軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

325 大豆の底なし沼

引き続き、異世界の豆腐作りに挑戦中の俺です。

前回は大豆を砕いて煮上げ、豆乳とおからに分けるところまで進むことができました。

しかしその先へはまだ進めない。

搾り出した豆乳を固めたら豆腐ができるはずなんだが、どうやれば豆乳が固まるのか、記憶を探っても出てこなかった。

「ここだけ記憶があいまいだなあ……!?」

色々と方法を探ってみることはできる。

時間が経てば自然に固まる? そんなことはなかった。

豆乳は時間を置いても豆乳のままだし。そうでなきゃ豆乳が飲み物として成立するはずがない。

では他に何がある? 凍らせる?

たしかに固める手段としては率直だが、凍らせても結局凍った豆乳になるだけで豆腐にはならなかった。

失敗して無駄に産出された豆乳とおからは、それぞれ謙虚な胸隊とポチたちが貪ってくれました。

さらに思案を広げ、豆乳を凝固させるための特殊な薬品でもあるのかな……? と考えたところで、ピンと閃いた。

「あッ……!?」

脳裏に浮かぶ、その特徴的な名前の響き……。

「にがり、だ」

にがり。

それが豆腐作りに必要なものだと聞いたことがある。

詳しくは覚えてないけど、豆乳を凝固して豆腐に変える凝固剤それこそがにがりではないか。

きっとそうだ。

よしでは早速にがりを用意しよう!

「どうやって!?」

名前だけわかったものを、どうして得られるというのか。

異世界にはネット検索なんてないんだから、名前入力して『ハイ出ました』なんていかないんだぞ!

ここはもっと知恵を絞らなければならないようだ。

……にがり、というのが何か海と関係のある印象は残っている。

きっと海水を何らか加工して作るものだろう。

そして海と言えば、俺には強力な味方がいるじゃないか!

* * *

「えーと、こういうのでいいのかしら?」

我が妻プラティは、海がホームの人魚族にして、魔法薬のエキスパート。

俺の漠然としたイメージで海水と魔法薬を調合し、異世界にがりを作り出すことも容易だった。

そして本当に作れた!

「ありがとうプラティ! さすが! 天才! 愛してる!!」

「やーん、旦那様からそんなにおだてられると空を泳ぎそうだわー。……私も愛してる」

ジュニアを挟んで愛妻と抱き合ってから、早速プラティ謹製異世界にがりを豆乳へ投入する。

固まった。

ついに豆腐らしきものが異世界にて形になった!!

固まった豆乳を切り分けて、豆腐っぽい形にして皿へ。

「何この白いの? 今まで食べたどんな食べ物にも似た印象がないんだけど、食べられるの?」

「まあ落ち着いて」

製作過程上、完成した瞬間から居合わせたプラティと豆腐試作品を見下ろす。

まずは味見だ。

見た目上はしっかり出来上がった豆腐でも味が整っていなければNG。

料理は、何より味が大事だから。

「まずは冷奴としていただいてみよう」

一番簡単だし。

ただの豆腐の上に、削り節、刻みネギ、おろし生姜をぶち込んで醤油をかけて……。

箸で一口大にとって口に運び……。

「美味い!」

大成功!!

豆腐は異世界に無事再現を果たした!

「はぁー、独特な食感ねえー!」

プラティも一口食べて感嘆。

「柔らかくてフワフワでとっても食べやすいわ。こんなに柔らかいならジュニアが乳離れした時の始めのごはんに使えそう!」

プラティが、ジュニアを生んで母親視点になっている……!

「トーフ自体に味はないけど、だからこそどんな他の味とも合って取り合わせを楽しめるわ! 一緒に合わせた鰹節もネギも生姜も美味しい!」

好評だった。

「よしでは、どんな食品とも併せられる万能食材豆腐の次なる可能性を見てみよう!」

鍋で水を熱する。

出汁を取って味噌を溶き、そしてサイコロみたいに切り分けた豆腐をボトボト入れて……!

「豆腐の味噌汁でーす!」

豆腐料理の定番!

