軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

201 夜の支配者・陸遊記その四

吸血鬼。

夜の使徒。闇の支配者。恐怖を運ぶ者。

私たちへの呼び名は様々だ。

私たちのことを正確に知る者は少ない。

ある者は言う。ダンジョンから発生したモンスターの一種であると。

またある者は言う。魔族から枝分かれして進化した亜種族だと。

ノーライフキングと同じアンデッドだという者もいる。

しかし本当のところは誰も知らない。

それでいい。

『わからない』こそ、恐怖の源泉であるからだ。

私たち吸血鬼は、世界でもっとも恐怖される存在でなくてはならない。

何も見えない夜に、音もなく飛び回る。

獲物たちは、みずからの首筋に牙を突き立てられたことにすら気づくことがない。

すべてが終わったあと、我々が残した食いカスだけを見て生者たちは恐怖にかられるのだ。

誰が殺したのか?

どうやって殺したのか?

何故血が抜き取られているのか?

自分たちもいずれは標的になるのか?

すべては『わからない』。

『わからない』からこそ闇雲に恐れ、想像しうる限りで最高に恐ろしい存在を心の中で描き出す。

それこそが私たちを表す偶像。

最上級の恐怖、それを捧げられるに相応しい存在。

それが私たち吸血鬼なのだ。

* * *

申し遅れたが私の名はモスキータ。

栄えある吸血鬼同盟『朧夜の六聖』の一人だ。

今夜は実に三十八年ぶりに、六聖すべてが揃っての会合が開かれる。

ほらやってくる、月夜を渡る蝙蝠の群れが。

蝙蝠たちは我が城自慢のバラ庭園に入り、一塊に集まって人の姿に変身した。

「カー。我が兄弟、六聖の同志よ。よくぞ参られた」

「訪問せぬわけにはいくまい。招集の用件が用件だ」

庭園には他にも蝙蝠の群れが降り立ち、集まって人の形に変わる。

それが全部で六名。

誇り高き最高の吸血鬼六傑がここに揃い踏みというわけだ。

我ら吸血鬼。

その正体は様々な説が氾濫し謎に包まれているが、真実は元魔族。

上級精霊ブルコラクとの契約で不死を得た超越者だ。

ブルコラクは時おり気まぐれに、私のような優れた魔導師に力を与え、不死の怪物へと作り替える。

二度と太陽の下へ出られない制約と引き換えに。

しかしそんなものは取るに足らない。

尽きることなき寿命。

吸血という高度な魔力吸収能力。供物が保有するマナを、僅かなロスもなく完全に奪い尽くせる。

それらによって保有魔力は無限に増大する。

その在り方、力の大きさから我ら吸血鬼を指して『ノーライフキングに比肩しうる者』とまで呼ぶ輩もいるが、随分心外な言葉だ。

あんな永遠の生命と引き換えに乾涸びて、骨だけの見てくれとなった干物などと一緒にしてほしくない。

私たちは、あるべき美しい姿を保持したまま永遠の生命と、絶大な魔力を手に入れたのだ。

我々の方がはるかに超越した種であることは言うまでもない。

そして此度、ついに我々は存在の優性に相応しい席を得る。

その機会を得た。

「まずは同志たちよ。呼びかけに応え参列してくれたこと、主催として感謝する」

私と共に六聖に名を連ねる他五人に呼びかける。

「それで、本気なのかモスキータ卿?」

「及び腰か? 夜の支配者たる我々には似つかわしくない慎重さだな」

天地を揺るがす大ニュースは、既に我々の住む夜の領域にまで轟き渡っていた。

魔王ゼダン。

人間国を攻め滅ぼし地上統一。

我々が取るに足らぬ魔族であった頃から誰も成し遂げることのできなかった偉業を、今代の魔王は成し遂げたという。

忌々しい『神聖障壁』も同時に消失。

今や世界のすべてが一人の王者の手に……、と言っても過言ではない。

そんな、パワーが一極に集中しているこの情勢にこそ。

「世界を我らの手中に収める、いい機会だと思わないか?」

我ら六人で魔都を襲い、血を吸い尽くして制圧する。

我々には、血を吸った相手を支配して、生きたまま屍のごとく奴隷にする能力がある。

魔王以下、めぼしい者を下僕として我らの軍隊を作りだそうではないか。

そして我ら吸血鬼がこの世界の支配者として君臨する!

