軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

356 新米皇帝発展記その三

こうしておれを脅かしに来たドラゴンは、何故かブラッディマリー姉上にボコボコにされて逃げ帰っていきました。

『……はッ、あの程度の実力でガイザードラゴンの座を狙おうなど身の程知らずもいいところだわ』

呆れ交じりに戻ってくるマリー姉上。

怖い。

『いいこと! アードヘッグ!!』

『はいぃッ!?』

『あんなカス竜ごときが調子に乗って攻め寄せてくるのも、元はといえばアナタが不甲斐ないせいなのよ!』

ズバリ言われて反論もできない。

『つまり、アナタがガイザードラゴンと認められていないのが問題なの! 正当な手続きで後継者になったわけじゃないから。実力で自分がガイザードラゴンに相応しいと証明しなければならないのよ!』

『はい……! はい、その通りです!』

マリー姉上の言うことはいちいちもっともなので、おれも頷く他なかった。

『なのにアナタは弱腰で! そんなだから今来たようなアホ竜に舐められるのよ!』

『は……! 何というかまことに、すみません……!』

『どうやらアナタには、ガイザードラゴンとなるに足りないものがたくさんあるようね。力さえあれば皇帝ではないのよ!』

『その話さっきおれがしてたんだけどなあ……』と隣で父上が呟く。

『こうなったら……私が一肌脱ぐしかなさそうね』

『はん?』

『わたしがアナタを鍛えてあげるわ。心身ともにガイザードラゴンに相応しき竜となるように』

『ええええええええッ!?』

なんでそうなるんです!?

マリー姉上のことだから、てっきり『不甲斐ないアナタに代わって、やっぱりわたしがガイザードラゴンになりましょう』ぐらい言うと思ったのに!?

『何を言うの!? 不甲斐ない雄を叩き上げて頂点に就かせるのは妻の義務よ!!』

『つま?』

『なんでもないわ!』

なんですか?

『とにかく、アナタが立派なガイザードラゴンとなれるようビシバシ鍛えていきますからね! 覚悟なさい!』

なんかそういうことになった。

* * *

何故か始まったマリー姉上による教導。

おれのことを真っ当なガイザードラゴンらしく仕立て上げてくれるらしい。

偉そうな話だがブラッディマリー姉上ならば言う資格がある。

彼女はアレキサンダー兄上に続く第二位の最強ドラゴン。かつては次期ガイザードラゴン最有力候補だったのだから。

やる気のないアレキサンダー兄上に比べても、ガイザードラゴンの何たるかを知る雌竜と言えるだろう。

おれは素直に正座などしてマリー姉上の講義を拝聴する。

そして父上は脇で昼寝に興じている。

『いいこと? ガイザードラゴンとして今アナタにもっとも足りないのは、威厳よ!』

『威厳?』

『ガイザードラゴンは最強。誰よりも強い。そんな最強者は誰にも傅かない、誰にも気を配らない。誰に対しても自由気ままに振る舞うのがガイザードラゴンのあるべき姿なのよ!』

自由気まま。

それはさっき言っていた父上の言葉に合致するが。

『それなのにアナタときたら! 誰に対しても腰が低くて丁寧で! それが王者の態度だと言えるの!? どっちかと言うと従者みたいじゃない!!』

ふむ? 言われてみれば?

でも、この世に存在を開始した時からずっとこういう物腰でいたからなあ。

『そんなに腰低いですかねえ、おれ?』

『低いわ! そもそも「です」「ます」とか言いながらなんで腰低くないと思えるの!?』

そうか?

しかし、礼儀ある対応が大事だというのは仲間との旅で学んだ大事なことの一つ。

今さら変えろと言われてもなあ。

『皇帝竜ともなれば尊大に、傲慢に振る舞わねばなりません! 敬語なんてもっての外!!』

『はあ……?』

『では実践してみなさい。このわたしに対して王者の態度で接するのよ!』

そんなこと言われても。

どうしていいのかわからない。

『そうね……? まず試しに、わたしのことを呼び捨てにしてみなさい?』

『呼び捨てですか?』

『アナタはわたしのことを「姉上」と呼ぶでしょう? 竜の皇帝に姉も兄もないわ! すべてのドラゴンはアナタより下! 呼び捨てにすることこそ相応しい!』

正論かもしれない。

下手に逆らうとまたいびられそうなので素直に従うことにした。

その論法自体ガイザードラゴンらしくないけれど。

『………………ま、マリー?』

『……ッ♡♡』

呼ばれた途端、姉上は硬直した。

なんで?

まさか呼び捨てにされて侮辱と感じた? 自分で呼ばせておいてそれは理不尽でしょう?

『……い、いいわ』

『いいんですか!?』

『敬語になってる! 言ったでしょうガイザードラゴンから見て、すべてのドラゴンは下位存在にすぎないのよ! 下僕とか奴隷のようなものよ!』

『は、はい……!! ……いや、おう!?』

『それはこのわたしだって同様! かつてグラウグリンツェルドラゴンとして栄華を誇ったわたしでも、アナタには逆らえないの! 絶対服従なのよ!!』

とてもそうは見えないのですが?

