軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

422 糟糠の妻

人魚王妃のシーラさん。

現人魚王ナーガス陛下の奥さんであり、つまりアロワナ王子やプラティのお母さんでもある。

やんごとなき身分にありながら心身闊達で、英傑の気風を持つ。

上品でしとやかな物腰だが実力もあり、人類最強と目される一角。

そして現在問題となっているパッファの結婚について、一番の懸念となっているのも彼女だった。

古来より嫁姑問題は結婚に必ず関わってくる悩みどころでアロワナ王子&パッファのケースでも例外はなかった。

とにかくシーラ王妃が許可してくれないと結婚できない。

それ以外の障害は大抵除き切ったから、それが本当に最後の壁なのだ。

いわばラスボス・シーラ王妃。

このラスボスのお陰で結婚はもう一年近く延び延びになっている。

いい加減どげんかせんといかん。

ということで、周囲の俺たちも協力して動くことにした……。

* * *

「ママ! いらっしゃい!」

シーラ王妃とナーガス王様が、我が農場へ訪問された。

何気に初来訪だ。

お二人の雰囲気から考えてもっと早く来てくださってもよかった気がするんだが……。

「さすがに王と王妃ではね。立場があって軽々しく国を離れるわけにはいかないのよ。特に陸の上ともなればね」

「もっすもっす!」

お二人とも既に魔法薬を飲んで体を変化させ、下半身が魚のヒレから二本の足に変わっていた。

人魚たちが地上で活動するための処置で、プラティなどもこうして地上に適応している。

「アロワナちゃんが毎日のように通ってるから、どんな楽しいところだろうといつも思っていたのよ。想像通りの素敵なところね?」

シーラ王妃、見回しながら言う。

大地一面に広がる田園風景に感じ入ってくれたようだ。

自分が心血注いで作り上げてきた景色だけに、喜んでもらえて俺も嬉しい。

「もすすすすすすすすす!!」

ナーガス王も興奮気味だ。

「こんなにいい場所なら、もっと早くに呼んでほしかったわ。……まあ、婿殿が認められてからじゃないと立場上足を運びにくいのはわかっていたけれど……」

「反抗的なヤツらは皆牢に入れるか要職から追い出したもんね! もう誰も文句は言えないわよね!」

プラティが怖いことを言っている。

「それよりもママ! 今日は特別なお願いがあって来てもらったのよ!」

「あら何? プラティちゃんがおねだりなんて珍しいわね?」

なんか二人が母娘の会話をしている。

「そう、プラティちゃんって昔から一人で何でもできる子だったから、おねだりなんて滅多にしたことなかったのよ。手がかからないのはいいんだけれど、母親としてはどこか物寂しくてねえ……」

「あ、アタシのことはどうでもいいのよ! それよりも今日お願いしたいのは……!」

ででん。

『アロワナ王子とパッファの結婚を認めてほしい』。

「……ということなのよ!!」

「…………」

うわシーラ王妃の表情が一瞬のうちに変わった!?

朗らかなものから冷たい感じに。

例えるなら菩薩から阿修羅へ!?

「陸まで呼び出して一体何を言うかと思えば……」

「そろそろいいでしょう? あのアホ兄ヤンキー義姉の結婚は既に決定事項。あとはママさえ承諾すれば明日にでも挙式できるのよ。いい加減、結婚したくて身悶えるアイツらを見物するのも飽きてきたし、次のステップへ進ませてあげたら?」

「それはダメなのよ」

やっぱりと言うか、シーラ王妃は頑なだった。

「あの二人の結婚はね、市井の人々のとはわけが違うのよ。アロワナちゃんは未来の人魚王なの。将来ダーリンのあとを担って人魚国のすべてを背負わなければいけないのよ。そんな責任あるアロワナちゃんだからこそ、その奥さんにも相応の覚悟が求められるの。その覚悟が養われないうちに結婚を認めるわけにはいかないわ!」

「本音は?」

「可愛い息子を余所の女にとられたくない」

「やっぱりー」

結婚を止めている理由、思った以上に感情的だった。

皆既に想像ついてたけどね。

母親としての気持ちもわかるし、だからこそ皆これまで口出しせずにそっとしておいたんだが、いい加減解放してあげましょうよ。

「そんなママを素直にする秘策があるわ!」

「あらあらプラティちゃんたら、陸の上にまで呼び出してやっぱり何か企んでいたのね?」

やはり母親だけあってシーラさん、プラティの考えをお見通し。

そしてあえて乗ってきている?

