作品タイトル不明
352 ゴブリンvsハイエルフ
いやあ、一方的な展開になってまいりました。
森の中では無敵と謳われたエルフたちが、次々気絶させられ木から落ちてきます。
すべてゴブ吉の仕業。
攻撃する時に放たれる矢の入射角から即座に射手の居場所を割り出し、『あっ』という間に接近しては一撃で沈黙させる。
「当て身ッ」
「あふぅんッ!?」
心得たゴブ吉は、敵エルフを傷つけることなく気絶させ、優しく地面に下ろす。
それを後続の俺やエルロンやエルザリエルさんとで回収。縄に掛けて拘束する。
「おい……、あのゴブリン一体でガンガン攻め進んでいくぞ……!? アイツ一体ですべて終わるんじゃないか!?」
「そのために連れてきたのですからねえ」
相手が立てこもる森を傷つけずに、潜んでいるエルフを叩く。
その難しい注文を、ゴブ吉は難なく遂行する。
「彼の日頃の作業が功を奏しているのでしょう」
「日頃の作業って?」
「農作業」
我が農場ゴブリンたちのメイン作業。
農場の中核作業とも言えるが、住民たちの日々の糧を得るために、作物を育て、立派に最後まで育つよう日々のケアを行うのはゴブリンたちの担当だった。
毎日毎日、雑草を刈り、害虫を駆除し、作物が病気にかかってないかチェックする。
その仕事を行うのがゴブリンたちだった。
「そのリーダーのゴブ吉だからこそ、森に隠れたエルフたちだけを正確に討ち取ることができる。大事な作物を避けながら害虫や雑草を抓み取っている彼だからこそ」
「おい、エルフと害虫雑草を一緒にしたなあッ!?」
エルザリエルさんの抗議もそこそこに。
ゴブ吉によって無力化されたエルフたちはどんどん溜まっていく。
この分じゃ拘束するために用意した縄の方が先に尽きてしまうから、そろそろ打ち止めにしてほしいなあ……!?
「大丈夫だ、今ツタを結って新しい縄を作っている」
「自然物での即席道具作りこそエルフの独壇場よ」
縄を結っているエルロンとエルザリエルさん。
頼りになるなあ!? あんまり感動できないけれど。
そうこうしているうちにゴブ吉の通る戦闘でも変化が起きたようだ。
「小賢しき外人め……!」
お、なんか明らかに雰囲気の違うエルフが現れた。
というかこれまでとまったく違う。
「え? あれもエルフなの?」
「現れたなハイエルフ……!?」
なんか偉い方ですか?
これまでのエルフが魔族同様濃い肌だったのに対し、今現れたハイエルフさんとやらは透き通るように白い肌。
まるで白磁か大理石のようだ。
そして髪の色は煌めくような金髪で、これまた通常のエルフとは違う。
唯一共通点があるとしたら、ピンと長く伸びて尖った耳ぐらいのものだった。
「……」
体つきも。
今までエルフといえば豊満な子しか出会ったことがないのに、あの白い金髪の子は何となだらかな……?
「ん? 何考えてる?」
「何でもないです……!?」
プラティがいないからと安心しきっていたらエルロンに見透かされた!?
「あれはハイエルフというエルフの上位種だ。当然普通のエルフより手強い」
エルザリエルさんが戦慄と共に言った。
「森の中で長く生き、その清浄なマナと空気を体内深くまで取り入れて順応させたエルフだ。魔力の基礎量や魔法の扱いも桁違いだぞ」
「あの肌や髪の色は、自然と完全一体化した証と聞いているが……!?」
「たしかあのハイエルフは、エルフの森に残った最後の集落の長も兼ねていたはずだ。名は、……エルエルエルエルシー」
「エルの語を四つも刻まれた名前!? そこまでの強豪だということか!?」
いや、紛らわしいだろ。
そんなに『エル』を繰り返して文字にしたら絶対誤表記しそう。
やめてそういうの。
「とにかく、ヤツが出てきたということは決戦を仕掛ける気だな。これ以上犠牲は出せないということか……!?」
あっち側のエルフもだいぶ拘束したからねえ。
ただでさえ滅びかけている集落だそうだし、人的損失は普通以上に堪えるだろう。
「不遜なる者どもめ、よくも我が可愛い娘たちを害してくれたな?」
「いや、別に殺してないですけど……!?」
気絶してるだけです。
傷一つないですよ。
「この上は、真なるエルフの長たる、わらわが相手をしてくれよう。このハイエルフのエルエルエルエルシーが」
やっぱり紛らわしい……!?
