軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

278 異種格闘戦

こうして始まりました、農場で学ぶ人族と魔族の代表選。

どっちの種族が上かを決めるための勝負なんですって。

くだらない。

くだらないが。

くだらないことに何より拘るのが若さの特権なのだろう。

このたび留学してきたのは、次世代教育を施すため若者ばかりだから。

今までにない類の人間トラブルも起こってしかるべきだ。

あるからな、若さゆえの過ちが。

……。

ってその言い方だと、これまで農場にオッサンオバサンしかいなかったみたいじゃないか!?

少なくとも二十代はまだ若者!

三十代も! ギリ!!

「下等な人族め! 貴様らの分際を骨身に教え込んでやる!」

魔族側の代表はいつものエリンギア。

今なおバリバリに魔族優越主義を貫く硬骨の士。

他の同じような優越主義魔族は、ヴィールとホルコスフォンの超絶バトルを見てすっかり鼻っ柱をへし折られたというのに。

一人だけまだ元気。

対する人族側の代表は……。

「……なんで僕?」

リテセウス。

さっき俺とのやりとりで才気を見せつけたせいだろう。

すっかり注目が集まって押し上げられた。

エリンギアvsリテセウス。

互いの種族のプライドを賭けた戦いが始まる……!

* * *

「戦いたくないです……!」

リテセウスが半泣きで訴えてきた。

既に心が折れている。

「僕、ここに来るまではただの侍従だったんですよ!? 戦いなんてしたことありませんよ!?」

「大丈夫、キミならできる、ゼッタイ」

根拠のない励ましを言う。

「向こうだって似たようなもんだ。魔王軍と息巻いているけど所詮ド新人で実戦経験ないんだって」

『コラー! 聞こえてるぞー!』と向こうからヤジ。

エリンギアだ。

「大体なんで貴様はそっちにばかり肩入れするのだー!? 不公平だ! やっぱり人族の味方なのか!?」

「種族関係なしに傍から見れば誰でもリテセウスくんの味方するでしょう?」

周囲の観戦者が、種族関係なしにウンウン頷いた。

「クソッ! 私が孤立無援か!?」

「性格と態度が敵を作りだすんですよ」

二人はそれぞれに剣を模したものを握っている。

竹刀だ。

こんなこともあるかとダンジョン果樹園から取った竹で作っておいた。

「この竹刀で打ち合う勝負だ」

『真剣だったら致命傷』と判断できる一撃が入ったら勝負あり。

判断は俺がする。

アイアム審判だ。

「クックック……、種族的優位性を思い知らせてやる。どんな形の勝負でも魔族が人族に負けることなどないのだ……!!」

エリンギア、舌なめずりしながら相手に向き合う。

まるで獲物を狙う猫みたいだ。

リテセウスは追い詰められたネズミのように震える……。

……かと思いきや。

「…………」

「……? どうした?」

「キミ可愛いね」

「はあッ!?」

そう、これまで言及してこなかったがエリンギアは女の子。

魔族ならではの妖艶な色気が、年齢相応に開花しかけている青い果実だ。

しかし……。

「勝負の場でいきなりナンパしだした……!?」

これまで順調に上がっていた周囲からリテセウスへの好感度が、ここで一気に暴落。ストップ安。

「ちッ!? 違いますよ!? 一目見た感想を述べたまでで……!」

「リテセウス負けろー、死ねー」

ホームがアウェーに様変わり。

舌禍は本当に恐ろしい。

何より言われた当人は、顔を真っ赤にして……。

「真剣勝負の場でなんと破廉恥な……! やはり人族は愚かな種族……! ここで根絶してやる!」

まだ勝負開始とも言ってないのにエリンギアが竹刀で斬りかかってくる。

「斬り殺してやるぁーーーーーーーーッ!!」

いや、竹刀で斬殺は無理ですが。

エリンギアの身捌きは、いかにも訓練で身についたような型通りのものだった。

ド新人の実戦経験不足という俺の見立ては間違っていなかった。

しかし、あの動きを彼女に叩きこんだのは魔王軍。

今や地上最強の軍隊が蓄積した人殺しのノウハウだけに、それを仕込まれたらヘタにケンカ慣れした者より鋭い。

これを素人に対処しろとは無理すぎる。

リテセウスが滅多打ちのボコボコにされる様が誰の脳裏にも浮かんだ。

しかし……!

「え!?」

上段から振り下ろされるエリンギア側の竹刀を、リテセウスの竹刀が受ける。

切っ先三寸の理想的な部分で触れて絡め取る。

思わぬ方向から力を加えられて、エリンギアは手から竹刀を放した。

「ええええッ!?」

そのことに驚いたのも悪かった。

戦闘中に動揺を起こし、隙だらけとなるのは魔王軍の軍人としてはありえないことだ。

おかげで改めて繰り出されるリテセウスの竹刀に何の反応もできなかった。

「勝負あり」

エリンギアの喉元で寸止めされた切っ先を確認して、俺は宣言した。

寸止めはリテセウス側の気遣いだろう。

「おおおーーーーーッ!? 勝ったーーッ!?」

「信じられないことに勝ったーーッ!?」

「大番狂わせーッ!?」

周囲も思っても見ない結果に大盛り上がり。

「そんな、私が負けるなんて……!?」

受け入れがたい結果に腰砕けとなったエリンギア。

へなへなと崩れ落ちて女の子座りになる。

「ウソ、勝ったの……!?」

そして勝った当人が一番ビックリしていた。

竹刀をまだ放さずに呆然としている。

そんな彼に俺は歩み寄る。

「よくやったよリテセウスくん。でもなかなかズルい戦法を使うな?」

「え?」

そりゃそうだよ。

戦いなんてしたことない、まったくの素人ですと言いながら。

エリンギアの攻撃を制したあの動きは完全に玄人のものだった。

「つまり相手の油断を誘うためにわざと素人のふりをしたんだろう?」

勝利のためにウソすら平気でつく。

そのダーティなまでの徹底ぶりに痺れる憧れる。

もしや勝負の直前に『可愛い』呼ばわりしてきたのも、相手の動揺を誘うための挑発だったのでは?

「そんなことないですよ! 僕、本当に素人です! 剣なんか握ったことないです!!」

「え?」

「体が勝手に動いたんですよ! どういうことなんですか!? わからな過ぎて怖い!?」

「え?」

「えッ!?」

どういうことだ?

リテセウスは本当にズブの素人? あんな玄人はだしな動きができたのに?

「じゃあ、『可愛い』とか言ってた挑発は……!?」

「あれは本心です」

「チッ」

思わず舌打ちが出た。

何となく始まった我が農場、全種族若手育成事業。

なんかとんでもない逸材を迎えてしまったらしい。

「勘違いするなよッ!!」

そして敗北者エリンギアが涙目でがなりたてていた。

「たった一回勝っただけで自分が上などと思うなよ! これは偶然だ! まぐれ当たりだ!! お前より私が優れていると、これから必ず証明してやるからな!!」

これまたわかりやすい負け惜しみだった。

稀に見る才気を溢れさせるリテセウスと、これまた一つ一つわかりやすいリアクションをとるエリンギア。

これもまた一つのパターンだなと思った。