軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

180 旅の途上・陸遊記その一

この世界に散在するダンジョンは大きく三タイプに分かれる。

洞窟ダンジョン、山ダンジョン。

そして遺跡ダンジョン。

遺跡ダンジョンが他と大きく違う点は、他二タイプが山や洞窟など自然物を拠り所としているのに対し、人工物を発生の根拠としていること。

人族魔族が建てる建造物。

それらは時に、建設者の顕示欲を満たすため、巨大なものとなる時がある。

山にも匹敵するほど巨大に。

そうした巨大建造物は、時に世界中を循環するマナ対流を堰き止め、淀ませる。

さすればその建造物はダンジョンに変わる。

ダンジョンとなって危険地帯となった建造物は必然、住人たちから放棄され、寂れた廃墟と化す。

よって遺跡。

人に見放され遺跡と化したダンジョンは、発生の特殊さゆえに他二タイプと比べて非常に数少ない。

その中の限られた一つ。

通称『旧魔都』と呼ばれる遺跡ダンジョンの主こそ、この我。

『皇帝』と呼ばれるノーライフキングである。

* * *

かつて我は、この地を支配する魔王であった。

魔国を、全魔族を支配し、これ以上ない頂点に君臨していた。

下々の者どもは、我を指して『狂った魔王』と称したものよ。

そう言われるのも故あること。

『狂った』という評価は、我が行ったある大事業に由来する。

我はある時、お膝元たる魔都を大々的に改造した。

堀を巡らせ、城壁を建て、大通りの真ん中に塔を建造し、下水を塞ぎ、城門を塗り固め、さらにそれら奇観の位置関係が魔術作用を伴うように、徹底的に都市内の空気が淀む調整をした

するとどうなるか。

都市内に循環マナがどんどん流れ込んで、しかし排出されることなく沈殿。

やがて高濃度化したマナは空間を歪め、我が都をダンジョンへと変えた。

我が本拠地とすべき遺跡ダンジョンに。

愚かなる庶民は逃げまどい、落ち伸びて、どこか別の場所に新たな都を築き上げたという。

それが今魔族どもが言う魔都。

我が牙城はそれ以前のものとして『旧魔都』などと呼び分けられているらしい。

まあ、どうでもいいことだ。

そして我自身は、ダンジョンと化した我が牙城に留まり、その内に澱溜まる高濃度マナを吸収。

さらなる高次元の存在へと進化した。

ノーライフキング。

死を超越し、永遠を手に入れた完全存在。

すべての世界の支配者となる我に相応しい在り方よ。

それが、今から五百年前のことである。

* * *

『何故そんなことをしたのかと疑問に思うことであろう?』

我は言った。

あれから五百年かけて築き上げた最強アンデッド兵団の隊列を見下ろしながら。

出陣の準備はすっかり整い、どの骸どもも生気を失った洞の目に禍々しき殺気を満たしておるわ。

頼もしきことよ。

そして、この死体どもを率いるは当然この我。

かつては魔王。

そして今は不死の王。

ノーライフキングの皇帝よ。

何故、皇帝なのか?

それは今からの我が演説を聞けばおのずとわかることであろう。

『我はな、この世界の支配者となるのだ。誰もワシを支配することなどできない。ワシこそがすべてを支配する。そのために欲しかった、地上最強の力、永遠の生命』

それらを求めて魔王の権力を最大活用し、みずからの治める魔都をダンジョンに作り替えて、自分自身をノーライフキングと変えた。

『とりあえず死の支配より脱して数百年。しかし我が野望はそれで満足するほど矮小ではない。すべてを支配するのだ! 地上も、海中も、天すらも! すべてが我が支配下なのだ!! すべてを支配する!! 支配!!』

ゆえにこそ我は皇帝を称する。

侵略して支配する。

最上級の侵略者に贈られるべき称号こそが、『皇帝』なのだから。

『我はすべてを支配する。そのための準備も充分だ。我がダンジョンに挑みし愚か者たちを殺し、特に選別して甦らせたアンデッドナイトの精鋭軍団。その量も質も、今代の魔王軍を遥かに凌ぐ!!』

それこそ我が五百年間雌伏しておった理由だ。

それだけではない。

地上支配における一番の懸念であった『神聖障壁』。

魔国と人間国の境界を隔て、我も生前は魔族であった以上ノーライフキングと化した今でも越えることのできない、忌々しい障害であった。

しかしそれが今になって、何故かはわからんが消え去った。

どうやら今代の魔王が何かしたらしいが、これは我にとっても実に朗報。

準備はとうに整い、最大の懸念も消え去った今。

我が覇業を解き放つ絶好の好機!!

『こんな偉業を成し遂げた今代の魔王は、直々に褒めてやらねばのう。串刺しにして殺し、アンデッド化して我が重臣に取り立ててやろう。行くぞ我が下僕ども!!』

既に『旧魔都』の出入り口たる正門前には、我が屈強のアンデッド軍団が集結しておる。

これから門を潜って外に出て、すべての集落を攻め落として支配するのだ!