常温の冷奴も美味いが、味噌汁と一緒に温めた豆腐のよさも味わってくれい。

「これは……!?」

豆腐の味噌汁を見たプラティ、何故か蒼白の表情。

どうした?

「旦那様……、アタシ知ってるわよ……! 何しろ味噌を開発したのはこのアタシなんだから……!!」

ん?

「味噌って……、大豆が原料でしょう!? 大豆で作った味噌のスープの中に、大豆で作った豆腐を入れる……!? つまりこのスープは100%大豆!!」

そこに気づいてしまったか……。

「これだけ手の込んだことをしておきながらアタシは結局大豆しか食べていないという……!? まるで知ってはいけない世界の秘密に気づいたようだわ!? ああッ、そういえばさっき冷奴に掛けた醤油も、元は大豆!?」

ダメだプラティ!

それ以上深く考えては!

大豆に囚われるぞ!

* * *

そんな感じで俺とプラティは豆腐料理を美味しく完食した。

また一つ農場に食材が加わって食生活が豊かになるなあ、と思ったが、何か大事なことを忘れていることに気づく。

ああ、そうだ。

そもそもなんで豆腐を作ろうって話になったか、だ。

豆大好きレタスレートとホルコスフォンから『ナウなヤングにバカ受けする豆製品を開発して!』と頼まれたからだ。

完成した豆腐が果たして『ナウなヤングにバカ受けする』かどうか断言できないものの、せっかく完成したんだから見せに行こうぜ! とあちこち探してみたら……。

「……お?」

なんか向こうが騒がしいな。

大歓声に交じってレタスレートの声も聞こえる気がする。

試しに声のする方に行ってみたら。

「大きいおっぱいは好きかーッ!?」

「「「「「おおーッ!!」」」」」

「大きいおっぱいになりたいかーッ!?」

「「「「「おおおーッ!!」」」」」

……。

レタスレートがいた。

なんか大勢の女性群衆の前でアジっていた。

「この豆乳さえ飲めば! アナタも巨乳の仲間入り! 彼氏から溜め息つかれることもない!! 大豆の力は偉大なの!! さあ、豆乳を飲みましょう!!」

「「「「「うおおおおおおおおッ!!」」」」」

大盛況となっている。

大きいおっぱいを夢見る乙女たちが、レタスレートの掲げるジョッキ並々に注がれた豆乳へ群がっていた。

「マスター」

「おおッ! ホルコスフォン!?」

その横でホルコスフォンが煮上げた大豆をすりつぶして豆乳を作る作業に没頭していた。

「マスターの開発してくださった豆乳は大成功です。飲めば胸が大きくなる霊薬として人気沸騰しています」

「だから霊薬じゃねえって!!」

どうやらレタスレートとホルコスフォンからの依頼は、豆乳を完成させた時点で達成されていたらしい。

悩み多き女の子たちに、豆パワーが覿面に効いていた。

まだ育成途上の留学生たちだけでなく。

「私にも! 私にもおっぱい大きくなる霊薬を……!!」

エルフチームの胸周りが可愛い子たちとか……!!

「うおおお! あれで私もアスタレス様みたいにいいいいいッ!!」

魔族コンビの一方ベレナとか。

「皆さん落ち着きなさい! こんな怪しい品物は、まず先生が試します!」

人魚のカープ先生まで!?

老若に問わず人気となっている豆乳。

まさにレタスレートはご満悦だった。

「これが豆の力よ!! 私はいつの日かこの豆の力を世界中に知らしめてやるのよー!!」

レタスレートに、また新しい目標が開設されていた。

人間国復興はもういいのかとツッコみたいところだが、すぐ目的を見失って一生懸命になるのは彼女のいいところなので放置した。

あとで豆腐も食べてもらったが、これも好評だった。

* * *

あと……。

「ご主人様ー、豆乳って生臭いなー」

「ヴィール!? お前もこっちにいたのか!?」

ドラゴンのヴィールが豆乳騒ぎの方に加わっていた。

珍しく料理作りに顔出さないと思ったら!?

「豆乳でおっぱい大きくなって、おれもジュニアにおっぱいを与えるのだー」

そんな野望を!?