軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

288 若者たちの日々

キノコ作り→マタンGO遭遇→キノコたけのこ戦争→カカ王とチョコレート作り。

という取り留めもない一連イベントが済んで、一段落。

ここからは再び、農場へやって来た若手留学生たちにスポットを当ててみよう。

今一番フレッシュな連中だからね。

留学企画で集められた魔族人族の若者に加え、マーメイドウィッチアカデミア農場分校の人魚生徒たちと、今農場はこれまでにないレベルでフレッシュだ。

俺がキノコたけのこカカオに振り回されていた間、彼らも農場での生活に慣れていったはずだ。

そろそろ緊張も解けて個性を発揮し始めてきたんじゃないかな? という彼らの日常を覗いていこう。

* * *

まずは、魔族の若い子たちから。

「こらー! アンタたち! 服はちゃんと扱いなさい!!」

バティが珍しくご立腹だった。

魔族留学生の、また一段といい加減そうな子たちに怒鳴っているらしい。

彼女らは一体何をやらかしたのだろうか?

「脱いだ服は、ちゃんと籠の中に入れておけって言ったでしょう! 品質ごとに分類して! 合わない洗濯の仕方したら傷んでしまうんだから!」

我が農場の被服担当であるバティは、洗濯にも一家言あって煩い。

洗濯の仕方一つによって生地が痛んだり、変色したり、縫い上げた直後の最高品質が損なわれてしまう。

それは職人バティにとって耐えがたいことなのであった。

しかし、まだ十代の若者たちにとって、そんなプロの拘りも理解の外。

「ええぇ~、でも服なんていちいち畳むの面倒だしぃ~?」

「お姉さんが勝手に片付けといてよ。そのためにいるんでしょう?」

相手は、今なお生意気さが抜け切れていない問題児であるようだ。

バティに対しても舐め腐った態度を取りまくり。

「大体さ、アタシたちにそんな口の利き方していいと思ってるの?」

「オレたち、こう見えても魔王軍の期待の若手なの。エリート候補ってヤツ」

「洗濯女が対等にできる相手じゃないっていう……!?」

……。

若者たちは、バティのことを単なる家事手伝いと思い込んでいるらしい。

衣服を縫い、洗濯に拘る彼女を誤解しても仕方ないのかもしれないが……。

「アタシたちは、いずれ出世して高い地位に就くの。四天王補佐にだってなりえるんだから」

「そのために一秒だって無駄にはできないわけよ。余計なことはアンタみたいな家政婦さんに任せておきたいわけ」

これは酷い。

因果応報が必要だなと思ったので、止めずに見守るのみ。

若者たちの世間知らずな言動に、バティのヘイトは着実に上がりつつある。

「大体、服なんて汚れりゃ捨てればいいじゃん。チマチマ洗うなんて貧乏くさいよ」

ブチッ。

と何かが切れる音がした。

「図に乗るなクソガキどもがぁ!!」

「「「うぎゃああああああ~~~~ッ!?」」」

キレたバティは一瞬のうちに生意気な若手たちを空中で何回転もさせた。

バティがブチ切れるところなんて初めて見たが、やっぱり服に関することが引き金になるんだな。

「しかしやっぱりバティも強いんだな」

今は裁縫師の夢を叶えているが、元は四天王補佐。

魔王軍の最強ランクに属していても何ら不思議はない。

半人前の若造二、三人ブチ転がすぐらい造作もないことだった。

「聖者様! 聖者様!!」

覗いていたのがバレた。

ボロボロの若手魔族たちを引きずりながらこっちに来る。

「コイツらには、もっと根本的な教育が必要です! 私にさせてください! コイツらを立派な大人に鍛え上げてみせます!!」

舐めた相手が悪かったなあ。

こうして留学生たちは、バティによる生活全般の指導を受けることになった。

行儀作法が、これでしっかり身についてくれたら幸いだ。

あとで聞くところによると、バティも魔王軍ではそれなりに伝説を持った人物らしい。

その本名を聞いた若手魔族たちは、揃って震えあがった。

「ま、『魔犬』バティが何故こんなところに……!?」

「この農場じゃ、甘く見ていい相手は一人もいないってこと……!?」

誰であろうと敬意をもって接してください。

* * *

また、こんな話もあった。

ノーライフキングの先生の授業中の話。

『これこれ、授業に関係ないものを出してはいかんぞ?』

