軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193 魔王子ばんざい!

魔王妃アスタレスご出産。

懐妊の報は既に聞き及んでいて、彼女の大きいお腹も何度も見てきたから驚きはない。

しかし新たな命の誕生は、いかなる状況でも祝うべきものだ。

生まれたばかりの赤ん坊を抱えて我が農場へやって来たアスタレスさんに、我が農場の住人総出で拍手と祝辞を送る。

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……!

「おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

『おめでとうよ』

「おめでとうございますです!」

「おめでとさんよ!」

「何だかよくわからないけど、おめでとう!」

波濤のような祝辞を一身に受けて、久々にほっそりしたウエストのアスタレスさんは涙ぐむ。

その手に、スヤスヤ眠る赤ん坊を抱えながら。

「ありがとう。王宮で受ける儀礼の賛辞より、何倍も嬉しい」

と応えてくれた。

「我が夫、魔王ゼダン様は公務がお忙しいため同行できなかったが、近日のうちに必ずご挨拶に伺うと仰られていました。今日は、一日も早くこの子を聖者様に見ていただこうと先んじて」

「そんな気を使わなくても」

生まれたのは男の子。

立派な魔王子ということで、現魔王ゼダン政権において後継問題もひとまず解消。ますます安泰といった風だ。

将来、父のあとを継いで魔族全員を治め支える運命を背負った子どもなのである。

「名前はもう?」

「はい、ゼダン様みずから名づけられて、ゴティアと」

魔王子ゴティア。

それがこの赤ん坊に課せられた運命の名前である。

『歴代最高の魔王』と謳われるゼダンを父として生まれてきたこの子にとって、その血筋が財産となるのか、重荷となるのか。

それは彼のこれからの成長のみが決めていくことであろう。

と、難しい話は置いておいて。

「これは俺たちからの出産祝いです!」

農場の住人各自からのプレゼントラッシュ。

俺からは、農場で獲れた野菜からニンジン、ジャガイモ、タマネギなど味が優しく栄養価の高いものを。

これらを煮たしてスープでも作れば、立派な離乳食となってくれることだろう。

え?

離乳食にはまだ早い? チクショー!

「アタシからは魔法薬一式を」

プラティが薬箱を渡した。

「赤ちゃんがかかりやすい病気の特効薬を揃えておいたわ。もしもの時に常備しておいて」

「効き目世界一と謳われる人魚の魔法薬を……! すまない、常に枕元に配置しておく」

次はエルフたち。

「エルフ族に代々伝わる、魔除けの像を」

無茶苦茶ブキミな姿の木像を持ってきた。

あの恐ろしい姿で、赤ん坊に寄ってくる目に見えない悪いことを追い払おうという風習なのだろう。

「木工細工班のミエラル班長が七日かけて彫り上げた力作だ。ここの頭から伸びた角が曲がりくねった挙句、鼻の穴に入っている造形に魂を感じないか?」

「芸術ってよくわからなくて……!」

アスタレスさんは、魔王妃という偉い立場に就いた彼女らしく言葉を玉虫色に濁した。

『ワシからは、無病息災の祈祷を』

「先生まで!?」

不死の王ノーライフキングから災いを退ける呪いを受けた魔王子。

その他にもオークチーム、ゴブリンチーム、サテュロスチーム、大地の精霊たちからも順々に出産祝いが贈られる。

さらに天使ホルコスフォンからも……。

「私のお祝いのプレゼントは、この日のために特別に熟成させた特製納豆を……」

「ちょっと待ってねー!!」

寸前で止めることに成功した。

赤ちゃんに発酵食品はまだ早い。

さらに亡国の人間王女レタスレートちゃんも……。

「あの……! 今私から上げられるものって、私が畑で育てたソラマメしかなくって……!!」

「いや、ありがとう。受け取っておくよ」

「ひぐぅッ! 私の……! 私のソラマメ……!!」

「あとで一緒に食べるか?」

むしろアスタレスさんの方が気を使っていた。

そうして皆からの祝福を一身に受けた魔王子。

これほど皆から愛されているのだから、さぞや健全にすくすく成長していくだろうと安心させる。

しかし、誕生祝いのプレゼントはまだ終息していない。

むしろ真打ちはここからだ。

バティとベレナ。

彼女たち魔族娘コンビは、魔王子の母たるアスタレスさんの直接関係者なのだから、より一層気合いの入った出産祝いが期待されるところだ。

まずはベレナから。

「す、すみませんアスタレス様……! 私に上げられるものなんて所詮、その辺で拾った小石と、毟った草くらいしか……!」

「ウン。お前、そういう路線だものな」

「こっそり魔法情報システム構築のバイトで儲けたお金でプレゼントを買うなんて不純です!!」

「それでいいと思うぞー?」

結局ベレナはバイト代で買ったというぬいぐるみをプレゼントしていた。

生まれたのが男の子とはいえ、ぬいぐるみのチョイスはこれまでの面子の中ではもっとも妥当なのではないだろうか?

