軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

419 新米皇帝発展記その五 ラーメン襲来

おれはアードヘッグ。

アロワナ王子は親友だ。

おれはドラゴン、アロワナ王子は人魚という違いはあるが、共に旅し、苦楽を一緒にした絆は種族云々程度で断ち切れるものではない。

何よりアロワナ王子は英傑だ。

おれがただのグリンツドラゴンであった頃、ガイザードラゴン後継争いのために与えられた試練は『英雄にあらざる王者』もしくは『王者にあらざる英雄』を見つけ出してくること。

そのためにこそ英邁なアロワナ王子に目を付けたのだが、結論から言って彼は『英雄にして王者』だった。

人類にありながら、ドラゴンであるおれと共闘したとはいえ、ガイザードラゴンの父上を倒し去った。

これこそまさに英雄の所業。

しかも彼は人魚の王族であるのだから、しかるのちに即位し、人魚王となるであろう。

そんなアロワナ王子と肝胆相照らす仲になれたことを、おれは心から光栄に思う。

ドラゴンの中には人類を下等種族と決めつけ見下してくる者もいるが、おれの考えは違う。

そう思うのだが……。

「……………………ッ!!」

「姉上? マリー姉上……!?」

姉上がアロワナ王子のことを睨みつけるのをやめない。

なんで?

「二人一緒の生活が……愛の巣が……ッ! 下等な人魚種族ごときの進言で……ッ!」

無言で爪を噛みながら、客人を矢のごとき視線を射るのはどう考えても失礼。

「おやめください姉上! 王子に失礼ですぞ!?」

「いや、これは私の方が何かご無礼してしまっただろうか? すまぬドラゴンの礼儀には疎いので……!?」

戸惑うおれやアロワナ王子をよそに、傍から見つめる父上は人間形態で……。

「朴念仁が二人揃って何も進まない……!」

……わけのわからないことをおっしゃられていた。

ともかく今のおれ、マリー姉上、父上は客人アロワナに合わせてドラゴン形態から人間形態へと変身している。

せっかくアロワナ王子が訪問してきたんだし龍帝城も完成したのだ。

客人を内部へお招きし宴席でも開きたいのだが……。

「おっしゃー。来たのだー」

……ここでさらなる何者かが乱入してきて、場がますます混然とする。

いったい誰が来たのか?

ヴィール姉上だ。

聖者殿の農場に住まうグリンツェルドラゴンの一人。

それが何故ここへ?

「ヒッ!? ヴィール……!?」

マリー姉上が、ヴィール姉上の姿を認めた途端おれの背中に隠れた。

以前この方はドラゴン対決でコテンパンにされたからなヴィール姉上に。

その時の記憶が甦るのだろう悪夢として。

「また事前の便りもなしに突然押しかけて。何事ですか?」

「はぁー? テメーこそ何事なのだ? ヒトんちに遊びに来るのにアポとる竜なんていないのだ。それこそがドラゴンの自由!」

そうでした。

すみませんなアロワナ王子。ドラゴンの辞書に礼儀なんて言葉ありませんでした。

「で、マジに何しに来たんですか? なんというか、その……」

ここまでヴィール姉上が訪ねてきた用件が気になったのは、姉上が引っ張ってきた謎の物体が気になったからだ。

何だあれは?

小屋?

ニンゲン一人が何とか入りそうな程度の小屋がある。しかもただの小屋ではない。その特徴として両側に車輪がついて、引けば簡単に動かせるようになっていた。

それを人に変身したヴィール姉上が文字通り引っ張ってここまできたのだ。

まあヴィール姉上の竜魔法をもってすれば、あれぐらい引っ張って海を渡るのも容易かろう。

「気になっているな? これが気になっているな? これは屋台というものなのだ!」

「やたい?」

ヴィール姉上は、その屋台とやらを見せびらかしたかったのか、実に自慢げだった。

「ラーメンを外で振舞うなら、この屋台こそがマストアイテムだとご主人様が拵えてくれたのだ! これをもってラーメン屋台ヴィール亭の襲来だ!!」

「ラーメンって何ですか?」

わからない単語の解説をわからない単語でされても、やっぱりわけわからんのだが?

