軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

185 聖魔女入学

とまあ、人魚少女たちの様子を見届けて、元の場所に戻ってみると、アスタレスさんグラシャラさん両魔王妃によるエンゼルしごきが終了していた。

エンゼルが、体中からあらゆる液体を漏らし出して地面に突っ伏していた。

滅茶苦茶荒く息をしているので、まあ生きてはいるのだろう。

「初日にしては、よく動いた。さすがプラティ殿の妹と評すべきだろう」

「これなら即日魔王軍の二等兵ぐらいなら任せていいかもな」

両魔王妃よりお褒めの言葉を頂いていたので、けっこう頑張ったのだろう。

そんなエンゼルを、姉のプラティが掴んで引きずり、どこぞへと運んで行った。

結局彼女は、妹がしごかれている間ずっとその場を動かず見守っていたようだ。

気になって追跡してみると、彼女が妹を運んだ先は、銭湯型大浴場だった。

同じように一日の作業を終えた、パッファ率いるベールテールとディスカス、ガラ・ルファ率いるヘッケリィとバトラクスのチームも女湯の暖簾を潜っていく。

「ああ~~、気持ちいい~~」

「何コレ~~、極楽~~」

「温度を上げた水に入るだけでこんなに気持ちいいなんて~~」

「疲労困憊したところに余計身に染みるぅ~~!」

少女たちの湯に解け入るような声が男湯と女湯の仕切り越しに響いてきた。

上がる。

「うめー! この白くてキンキンに冷えた飲み物うめー!!」

「あっ、これミルクって言うんですか!? なるほどサテュロス乳という超高級品!?」

「温かい水に沈んだあとだから、冷え具合がなおさら喉越しに心地いいです」

「この箱で冷やしてるですか!? ……パッファ様特製冷凍箱!?」

「こんな思い通りの温度で一定化できる冷凍魔法薬があるんですか!? さすが六魔女」

男湯と女湯を分ける仕切り越しにガンガン聞こえてきた。

やっぱ女の子は数揃うと賑やかだね。

そして夕食。

今宵のメニューはトンカツである。

キャベツ多めに切った。

「うめええええええッッ!?」

「サクッとしてジュワーとしてアツアツで……! 美味い! とにかく美味い!!」

「付け合わせの葉っぱみたいなのを食べれば濃い味に慣れた口の中がリセットされて、いくらでも食べられますううううう……!」

「一緒にあるスープや他も美味しいですうううううう」

「こんなの人魚宮でも食べられないわ! 何なのここッ!!」

少女たちは、一心不乱に出されたトンカツとか汁物とかご飯とかを掻きこんでいた。

そこまで喜んでくれるならば、作る側のこっちも大変嬉しいが。

「アナタたち……、これで充分実感したでしょう? この農場の凄さ、素晴らしさ……!!」

ここでついにプラティが、コメントらしいコメントを放ち出した。

「魔王が訪問し、多数の魔女が務め、美味しい作物、気持ちよいお風呂。その他様々な凄いものを生み出し続ける農場。その主こそ、私の旦那様なのよ!! わかったらさっさと感服しなさい!!」

「「「「へへぇーーッッ!!」」」」

人魚の少女たち、なすすべもなく抵抗心を押し流され、その場に平伏してしまった。

ただ一人、リーダー格のエンゼルだけを残して。

「うっ、うぐぐぐぐぐ……!」

彼女は王族としてのプライドがあるせいか、何とか崖っぷちで自律を保っているという風だった。

「エンゼル……、アンタは昔っから何かにつけてアタシに対抗しようとして返り討ちにあってきたけれど」

プラティが畳みかけるように言う。

「ここに押しかけて来たのだって、世論から『魔王の側室になれ』って迫られたのを助けてほしいって気も半分あったんでしょうが、もう半分はいつものようにパターンでアタシと競おうとしてたんでしょう」

「…………ッ!」

「でも今のアタシは、旦那様と一緒にこの農場を栄えさせることに全身全霊を懸けているの。この人の妻として、アナタのお姉ちゃんだけじゃもういられないのよ。それをわかってほしいの」

とプラティは、俺の腕にピトッと張り付いてきた。

そういう流れの説得だったのか……。

「……そうはいかないわ!!」

しかし妹は聞きわけが悪い。

「人魚王族として、過去最高の名声を得るお姉ちゃん! そのお姉ちゃんを倒さずして、アタシは一番の人魚王女を名乗れないのよ!」

「名乗らなくていいじゃない?」

二番じゃダメなんですか?