矮小なる生きとし生ける者よ。

世界の危機に恐怖するがいい。

これより貴様らは、地を這う蟻一匹に至るまで我が支配下となるのだ!

『第一軍はワシみずから率いて新しい魔都を攻め落とす! 第二軍は不死将軍の指揮で人間国に侵攻せよ!! その他小部隊も各都市各村を目指し、一つたりとも攻め漏らすでない!!』

城門よ開け!

全軍出撃!

この瞬間より、ノーライフキングの皇帝による永遠の支配が始まるのだ!!

……って、あれ?

なんだ?

城門から出た瞬間まばゆい光が迫ってきて。

あっ。

消え……!?

* * *

ドーン、と。

「おしゃー! 命中ー! ナイッショー!!」

ソンゴクフォンの放った収束マナカノンが、見事ノーライフキングの皇帝に命中。

黒マントに身を包んだ白骨死体が粉々に砕け散りました。

申し遅れました。オークのハッカイです。

今日私たちは魔王様からの依頼で、世にも恐ろしい遺跡ダンジョン『旧魔都』を訪れています。

「ぎゃーッ! ソンゴクちゃん何やっているのだ!? 今日は様子を窺うだけだと言っただろう!!」

もちろんアロワナ王子もいますよ。

ソンゴクフォンの先走り砲撃に、心臓が握り潰されたような顔をしております。

「えー? でもー? アイツら今まさに出陣じゃー! ってる時に、様子窺ってる暇なくね?」

「ソンゴクちゃんの言う通りだよ……!」

さらなるメンバー、パッファ様も緊迫をもって言います。

そもそもの発端は、私たちが魔都から旅立ち、魔王ゼダン様の見送りを受けた際……。

『「旧魔都」と呼ばれるダンジョンで最近不穏な動きが出ているので、旅のついでに様子を見てきてくれまいか?』

……と依頼を受けたことでした。

アロワナ王子は律儀な方ですから真っ直ぐ『旧魔都』を目指したところ……。

いざ到着してみたらノーライフキングが決起集会を開いていたなんて。

「幸い、今のソンゴクちゃんの一撃で敵アタマは倒せたらしい。でも安心はできない。家来のアンデッドナイトどもがまだウジャウジャ残ってるよ!」

「ギャー!? フナムシみたいに城門から溢れ出してくるー!?」

頭目さえ倒せばすべて消え去るなどと甘いことにはならないようです。

一体一体が、並のアンデッドとは段違いであるアンデッドナイトの大兵団!?

「あれがダンジョンから出て、近隣の村を襲いでもしたら大変なことになる! 城門がダンジョンの出入り口なら、食い止めるにはもってこいの地形だよ旦那様!!」

「『旦那様』って!?」

パッファの、アロワナ王子への助言が的確です。

「あの様子、ヤツらは今にも世界中に向けて侵攻しようとしているところだった。今、機先を制してヤツらを崩壊させないと、とんでもない被害が出るところだよ?」

「っしょー? 姐さん褒めて褒めてー?」

「ハイハイ、よしよし」

パッファの豊かな胸の中で甘えるソンゴクフォン。

いつの間にか天使は魔女に懐いていた。

「……たしかに、こうなっては是非もない」

アロワナ王子も腹を括れば、有能な将帥だった。

「ヤツらを殲滅し、世界を危機から救う!! パッファ策を言え!!」

「了解! ソンゴクちゃん、遺跡ダンジョンに張り巡らされてる城壁をマナカノンで撃ち抜いて、風通しをよくしてやりな! ダンジョン内の高濃度マナを放出してやるんだ!!」

「はいなー」

「内部のマナ濃度が下がれば、ダンジョンも消滅する! 通常空間に戻る際の次元の歪みに巻き込んで、中のアンデッド軍団を全滅させる!!」

造形神ヘパイストスの改造を受けたソンゴクフォンのマナカノンが早速大活躍し、廃墟遺跡の巨壁を穿って大穴を開けていきます。

「旦那様とハッカイは、城門から出てくるアンデッドどもを押し戻して! できる限り外に出さないで! ダンジョン諸共消し去るんだ!」

「承知した! 行くぞハッカイ!!」

「ダンジョン消滅に巻き込まれないように、旦那様たちは絶対内側に入ったらダメだよ!!」

私とアロワナ王子だって腕に覚えはあります。

圧倒的に寡勢でも、城門という限定された範囲で数の利を無効化すれば、守りに徹して時間稼ぎできます!

「それでも長くはもたんぞ! 頼むパッファ、ソンゴクちゃん!!」

「お任せあれ! ソンゴクちゃん! アタシの指示通りに狙って撃って! できるだけ効率的に、少ない穴で風通しするよ!」

こうして激戦の末。

五百年に渡って魔国の人々を恐れさせた遺跡ダンジョン『旧魔都』は、そこに巣食うアンデッド軍団と共に消滅しました。

不死を得た魔王の、狂気の野望もまた一緒に。

アロワナ王子の旅は、今日も順調です。