「噂では、ノーライフキングの中でもっとも粗暴な皇帝が、挙兵の矢先にしくじったそうだ」

これは私が密かに入手した大スクープだけに、集う仲間たちは期待通りに驚いた。

「皇帝が……!?」

「たしかに地上が統一されて真っ先に動き出しそうな輩であったが……!」

「しかし、ヤツが魔王軍とやり合ったのなら相当大きないくさになったはずだぞ……!」

「その報が広まらず、皇帝が落ちたという事実だけとはどういう経緯なのだ……!?」

ふッ、慌てておる。

こうして浮足立ったところを取りまとめ、私が主導権を握ってやる。

「どちらにしろヤツが消え去ったことは朗報だ。覇を争う競争相手が一人いなくなったのだから」

他のノーライフキングどもはいずれも俗世に興味なく、地上制覇に嘴を入れてくる者もない。

エルフ、ドワーフ、獣人といった亜種族も独立勢力を気取っているが、魔王軍をそっくりそのまま眷族化すれば一揉みにて押し潰せる。

「この世界に、我ら吸血鬼を阻む障害など存在しないのだ! 得られる王座に手を伸ばさないことこそ、強者にとって罪深いことではないか!?」

そう、私は王者となる。

長年かけて選び抜いてきた六聖の同志たちは、基準として弱腰で優柔不断、私の指示なくば何もできない輩たちだ。

そんな連中だから私の命令に従い、地上制圧の手駒となってくれるだろう。

つまり魔都がこの手に落ちた時、世界は吸血鬼のものではなく、この私一人のものとなるのだ!

この私が夜の世界だけでなく、すべての世界の支配者となる!

吸血鬼たるこの私にこそ、その資格はあるのだからな!!

うわーーーーっはっはっは!!

バラ色の未来が拓け、得意絶頂となったその時だった。

「……ん? なんだあの光? うおっ眩し……!?」

その瞬間、私の意識は消えてなくなった。

* * *

ズドーン。

はい。

アロワナ王子ご一行のお供、オークのハッカイです。

ソンゴクフォンちゃんがまたやらかしました。

「うわああああッ!! ソンゴクちゃん!! またなんで先走っちゃうのだあああッッ!?」

アロワナ王子も大慌て。

前方遥か先では、ソンゴクフォンちゃんの収束マナカノンを食らってもうもうと煙を立ち込めさせる、豪勢な城が。

「目標に命中をかくにーん! あーしのー、マナカノンはー? 天神の加護がついて神聖性はちきれんばかりなんでぇー? ヴァンパイアみてーな邪属性の塊は掠っただけで消滅しゃーっす!!」

「しゃーっすじゃない!! 仕留められたと言っても一体だけだろう!? 残りのヤツらはどうするのだ!?」

アロワナ王子の仰る通り。

近隣の領主から『邪悪の者たちが会合を開く』という情報を受け取り、念のために調査しに来た我ら一行。

ソンゴクフォンちゃんの凄くいい耳で、ヤツらの魔都襲撃計画を盗聴したため、即座に情け無用と判断。

「だからと言って行動が早すぎであろうが! 吸血鬼どもはまだ全滅してはおらん! パッファ! 様子はどうだ!?」

「ちょっと待ってー?」

パッファ様が、農場で作られた望遠鏡で城内の様子を窺う。

「まだ全然残ってるね。でもカシラがやられたせいか、泡食って慌てふためいているよ。この分じゃビビって逃げ去るんじゃない?」

「それはいかんな。吸血鬼は魔国の人々を恐れさせる害悪。ここで一人残らずカタをつけておかねば!」

さすが王子。

私も同意見です。

「ソンゴクちゃんはマナカノンで弾幕を張り、ヤツらを釘付けにして逃げられぬようにしろ! その間に私とハッカイで進軍し、接近戦にて仕留める!! パッファはここで状況を俯瞰してくれ!」

「計算だと夜明けがそろそろ近いから、長期戦に持ち込むだけでも勝てるよ。アイツら陽光浴びると灰になるからね」

私はアロワナ王子と一緒に勇んで突撃しました。

こうして魔国を脅かす吸血鬼の災厄は取り払われたのでした。