『わたしから見てアナタは主、逆らえないマスター! わたしはアナタに屈服して、どんな命令にも逆らえない。命じられれば従わなければいけない!』

『さすがに言い過ぎでは……?』

『そんなことないわ! わたしはアナタに所有されてるのよ!』

そんなこと力いっぱい主張しなくてもよかろうに。

いや、そこまで強く言って、おれにガイザードラゴンとしての心構えを固めさせようというのだな。

さすがマリー姉上。

かつて本気でガイザードラゴンになろうとした彼女の情熱が窺える。

『じゃあ引き続き練習よ。ガイザードラゴンらしく振る舞うための』

『はい……!?』

『さっき言った通り、自分以外のすべてのドラゴンを見下すのがガイザードラゴンよ。それらしくわたしのことも見下してみなさい』

『そう言われても、一体どうすれば見下すことになるのか……!?』

『仕方ない子ね。さっきまで私が行ったことを思い出して、答えを捻り出してみなさい』

マリー姉上……、いやマリーに言われたことをか?

思い出してみると……。

1.名前は呼び捨て。

2.敬語は使わない。

3.相手は自分の所有物。

これら総合して、相手をすっごく見下す物言いを自分なりに考え出してみた。

『マリー、お前はおれのものだ』

『~~~~~~~~~~~~ッッッッ!?!?!?!?!?!?』

姉上ぇ!?

言われた途端、身悶えしだしたぞ姉上!?

どうしたんです!? そんなに屈辱的だったんですか!? おれのものだと言われることが!?

そんな悶えるほどに!?

『大丈夫よ……! いい、凄くいいわ! その調子よ!』

『よかったんですか!? ……いや、よかったのか?』

『さらに踏み込むわよ! 今の言葉をもう一回、さらに強い意味を込めて言ってみて!』

『強い意味!?』

『なんでもいいわ! もっと際どくできるはずよアナタなら!』

難しい注文だ。

……こんな風か?

『マリー、お前は永遠におれのものだ。二度と離さないぞ』

『ッッッッッッ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡』

姉上えええッ!?

なんで上空に向けてダークネス・ミーティアを放つんですか!?

それはアナタの最終奥義でしょう!?

暗黒竜気で形成された無数の弾幕を放つ技。そのうち一発でも人類の街を跡形残さず吹き飛ばす威力があるというのに!!

無闇やたらに乱射しないで!

『大丈夫か!? 流れ弾でどこか殲滅してないよな……!?』

『こうでもしないと胸からこみ上げる何かを押さえられなかったのよ……!』

何かって何!?

そこまで屈辱に心荒れ狂っているということですか!?

『姉上、そろそろやめましょう。この訓練はアナタへの負担が大きすぎるようです』

『何を言ってるの!? これからじゃないの!?』

何がこれからなんです?

『次は、言葉だけでなく行動で、わたしがアナタのものであることを示すのよ。わたしがアナタのものであるということを!!』

『行動って、どうすればいいんです……!?』

マリー姉上が鬼気迫ってて怖い……!

『そうね、蹴ったり殴ったりすればいいのじゃないかしら?』

『殴る蹴る!?』

何故そんな発想に!?

『すべての生物の摂理よ。勝者は敗者の下にあるの。わたしをズタボロにして踏みつけることで上下関係をハッキリさせるのよ!』

『マリーはマゾなの?』

さすがに父上が昼寝から起きてツッコミを入れた。

そしておれ自身は。

『拒否します』

『え?』

『それだけは断固として拒みます。他者をいたずらに傷つけることなど愚かで醜い行為だ』

それはアロワナ殿たちと共に過ごした旅で学んだこと。

ニンゲンは互いを尊重しあい、尊敬しあうから、脆弱であっても強靭な生命なのだ。

『強いからと言って意味なく他者を傷つけることなどドラゴンでも許されない。おれがガイザードラゴンとなったからには、そういう時代にしていく』

『……!?』

『だから姉上自身が望もうと、おれはアナタを傷つけない。アナタはおれにとって大切な存在だから』

『大切な存在……!?』

こんな未熟なおれに付いて指導してくださるのだから。

得難き味方を無下にはできない。

『なんて優しい心根……!? それに大切な存在だなんて……!?』

なんか姉上の瞳が潤んでいる?

やはり怒っているのか!?

かもしれない。おれの主張はどちらかと言えば人類の価値観に近く、生粋のドラゴンである姉上には到底受け入れがたいだろう。

どうすれば心を鎮めてくださるだろうか……!?

そうだ。

『せめてこれで……』

『きゃあッ!?』

おれはマリー姉上を抱きしめた。

アロワナ殿やその友人である魔王が言っていたのだ。

人類の間ではハグが友好の証明であり、試合のあとも抱き合うことで勝ち負けを超えて絆を確かめ合うと。

せめてその行為で姉上にも友好の意を伝えられれば……?

『そんな、大胆!? 大胆すぎるうううううッ!?』

『姉上? 姉上えええええッ!?』

姉上は気を治めるどころか失神してしまった!?

なんで!?

『父上助けてください! これは一体どういうことなのでしょう!?』

『放っておきなさい。どうせすぐに起きるだろうから』

傍で見守るアル・ゴール父上が呆れ顔で言った。

『地上にドラゴンを殺す手段はないと思っていたが、唯一あったようだな。幸福すぎて死ぬという……!』

『何なんです!?』

こうして、おれは父上と姉上の指導の下、一人前のガイザードラゴンとなる修行を続けていくのだった。

その道のりは、遠い。