軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

291 出航

こうして俺は、プラティの里帰りに便乗して人魚国へ行くことになった。

ご両親への挨拶に。

本来なら結婚した時点で挨拶なんぞは済ますものなので、第一子が誕生してからでは遅きに失するにもほどがある、といったところ。

だが、どれだけ遅くともやらないよりはましだろう。

そういうわけで行きます。

いざ人魚たちの住む人魚国へ。

「では留守を頼むぞ」

俺が人魚国を訪問する間、農場の指揮はオークボとゴブ吉の二人に任せた。

今や古参組でもトップクラスの彼ら。

農場の裏も表も知り抜いていて、安心して任せることができた。

「我が君……、本当に大丈夫でしょうか……?」

ゴブ吉が心配そうに尋ねる。

「安心しなって、キミらなら問題なく農場を回してくれるさ」

「いえ、我々が心配しているのは我らの方ではなく、我が君の方で……!」

ん?

「人魚国では、少々ながら政治的混乱が起こっていると聞きます。もし我が君や奥様、御曹司に危険が及んでは……!」

「そうです、もっとたくさん護衛を着けていってください!」

オークボまで深刻になって。

「大丈夫だよ。プラティのご両親に挨拶に行くんだ。何の危険なことがあろうか」

「しかし念には念のため……!」

「万が一があっても大丈夫だよ、アイツがいるから」

と俺はヴィールを指さした。

アイツも、今回の人魚国訪問に同行する。

「ふひひひー、可愛い可愛い……」

ヴィールは生まれたばかりの我が子ジュニアに首ったけだった。

よほど可愛くて気に入ったのだろう。

あの子と離れるのが嫌で、せっかくの山ダンジョン再支配活動も途中で投げ出してしまい、今回の遠出にも断固として加わった。

恐らく人魚国訪問中片時もジュニアから離れないだろう。

「ドラゴンが傍についてたら、これ以上心強いことはないだろう。ジュニアはこれで安心だ。俺たちは俺たちで身を守れるし」

「はあ……!」「たしかにそうですが……!」

「ゴブ吉とオークボは農場の方を頼むぞ」

「「承知」」

人魚国訪問組の人員は、メインとなる俺、プラティ、そしてジュニア。

それに勝手についてきたヴィール。

勿論アロワナ王子も。

アロワナ王子旅の御一行も丸っとそのまま同行するらしい。

家に帰りつくまでが修行の旅ということで、仲間全員で凱旋したいのだそうだ。

交通手段は船。

以前建造しておいたマナメタル製の豪華客船ヘルキルケ号の出番である。

「最初は漁船として作ったんだがなあ……!」

過ぎたことにはこだわるまい。

むしろプラティのご両親にお見せするのに、ドワーフ渾身の装飾が施された豪華船は具合がいいではないか。

操船用の最低限のオークゴブリンと共に船に乗り込んで……。

「出航!」

俺たちは海へと乗り出した。

目指すは、人魚国の首都。

そこにプラティの両親、俺の姑、ジュニアのおじいちゃんおばあちゃんに当たる人魚王と、王妃様が待っている。

* * *

「私が旅に出ている間に、また凄いものを拵えましたな……!」

アロワナ王子が、みずからの乗っている船を見下ろしながら言う。

「そうでしょうそうでしょう」

俺もみずから拵えたものを褒められるので、喜びを押さえられない。

いや、装飾面はドワーフの力を借りたけど……。

「帆もなく、みずからの力で進む船。しかも外装はマナメタル製など、そんなものを所有しているのは世界広しでも聖者殿しかいますまい。私も多くの土地を回ったが、結局聖者殿の農場ほど驚愕の多い場所はありませんでした」

「んなこたーない」

ほめ過ぎですよ、お義兄さん。

他にも甲板では、ソンゴクフォンとアードヘッグさんが組手みたいなことをやって遊んでいた。

くれぐれも本気でやらないでほしい。天使とドラゴンが本気になったら船が砕けて沈む。

「でも……」

俺は根本的な疑問を口にした。

「このまま船で行って、人魚国に着けるものなんですか?」

普段アロワナ王子やヘンドラー、他の人魚たちが農場と人魚国を行き来する際は、人魚の姿で泳いできていた。

その光景から漠然と『人魚国は海の中にあるんじゃないの?』と考えていた俺である。

ハッキリ面と向かって聞いたことはないが。

しかしそれだと、ずっと海の上を進んでいく魔法蒸気船では、永遠に人魚国へはたどり着けないのではないか?