「次はバティだけど……?」

「私ならとっくに献上いたしましたよ」

え?

いつもながら抜け目のない魔族娘バティ。

その手回しの早さに今日もまた改めて驚嘆する。

「私は、魔王子様用の乳幼児期の衣類を三着ほどセットで贈らせていただきました。品物の性質上、お生まれになってから拵えていたのでは遅いですから」

たしかにそうだ。

本当に目端が利いて用意がいいバティ。

「バティの作ったベビー服は、不思議なくらいゴティアにピッタリで。今着ているのもバティの作品なのですよ」

母アスタレスさんが満足そうに言う。

ベビー服。

我が農場の裁縫担当バティとして非常に『らしい』プレゼントと言えよう。

「ゴティア様のお召し物なので全力で針を走らせました。久々に金剛絹を解禁して、刃も魔法も通さない安全性を確保しております。もちろん保温性や通気性、日常使いの便利さにも拘っていて、ゴティア様が健やかな幼少期を送られるよう最善を尽くしました」

「さすがバティ。お前の最高の仕事に我が子が包まれること、何より安心に思うぞ」

「もったいなきお言葉!!」

おおー。

なんか偉い人と有能な部下みたいなやり取り。

傍から見ているベレナがハンカチを食いしばっている。

「実際、バティが縫ってくれたベビー服は大変いい出来でな。この子もお前の服を着ている間は機嫌がいいぐらいだ」

「仕立て師冥利に尽きる言葉でございます」

「そこでお前に、追加でもう五着ほどこの子の服を拵えてもらいたいのだが。可能だろうか? もちろん聖者様へのお勤めの障りとならなければの話だが」

「はい?」

それを聞いてバティ。俄かに表情を訝しくして……。

「それは……! ミシンを使えば時間はかからないと思いますが、それでよろしいのですか?」

「というと?」

「私も巷の噂程度しか知りませんが、魔王家ともなれば様々なお抱え職人が存在するはずです」

武具職人とか、家具職人とか、ちょっとした日用品まで含めて全部。

魔族の支配者である魔王と、その家族が使うに相応しい一流品を作り出す職人を専属で雇っているのではないか?

という話だ。

「当然衣服に関しても、魔王家専属のプロ制作者がおられるはずで、そうした人たちが本来アスタレス様や、ゴティア様の衣服を縫われるはずでは?」

「さすがバティ。やはりそこまで気遣って日頃から、私に贈る服の数を絞っていたのか」

「いえあのー、絞っていたわけでは……!?」

「いや、お前がそういう風に気の回るヤツだというのはわかっている」

魔王家に専属の服作り係がいたとして、それらの人たちが作った服を無視して、魔王家の人々が余所の服製品を着ていたら、さぞかし面白くなかろう。

「バティはそれを警戒して、私の方に贈る服を最小限にしていたのだろうが、それでも問題が起きてな」

「問題?」

「詳しくはコイツから説明させよう。シャクス」

呼ばれて出てきたのは、魔族商人のシャクスさんではないか。

この人も来ていたのか。

「お久しぶりです聖者様、皆さま。このパンデモニウム商会、商会長シャクスからご説明させていただきます」

お、おうですよ……?

「現在、魔王家の衣服作りを担っておりますのは『ミックスパイダー』という名のテイラー(仕立て師)ブランドでして。現在魔都にて一番人気であったブランドでございます」

「一番人気……」

「魔王家御用達であるがゆえに、上級魔族の方々からも多くの注文を賜り、高い評価を受けるトップブランド。古くから続く格式あるブランドで、創業二百年という老舗であります」

歴代の魔王や魔王妃は、その『ミックスパイダー』とやらが着る礼服ドレスに身を包んで晴れの舞台を踏み。

見る者を圧倒させ、ひれ伏させてきたのだという。

まさに王様の仕立屋。

「その『ミックスパイダー』から抗議が来まして……!」

「抗議?」

「最近、魔都で大流行となっているバティ様の服。その作り主に会わせろと……!」

この話は長くなりそうだ。