軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

405 王女裁き

こうしてグランドバルグ領の反乱は、たった一日足らずにて鎮圧された。

幸いなことに、この戦闘での死傷者は一人も出ることなく、首謀者一党を捕縛することができた。

一般市民にも、戦闘員である兵士たちからすら死者は出なかった。

奇跡と言っていいだろう。

「これもすべて聖者様のお陰です」

ダルキッシュさんから両手を握られ感謝された。

さっきまでめっちゃ怒られたけど。

「聖者様の支援があったればこそ子猫を抱き上げるように鎮圧できたのです。すべてを無事治められるのは、常識を隔絶した力だからこそ!」

その力ですべて吹き飛ばそうとしたけれども。

さすがに悪ノリが過ぎたな?

「首謀者の領主さんはどうなってるんです?」

「それがややこしいことになっていまして……!?」

詳しい話を聞いたところ、なんかここの領主さんも被害者だった?

「法術魔法で洗脳されていたようなのです」

「洗脳!?」

それはいけませんのう!?

「黒幕は教団の残党だったのです。グランドバルグ領主オセンニム殿に近づき、魔法による洗脳で言うことを聞かせ、反乱に仕向けたのです。幸い、その術師も共に捕えることができたので憂いもないのですが……!」

一番悪いのは裏で糸を引いていたヤツだとしても……。

操られていた領主さんの始末をどうすべきかで皆さん困り果てているそうな。

「いっそ公がフツーに悪かったら率直に処断して終わりなのですが……」

自己の意思に関係なく操られていたのでは酌量の余地がありすぎる。

そもそも罪があるのか? ということで今、大揉めに揉めているそうな。

「……かまうことはない、この首この場で斬り落としてくれい」

などと神妙に言っているのが今回一番悪人なはずの領主さんか。

「ワシの暴挙は、この時期もっとも重要な魔王軍との信頼関係に亀裂を入れた。その亀裂を埋めるには命をもって償うしかない!」

「……いやでも、悪いのは卿を操った教団残党でしょう?」

「それでも、法術魔法はまったく悪意なき者の心まで惑わすことはできぬ! ヤツらの術中にはまったのは、ワシ自身がいつか王になりたいと野心を抱いていたから、その心根を見透かされたのじゃ!」

自責塗れの領主さんを取り囲む、他の領主さんたち一同『面倒くさいことになった……!?』という顔付きをしていた。

同じ領主同士なら、この戦犯領主さんと誰もが顔見知り。

知人の処刑を決断するなど限度ぶっちぎりで寝覚めが悪いであろう。

当人に核心的な非がなかったのであればなおさら。

できることなら穏便に済ませたいところだが、魔王軍との信頼関係を思えば反逆者にあやふやな処分は下せない。

泣いて馬謖を切り刻んでこそ法の公正は保たれるのだ。

あちらを立てればこちらが立たず。

そんな板挟みに一同苦しんでいたところ……。

「せーじゃーッ!」

ん?

今のは俺のことを呼ぶ声か?

何処から呼んでいる?

「せーーーーーーじゃーーーーーーッッ!!」

だからいずこから呼んでるんだよ?

あそこか?

頭上に広がる青空に、浮かぶ一点の影。

シルエットから『鳥か?』と思ったが違う。

左右に広がる翼はたしかに鳥だが、鳥にしては大きすぎる。

そして中央がムッチリしている。

魅惑的な女性のシルエット。

翼を持った人、天使ホルコスフォンだった。

しかもホルコスフォンはもう一人抱えて空を飛んでいる。

「セ-ジャ! 私が呼んでるんだから早く気付きなさいよ!!」

「レタスレート!?」

亡国の王女レタスレートが参上した。

ホルコスフォンにぶら下がって、ここまで飛んできたのか!?

「降ろしますよ」

「いいわよ! とうッ!」

レタスレートは、ホルコスフォンから離れて空中より落下。

見た目からして二十メートルの高度はあったが、それをものともせず五点接地転回法で華麗に着地して、その勢いのまま俺へと駆け寄る。

「セージャ! こんなところで何グズグズしてるのよ! イベント開催日までもう何日もないのよ! 早く戻って最後に仕上げにかかりなさいよ!!」

どうやら焦れて俺をせっつきに来たらしい。

風雲オークボ城は、反乱により開催が危ぶまれても、とにかく予定通りやるという意志で、残りのメンバーは現場に残り準備に余念がない。

皆、俺たちが反乱鎮圧してイベントを開催できると信じているだろうが、中には堪え性のないヤツもいて、即ちコイツのことだレタスレート!