しかし、この奇観の裏にあの聖者殿が関わってるなら、どこか納得できるなあ。

あの人類、我々の想像の及ばないことしかしないし。

「聖者殿が関わっているなら、わけわからなくなるのもいたしかたないな」

ホラ。

おれよりよっぽど聖者殿との付き合いが長いアロワナ王子も同じこと思ってる。

まあいいや。

「で、そのラーメンというのはいかなるものなのですか? そしてヴィール姉上はホント何しに来たんです?」

「鈍いドラゴンなのだなー? このおれが屋台引いて来てやったってことは、お前らにラーメンを振舞ってやる以外にないのだ」

知りませんよ。

そもそもラーメンが何なのかってことからわからん。

「ラーメンも知らないとは見識足らずなのだ! 百聞は一見に如からずんば虎児を得ずというのだ。今すぐ現物を見せてやるから待っていろ!」

そう言ってヴィール姉上、屋台とかいう小屋の向こう側に隠れてしまった。

屋台とやらは周囲が垂れた布で覆われていて、中身を窺いにくい。

内側でヴィール姉上が何かしているのはたしかだが……、料理?

「注文入ったぞ! ラーメン三丁なのだ!」

「かしこまりましたわ!」

ヴィール姉上の他に誰かいる?

屋台の内側に?

そして程なくして……。

* * *

「ラーメン三丁上がり!」

おれ、マリー姉上、父上それぞれの前に置かれる料理。

料理?

初めて見る類のものだが、底の深い皿の中に、スープと一緒にやたら細長い何かが大量にぶち込まれている。

マジでなんだこれ?

これがラーメン!?

「ラーメンはご主人様が作り方を教えてくれた至高のメニューなのだ! 謹んで喰らうがいい!」

「まあ聖者が制作に関わってるなら心配ないか……!?」

おれだけでなくマリー姉上や父上も、おっかなびっくり器を持ち上げ、注意深く中の料理を観察する。

「聖者殿の料理に外れはないからな! これはいい機会! ヴィール殿、私にも一膳馳走させてくれないか!」

たまたま立ち会ったというポジションからアロワナ王子もラーメンに興味を示したが。

「お前はダメだ食うな」

「あれーッ!?」

ちょっと意外。

ヴィール姉上がそんな意地悪をするとは。

「いや違うのだ。これはご主人様が教えてくれたラーメンに、おれが独自のアレンジを加えたものでな。究極のラーメンを目指しすぎた結果、ちょっと行き過ぎてしまったのだ」

この方らしい……!?

「ニンゲンが食べたら発狂しつつ不死身となるか、爆散して死ぬのだ」

「ひえぇ!?」

「このヴィール特性ラーメンを受け止めきれるのは同じドラゴンだけだからな。それでお前らに振舞いに来た」

なるほど。

でも大丈夫なんでしょうね?

若干不安は残るものの、仕方ないのでヴィール姉上特製ラーメンとやらを食してみた。

食べ物を粗末にしたらもったいないし。

「……美味い」

普通に美味かった。

この細長い……麺っていうの? 麺が噛むごとにシコシコ歯応えがあって美味しい。

「竜が料理なんて……? でも待って、アードヘッグは料理ができる女が好きなのかしら?」

「なるほどたしかに濃厚な竜気だな。こんなの体内に摂取したらそりゃニンゲンごときならエライことになる……」

マリー姉上、父上も賞味中。

「はー、美味しかった」

基本美味しいので皆、すぐさま平らげてしまった。

「一番濃厚に竜気がこもっていたのはスープの方だな。それが美味しさの秘密でもあるんだろうが、一体どうやって竜気を移したんだ?」

「さすが父上は違いのわかるドラゴンなのだー。では教えてやろう! このヴィール特製ラーメンのおいしさの秘密を!」

バッと。

屋台にかけられた布……暖簾っていうの? 暖簾をまくり上げて中の様子があらわになる。

屋台の内側にあったのは……。

なんかとても大きな鍋の中に入った裸の女性だった。

鍋には他にもお湯で満たされ、グツグツ煮立っている。

「皆様ごきげんよう。グリンツェルドラゴンのシードゥルと申しますわー」

「このスープにはシードゥルの出汁がたっぷり染み出しているのだ! 秘伝の美味しさ!!」

それを見て聞いて、おれ、マリー姉上、父上の三人は一斉に盛大に咽た。