作品タイトル不明
214 ありあまった金で
「というわけで……」
新四天王のレヴィアーサが、来るたび特大の報せを届けてくる。
「エルロンさんたちの作った食器は、魔都で大変もてはやされています。大流行です」
「「「おっしゃー!!」」」
エルロン班、熱狂。
他の班が順調に評価される中で取り残されたと感じていた彼女たちだから、喜びはなお一層だろう。
「これまで魔族たちの間では、『食事はただ栄養を摂取すればいいもの』『器も同様』という概念でしたから、エルロンさんたちの作る見た目にも刺激的な食器が珍しがられたようです」
なるほど。
「上級魔族を中心にもてはやされるようになり、高値での取引が連続しています。陶工ギルドも触発されて同じような食器を作っていますが、思うように色が映えなかったり、歪んだ形のせいで割れたりと苦戦しているようですね」
「当たり前よ! 我々の技術を簡単に真似しようなど片腹痛し!!」
エルロンが調子に乗っている。
「私たちが焼いた皿は、エルフが代々蓄積してきた技術に聖者様の英知が重なった大傑作! 魔族ごときでは千年かかっても追いつけぬわ!」
「エルロンさん、少し自重して」
たしかに俺も釉薬の調合に協力したり、陶器の形に注文つけはしたけど……。
「とにかく今、魔都では『ファーム』製の食器でオシャレな食事を楽しむことが大流行となっていて、飛ぶように売れています」
ああ。
ウチから出た製品につけてるブランド名。
一応種類を問わず全品に行き渡ってるんだね。
「バアル様のお墨付きをもらったあとはパンデモニウム商会に託して大々的に販売し、プレミア値段のままでガンガン売れています。……で、ハイこれが」
これまた大きな革袋を……。
「今回分の代金です」
「「「すげええええーーーーッ!!」」」
いつもながら物凄い儲けているな。
レヴィアーサはエルフたちの作品を持っていくたびに物凄い量の金貨に変えて戻ってくる。
その金貨の山に、エルフたちは瞳まで黄金色に輝かせていた。
「こんな量の金貨……!」
「盗賊だった頃ですら見たことない……!」
「だって、こんなにたくさん抱えて逃げられないし……!」
エルロン班だけじゃなく、革製品のマエルガ班、ガラス製品のポーエル班、木工製品のミエラル班も双方に高値で売れまくって、相当な額が貯まっているはずだった。
彼女らの努力が評価されたのはよいことだが……。
「こんなにたくさん儲けて……!」
エルフたちは、それぞれが得た金貨を一所に集めて山積みにしてみた。
これまた見上げるような黄金の山ができあがった。
「何に使おう……!?」
「それよね」
そしてまたなんか新たな問題へとぶち当たった。
お金。
それは天下の回り者。
手元に入ってきたら、その分手元から出ていくシステムになっている。
そうして貨幣は循環し、経済は回っていくのだ。
しかし。
ここ、我が農場では市場経済の摂理は通じない。
何故か?
衣食住、ここで生産されているものですべて事足りるからだ。
「美味しいもの食べたーい」
「聖者様が作ってくれる料理が世界で一番美味しいだろ?」
「綺麗な服着たーい」
「バティのヤツが縫う服が着心地もいいしオシャレだよ」
「立派なお屋敷に住みたーい」
「エルフは森に住むことが誇りの種族なんだよ!!」
てな感じで、有り余る金銭の使い道が一つも浮かんでこないらしい。
俺としても、我が農場では自給自足がモットー。
食うもの着るもの使うもの。寝起きする家も全部ここで自作したい工夫したい。
という目標の下に農場を築いてきたので、その住人たるエルフたちもそうした結論に達してくれるのがむしろ嬉しいというか……。
必要なものは全部ここで作る。
「ウチの農場、買うって発想がないんですよ!!」と常にドヤ顔で言いたい俺だった。
だからエルフたちが儲けた金の使い道に困るのも当然至極。
彼女らより先に市場に乗り込んで、しこたま儲けたバティも最初お金の使い道に困っていたようだし。
彼女は、自身の領分であるファッション関係の資料を買い漁ることでお金を消費していたようだが……。
「それ、もうしていませんよ」
「え?」
バティの相方、ベレナから唐突に言われた。
「あやつ今、衣服を売り捌いて得た報酬をひたすら貯め込んでいますよ」
「貯め込んでどうするの?」
「結婚資金……」
……。
あの例の、魔国にいるって言うエリート軍人さんと?
言うだけ言い終わったベレナは、無表情のまま去っていった。
……あの子も相当キャラが迷走してるなあ。
バティの方は有効な使い道が確立されてるからいいとして、エルフたちはこの金貨の山をいかにして崩していくつもりか?