「私たちの豆は今、乗りに乗ってるのよ! 博覧会で、豆は皆の人気者になると証明されたわ! 魔国を制覇した以上次は人間国よ!」

農場博覧会、集客数トップを勝ち取りましたもんねキミの主催した『豆館』。

「この勢いに乗って私たちは、さらなるステージに進みたいのよ! 今回のオークボ城ではターゲットを参加者から観客へと移して、出店的な施設を用意して大々的に豆を売り出す予定なのよ! しかしその必勝計画も、イベント自体が開催されなきゃ総オジャンじゃなーい!!」

「事情話してあるだろ? ここの反乱をどうにかしないとイベント自体を開催できないの! だから一生懸命鎮圧しているの!」

「なにぃー! どいつよ!? 私の野望を阻まんとする不届き者は!?」

俺は無言のまま指さす。

指した先は、操られていた領主さんは可哀相なので、操っていた方の教団の方だった。

「お前かああああッ!!」

「ヒェッ!? アナタはもしやレタスレート王女!? 何と言う! アナタが立てば人間国を取り戻す反魔族のシンボルに!!」

教団の人の主張は実に正論だったが、それが届く今のレタスレートではない。

「うるせえええッ! そんなつまらないことのためにイベントの開催を邪魔したの!? 多くの人が豆と触れ合えるチャンスを台無しにしようとしたのかああッ!?」

「ひぃいいいッ!?」

「許さん食らえ豆パンチ!」

レタスレートの砲弾パンチが教団の人に突き刺さった。

あれは痛い。

農作業と、日々摂取する豆の栄養が相まってレタスレートは初対面時からは想像もできないほどマッシブに成長なさっている。

素手パンチでも、ヴィールんとこのダンジョン第一階層ぐらいなら余裕で無双できるレベルだ。

「ぐえぐばあッ!?」

「まだまだ許さないわ! これがインゲン豆の分!」

「ごぼえッ!?」

「これがエンドウ豆の分!!」

「あぎゃぱぁッ!?」

「大豆の分! 小豆の分! カシューナッツの分! ……そしてこれが、落花生の分だああああーーーーーッ!!」

「おぎょぐいぇええええええええッッ!?」

哀れ。

もはや剛力無双といっていいレタスレートにタコ殴りにされた教団の人はボロゾーキンになって吹き飛ばされていった。

「豆を軽んずる者に死あるのみ」

やたら怖いことを言った。

「「「「「レタスレート王女様ッ!!」」」」」

そして周囲のおっさんお兄さんたちが一斉に傅く。

レタスレートに向かって。

「あらどうしたの?」

「いや、キミがお姫様だから……!」

「ああ!」

今思い出したような顔をするな。

……ここに集合している方々は、主立つ人間国の領主たち。

かつて人間国の頂点に立つ一人であったレタスレートの顔は当然知っているであろう。

……あれ? これもしかして超めんどい?

「レタスレート王女がご存命であったとは……長らく行方知れずであったため、もやはこの世のものではないと……!」

「面を上げなさいゼストデンド公。今の私は王女ではなく、豆の使者レタスレート」

勝手にクラスチェンジしとる。

「だから私に礼を払う必要もないわ。私も今では人間国滅亡を受け入れられるようになりました。ぶっちゃけそんなことよりも豆の方が大事」

ぶっちゃけるなそんなこと。

「話は聞いているわ、結局悪いのは常に教団なんでしょう。なら責任は全部教団に擦りつければいいじゃない」

「しかし、それでは法の公正が……!」

と言うのは被告人であるオセンニム? さんだっけ? 当人だった。

「うっさいわねー。……じゃあこうしましょう。セージャ、紙とペンある?」

「はいよー」

俺は筆記具一式を渡すと、レタスレートはすらすら何かを書きつけていく。

久々に見たコイツの育ちのよさそうな一面。

「ここにこう書いたわ。『人間国王女レタスレートの名において教団は即時解散、神官は一人の例外もなく還俗を命じる』って」

「おお!?」

「人間国滅亡して今の私には何の権力もないけれど、旧権力を拠り所にする教団の連中はこの命令に従うのがスジでしょう。八方塞ってわけよ」

なるほどたしかに。

コイツの賢いところ初めて見た気がする。

「これを魔王軍に届ければ、教団取り締まりの大きな助けになるでしょう。そのご褒美にグランドバルグ公の罪を許してもらいなさいよ。さあこれで一件落着! セージャ戻ってオークボ城をやるのよ! そして豆を売り出す!」

やっぱりコイツ豆のことしか頭になかった。

こうして人間国での反乱騒動は、亡国の王女レタスレートの電撃参加によって収束した。