軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

378 大魔王立つ

「博覧会?」

っていうのは何か聞いたことがあるぞ。

何だっけ……、大阪? 名古屋?

「博覧会というのは技術の成果を展示する催しのことです。自国の技術力を誇示したり、国威高揚したりすることが狙いですな」

シャクスさん解説する。

「今回の場合は、農場の凄まじい技術を展示することになりましょう。バティさんの作った服。エルフさんたちの作った工芸品それらを展示するのです」

しかし、それだけでなく。

「結果としての作品だけでなく、その製造過程も展示解説することで。魔族職人たちを見学させ、要求を満足させることができます。彼らの見たいものこそ、農場の何世代も進んだ絶技なのですから」

いやー、そんなに持ち上げられると……。

照れる……!

「しかも博覧会ということになれば開催期間を区切らねばなりません。会期が終われば自然それが区切りとなり、職人たちも追及することはありませんでしょう」

つまり一度教えたからと言って、また教えろと際限なく続くことを断ち切れるというわけか。

あえて技術開示を催し物という形で行い、後腐れない形で収束できる『なるほど』な案だった。

さすが商人の発案。狡賢い。

「つきましては聖者様には博覧会の開催を前向きにご検討いただきたく……!」

「俺が主導するの?」

「もちろんでございます! 農場の博覧会なれば、中心になって進められるのは聖者様を置いて他にはございませぬ!」

……って言われて。

うーむ、まいったな。

普段ならそんな表に出ていくようなこと、あんまりしたくないのだが……。

でもこうなるまでの原因にけっこう俺が関わっているからなあ。

その打開策としての博覧会ならば、責任を取るために俺が率先して絡まずにどうする? という感じもある。

それにもう一つ、タイミングも重要だった。

これから冬に入る。

ジュニアが生まれてから初めての冬だ。

さすがの我が農場も冬場は大地が雪に覆われたりして農作業どころではなくなる。

総じて冬は暇になるものだ。

その暇を利用して、博覧会の準備期間に当てるのもいい。

「うん、何だかできそうな気がしてきたな」

* * *

とはいえ俺の一存では決められることではないので、皆に図ってみることにした。

主な相談相手は、エルフの各班長、バティ、それにオークボとゴブ吉である。

農場の職工方面は、彼らの領域だから。

「博覧会ねえ……?」

相談を持ち掛けた当初、皆ピンときていない顔つきだった。

それも仕方ないだろう。俺だって博覧会と聞いて何するかあんまりわかってない。

「要するに、皆が農場でしていることを外に紹介するってことだな。服を縫っているところ、皿を焼いているところ。木を削っているところ。そうした過程の部分は、それまで余所の人たちには見えてこなかった」

そして結果だけが作品という形で世に出回った。

過程なしで結果だけを見せられれば、そりゃ人も混乱することだろう。

そうして引き起こされた今回の騒ぎゆえ、混乱を解消するためにも製造過程も公開をしていこうと思う。

博覧会という形で。

「いいんじゃないですか」

最初に発言したのはバティだった。

我が農場の被服担当の魔族娘。

そもそも彼女の作った服を外に売り出してみようというのが農場と外が繋がるきっかけになったのだから、彼女の意見は聞くべきだ。

「この農場の技術は、すべてにおいて超越的です。その成果物だけ見せられて人々が困惑する気持ちもよくわかります」

バティが言うには、このまま放置すれば秘密を探り出すためによからぬ動きを取る者も出てくるかもしれない。

それを避けるためにも少しは情報開示するのもいいということだった。

「博覧会という形をとれば、開示する情報の程度をこっちの判断で調節できますし、悪い話ではないと思います。さすが商人の悪知恵といったところですね」

そしてさりげに口振りが辛辣なバティだった。

「エルフたちは?」

「我々もかまわん。見たいと言うなら見せてやるのが職人だ」

エルフチームを代表してエルロンが力強く言う。

「こういう場合、技術の拙い者ほど『技が盗まれる』と警戒するようだが、我ら農場エルフには問題ない話だ。むしろ盗めるものなら盗んでみるがいい! 誰にも真似できない超絶技巧を!」