「聖者様……!」
「我々、相談して考えたのですが……!」
エルフを代表して、エルロンとマエルガが俺の下へやって来た。
彼女らは、元々エルフ盗賊団の頭目と副頭目で、ウチに住んでいるエルフの代表というべき存在だった。
彼女らは昔、魔国や人間国を荒らし回る盗賊団で、追手から逃げ回った挙句地の果てである我が農場へとたどり着き、そこでも盗みを働こうとして捕まった。
償いとして家で働くようになった。
それが彼女たちのウチに住み込むようになった経緯。
最近忘れそうになるが。
「聖者様は覚えているか? 我々が盗賊となったきっかけ。前に話したと思うが……?」
「ああ、元々キミたちが住んでいた森が枯れて消えてしまったんだろう?」
エルフは森の民。
森なくしては生きられない。
森が枯れ、住む場所を失ったエルフたちは生きるために盗賊となるしかなかった。
と。
「あとで聞いた話なんだが、人族の使う法術魔法は自然の循環マナを大きく消費して、自然に悪影響をもたらすものがあるらしい」
「私たちの森が滅びたのも人族の影響によるものならば、魔族によって人間国が滅ぼされ、法術魔法が途絶えた今なら悪影響も消え去っているはず」
「枯れ果てた私たちの森も、これから復活するかもしれない!」
なるほど。
人族の魔法が消え去って、収奪された自然マナが地表に戻ってくることにより、人間国の荒れ果てた大地が復活するかもしれないと。
「ならば、その手助けにこの金を使いたい!」
ほう。
「これだけのお金があれば、何かできると思うんだ! 私たちの生まれた森を復活させる手助けが!」
「自然に任せるだけなら数百年とかかるかもしれませんが、人が助ければもっと早く復活できるかもしれない! それをこの大金で促せてやれるなら!!」
それはいいお金の使い方なんじゃないかな?
枯れた森を復活させる方法として真っ先に思い浮かぶのは、当然植林だろう。
木の苗を植えて、育ててやるのだ。
人の手で成長を促してやれば、枯れたりすることなく順調に育っていき、自然に任せるよりある程度早く枯れた森を復活させることができるだろう。
「そのためには苗を育て、植林する人手が必要だが……」
そういう人を雇う費用として、エルロンたちの稼いだお金をつぎ込めば、それは健全な散財と言えるのではないか?
「植林!」
「さすが聖者様! よいアイデアが湯水のように湧いてくる!」
説明したところ、エルロンたちの反応も良好だった。
我が農場エルフチーム出資、エルフの森復活プロジェクト発足だ!
いいお金の使い方を思いついたものだ。
「じゃあ、植林の主導は誰が行うんだ? エルロンたちみずからやる?」
「まっさかあ。そのためには農場から離れないといけないじゃないか。絶対嫌だね」
…………。
エルロンたちもすっかり農場に住み慣れてしまった。
「美味しいごはんが毎日食べられて、やり甲斐のある仕事もある。ここはまさしく天国だ!」
「森が恋しい時はヴィール様の山ダンジョンに入ればいいですし!」
すっかり里慣れして野性を失ったエルフ。
まあいいや。
俺としても今エルフたちにいなくなられたら困るし。
「とすると、実行を請け負う人が他にいるわけだが……」
そこで俺の視界に入ってきた……。
最近とみに有能であると印象付けられる新四天王のレヴィアーサ。
彼女は、一連の働きを評価されて下賜された俺特製ご褒美プリンを美味しそうに頬張っている最中だった。
「有能!」
「私のこと名前で呼ぶ代わりに『有能』って言うのやめてくれませんか?」
彼女は四天王。
人を使うことに関しては彼女以上に適役はいまい。
魔王軍は、人族との戦争が終わって人員を持て余しているというし。ダブついた人手を有効利用できる上に、費用は別口から出てくるということで双方winwinではないか?
「………………」
それに対してレヴィアーサは、言葉はなく、ただひたすら酸っぱそうな表情をもって応えた。
その表情が黙して語るところは間違いなく……。
『……面倒くさい』
……だった。
さすがに植林なんて大事業だし、品物売り捌くより百倍大変か。
「…………エーシュマ」
「はいッ!?」
そこでレヴィアーサ。農場で修行期間中のもう一人の四天王、エーシュマに話を振る。
「お前がやればいいと思う、植林作業」
「なにいッ!? 仕事を他者に譲るとは、何を企んでいる!?」
「これからの四天王は互いに協力していくべきだと思わないか? 私は既に充分な手柄を得た。今度はお前の番だ」
「レヴィアーサ……!」
それを真に受けて、エーシュマは感涙に震える。
「すまない……! 私はお前のことを誤解していたようだ。てっきり私が乗せられやすい性格だと知っていて思い通りに操ろうとしているのかと……!」
そこまでわかっていながら何故疑わない?
「いいのだ。新人四天王同士、これから理解を深めていけばいいのだ」
「ありがとう。お前に代わってこの任務、必ずやり遂げて見せる!!」
こうしてエルフ出資、エルフの森復活植林作業はエーシュマの主導で進んでいくことになった。