対してゴブ吉は逸り焦りの様子もなく……?
「我が君は、アナタ方との友好な関係を望んでおられる」
紳士の対応!?
「アナタが再び我々の話を聞いてくださるのであれば今すぐ戦いをやめて会談の場を設けたい」
「そちらから攻めかけておいて何を都合のよい。みずからが侵略者であることを自覚するがよいぞ」
まずい、一言も言い返せない。
たしかに客観的に見たら俺たちが明らかに侵略側だが、しかし、会話のためにまず戦いが必要ということで、どうか一つ!!
「悪はおぬしらであり、悪は敗れ去るもの。つまり敗北するのもお前らじゃ。そのことを今証明してやろうぞ、このハイエルフのエルエルエルエルシーの力をもって」
一瞬、彼女の金髪がフワリと舞い上がったような気がした。
それは彼女が放出する魔力が気流のように濃密になって、軽い髪の毛を吹き上げているのだった。
「ハイエルフは、森と一体になることで森そのものを操れるのじゃ。森の力はわらわの力。わらわと森は一心同体。それがエルフを超えたエルフの力と知れ!」
彼女の宣言と同時に、驚くべき現象が起こった。
俺たちのいる森の中……、森そのものを形成する木や草が、凄まじい勢いで伸び始めたのだ。
まるで早送り映像を見ているみたいに。
それだけでは飽き足らず、伸びる草木は蛇のようにうねり動き、あのハイエルフを獣使いの主人とする猛獣のように付き従う。
「草木が……、動物のように……!?」
「驚いたか? これがハイエルフたるわらわの魔力よ。森そのもののわらわにとって草木は手足のようなもの。おぬしらはわらわの手の内に……、体内に迷い込んだようなものなのじゃ」
なんか凄い展開だぞ。
この森自体が彼女の意思通りに動くなら、なるほどたしかに俺たちは袋のネズミになったようなもの。
全方位どころか、踏みしめている地面すら敵だ。
森を味方にするエルフ、その上位種たるハイエルフの『森を味方にする』感はここまで桁違いだとは。
「もはや謝っても許さんぞ。これらの植物に飲み込まれて土中に沈み、草木の養分となるがいいわ」
「残念ながら……」
ゴブ吉が答える。
「草木で私を倒すことはできない。絶対に。理由があるので」
「ほうなんだ? 理由があるなら言ってみるがいい! 飲み込まれて消える前にな!」
ハイエルフの意思に従い、超成長した草木が大蛇のごときうねりでゴブ吉に襲い掛かる一斉に。
それはまるで草木の津波のようであったが、それがゴブ吉を飲み込むことはなかった。
その前に斬り刻まれて散ったからだ。
「なにッ!?」
驚くハイエルフの人。
意地でも名前で呼ばないぞ!
「一体何が起こった!? わらわの魔力がこもった草木たちが……!?」
「刈った」
ゴブ吉、持参の鎌かざして言う。
「我らゴブリンチームの仕事は、農地の管理。日々伸びてくる雑草を来る日も来る日も刈り続けることが使命……」
そうか、わかった!
そんなゴブ吉にとって、草木を操るハイエルフとの戦いは日常作業そのもの。
だって草を刈ることに変わりないのだから。
ゴブ吉から見てハイエルフは、これ以上ないほど手慣れた相手だった!?
「アホかあ!? そんなマヌケな理由でわらわの魔法が破れて堪るかあッ!? ……ひいいいいいッ!?」
彼女の抗議も虚しく、幾重も重なる草木の波状攻撃を斬り裂いて、ゴブ吉が至近まで迫る。
「無駄です、この鎌は草を刈るための道具。草を制するにもっとも適した武器なのです」
「やはあああああああッ!?」
ハイエルフの喉元に鎌の刃を突きつけてチェックメイト。
恐るべき森のマンハンター軍団はゴブ吉一人によって制圧されたのだった。