軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209 四天王ホームステイ

こうして新四天王の一人、エーシュマが住み込むことになった。

期限付きで。

魔王軍で位人臣極めるような人が、ウチで生活することで改めて何か学べるのだろうかということは甚だ心もとないが。

少しでも何か得るものがあるのだとすれば幸いだ。

* * *

『ガハハハハハハハ! 争いだー!!』

なんかヴィールがドラゴンの姿に戻って暴れていた。

相手はホルコスフォンだった。

天使の翼でヒラヒラ宙を舞い、ドラゴンブレスを華麗にかわしている。

『昨日の下等種族どもの争いを見ておれも体がうずいたのだー! 戯れにつき合え鳥女ー!』

「手早く済ませていただきたいです。今日はひきわり納豆に挑戦する予定ですので」

納豆作りに心血を注ぐホルコスフォンは、それを邪魔するヴィールに割と本気でマナカノンを叩きこんでいる。

攻撃に憎悪が宿っていた。

「ど、ドラゴンが……! ドラゴンが戦っている……!」

その様子を見てエーシュマが膝から震えていた。

そんなに驚くことかな?

「ヴィールは以前、魔王軍と人族軍の戦場に乱入した前科もあるし。いることは予想できてたでしょう?」

「予測できても受け止めきれない衝撃はあります!」

言いたいことはわかる。

「ドラゴンだけでも受け止めきれないのに! 何ですかあの翼の生えた何者かは!? ドラゴンと互角に戦ってるじゃないですか!」

「ホルコスフォンは天使っていう、昔いた種族だよ。ドラゴンと互角の力があるらしい」

「互角!?」

「それよりも農場を案内しよう。キミに合った仕事を見つけないと」

「それよりも!? 争うドラゴンたちをなんとかしなければでは!? このままだと争いに巻き込まれて世界が滅びかねませんよ!!」

「飽きたらそのうちやめるよー」

実際には飽きるより前に納豆作りしたいホルコスフォンが痺れを切らし、極大出力マナカノンのフルファイヤでヴィールをぶっ飛ばして終わりになった。

『ズルいぞー! 遊びなのに本気になりやがってー!』

* * *

「アスタレス様が、ここに攻め込むことを何としても止めようとした理由がわかりました……!」

農場を案内中、俺のあとに続きながらエーシュマは蒼褪めた表情をしていた。

「保有する戦力が違いすぎます。こんな場所に攻め込んだら、たとえ魔王軍の全力をもってしても確実に返り討ちです」

「そこまでのこともないと思うけど……!」

「前に戦ったオークとゴブリンもそうです……! あの個体は明らかに変異化していた……! ウォリアーオークとスパルタンゴブリンと言えば、一体で一軍に匹敵するという。ドラゴンだけでなく、そんな脅威までも……!?」

「あー……」

言おうかどうか迷ったけれど、言うことにした。

「……実は、ウチの農場にはその変異したオークとゴブリンが合せて百人いてさ」

「世界を滅ぼす気ですか!?」

「そんなつもりはないけれど……! あと、その百人のうち十人はもう一回変異していて、つまり二段変異してるんだよね……!」

なんて言ったっけ?

「そうそう、レガトゥスオークとブレイブゴブリンって言ったっけ? いやぁ皆、知らないうちに育っちゃってビックリするよねー?」

HAHAHAHAHA。

冗談めかして笑う俺の肩が、トントン、と叩かれた。

振り向くと、そこにオークボの部下のオークが。

どうした?

「あの……、聞くとはなしに聞いていて。失礼とは思いましたが、ご注進を。我が君、お気づきでないのですか?」

「ん? 何が?」

「レガトゥスオークとブレイブゴブリンの班長クラスですが……。その中でオークボリーダーとゴブ吉リーダーがまたさらに変異していて……!」

「は!?」

「三段変異です。ユリウス・カエサル・オークとタケハヤ・スサノオ・ゴブリン。先生の話では、その戦闘力はもはや世界二大災厄に匹敵すると……!」

オークボとゴブ吉が。

アイツら貫禄出てきたもんなあ……!

そうか。

いつの間にかさらに変異しちゃってたか。

親は無くとも子は育つってヤツか?

