作品タイトル不明
446 ダンジョン屋台
冒険者のシャベだぜ。
誰か助けてくれ。
何日か前から攻略中のダンジョンの難易度が悪夢のように変わった。
通常フィールドにドラゴンがうろつくようになったのだ。
何それ!?
どういう状況!?
普通ドラゴンって言ったらダンジョン主として一番奥に鎮座ましましてるもんじゃないの!?
それがなんでその辺ほっつき歩いてるの!?
しかも一匹じゃない!
四匹いっぺんにだ!
この悪夢のような状況は、世界最高ダンジョン『聖なる白乙女の山』で巻き起こった。
間違いなく世界一の優良ダンジョンだったというのに、この限度を超えた難易度変更に皆が悲鳴。
誰も進入できない、一歩でも踏み込んだら最後、生きて出られない凶悪ダンジョンと化してしまった。
だってドラゴンだぜ!
まるで普通のモンスターとするみたいにドラゴンとエンカウントするダンジョンなんて、どう攻略すればいいんだよ!?
元々このダンジョンにはソンゴクフォンとかいう遭遇=リタイヤを意味する鬼畜天使までうろついているというのに。
同じような『歩くゲームオーバー』が増殖してアイツも少しは手を緩めるかな? と期待したがそんなこともなかった。
むしろ『商売敵っすか!? 負けないっすようぇーい!』と気合を入れる始末。
すべてのシワ寄せが俺たち冒険者へ向かう!
「大変だ! 大変だS級冒険者のシルバーウルフさんがドラゴンにやられた!」
なんだってー!
安否を気遣い駆けつけてみると、シルバーウルフの兄貴が担がれながら下山するところだった。
こんなに酷くやられてチクショウ!
「……不覚だったぜ。やっぱりドラゴンには敵わないな……!」
「兄貴しっかりしてください!」
クソッ! こうなればシルバーウルフ兄貴の仇は、このオレが討つ!
無理か!
「やられはしたが、あるドラゴンの弱点を発見した。ブラッディマリーとかいう全身真っ黒なドラゴンだ……!」
なんですって!?
やられたとしても、ただやられたわけではなく何かしらの成果をもぎ取ってくる。
これぞS級の凄さなのか。
「あのメスドラゴンに対して『アードヘッグさんとお似合いですね』とか『よッ、奥さん!』とか『旦那さんがアナタのこと好きだって言ってましたよ!』とか吹き込むと、ヤツは照れて視線を逸らす。その一瞬のスキをついて逃げろ。それであのドラゴンはかわせるはずだ!」
すげえ兄貴!
でも兄貴は攻略法を探り出すのと引き換えのように全身ズタボロになってリタイヤしちまった。
ドラゴンたちは手加減して命まではとらないようだが……、こんなのってねえよ!
S級冒険者ですらズタボロになる難易度なんてクリアできようがねえ!
一体どうすればいいんだ!?
* * *
で。
オレは今ダンジョンの片隅で死にかけております。
破れかぶれで突入したらすぐさまドラゴンの一匹に見つかり、追いかけまわされた挙句の崖から落ちて全身叩きつけられ大怪我ですよ。
痛みで身動き取れない。
ドラゴンからは逃げきれたようだが、これではどっちみち先へ進めそうにない。
というか生命の危機。
体が動かないほどの怪我だもの。ここにモンスターの一匹でも通りかかった時点でオレの人生終わる。
……アホな死に方かなー?
同業者の何人かが言ってたんだ。『ドラゴンが去るまで攻略を控えた方がいい』って。
ドラゴンなんてしょせん飽きっぽい生き物なんだから、少し辛抱してればどっか行っちまうって。
『ドラゴン強化月間』とも言ってたし。月間。
……でも違うんだな。
危険を避けて進もうなんて冒険者の生き方じゃねえだろ?
安全に生きたいなら役人にでもなればよかっただろ?
生き方として冒険者の道を選んだならあえて危険にチャレンジしないと、道を選んだ甲斐がない。
……だからって限度を超えた危険は願い下げだけどね!
嫌だー、こんなドラゴンに追い掛け回された末の遭難死なんてアホな死に方は嫌だー!
どうにかして生き残りたい! そして生きてダンジョン制覇したい! S級冒険者にもなりたい!
……それから、そうだ。オレは聖者の農場も見つけたいんだった。
やだよー、まだ生きてやりたいことが多すぎるよー。
誰か助けてよー、誰か……!
