軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

203 酒神のほどこし

お酒大好き半神バッカス。

ウチの農場で生産したビールの美味しさにご満悦。

「堪能いたしました」

バッカスのキャラが微妙に変わっていて調子狂う。

「このお酒、穀物を原料にしたものですね? 人間国や魔国にも同じような製法のお酒はありますが、原料となった穀物自体がまったく別物のようです。それゆえのコク、喉越し」

そこまで絶賛されると嬉しいが……。

手柄の大半はガラ・ルファのものだけどな。

「これほどよい酒を作りだした方は、よほどの天才とお見受けします。寝ても覚めても酒のことばかりを考えていたのでしょう」

「いや……、それほどでも……!」

実のところビール開発までこぎつけた功労者ガラ・ルファは、そこまでお酒好きってわけでもない。

彼女が本当に心の底から愛しているのは、酒造りに重要な働きをする細菌だ。

だからというか今現在、彼女は酒造にまったくタッチしていないし。

他の仕事が忙しいからだ。

元々人魚の国で医者をしていたガラ・ルファは、その時の経験で我が農場の医務室勤務となり、日々農場の住人たちの健康管理に心を砕いている。

そちらの方が激務となり、他の作業にまで手が回らない。

自然彼女は酒蔵から遠ざかって、我が農場の酒開発もビール一品を完成させた時点で停止、以後まったく進んでいない。

ビールが出来てから大分経つというのに、新酒開発の報せが少しも出ないのは、そういう事情によるからだった。

それでも食卓にお酒が出ないのは寂しいということで、既に決まった製法のあるビールだけをオークやゴブリンたちの手で生産しているのが、現在のウチの酒蔵の状況。

まあ、いつまでもビールだけというのも味気ないので俺自身で新種開発に乗り出そうとした時期があったけど、ちょうどその時期が納豆作りと重なって頓挫。

納豆に触れたら酒蔵に入っちゃいけないんだって。

ここ最近人魚チームに補充があったから、そのメンバーを酒蔵に回す? って案も出たけど……。

『新しい子は皆、未成年です』の一言で一蹴された。

……そうだよね、未成年に酒造り任せるわけにはいかんよね。

という感じのウチの現状を、酒の席でつい口が軽くなってベラベラ喋っちゃうとバッカスの顔色が変わった。

「それはいかーーーんッ!!」

「うおッ!? ビックリした!?」

いきなり大声出さないでくださいよ。

これだから酔っ払いの行動は予測できない!?

「こんな素晴らしい酒を作りだす工房が、人手不足で稼働していないなんて! そんなことでは不安ばっかっす!!」

喋り方元に戻っている。

ショックで酔いが覚めたか。

「聖者殿! この問題、私に一任させてもらえないだろうか!?」

「え!? 問題!?」

問題になっている意識なかったんですけど!?

「こうしてはいられない! そこのドラゴンさん!!」

「え? おれか?」

一緒に酒盛りしている人員の中からヴィールを狙い撃ち。

人化しているのにドラゴンだと見抜いたのはさすが半神というべきか。

「頼みがある! 汝の翼で私を人間国まで送り届けてくれないか! 自分の足で戻ったら、来る時と同じで時間がかかってばっかっす!!」

「なんでおれがそんなことをしなきゃいけないんだ?」

ヴィール渾身の正論。

彼女に見返りなしで動いてもらおうというのには無理があるな。

「頼みを聞いてくれたら、後々美味しいお酒がたくさん飲めるようになるぞ!!」

「酒も美味しいけど、おれは甘いお菓子の方が……」

このドラゴン、スィーツ脳。

まあ女の子だし仕方ないよね。

「お酒の中にも甘いものはある」

「マジか!? ご主人様! ちょっとコイツ人族の国に置いてくる!』

言い終わらないうちにヴィールはドラゴンに変身してバッカスを抓んで飛び立っていった。

「一体何なんだ……?」

「ただいま」

「はやッ!?」

行ったと思ったらもう帰ってきたヴィール。

ちゃんとバッカスを人間国に送り届けてきたのか。

「あの半神に引き続き頼まれてな。三日したらまた迎えに来てくれって言われた」

「三日使って何をやらかす気なんだ?」

何だか不安な気がしたけれど、止めようと思って止められる相手でもなさそうだし、経過を見守るしかないか。

そして約束の三日後……。

* * *

「バッカス教団! ここに見参!!」

「人が増えた!?」

ドラゴン化したヴィールが農場に運んできたのはバッカス一人だけでなく、他に何人もいた。

バッカス当人を除けば全員が女性で、しかもうら若い。

「彼女たちは、私の布教活動に賛同して信者になってくれた巫女たち! 入信資格はうら若い乙女!」

「邪教かな!?」

「彼女たちは私の手伝いをさせるために連れてきた! 聖者殿! アナタの農場の酒蔵、私と彼女たちに任せてくれないかね!?」

「えー?」

意外な提案に、俺当惑。

「酒の神である私が全力をもって、キミの農場の酒造りを受け持とう! この農場には無限の可能性を感じる! もっとたくさんの、素晴らしいお酒が生まれる気がする!」

半神バッカス。

地上に酒を広めるために天界行きすら蹴った真の酒好きだからこそ、その情熱を阻める者は誰もいない。

「…………」

俺は助けを求めるように、今日も駆けつけてくれている先生に視線を送ったが無言で被りを振られた。

「…………オークボ、ゴブ吉。どう思う?」

今酒蔵で作業しているのは、彼らモンスターチームなので。

彼らの意見も聞いておこう。

「正直、畑仕事を中心に、ダンジョン探索とか、機織りとか、油搾りとか、製塩とか砂糖の精製とか、紙漉きとか、漁とか……!」

「いろんな仕事が目白押しですんで、その中の一つを誰かが受け持ってくれるなら超助かると言いますか……!」

ゴメンね、キミらに負担かけ通しで。

「では話は決まった! お酒大好き半神バッカス! ここよりまた新たなお酒のイノベーションを発信する!!」

なんか押しかけ気味に、我が農場の新たな住人が決まった。

ついにウチに神が住まうようになった。

まあ神なのは半分だけなんだけど。

* * *

そしてウチに半神が住まうようになって数日で成果が出た。

「酒はまだ出来ないが、原料としていただいた麦で変わった飲み物ができた」

「へー」

「試飲してくれ」

バッカスが差し出したのは、ジョッキになみなみ注がれた濃厚な琥珀色の液体。

色的に見たらウイスキーかと思う。

大麦を材料にしたというなら、なおさらウイスキーかな? と想像してしまうが……。

でも、こんな短期間にウイスキーが作れるわけないし。

飲んでみればわかるか。

「ワーッハッハッハ!」

俺は思い切ってジョッキを満たす茶色の液体を口内に流し込んだ。

ドンッ! とジョッキの底でテーブルを叩く。

「麦茶だこれ!」

我が農場に新しい飲み物のレパートリーが加わった。