軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

178 直訴

引き続き、人魚族の論客ヘンドラーだ。

アロワナ王子に指示された海流を巡って、陸にたどり着いた。

「ここで間違いないはずだ……!」

プラティ王女が隠棲するという、聖者の農場とやらは。

陸人化薬を飲んで変身し、しっかりとズボンを穿いて、恥ずかしくない格好で陸地の奥へと進む。

すると早速人と出会った。

「失礼、ここは聖者様が営む農場で間違いないか?」

礼儀をもって、かと言って遜る様子を見せず話しかける。

論客を名乗る者として、この程度の態度の調節はできて当然というべきだ。

私から問いかけられた彼は、一目で魔族とわかった。

「いかにも。と言っても我はここの住人ではないがな。時おりここで寛ぐために、訪ねさせてもらっている客だ」

「それは不躾に申し訳ない。もしよろしければ、こちらの主にお目通り願いたいのだが……?」

会話しながら、私は皮膚の裏側で燻るものを感じた。

何故ここに魔族がいる?

プラティ王女が隠棲しているはずのこの地に?

この地は既に、魔族の息がかかっているのか!?

「承知した。……聖者殿! 聖者殿! 客が来られたぞ!!」

大声で呼ばわる魔族だが、改めてわかる、その魔族がただ者でないことに。

体つきの逞しさもさることながら、放つ気配は百戦にて鍛え抜かれた刃のごとし。

いかに魔族と言えども、ここまでの覇気をまとえる者は十指を超えるまい。

ここまでの屈強魔族が滞在している、聖者の農場とは、一体?

「はいはいはーい! どうしました魔王さん?」

程なくして畑の方から、対照的にヒョロッとした人族? と思しき青年がやって来た。

……。

っていうか今彼、なんて言った?

「こちらの方が聖者殿を訪ねてこられたぞ、どうやら人魚族のようだが?」

「あー! アロワナ王子の代理人さんですか! 話は聞いてますよ! 遠いところをどうもどうも!!」

と、その人は実に柔らかい物腰で私のことを出迎えてくれる。

呼ばれ方からして、彼が聖者?

「実在していたのか……!」

「え? 何です?」

早速私の推測が大外れ。

とすると彼がプラティ王女のハートを射止めたということに……!?

「あのっ、いえ……! いかにも私が、アロワナ王子より届け物を預かりましたヘンドラーと申します。早速ですが、プラティ王女にお目にかかりたいのですが……」

「ですよね! 案内しますんでどうぞこちらへ! プラティ! プラティお客さんだよーッ!!」

とにかく、彼らについていくしかなかった。

架空を予感させていた聖者がちゃんと実在していて、しかも周囲に広がる畑は雄大にして立派。

一体何なのだ? という戸惑いを消し去ることができない。

聖者とやらと和気藹藹に並び歩く、あの屈強な魔族についても……。

「魔王さんすみません。来客の対応などさせてしまって……!」

「我もここに住んでいた時期があるのだから問題あるまい。我と聖者殿との仲で堅苦しいことは言いっこなしだぞ」

んー?

んんー?

* * *

本当にいた。

プラティ王女が。

ご尊顔を拝すること何ヶ月ぶりか?

「アナタが兄さんの代理人ね? こんな遠くまで、ありがとー」

アロワナ王子から預かった調合道具を引き渡して、すぐさま私は自分の用件を切り出す。

即ち、人魚国に迫らんとする魔族の侵略だ。

人間国が滅ぼされた今、魔族は新しい戦いの標的として、いつ我らを視界に収めてもおかしくない。

そうなる前に、魔族を押し留めるために万策を尽くさねば。

プラティ王女にもお力添えを!

稀代の魔女にして王女に嘆願した。

「あー、人魚国って今そんなになってるのねー」

プラティ王女の反応は、どこか淡泊でもあった。

「まあ、予想してなかったわけじゃないけど。だったらここはご本人に白黒ハッキリさせてもらえば、いいんじゃない?」

「ご、ご本人?」

「どうなの魔王さん? 魔族は人魚国に攻め込むの?」

とプラティ王女が問いかけたのは、例のここへきて最初に遭遇した屈強魔族だった。

「愚問だな。我ら魔族が人魚国に攻め込む理由などない」

「ですよねー」

「人族との戦争は、あくまで向こうが仕掛けてきたがゆえに受けて立った防衛戦争。あちらが滅びるまで攻勢やむことないと判断したがゆえに、国家としての息の根を止めたまでにすぎぬ」

と、屈強魔族は実感のこもった声で言う。

「人魚族は、我ら魔族との戦争を望むわけではなかろう。我々は、相手の望むものを与えるだけだ。敵意なら敵意を。友情なら友情を」

「と、魔王ゼダンさんのコメントでした」

魔王ゼダンんんんんんんんんんんんんんッッ!?