「ふふッ、心配無用だ。我々は順調に人魚国に到達しつつある」

「ここまで来たらぶっちゃけ聞いておきたいんですけど、人魚国って何処にあるんです?」

海底?

やっぱり海底?

「それこそ、ここまできたら着いてのお楽しみといったところだな。そろそろ見えてくる頃だろう」

「え?」

大海原をズンズン進んでいく魔法蒸気船ヘルキルケ号。

運航は船員として乗り込んだオークゴブリンに任せきりだが、彼らは彼らでアロワナ王子の指示によって、進むべき航路をしっかり把握しているらしい。

「聖者様ーッ! 目標の島が見えてきましたー!!」

「島!?」

島にたどり着くの!?

もしやその島が人魚国。

「人魚国は海上にあったのか!?」

「いや、違う」

アロワナ王子が否定するのでズッコケる俺だった。

「あそこはいわば、人魚国への陸の玄関口。人魚王族が所有する島。その名も楽園島だ」

楽園島。

俺たちはとりあえず、この島に着岸した。

* * *

「この島は……」

一目見て、率直に『綺麗だな』と感じられる島だった。

外から遠目に見ても、白い岩肌、それを覆う緑のコントラストが目に優しい。

いざ入港してみると、島には港と呼べるような人工的な施設があり、街としても整っていた。

接岸したヘルキルケ号に、兵士然とした人々が駆け寄ってきて整列する。

「アロワナ王子! 御帰還!」

「プラティ王女! 御帰還!」

鋭い大きな声で呼号する。

それに合わせて他の兵士たちもザッと足を踏み鳴らす。

「一同、敬礼!!」

「「「「「「おかえりなさいませ!!」」」」」」

また凄く盛大な出迎えだ。

「やれやれ仰々しいことだ。これだから普段は、こちらの島を使いたくないのだがな」

「アロワナ王子、この島は一体……?」

「人魚国が、魔国人間国など陸の勢力と交渉を持つ時に使う、いわば海上交渉施設といったところだな」

海上交渉施設?

「陸人は海中まで来られぬだろう? 人魚国も保安上、都の中まで陸人を入れたくない。そこで陸人の外交使節を迎えるための施設を、海の中でなく上へ作ったというわけだ」

それがこの島?

「プラティの結婚申し入れに来た魔国や人間国の使者も、ここで応対したのだ。おかげで警備や歓迎の人員が物々しくてな」

あれか……。

兵士さんたちはいまだにビッシリとした隊列を作り、歓迎の意を示している。

「人魚国の近衛兵たちだ」

「あれが……」

足があるってことは、地上人になる薬を飲んだってことかな?

地上からの賓客を歓迎するために、専門的に訓練したのだろう。

「アロワナ王子!」

「「「「「未来の人魚王よ!!」」」」」

「我々はアナタのお帰りをお待ちしておりました! プラティ王女!」

「「「「「人魚国の俊英!!」」」」」

「アナタの才能は、人魚国の宝! その美貌を再び拝することができて幸せにございます!」

「「「「「幸せにございます!!」」」」」

練習したんだろうなあ。

耳に突き刺さるほどの大号を続ける人魚国の近衛兵に対して……。

プラティが魔法薬を投げつけた。

「「「「「うぎゃあーーーッ!?」」」」」

爆発した。

「プラティ!? 何やってるの!?」

「煩いのよ! 赤ちゃんがやっと寝たばかりなのに! 我が子の安眠を妨げるヤツは誰であろうと殺す!!」

たしかに、あんな大声で叫び回ったらジュニアのお昼寝を妨害してしまうな。

うむギルティ。

プラティ自身、ここ数日ジュニアの夜泣きが酷くてあまり寝れていないから不機嫌だった。

それでも爆炎魔法薬を投げ込む容赦のなさ。

彼女が故郷で魔女呼ばわりされる理由がわかった気がした。