エルロンたちは、謎のプロ意識で自分たちの技に自信を持っていた。

っていうか、ついに農場エルフと名乗り出したぞ。

「オークボとゴブ吉の意見は?」

残る農場の二重鎮に話を振ってみる。

「我々は、我が君の望むことであれば何なりと」

「粛々と実行する所存」

相変わらずの二人だった。

「でもオークボは、オークボ城の準備とかもあるんじゃないの? 余裕ある?」

「あちらは開催が冬の終わりごろになりますから被ることはないでしょう。たとえ被ったとしても我が君よりの命と、ダルキッシュ殿との約束と、どちらも違えるつもりはありません」

オークボは真面目だなあ。

そんな仲間たちの同意を得て、改めて農場博覧会の開催が決定した。

* * *

「とはいえ、何よりまず準備から始めないとな」

「質問ー」

バティが手を挙げた。

「決まっていることはあるんですか? 開催場所とか期間とか。何を展示するのか具体的なこととか?」

「うんにゃ、それが何も」

『博覧会をやる!』ただその一言だけで動き出した企画だからな。

具体的なことはまだなんも決まってないぜ。

「だからその辺りから皆で話し合って決めていこうと思う。諸君らの奇抜なアイデアを期待するところである!」

「「「「…………」」」」

周囲から『ダメだこりゃ』という失望の空気が漂ってきた。

だって仕方ないだろ!?

俺も博覧会なんてまったく企画したこともない見たこともない! まったくゼロ知識からスタートするんだから!!

「しかし心配しないでくれ。当然ながらこの企画には頼もしい相談役を迎えてある!」

「相談役?」

「企画の言い出しっぺ、シャクスさん……!」

俺の背後でシャクスさんが居心地悪そうに黙礼した。

「それからもう一人……!」

「まだいるんですか?」

「大魔王バアルさんだ!!」

なんか凄まじい気迫をまといながら威風堂々と登場する老魔族。

その覇気も当然のもの、何しろかつて魔族の頂点にいた魔王。

その先代が大魔王さんなのだから。

「……何故大魔王様がここに?」

しかし、バアルさんの登場に一同はいまいちリアクションが薄い。

元魔王軍のバティですら驚くこともしなかった。

所詮ご隠居である。

「……吾輩から、今回の話を大魔王様にお伝えさせていただきました」

とシャクスさん。

「何故そんな余計なことを……!?」

「あとになって話が大きくなればバレるのは必定ですんで……!? それで延々恨み言を述べられるよりは早期にお伝えした方がいいと……!」

「あー」

大商人も苦労が多いいなあ。

そして大魔王さん。水を得た魚のように生き生きとしておる。

「ワシが来たからには大船に乗ったつもりでおるがよい。何しろワシは博覧会のエキスパートと言ってよい人物!」

「そうなんですか?」

「ワシが現役の魔王であった頃は、ワシ自身が主導して博覧会を開催しておったものよ。その回数、在位期間中に約五百回!」

「多すぎる」

他にやることあったでしょうに。

「……既に聞き及びかと思いますが、バアル様が先代魔王として特に力を入れておられた政策がありました。魔国の文化向上です」

「らしいね」

「そのため現役時代のバアル様は、工芸を大いに奨励し、予算も大きく投入しておりました。頻繁に行われた博覧会もその一環でしたな」

とはいえ、当時人間国との全面戦争中。

そんな時勢にバアルさんの遊びともとれる政策は国民の支持を得られず、ゼダンさんのクーデターとも言うべき政権交代で退位を余儀なくされたという。

「バアル様が退位されて以降、博覧会はまだ一度も開催されておりません。ですがゼダン様に代替わりされてからしばらく経ちますし、何より戦争も終結いたしました」

「ほとぼりが冷めたということじゃなあ!」

大魔王さん、凄い生き生きしていた。

「今こそ全魔族に文化の英知を示す時! そのための博覧会ともなれば燃えるのは当然じゃあ! ましてテーマがこの農場となれば、成功は約束されたも同然!!」

燃えているなあ。

「ワシからも全面的に支援するゆえ博覧会! 必ず納得の出来に仕上げて開催するのじゃあ! 資金援助は惜しまんからのう!!」

「その資金って、ゼダン様からタカッた国家予算から出たものですよね?」

何か知らんうちに強力なスポンサーを得て、俺たちの博覧会開催企画は本格的にスタートした。

いまだに何をするのかよくわかっていないけど……。