魔国の王! 魔王軍の総司令ではないかッ!?

何故そんな大層な存在がフツーにいるんだッ!?

「ここはそういうところなのよ。たとえばあの窓の向こうで、鍬振り回してる人族の女の子がいるでしょう?」

「は? はい……?」

「アレは滅ぼされた人間国の王女レタスレートよ」

ウソだあッ!?

何なんですかここ!? なんで人魔魚の三王族が揃ってるんですか!?

「我などは政務の合間に、荒んだ心を落ち着けるためにこちらを訪問するが、そなたらのアロワナ王子もよくここで寛いでおられる」

と魔王ゼダン。

「まさか、ウチの王子とお知り合いで!?」

「知り合いも何もアロワナ王子とは相撲を組み合った友だ。彼が人魚王となった暁には、魔国との百年の友好が保証されることであろう」

アロワナ王子!

アナタいつの間に外交の百点満点を叩きだしていたんですか!?

地上最強の国家元首とマブダチになっているじゃないですか!

もしかして、これがあって問題ないと確信できたから、国内での論争を無視して修行の旅に出たんですか王子!?

「王子は旅の途上、我が魔都にも立ち寄って、多くの重臣たちと面識をもった。いずれ正式に魔国と人魚国との友好を発表することは、双方の意見が一致している」

「いずれ……!? 何故『今すぐ』ではないのです!?」

「我も以前使った手だが、喋るべき者が沈黙していると、軽率な者たちから軽率なことをしだすものだ」

「!?」

「アロワナ王子も、みずからが王となるに先立ち、旧体制の大掃除がしたいところだろう。浮かれ者の足を掬い易いように、今は場が温まるのを待っているのだ。みずからを厳しく鍛えながらな」

そうか……!?

プラティ王女を魔族に嫁がせなかったことをなじる者は、総じて現体制への非難も強めている。

そうした連中は、真実が発表された瞬間大恥をかくことになろう。

自分たちが散々なじってきた現体制が超有能であることを示されるのだから「お前らの言うことなんて信じる価値はない」という動かぬ証拠を突き付けられるようなものだ。

以後ヤツらの発言力は急激に衰えていくことだろうし、反乱分子を炙り出すにも絶好の機会。

一網打尽にするため、反抗的な連中にはもっと調子に乗ってくれた方がいい。

それを狙ってのアロワナ王子沈黙、さらに不在であると!?

既に相手国との固い信頼が結ばれ、大逆転が約束された現状、何を焦ることがあろうかと!?

「もう全部を悟りえた顔だな。人魚族もなかなか人材が揃っている」

「ヘンドラーは兄さんのお気に入りだから」

これで心配することは何もない……!

アロワナ王子、やはりアナタは人魚国の将来を託すに相応しい人物でした!

「……私の疑念は晴れました。これにて退散いたします!」

「え? もう帰っちゃうの? そんなに急がずにご飯でも食べて行ったら? ウチに住んでいる人魚たちに、故郷の様子でも話してあげてよ」

と言いつつプラティ王女、大きな声で幾人か呼ばわる。

「ランプアイ! ガラ・ルファ! あと義姉! ちょっと来てみてー!」

それに応えて燃え盛るような赤髪の、長身の女性が姿を現した。

ん? 彼女は……?

「プラティ様、何か御用で?」

「ランプアイしか来なかったわね。……まあいいわ。人魚国から新しいお客さんよ。せっかくだし楽しいお話でも……」

「ッ!? この男はッ!?」

長身の女性が、私を見てハッと気づいた。

私も同時に気づいた。

「キミは、国王への謁見時に私をタコ殴りにした近衛兵!?」

「貴様は、国王陛下の前でプラティ様を罵った不敬者ッ!?」