マストなプレゼントでは!?

「大抵は自分用ですな。戦いに勝つため、極限のチューンナップを客からは求められますよ」

この世界こそ指輪に何を求めているの!?

段々カルチャーギャップが明確になってきましたぞよ!?

「まあいいや、材料は持ち込みしてきたんで、これでよろしく」

「ひいッ!? マナメタル!?」

机の上に置いたマナメタルのインゴットを目の当たりにし、エドワードさんは一瞬呼吸を止めた。

「……大丈夫ですよね?」

「だッ! 大丈夫だとも! このドワーフ地下帝国の親方エドワード、早々何度も心肺停止しておられんわい!!」

普通なら一回でも心臓止めたらアウトなんですがね。

さすがに今回、遠く離れたドワーフの国まで先生にお越しいただくわけにはいきませんので、くれぐれも心肺停止しないようにお願いします!

「ま、指輪を作る程度の少量のマナメタルじゃ今さらびくともしませんわ。ドワーフの親方を舐めるなよ!」

金属の塊を見ただけで死ぬのも異常なんですが。

銀の弾丸で狼男を殺せるように、マナメタルにもドワーフに対する特効作用でもあるんですかね?

「では早速本題に入ろうじゃないですかい。指輪作りに入る前に、まず聖者様から詳しい注文を伺いますぜ」

おう。

どんな指輪を作りますかというヒアリングだな。

その受け答えをもとに顧客が満足する品物を作り上げようという、職人として当然至極な工程だな。

「素材はマナメタルで決めるとして……。次に身に着ける方の指のサイズを測らねえと……」

「大丈夫、それならもう完了している」

俺はあらかじめ測っておいたプラティの薬指のサイズを伝えた。

ついでに俺自身のも。

「了解でさ。じゃあ次に指輪のデザインを決めるとしやすかね」

「おうおう!」

そうだよそれを待っていたんだよ!

俺自身ではどうにもならない芸術的なデザインを、ドワーフ族は代替わりしながら何百年と研究してきたんだろう!?

その叡智を是非俺に分けてくれ!

「見本をお見せいたしやしょう」

「おおーッ!!」

エドワード親方、部下か弟子みたいな若者に命じて、何やら薄くて平べったい木箱を持ってこさせる。

その蓋を開けると、中にはたくさんの指輪が並んでいた。

「何これ凄い!?」

数々の指輪は、それぞれが千差万別に個性的な形をしている。

「ドワーフ地下帝国自慢の、指輪見本箱でさ。これまでドワーフ指輪職人が作り上げてきた指輪の傑作デザインを、サンプルとしてこの箱の中に収めてあります。注文いただくお客様には、この中から好きなデザインを選んでもらうというシステムでさ」

なるほど。

箱の中の指輪はサンプルだけあって素材は真鍮製。決してお高いものだとは言えないが、デザインはどれも例外なく一級品だということがわかる。

微細な彫刻、さらに指輪の形自体も独創的で……。

っていうか……。

……俺は気づいた。

この無数にあるサンプル指輪を一通り見て……。

「派手すぎない?」

「ええー?」

そう、思った。

どれもこれもデザインが凝りすぎてというか、その分大きくゴテゴテになってしまっている。

なんかどこぞの女王様なんかがはめてそうな指輪だった。

エリザベートとか、エカテリーナとか、エリーチカとか、そういう名前の女王女帝たちをゴテゴテ飾ってそう。

この指輪なんか、人差し指、中指、薬指、小指に全部はめ込んだらメリケンサックとして機能しそうじゃないか。

「結婚指輪は、日常使いするものだからなあ。普段諸々の作業の邪魔にならないようにもっとシンプルな方がいいというか……」

「指輪をシンプルなデザインにしてどうしようというんだ!?」

そんな『思ってもみないことを言われた』みたいに言われても。

ほら、これみたいに指の第一関節まで覆っちゃうような指輪はめて、どうやって日常仕事をしろと?

「フッ、またしても己が技術に驕ったな」

「その声は!?」

誰が言ってるのかと思って振り返ると、入り口に褐色耳長の絶世美女が立っていた。

その身体的特徴は間違いなくエルフ。

エルフのエルロンじゃないか!?

農場に残っているはずのキミが何故ここに!?

「聖者がドワーフのところへ行くと聞いたから、こんなことになるだろうと思って追ってきた! 案の定だったな!」

「うぐぅ!?」

エルロンから指さされて怯むエドワードさん。

コイツら二人とも相変わらずこんなだな。

「そもそも私に、自然の美を追求するきっかけを与えたのは聖者! その彼がお前たちドワーフのわざとらしい作為美に惑わされると思ったか!」

「で、ではそのせいで聖者様は我々の指輪を……!?」

「あらゆる無駄を削ぎとって最後に残る美しさ。それこそが自然の美! 多くのものをゴテゴテ追加するお前たちの作風からはもっとも遠い! そんなもので聖者を満足させることはできん!!」

いや、派手なものも好きだよ俺は。

隙あらばすぐ芸術論を戦わせようとする二人が揃い踏みして、話はますますややこしい方向へ進んでいきそうだった。