「煩いヤツなのだ」
「えッ!?」
気づけば倒れるオレの傍に誰かいた。
小さい女の子だ。
こんな超危険なダンジョン内に、少女!?
場違いすぎる!
「このおれに発見されるなんて運がいいヤツなのだ。まあ心の声が大きすぎてダンジョンの外からでも気づけたがな」
「えッ? あの……! いや戸惑ってる場合じゃない。お嬢ちゃんすまないが、助けを呼んできてくれないかな? お兄さん見ての通りけっこうなピンチで……!」
「煩い。お前が死のうが生きようが知ったこっちゃないのだ」
えええええええッ!?
なんだこの子ども!? 言動が酷薄すぎる!?
「お前がこれから考えるべきは、ラーメンを食うか食わないかだ」
「ラーメン!? 何それ!?」
「ここに座ればわかるのだー」
女の子は、オレの体をひょいと持ち上げた。
見た目に反した凄い腕力だ!?
持ち上げられ、視点が高くなったせいで気づいたが、すぐ傍に妙なものがあった。
小屋?
木造の小屋が……両側に車輪がついて動かせるようになっている。
「ここに座るのだ。ここが屋台の客の席だ!」
「客!? 『やたい』って何!?」
有無を言わさず座らされると目前にはテーブルがあって、しかもいい匂いが充満していた。
女の子はテーブルをはさんで向こう側に立ち、何やらごそごそし始めた。
……料理してる?
「ここのことをご主人様に話したらな、怒られたのだ。『クリアさせるつもりのない難易度なんかゲームが成立しないでしょッ!』ってな」
何のことかよくわからんが、そのご主人様とやらの主張は正しい気がする。
「そこで調整を入れることにしたのだ。シードゥルやマリー姉上に追い掛け回されても、このラーメンを食べて頑張るのだー」
と言って女の子がテーブルに置く鉢(?)の中には、オレが今まで見たこともない不思議な食べ物が入っていた。
「これがラーメン!?」
なんだこれは!? スープ料理!?
しかしスープの中に大量に入れられた細長いものはなんだ!?
何もわからな過ぎて迂闊に手出しできない……!?
「さあ喰らえ。お前に許された選択肢は、ここでラーメンを食うか、あるいは死ぬかだ」
「実質上の一択!?」
いや食うよ?
どっちにしろドラゴンに追い掛け回されて体力使い果たして腹が減って死にそうだったからな。
このラーメンとやらが毒入りだったとしても食うさ。
転落によって体中の痛みは消えないが、震える手でもって何とか鉢を持って、まずスープを飲む。
「……これは!?」
美味い。
超美味い!?
さらにスープの中に入っている細長いものも食ってみたがこれも美味い!
なんさこのぷりぷりした歯応えは!?
食べれば食べるほど力が湧いてくるようで、食うスピードもどんどん上がり、あっという間に完食してしまった。
「おかわり!」
「ウチは替え玉をやってるのだー。でもお前スープ飲み干してるじゃないかダメだなあ?」
ふぉおおおおおおおッッ!?
どういうことだ!?
ラーメンとやらを食しきった途端、体中から力が湧き起こる!?
崖から落ちて負った怪我もウソみたいに完治しているぜ、なんで!?
まさかこれがラーメンとやらの効力なのか!?
「シードゥルでとったスープも、五百倍まで薄めたら何とか人間でも受け止められるようになったな。それでも効き目は抜群なのだ。体内に入ればすべての負傷を癒し、身体能力を何倍にも引き上げるのだー」
たしかに!
体が軽い! 力が漲る!
今のオレはB級冒険者ぐらいの力はありそうだぜ!
「このおれヴィール様特製、農場系しょうゆゴン骨ラーメンなのだ! 『ドラゴン強化月間』中無料配布してやるぞ! これでパワーアップしてバランス調整なのだ!」
おおお! ありがとうお嬢ちゃん!
今のオレのパワーなら何とか竜から逃げつつ頂上を目指せそうだぜ!
やっぱりリスクの先には相応のリターンが隠れているもんなんだな!
徘徊ドラゴンたちという超級リスクに挑戦した者だけが、このラーメンを食べられる。
そしてパワーアップできる!
よくできた世の中だぜ!
危険を潜り抜けて成果を得る、これこそ冒険者の生き方だぜ!!