軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

249 染み出す酒

春になってまず行ったこと。

果実酒、薬草酒の試飲だ。

秋ごろ、酒神バッカスが作り上げた蒸留酒に様々な果実や薬草を漬け込んで、その味が酒に染み混ざるのを期待していた。

それが一冬越して、ついに飲める状態になったはずだ!

はずだ!!

普通だったら梅雨前の時期に漬けて秋頃に飲むのが果実酒のセオリーだろうが。季節感がないのは勘弁してくれ。

そんなわけで俺たちの前に並びました、色とりどりの酒たち。

定番梅酒を筆頭に、リンゴ酒、レモン酒、桃酒、ビワ酒、オレンジ酒、キウイ酒。

プラティたちが特別調合した薬草酒も多彩だ。

皆、ぶち込んだもののエキスを芯から吸い取って、通常の酒にはない独特の色合いを示している。

「……これ、一口ずつでも一度に全部は飲み切れないぞ……!?」

とりあえず一番大量に作った梅酒を皆で飲んで大いに盛り上がる。

「うめー! 梅だけにうめぇー!!」

「水で割るとさらに飲みやすくなるぞ!」

「漬けておいた梅の実も美味しい!」

「あとでジャムに加工するから全部食べないでねぇー」

概ね好評のようだ。

これもまた我が農場の定番メニューとして恒常的な生産を決定しよう。

「聖者よ、聖者よ」

ほろ酔いいい気分になっていたら呼び止められた。

酒神バッカスから。

「他の漬け置き酒の成果も見ておきたい。一緒に来てくれないか?」

今や、我が農場の酒造部門責任者としての地位を確立したバッカス。

彼が言うには、造った漬け置き酒は何十種類にも及び、酒盛りで表に出したのは、ほんの一握りだという。

いわゆる安牌の。

「確実に美味いとわかる酒ばっかっす!」

まあ、賢明な判断だ。

どんな漬け置き酒を造るかを農場内で公募したところけっこう無茶ぶりな案も出てきたが、バッカスはそれらを厭うことなく全部実行してみた。

どんなバカげた方法からでも奇跡の一作が出来上がる可能性はゼロではない、という信念から。

その覚悟のほどは、さすが酒の探究者というべきか……。

「でも、さすがに外れにしかならなそうなものもあったでしょう?」

ホルコスフォン発案の納豆酒とか……。

「失敗は成功の酵母……。チャレンジ自体は問題ないことだ。しかしそれでも問題があってな……!」

「え? 何?」

「これなんだが……!?」

バッカスに酒蔵を案内されて、示されたものに俺、度肝を抜かれて心底ビビる。

バカでっかい酒瓶であった。

見上げねばならないぐらいの高さをもった大瓶。

どうやってこんなデカい瓶を作り上げた!?

そこから謎だが、最大の謎は容器よりもその中身だった。ガラス瓶だからもちろん内部の様子は透けて見える。

大瓶の中にはなみなみと注がれた酒、多分焼酎。

そしてその中に浮かんでいる……。

「ドラゴン!?」

ドラゴン酒!?

誰だそんなもの作ろうとしてるヤツは!?

ハブ酒みたいなものと混同しているのか!?

「ヴィール!? ヴィールーーーーーーーーッ!?」

俺は瓶を叩いて中のヴィールに呼びかける。

本気で何をしとるんだコイツは!?

「呼んだかご主人様?」

「きゃーーーーーーーーーッッ!?」

背後から呼びかけられてビックリした!?

「え? ヴィール!?」

人間形態のヴィールが普通にいた。

背後から呼びかけたのはコイツ。

「え? じゃあこの瓶の中のドラゴンは!? 誰!?」

瓶の中にドラゴン。

瓶の外にもドラゴン(それはヴィール)。

我が農場にいるドラゴンと言えばヴィール以外にいるわけがない。

なので俺も、大壜の中にいるのが無条件にヴィールだと決めつけていたわけだが。

「瓶の外にヴィールがいるってことは、瓶の中にいるドラゴンはヴィールじゃない!? え? 誰!? 本当に誰!? ……あ、ヴィールの分身!?」

前にそういうことやってたもんな!

実体をもった分身を作って山ダンジョンを守護させたり! またその分身なんだろう?

「いや、コイツはおれとは別の個体のドラゴンだぞ?」

「ええええーーーーーーッッ!?」

「そういや紹介してなかったっけ? じゃあいいや。紹介しておこう」

ヴィールは瓶をゴンゴン叩く。ノックするかのように。

「シードゥル。ウチのご主人様が興味あるそうだ。出てきて挨拶しろ」

『アラいいんですのお姉さま? まだ入ってから二ヶ月しか経っておりませんわ?』

「一時、顔を出すぐらいかまわんだろ」

生きてるううううううううッ!?

ドラゴンなら何でもありで、全身酒浸りになりながら密封されてなお生きてても驚くに値しないかもしれないが、生きてるうううううッ!?

『どっこらせ、久々に外の空気ですわ』

瓶の蓋を開けて、酒漬けになっていたドラゴンが瓶から顔だけ出してくる。

『アナタがヴィールお姉さまのご主人なのですね。わたくしはグリンツェルドラゴンのシードゥルと申しますわ』

「は、はあ、どうも初めまして……!?」

あまりにも素っ頓狂な状況に、返事するぐらいで精一杯だよ。

酒に漬けられていたドラゴンがフツーに酒から顔を出して、いかにも丁寧に挨拶してくる……!?

