軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

207 『妄』の後継者

我は魔王四天王が一人『妄』のエーシュマ。

…………。

まさか私がこう名乗ることになろうとは。

四天王の肩書き、『妄』の称号は永遠にあの方一人のものと思っていた。

我が主にして、姉とも言うべき存在アスタレス様。

私はあの方の副官として傍らにあり、常にあの方を支えてきた。

そんな私を、アスタレス様も頼りにしてくれていたと思う。

アスタレス様が直轄する精鋭部隊。アスタレス様がやむなく離れる時、代わって指揮を執るのは、この私だった。

これはアスタレス様の副官で私だけに許された職務。

それほどまでに信頼されているのだと嬉しい半面、アスタレス様に付いて出撃するバティ、ベレナらの小娘を羨む感情もあった。

そしてあの時ほど、アスタレス様の傍にいられなかったことを悔しく感じたことはない。

アスタレス様が他四天王より陥れられ、魔王軍から追われたあの日。

本来なら私もお供して魔王軍から去るつもりだった。

しかしアスタレス様から止められた。

「私がいなくなったあと、私の直属部隊を守り通せる者はお前しかいない」

と。

アスタレス様は、ご自分が追い落とされた絶望の状況でもなお子飼いの兵たちを心配なさっていたのだ。

この気持ちにお応えしないわけにはいかないと私は魔王軍に残り、ひたすらアスタレス様のお帰りを待ち続けた。

忍耐の甲斐あって、魔王様帰還と共に状況はとんとん拍子に好転。

アスタレス様は現職復帰を通り越して魔王様に嫁ぎ、魔王妃となられた。

さすがはアスタレス様!

アナタは本当に凄い!

ただ、アスタレス様が魔王妃となられた以上は四天王の職を続行することは不可能。

やはり正式に魔王軍から退役された。

私個人にとっては残念なことだが、いわばこれは栄転。

魔王妃としてさらなる栄光を掴みしアスタレス様を祝福しよう!

という感じで浮かれていた矢先、私自身にも変化の兆しが来た。

四天王就任の打診。

アスタレス様を始め、一時期に多くの四天王が現職を去ったために仕方のないことだが、慣例として後任は各自の副官から選抜される。

というわけで私にお鉢が回ってきた。

家柄的にベレナも資格ありな気もするが、アイツはアスタレス様復権以来行方不明だしなあ……。

私がアスタレス様の後任など恐れ多いばかりだが、そのアスタレス様より『お前にならできる、頼むぞ』とお言葉を頂いて、奮起しないわけにはいかない。

このエーシュマ、粉骨砕身の覚悟をもって四天王を務めさせていただきます。

……え?

四天王になったから妄聖剣も渡す?

いえいえいえいえいえいえいえ!!

恐れ多い! それはアスタレス様が持っていてください!

その剣は永遠にアスタレス様のものです! 折れたのじゃなくて完全修復されたものならなおさら!

* * *

さて。

実際に四天王となった私がすべきこと。

ガンガン功績を上げて、私を推薦してくださったアスタレス様の期待に応えることだ。

ガンガン戦って、ガンガン勝利して、魔国に勇名を轟かせるぞー!

と意気込んだところで、ハタと気づいた。

功績を上げる機会がない。

我らが宿敵、人族軍は既に滅んでしまったし。全力でぶつかるべき相手がいない。

魔王様もその現状を正確に把握してか、軍縮方向に舵を切っている。

いかん、このままでは大手柄を上げる機会がなくなってしまう!

どこかにいい戦功となる敵はいないか!?

人魚国。

いやさすがに相手が大きすぎる。

魔国、人間国、人魚国と並び合う三大王国の一つ。

その一つ人間国との戦争すら数百年以上継続したというのだ。

一介の将軍が戦功欲しさのためにケンカ吹っかけていい次元の相手ではない。

では他に何がある?

ダンジョンから逃げ出したモンスターを相手にチマチマ得点稼ぐか?

それも芳しくない……、と思い悩んでいた頃、私はある噂を小耳にはさんだ。

聖者の農場。

それはこの世界のどこかにある理想郷。ユートピア。

そこには世界のすべてに匹敵する宝が山のように積まれているという。

人間国経由からの噂であったが、聞いた瞬間『それだ!!』と思ったね。

聖者の農場を侵略するのだ。

そしてそこにあるという宝を根こそぎ略奪して凱旋する!

私の手柄は莫大なものとなるだろう!

問題は聖者の農場とやらの所在だが、それも魔王軍の全軍をもって探索すれば、すぐに見つかるだろう!

成功するイメージしか浮かばない!

私は勇み立って、まずアスタレス様へ報告に向かった。

アスタレス様は、お生まれになったばかりのゴティア魔王子殿下にお乳を与えているところだったので出直そうとしたが、「かまわぬ」ということで献策させてもらった。

聖者の農場、侵攻計画を。

滅茶苦茶怒られた。

報告の瞬間「アホかあああああッ!!」と怒鳴り、ゴティア魔王子を抱きかかえたままサマーソルトキックをかまされた。

何故かはわからないが、私の計画はお気に召さなかったらしい。

敬愛するアスタレス様の信任を得られないなら計画は却下、と本来ならなるべきだが、今回はそうもいかなかった。

なんと私と同時期で四天王に就いた『怨』のレヴィアーサも同じ計画を練っていたとわかった。

レヴィアーサは、元は先代四天王グラシャラ様の副官。

アスタレス様とグラシャラ様がライバル関係にある以上、その後継者同士の競争に私が後れを取るわけにはいかない!

私はその情勢も含めて、何度も繰り返しアスタレス様に談判して許可を求めた。

新たに魔王軍司令長官の職務を得た四天王のベルフェガミリア様が、いつもの怠け癖で全然話を進めてくれないから。

どうか、ご承諾くださいアスタレス様!

魔王軍の未来のためには新しい敵が必要なのです!

「んもう、仕方ないなあ……!」

何度目かの直談判で、アスタレス様が呆れ果てたように言った。

「だったら行ってみるか。聖者様の農場へ」

は?

* * *

どうしてこうなったのかわからない。

目の前にはオークがいる。

いきなり転移魔法で見知らぬ土地に連れてこられ「彼と戦ってみろ」とアスタレス様から命じられた。

しかしこのオーク、見るからにわかる。

オークのくせにクッソ強い、と。

全身から吹き上がるオーラが尋常なものではなく明らかに四天王以上。

一緒に連れてこられたレヴィアーサも震えて動けない。

え? 何です?

このオークが、ここにいる中で最強ってわけじゃない?

なんでこのタイミングでそういうこと言うんです!?

心が折れないように精一杯頑張ってるのに砕けるじゃないですか!!

結果、簡単に負けた。

負けたあとで、ここが聖者様の農場ですよ、って詳しい説明を受けた。

えッ!? どういうこと!?

って混乱するより早く次はゴブリンが現れた。

こっちもクソ強いということが一目見ただけでわかった。

結果、またふっ飛ばされた。