「これを食べてほしいのよ! パッファ! カモン!」

「よろしくお願いします……!」

ここで問題の当事者であるパッファ登場。

なんか子犬のように震えている。

そんなパッファが差し出す、皿の上に並べられている食材は……。

「野菜?」

きゅうり、なす、だいこん、にんじんなどを小さく切り分けて、一口で食べられるようにしてあった。

「これを食べればわかるわ! パッファがどれだけ兄さんの妻にふさわしいか! いい奥さんになれるか!」

「たしかにお料理上手はよい妻の第一条件よねえ。何? これアナタが調理なさったの?」

「ぎょ、御意……!?」

パッファが怯みすぎて変なキャラになっていた。

以前、決闘でコテンパンにされた苦い記憶もあるし、パッファにとってもはや姑は天敵に近い位置づけなのだろう。

「まあ言いたいことはわかるけれど、だからこそいいの? お料理といってもこれ、単にお野菜を切り分けただけじゃない? これじゃあ料理のていもなしてないと……?」

「いいから食べてみて! それですべてがわかるから!!」

実娘の方に押し切られ、単なる野菜の刺身を口にする王妃様。

「もっすもっす!」

その間ナーガス王様は農場のオークゴブリンたちと相撲に興じて満喫しておられた。

「………………これはッ!?」

そしてシーラ王妃は野菜を口に入れた途端、目を見開く。

「これは、ただ野菜を切り分けただけじゃない!? 歯応えも味も全然違うわ! 少なくともただの生野菜より全然美味しい!?」

「わかったでしょう! この野菜はパッファが精魂込めて漬け込んだものなのよ!」

そう。

シーラ王妃が食した野菜は、ただの野菜の刺身などではない。

それよりさらに技術と過程を込めて作成された調理物だったのだ。

そうそれは……、ぬか漬け!!

「パッファは農場の発酵部門責任者! その中でぬか漬けは彼女がもっとも得意とする発酵食品なのよ! 何故なら兄さんが大好物だから!!」

ぬか漬けは、精米する時に米本体から分かれ出る糠の中に漬け込む製法。

ぬか床は放置すると腐ってしまうため、ある一定の間隔でかき混ぜることが必要となる。

場合によっては毎日欠かさず。

その維持の大変さから、よいぬか床を持っていることがよい妻のステータスでもありえるのだ。

「パッファの作るぬか漬けは一級品よ! 魔女としての魔法薬知識を駆使して最高のぬか床を作り、そして毎日欠かさずかき混ぜて新鮮さを保っているわ! 兄さんの武者修行に同行していた時ですら毎日一回、転移魔法で戻ってかき混ぜていたのよ!」

その習慣を絶やさない粘り強さ。

すべては未来の夫アロワナ王子に美味しいぬか漬けを食べてもらうため。

「このぬか漬けの美味しさこそ! パッファがよい奥さんになれるという証明なのよ!」

これはッ!?

俺は知っている、昔見たことがある。

前の世界で読んでいた料理漫画。問題のある敵対キャラクターを、料理の美味しさで改心させるヤツ!

どんなに性格捻じれ曲がった悪魔のようなキャラでも、ひとたび料理を振る舞い、それに掛けた説教を主人公がぶちまければウソのように性格改変。

天使のような真人間へと立ち代わり、争いなど最初からなかったかのように和解する!

プラティがまさかそんな手法をとってくるとは!?

彼女の知略も恐るべし!?

「そうね……、こんなに素晴らしい料理を作れる女性なら、きっといいお嫁さんになれるでしょうね……!」

「おおッ!?」

そしてシーラ王妃が説得に乗った!?

このままの勢いで行けるか!?

「でもまだダメでーす」

「うわああああああッッ!?」

やはり料理漫画ほど甘くない!?

たかだか一品の料理だけで人の心を変えるなんて無理があった!?

「たしかに、こんな美味しいぬか漬けを作れるパッファさんはいい奥さんになれるでしょう。彼女と結婚できるアロワナちゃんは幸せ者に違いないわ」

「そ、それなら……!?」

「でも忘れてはいけないわ。アロワナちゃんは将来人魚王になる。その奥さんもまたただの奥さんではいられない。人魚王妃として、より重大な役割を背負うのよ」

ただの人妻と王妃では、課せられた責任の重さが違う。

そこを指摘されるとぐうの音も出ない。

「そこで、……最後の試練を課しましょう。これを乗り越えれば二人の結婚を完全に認めるわ。女に二言はナッシングよ」

おお!

それさえクリアすれば今度こそアロワナ王子とパッファは結婚できる?

最終ステージだ。

してその最後の試練の内容とは……?

「……そうね。アナタたちは今回、ぬか漬けによってよい妻となる資格を証明しました。ならば王妃となれる資格もぬか漬けで示してもらいましょう」

シーラ王妃は高らかに宣言した。

「王妃のぬか漬けを作ってきなさい! それが認められた時、あなたが次の王妃にふさわしいということも認めましょう!」