軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

337 認められた天才

俺がマリアージュ対処のため一足先に農場へ戻ったあとも、パッファたちは残って作業を続けていた。

山奥の研究所で野晒しにされた自動人形を回収し、再利用するための作業を。

転移魔法で次々帰還してくるオークゴブリンたちの肩には、自動人形が乗せられている。

残骸の山から、比較的損傷のないものを掘り起こしてきたのだろう。

「制作者であるマリアージュの死後も、残された自動人形が設計図通りに自分の同型機を作製し、数を増やしていった……」

『自動人形一万体量産化計画……、本当に続けていたのか……』

その制作者ご本人が、今や頭だけの巨大人形となって俺と居並び光景を眺めている。

『計画は、私が人格データ移行した巨大自動人形にシフトしたというのに、撤回命令を理解できずにいたというのか……、これだから初期型は……!?』

マリアージュは苦虫を噛み潰すような声であった。

『だが、そんな粗製乱造の人形どもを持ち帰ってどうするつもりだ?』

「労働力として再利用する」

俺からの即答にマリアージュの両目が明滅した。

時折、自動人形らしいリアクションを示しやがる。

『ほうほうほう……!? 私の発明品に目を掛けるとは、なかなか見所があるようだな……!?』

また自分の研究が注目されて嬉しいのか。

『だが所詮は素人だな。私の研究をそう簡単に利用できると思っているのか?』

「ん?」

『一号機が代理生産したとはいえ、あの人形どもは私の設計したものだ。その構造の複雑さは、水車や馬車などとは比べ物にならんぞ。人形どもを整備したり、命令通りに動かすことができるのは、私と同じだけの天才でなければ。そんなヤツは世界に何人といないだろうがな……!』

隙あらば自慢していきたい人。

まあ、彼の言いたいこともわかる。

自動人形は、この世界のテクノロジーである魔法を基礎構造としているが、形ある人形を拠り所にしているだけに工学的な側面もあるようだ。

そんなシロモノ、こちらの世界の一般的な人々は手に負えないだろう。

マリアージュが『自分以外に扱えない』と誇りたくなる気持ちもわかるが……。

* * *

「はい五十二台目上がったよー」

「ほいほいー」

最近忘れがちなことだが、俺には神からギフトされた『至高の担い手』という力がある。

手にしたものの性能を限界以上に引き出す能力。

これで触ってたしかめれば、自動人形たちを修理することも可能だった。

ここ最近は仲間や道具に恵まれたことで『至高の担い手』に頼らなくても色々できるようになってたからなあ。

嬉しいような寂しいような。

それだけに久々ヘパイストス神のギフトに頼れる機会に恵まれてよろしい。

『あれえええええーーーーーッ!?』

そして、自分の設計品が次々再調整を受ける姿を見て、マリアージュは大絶叫。

『なんで!? 私が生涯かけて発明した自動人形の構造が、そんな簡単に解析されたのおおおッ!?』

「プラモデル組み立てるみたいだった……!」

自動人形たちにはまず簡単な畑仕事をしてもらうことにした。

草むしりや作物の病気チェックなど、再調整で俺が与えた指示通りに黙々とこなしていく。

『わ……、私の最高傑作が野良仕事に使われるなど……、何と言う屈辱だ……! 私の作品は世界を変えるために……!』

ゴニョゴニョ文句を垂れるマリアージュであったが、やっぱりどこか浮ついた態度だった。

『……役立っているか?』

「ん?」

『私の作った自動人形は役立っているか……!?』

「そうだな。……仕事は着実にこなしてくれるし、なかなかいい働きぶりだ。簡単なことは自分で判断してくれるのが、凄く助かるな」

『そうだろうそうだろう! 頭部に組み込まれた魔法判断装置が自動人形のキモだからなあ!!』

やっぱり、初めて自分の作品が他人からの評価を受け、しかも肯定的であることに心弾まずにはいられないご様子。

……これだと、よかれと思って打っておいたあの布石が効きすぎということになりかねないかなあ……?