注意を受けたのは人族の生徒で、何やら肖像画みたいなのを机に置いていた。

「す、すみません!!」

『誰の肖像画じゃ? 何やら随分男前だが?』

肖像画に描かれているのは若い男性で、しかもかなり美化の痕跡が見られた。

「は、はい! その方は私が一番尊敬する方です! お姿を見ながら勉強したら一層身が入ると思って……!?」

見咎められた人族少女は、消え入りそうなぐらい畏まっていた。

「ああ、聖トマクモアの肖像画か?」

隣にいた人族少年――クラスメイトといったところか――、が肖像画を見て言った。

「トマクモア? 誰それ?」

授業を見学していた俺も思わず口を挟んでしまう。

「人間国の伝説的人物ですよ。もう何百年も昔の人です」

歴史上の人物ということか。

伝承によれば高位の神官であったが、教団の利己的な体質に疑問を感じ、批判を続けてついには破門されてしまったという。

その反骨、高潔の生き様が後世にも伝わり、人気を呼んだという。

「所謂アングラ的な人気でしたけどね。人間国を道徳的に支配する教団は、自分たちに逆らった聖トマクモアが存在したことすら認めませんでしたから」

と事情通らしい人族少年は訳知り顔で言う。

「教団がのさばっていた頃の人間国では、アイツらが『ない』と言ったものは本当に存在しなくなるんです。でも、そんな教団に不満を持つ者の間では、聖トマクモアは象徴として心の中に存在し続けた……」

そして魔族によって人間国が滅ぼされ、教団も壊滅させられた今、聖トマクモアはついに公に存在を認められた。

それどころか腐敗した旧権力に反逆し続けた硬骨の士として、急激に人気が上がっているという。

『……ほう、なかなか骨のある人物だったようじゃのう』

「先生! 先生はアンデッドだからずっと昔から存在しているんでしょう? もしかしたら聖トマクモアにも会ったことがあるんじゃないですか!?」

もしそうなら、どんなに素敵なことか。生の歴史の話が聞ける。

若手人族たちの表情が期待に輝いた。

『すまんが、ワシは不死となってからほとんどダンジョンに篭っておったゆえ、人間国の歴史にはそう詳しくないのじゃよ』

「そうなんだー、残念」

『そのトマクモアとやらの逸話は他に何かないのかの?』

それでも優しい先生は、生徒たちの期待に応えて何でもいいから思い出そうとする。

「聖トマクモアについては、生前の記述は教団が率先して抹消してきましたから、あまり詳しいことは……!」

『そうか……』

「あ、でも一つだけ、謎めいた最期のことだけがハッキリ伝わっています!」

『最期?』

聖トマクモアの最期。

それは病死や事故死ではなく、もっと異様な死に方だったという。

ある時、聖トマクモアは呪いの剣に魅入られたのだという。

剣の呪いに蝕まれた聖人は精神を病み、剣を抱えてどこかへと消えていった。

そして二度と帰ってくることはなかった。

「呪いに蝕まれるなんて聖トマクモアが本物の神官じゃない証拠だって、教団もこのエピソードだけは進んで触れ回ったんです。逆に、聖トマクモアを煙たがった教団が、排除のため呪いの剣を送り付けたって説もありますが……」

『…………』

その物語に、俺と先生は顔を見合わせた。

何やら猛烈な記憶の繋がりを感じたが、先生も感じているようだった。

『……それってワシじゃね?』

「「「「「え?」」」」」

ですよね。

俺もそう思った。

先生は、邪聖剣ドライシュバルツに精神を乗っ取られて、この地の果てまで来てアンデッドになられたんですよね?

『あー、あー、言われたら何となく記憶が甦ってきた。そうか、ワシの名前はトマクモアか。千年ぶりに思い出したわ』

アンデッドとして長く存在しすぎたせいで、生きていた時の自分のことすら忘れ去ってしまった先生。

今、その記憶を僅かながらに取り戻した。

「えーッ!?」

「先生が聖トマクモア!?」

「反教団の義士! まさか本人にお会いできるなんて!?」

生徒たちからの――、特に人族からの尊敬の念が益々上がる先生だった。

ちなみにだが、このエピソードの発端である肖像画に描かれていた聖トマクモアは、先生本人とは似ても似つかなかった。

当然アンデッド状態だからというのもあるが、それ以前の生前の姿ともまったく別人。

前に風呂で生きてる頃の姿に戻ったのを見たことあるからわかる。

まあ、歴史上の人物の肖像なんて、大抵そんなもんなんだろうけどさ。