「あの、初めまして……、ですよね?」

『ええ、お会いするのは初めてですわ。それが何か?』

なんで会ったこともないドラゴンが、俺の農場で酒に漬けられとるんだ!?

密室殺人に遭遇したレベルのミステリーなんですけども!?

「それについては、おれから説明しよう」

訳知り顔で割って入るヴィール。

わかってるよどうせお前が元凶なんだろう!?

「あれは、何でもない冬の昼下がりのこと、おれは暇で暇で仕方なくなってな……」

「ん」

「そこで暇潰しに、他のドラゴンの邪魔しに行くことにした」

!?

そう言えばコイツらドラゴンは、なんか次の竜の王? とやらを決めるために現役の竜王から試練を課せられてるんだっけ?

他のドラゴンを邪魔して、試練を失敗させたら競争相手が脱落してお得というわけか。

狡いな。

「それで、あちこち飛び回ってみたら、このシードゥルと遭遇してな。ちょうどいい早速邪魔してやろうと接近したら……」

向こうは迎え撃つどころか、縋りついてきたという。

『たすけてください、お姉さまああああッッ!!』と。

『だって、わたくしに与えられた試練、無茶振りなんですもの……! ドラゴンと言えども絶対達成できません……!』

「ど、どんな試練だったの?」

あまり聞きたくはなかったが、それでは話が進まないので先を促すより他ない。

『アンブローシアという果実を取って来い、という試練なのです』

「いやー、取ってくればいいんじゃない?」

果実?

ドラゴンなんだから果物の一個や二個ゲットしてくるなんて朝飯前だろう?

「それがそうもいかんのだご主人様」

ヴィールが補足するところによると。

「アンブローシアはとっくの昔に絶滅していて、地上のどこにもない果実なのだ」

「無理ゲーではないか」

いくらドラゴンでも、既に消え失せてしまったものを探し出すなんて不可能だろう。

『そこで途方に暮れて彷徨っていたところをヴィールお姉さまにお会いしたのですわ。わたくしもう、頼る方が誰もおらずに弱り切っておりましたので、つい嬉しくって……』

抱きついて泣き明かしてしまったと。

「おれもあんまり豪快に泣かれるので、これ以上追い詰められなくなって……」

最初の目的が妨害だったのに初志が貫けてないじゃないか。

「で、思い出したのがご主人様のことだ。ご主人様は何もないところから種も撒かずに木や草を生やしたりするだろう?」

ああ。

『至高の担い手』の効力の一つとしてな。

ホント万能だからな、このギフト。

「そんなご主人様なら、滅びたアンブローシアも出芽させて実が成るまで育てられるんじゃないかなあ、と思って連れてきた」

なるほど、このシードゥルさんとやらが農場にやってくるまでの経緯はわかった。

しかし何故酒の中に浸かっていたのかがわからない。

どうしてこうなった!?

『高貴なるドラゴンのわたくしが、ニンゲンなどに借りを作るわけにはいきません! 下等生物の人の子などに!!』

言葉使いは礼儀正しいけど、こういうとこやっぱりドラゴンだなって思った。

最強生物としてナチュラルに傲慢というか。

『なのでまず、こちらの願いを聞き入れさせる前に充分な謝礼を用意しようと思いましたの!! でも、ヴィールお姉さまを従えるほどのニンゲンですから、大抵のことは満たされてると思いまして……』

「で、その時ちょうど漬け置き酒で盛り上がってただろ? だからドラゴンを漬けた酒でも用意してやれば喜ぶんじゃないかなーと思って」

『そうヴィールお姉さまから伺い、早速酒の中に浸かってみることにしましたの! 半年そこら酒の中でジッとしてたとしても、ドラゴンにとっては何の苦痛でもありませんし!』

「おれはそんなに長い間ご主人様と遊べないのは嫌だしな」

それでこんなことに……!?

何故気づかなかったのか……!? そう言えば俺冬の間は漁だったりオークボ城のアトラクション準備で留守がちだったからなあ!!

留守中に訪問されてたなら気づかないのもしょうがないっていうか、というかヴィール報告しろよ!

そんなことをコイツに期待するだけ無駄か!!

『そんなわけで、まだ漬け始めてから二ヶ月も経っていませんので、さらに頑張る所存ですわ! 完成の暁には是非ともアンブローシア栽培の善処を!!』

「ドラゴンを漬けた酒って、おれも興味あるから楽しみだぞー。そうだご主人様? 今のうちにちょっと味見してみね?」

完成前の漬け置き酒を味見するほど粗忽なことはないが……。

ドラゴンを漬けた酒。

どんな味か興味はある。

やはりハブ酒みたいなんだろうか?

シードゥルの浸かった酒を一掬いだけ、口に運ぶ。

「うまああああああああああああああッ!!」

なんだこの酒はあああああああッ!?

美味い! しかもそれだけではない! 体中が煮えたぎるような熱さに包まれ、力がこみあげてくるううううううううッ!?

どんな酒でもここまで強力なパワーは宿らない!

やはり竜酒!

最強の酒だああああああッ!?

「ああ、聖者よ。ドラゴンを漬けた酒は迂闊に飲まない方がいいぞ」

我関せずと他の酒の出来栄えをチェックしていたバッカスが、ことのついでみたいに言った。

「不老不死になるから」

「なんで飲み終わってから言うの!?」

やはりドラゴンが絡むとどんな品物でも突き抜けてしまう。