どんな布石を打っておいたかというと……。

「聖者殿」

あ。

もう来た。

早いですね魔王さん、ついさっき連絡を送ったばかりなのに……。

「聖者殿のお呼びとあらば駆けつけないわけにはいかんからな。いつも世話になっているし……」

『魔王ッ!?』

現れた偉丈夫魔族に、マリアージュは即反応。

『魔王だというのか!? この、なんか普通に強そうなこの……!?』

「いかにも、今代の魔王ゼダンだ」

滅茶苦茶デッカイ頭部のみの人形という、趣味の悪いオブジェとも言えそうな現マリアージュにも威儀を正して臨む魔王さん。

どんなときにも真面目なのが彼のよいところだ。

「あれが……、お前の作りだしたという、自分で動く人形か?」

『は、はい……!?』

魔王さんは、畑で働く自動人形たちを丁寧に観察。

そして言った。

「なるほど壮絶な技術だ。人形が自分で動き、自分の考えで対処する。これが行き渡れば世界中の労働事情に革命が起きるな」

『おおおおおおお……ッ!?』

「お前の人生については伝え聞いている。当時の魔王が早計なる判断を下したこと、その後継者として遺憾に思う。我らは支配者として、もっと真剣に下々の声を聞くべきだな」

『そんなッ! そのお言葉だけで我が百五十年の苦労が報われました! 身に余る光栄……!』

褒められた途端手の平返しやがった。

現金だが、まあ気持ちはわかる。

「現在の魔国には、新しい魔法を研究発明するための機関がある。お前が望むのであれば、そこで働く気はないか?」

『魔王様……ッ! なんと、なんと慈悲深きお言葉……! 不才の我が身ですが、魔王様のお役に立つためなら何なりと……!』

自身の生きていた時代、顧みられることのなかった彼が世代を越えて報いを得た。

認められることのなかった頑張りが認められたのだ。

「ただいまー」

「あ、パッファ」

そして現場に最後まで残っていたパッファも、転移魔法で帰還してきた。

その手には、やはり自動人形の残骸が……。

しかし……。

「あれ? これ壊れすぎてない?」

研究所から回収する自動人形は、壊れている中から比較的損傷が少ないものという基準だったはずだ。

しかし、パッファが最後に持ち帰った一体は、もはや全損というべき無惨さで、いかに俺の『至高の担い手』でも修理は不可能に思えた。

「これは再利用するために持ち帰ったんじゃないからね」

「じゃあ何のために?」

「特別なヤツなんだよ。ずっと前にぶっ壊したヤツだからね。見つけ直すのに時間かかっちまった」

この一際ボロボロの自動人形に一体どんな意味があるのか?

『そ、それは……!?』

答えは他でもない、マリアージュが示してくれた。

『一号機……、私自身の手で作り上げた、一番最初の自動人形……!?』

「そういうことさ、アタイらが初めてお邪魔した時、出迎えたのがコイツだった。アンタが人格転送のために黙りこくって、死んだと思われている間も、たった一人であの研究所を守り続けていた」

それが何で全壊したのかと聞くと、ソンゴクフォンが怖さのあまり暴発したのだという。

あのギャル天使……!?

「アンタにとって特別な品……、いや特別な相手だと思って連れて来てやったんだよ」

『おお……!?』

不遇の天才のその手で作られ、人生の大半を共に過ごし、主死したあともその亡骸に仕え続けた。

人形ゆえの無知と嘲笑うか。

ほとんどバラバラになった最初の人形の、瞳の部分に僅かに光が残った気がした。

『ご……、ゴ……、ご主人サマ……』

『おおお……!?』

みずからも自動人形となり、さらに頭部のみとなるまでに崩壊したマリアージュ。

『オハヨウゴザイマス……、キョウもイイテンキでゴザイマス……、朝食ヲお作りいたしまショウカ……』

『そうだ……、そうだったな……! 私の食事を作ってくれるのがお前の役目だったものな……! 本当にお前は、私の言うことをよく聞いてくれた……!』

『外はオサムウございマス……、シツナイにモドリましょう……、アタタカクしまショウ……』

『そうだな……、帰ろう私たちの家に。私は認めてもらった。認めてもらったんだ。もう思い残すことはない。あとはお前さえいてくれれば……!』

『カエリ……、帰りましょう』

なんか、天から淡い光が降り注いできた。

その光に導かれるように二体の自動人形の残骸から幻視のようなものが浮かび上がる。

一人のさえない風貌の男と、真新しいピカピカの人形。

「えー?」

二人は寄り添うように並んで、天からの光に導かれるように昇っていき、やがて地平の向こうへ消えていくように姿も見えなくなった。

同時に、二つの自動人形の残骸から生命力というべきものが消えた。

もう永遠に動かない。そのことを立ち会う誰もが如実に実感した。

「……成仏しやがった!?」

そうとしか解釈しえない現象を目の前にして、衝撃を受けるばかりの俺だった。

「……いやいや待って!? 自動人形って成仏できるの!?」

「人形って魂あったの!?」

「錬金術師の方は記憶だけじゃなくて魂も移行してたってこと!?」

「最初の人形の方は、元来人形なのに魂あった!?」

「しかも天に昇っていったよ!? 冥界って地下にあるんじゃないの!?」

様々なツッコミの一斉射を受けながらも、当人らはもうこの世からいなくなったので関係ないのであった。

すべては自身が満足ならば、それでよし。