「アタシだって、王女様に生まれたからには一番を目指すのよ! 姉より優れた妹がいるってことを証明するために、これからもお姉ちゃんに挑戦し続けるわ!!」

「迷惑……!」

既に、俺の妻として農場の共同経営者と言うべきプラティは多忙を極め、無駄に絡んでくる妹の相手をする時間は捻出できないだろう。

これまでの農場の営み体験は、妹を説得するための布石であったがそれも通じなかった。

あとはもう殺すしか……、とプラティが悩んでいた、その時だった。

「アタシもこの農場で働くわ!!」

「「え?」」

エンゼルの訴えに、プラティも俺も目を丸くする。

「アタシだって、今の状態でプラティお姉ちゃんに勝てるというほど自惚れてはいません! 強敵を打ち負かすには、相応の修行フェイズが必要!!」

「何言ってんだコイツ……!?」

「だからこの農場で、宿敵お姉ちゃんの行動をすぐ近くで見ながら、魔法の技を盗んで成長するのよ! そしていつかお姉ちゃんを倒す!!」

エンゼルは、お代わりでもらったトンカツのキャベツ千切りをモシャモシャしながら言った。

挑戦などとそれらしいことを言いつつ、目当てはここの料理とかな下心じゃないだろうか?

「そうは言っても……! アナタまだ学生でしょう? 授業を放り出してここに住み込んで、単位落として退学にでもなったらどうするの? アンタ自分が王女様だってことを忘れてない? 立場には責任が伴うのよ?」

「お姉ちゃんだって、魔法学校中退したじゃない」

「それを言われるとぐうの音も出ないんだけど……!!」

魔女らしいアウトローエピソードが出た。

「だからこそ第二王女のアンタまで中退したら人魚王族の権威がいよいよ堕ちるわ。今回はアナタだけじゃなくアナタのお友だちまでいるんだから。ちゃんと帰って学校に行きなさい」

「えー、コイツら帰しちゃうのかよ?」

そこへパッファが異論を唱えた。

「コイツらもう、ウチの部署の新戦力として仕込み始めてんだけど? コイツらに醸造蔵任せられるようになれば、アロワナ王子のところに行ける頻度が上がって……!」

「黙らっしゃい義姉」

パッファ……。

人員補充に異様に前向きだったのには、そんな下心が……。

「とにかくアナタたちは、さっさと人魚国へお戻りなさい! そしてアタシと旦那様の愛の巣を邪魔しないで!!」

「えー!? やだやだ! アタシもここに住んで毎日トンカツ食べたいー!!」

やっぱりそっちが主目的だったか。

そうして帰れ帰らないの押し問答が続くうちに、さらなる異変が起きた。

エンゼルたち人魚少女たちの下半身が大変なことになったのだ。

「「「「「ぎゃーーーーッッ!?」」」」」

正統五魔女聖だっけ?

そのメンバーが例外なく、カモシカのような足の女の子の下半身が、なんかグロテスクに変貌していく。

タコ足? 無数のフジツボ? あるいは大量の藻の塊みたいな?

「いきなり何が起こっているんだ!? 唐突過ぎますよ!?」

「これは……、下半身が激変ってことは陸人化薬の暴走!?」

そういえば、人魚が陸に上がる場合、必ず魔法薬を飲んで人魚から人間に変身しなければならない。

エンゼルたちは最初に登場した時から人間の下半身だった。

「ちょっとエンゼル!? アナタたちどこから陸人化薬を手に入れたの!? そして飲んだの!?」

「そんなの決まってるじゃない! 『聖光の魔女』エンゼル様に不可能はないわ!!」

まさか自作?

「バカじゃないの!? 陸人化薬は学生が作れるような代物じゃないのよ。きっと調合失敗して滅茶苦茶な効果が出ちゃったのよ!!」

「ウソ!? お姉ちゃんが残したレシピ通りに作ったのに!?」

「レシピさえあれば誰でも作れるってんなら、アタシら魔女だなんて讃えられてないわよ。ああもうッ! とにかく対処ーッ!!」

* * *

結局農場の人員総出で五人を取り押さえてから、プラティ始め魔女たちの尽力で症状を緩和。

とりあえず人間の足に戻すことはできたけど、失敗した魔法薬の効果はなかなか抜けきれないということで、人魚の下半身に戻るには長い時間が必要となった。

そういうことで彼女らはなし崩し的に、我が農場に居つくことになった。

プラティはため息をつき、パッファは助手獲得に喜び、ガラ・ルファは誤解を解こうと必死になり、ランプアイはそんなの関係ないとヘンドラーとイチャイチャするばかり。

そして当の新人少女五人は、これからの農場生活に複雑な心境そうだった。

まあ大丈夫でしょう。

そこまで無茶なことは俺がさせないから。