俺が感慨深くなっている横で、エーシュマが立ったまま気絶していた。

* * *

「どうかお許しください」

エーシュマが改めて俺に土下座した。

魔族って土下座することの多い種族だなあって気がなんかする。

「偉大なる聖者様の土地に攻め込もうなど、私はまったく愚か者でした。これは私一人の独断ですので、魔族の総意ではありません。どうか……!」

「そんなに畏まらなくても大丈夫だから……」

逆に考えれば、ここまでビビッてくれたんなら「農場に攻め込む」なんて二度と言わないだろう。

「農場と魔国の関係も安泰かな?」

そうなってくれたら俺も万々歳だが。

「……それはどうでしょう」

「え? 誰!?」

いつの間にか、見知らぬ女性が俺たちの前に立っていた。

肌の色から魔族であることがわかるが、顔に見覚えがない。

目が隠れるぐらい長い前髪が特徴的で、それだけで記憶に残りそうな気配を出している。

「お前はレヴィアーサ!? 今までどこにいた!?」

「レヴィアーサ?」

「私と同時期に四天王に就任した新参者です。元はグラシャラ様の副官を務めていました!」

ああ。

そういえばエーシュマの他にも農場攻めろって主張している四天王がいたって話だよな?

エーシュマと一緒にオークやゴブリンたちにぶっ飛ばされていたような……!?

「お初にお目に掛かります。私はグラシャラ様に代わって新たに四天王となった『怨』のレヴィアーサ。お見知りおきを」

「お、おう……!」

おかしい。

エーシュマと一緒にウチに来たというのに今の今まで存在に気づけなかった。

それぐらい存在感が薄いということ?

「おいッ、レヴィアーサ! お前もこっちに来て聖者様に謝罪しろ!」

エーシュマはお冠。

「お前も私同様、農場への派兵を主張したんだから、お前も揃って頭を下げなければ聖者様に謝意が伝わらんだろうが!」

「私が出兵案を出したのは、エーシュマを煽るのが目的だし……」

「えーッ!?」

「グラシャラ様が何か隠しているのはすぐわかった。あの人ウソが下手だから。それでエーシュマを焚きつけて騒がせれば、答えまでたどり着けると思った……」

と予想外の答え。

すると何?

ここまでの一連の流れは、すべて彼女の計画通りだったってことか!?

「魔王様たちが何を隠しているのかやっとわかった。これでグラシャラ様をお助けできる」

「お、おう……!?」

「聖者様、これからもどうかよろしくお願いします」

レヴィアーサからペコリと頭を下げられた。

なんだろう……?

これまでの新旧四天王とまったく違う雰囲気は?

「……フン、そんなこと言って、お前にちゃんと魔王様と魔王妃様をお助けできる力があるのか? 実力が伴ってこそ大口を叩けるんだぞ?」

同じ新四天王としてエーシュマが棘のある物言い。

先代のアスタレスさんとグラシャラさんがライバル同士であったように、彼女たちもまた鎬を削り合う間柄であるのか。

「……ならば見てみる? 新たなる『怨』の四天王レヴィアーサの実力を?」

彼女は、固く握られた右拳を俺たちに向けて突き付けた。

その拳に握られていたのは。

ねこじゃらしだった。

* * *

「あ?」

ついさっきホルコスフォンに負けたばかりで不機嫌のヴィール。

ただ今人間形態。

「なんか用か? おれは凄く機嫌が悪いから……?」

ヴィールの視線が、ある一点へと吸い寄せられていく。

それは、レヴィアーサがゆらゆら揺らしている猫じゃらし。

猫じゃらしが右へ行くと、ヴィールの視線が右に。

猫じゃらしが左へ行くと、ヴィールの視線が左に。

「にゃーッ!!」

ついに我慢しきれずに飛びかかった!?

しかしレヴィアーサ、絶妙のタイミングでヒラリとかわす。

「にゃーッ! にゃーッ! にゃーーッ!!」

執拗に猫じゃらしを追うヴィール。

……お前、最近とみに猫化が進んできたと思ったけどここまでとは……!?

しかし即座にそれを見抜いてヴィールを手玉に取るレヴィアーサ。

「これは……、有能!?」

我が農場に侮れない人材がまた一人加わった。

「ぎゃーッ!? 興奮したヴィールがドラゴン形態になったーッ!?」

「全員退避ーッ! 誰かヴィールを落ち着かせろーッ!!」