軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174 海王子の旅立ち

アロワナ王子、修行の旅に出る。

ということで周囲は割と大騒ぎ。

だって仮にも大海を統べる人魚国の跡取りですからね。

しかも、旅の目的地は地上。

地上の様々な場所を見て回り、見聞を広めて修行を積むという。

「それでは行ってくる」

スタート地点は我が農場。

とは言っても農場の周りは人なき山野が広大なばかりなので、まず転移魔法で魔国の本拠、魔都まで行って、そこから諸国漫遊するという。

この決定に、一番狂乱したのはパッファだった。

「やだーッ!! アタイも一緒に行くーッ!!」

今もなお周囲に取り押さえられつつ暴れまくっている。

実際のところアロワナ王子のこと好きすぎる彼女は、数日に一度の王子来訪を何よりの楽しみにしていたのであり、その楽しみが奪われるのは地獄の苦しみ。

なので、こうなったら王子に同行して水入らずでキャッキャウフフと考えが至ったのだろうが、それはそれで俺たちが困る。

「今やパッファは、発酵食品の製造と冷凍庫の管理で、我が農場になくてはならない存在だからな」

数日程度の留守なら許容できるが、さすがに数ヶ月も不在にされたらウチの食品保存機構は破たんする。

「パッファよ。心配してくれるのは嬉しいが、私にもキミにも、それぞれの場所で果たすべき使命がある。それを全力で頑張って行こうではないか」

アロワナ王子当人の説得で、何とか沈静化するパッファだった。

「王子……! ならこれを……!」

とパッファは、何やらペンダントを差し出した。

何やら氷のように透き通った水晶のペンダント?

「これをアタイだと思って、肌身離さず持っていてください!」

「わかった。常に首から下げていよう」

とアロワナ王子は、受け取ったペンダントを身に着けた。

そのやり取りを見て、パッファも案外可愛いところがあるんだなあ、と思った。

「アロワナ王子、俺からも心づけを……」

そう言って一人のオークを引き合わせる。

「彼を同行させてやってくれ、一人旅では何かと危ないこともあるだろう」

ウチで働いているオークは変異化したウォリアーオーク。

オークボらリーダー格に入る子ではないが、荒事が起こっても充分な助けとなるだろう。

「聖者殿、それは悪い……! 彼もこの農場の重要な働き手だろう!?」

「コイツも、かねてから外の世界を見てみたかったらしくてね。一緒に見聞を広めさせてやってくれ」

さて。

それではアロワナ王子のお供をして旅立つオークに、新たに名前を授けよう。

オークは、この世界の彼ら顔つきも人に近いが、俺が住んでいた前の世界では豚の顔に描かれることも多かった。

そこで彼を、こう名付けてみた。

「ハッカイだ!」

俺の悪ノリはまだ続いていた。

沙悟浄的な半月刃矛と甲羅の盾を装備したアロワナ王子と共に……。

ハッカイと名付けられたオークが旅立っていく。

猿と坊さんは旅先で見つけてくれ。

そして、最後にプラティ。

旅人アロワナ王子の実妹のくせに、出てくるのが格段に遅い。

「人魚王になるための自己修練は感心だけど。ここのことはどうするの?」

見送りの言葉も相変わらず辛辣だ。

「兄さんが人魚宮から届けてくれる調合道具や消耗品。けっこうアテにしてたんだけど。供給が途絶えたら割と困るわ」

「そのことなら問題ないぞ妹よ。既に代理人は手配してある」

代理人?

「私の不在の間は、その者が代わりに付け届けしてくれるはずだ」

「ちゃんとした人選なんでしょうね。ここが大っぴらになるのは避けたいんだけど……?」

プラティは難しい顔を、しかしすぐ崩した。

「まあでも、成長しようとする兄さんの見送りにこれ以上の文句は無粋よね。気をつけて」

「ああ、次会う時は、新たな人魚王の姿をお目にかけよう!」

最後に兄妹らしい親交を見せて、アロワナ王子は旅立っていった。

王者となるための試練の旅だった。

* * *

「寂しくなるわね、お義姉さん?」

アロワナ王子が旅立ってあと、早速パッファがからかわれていた。

からかっているのはプラティ。

「ま、遠距離恋愛もありっちゃありじゃない? ここは観念して、兄さんが帰ってくるのを待って……」

「王子にやったペンダント、な」

「うん?」

パッファのただならぬ口調に、プラティも何か感じる。

それは勝利を確信するパッファの口調だった。

「王子が修行の旅に出ると聞いて、先生のとこに押しかけて死ぬ気で頑張って拵えたクリスタルを使ったペンダントだ」

「え? 何それ? 先生って、ノーライフキングの先生?」

「いくつかの偶然と奇跡が重なったシロモノで同じものは二度と作れねえ。転移魔法の、転移ポイント情報が封じ込められた、いわば携帯式転移ポイントクリスタルだ」

「え? え? ええぇ~~~~ッ!?」

「王子はあれを持っている限り、何処に行っても転移魔法で傍に行くことができる。先生に習って、転移魔法も覚えたし……」

そう言ってパッファは、何やら魔法薬の入った試験管を足元に叩きつけて割る。

零れた魔法薬から煙が立ち上って、パッファの体を包み込んだ。

「大丈夫だよ。漬物作る日常作業が始まる前に戻ってくるからー」

そしてパッファは、魔法薬の煙の中に姿を消した。

今頃は旅先のアロワナ王子の下か。

「転移ポイントを封じ込めたクリスタルとか前代未聞なんだけど……!?」

「発表されたら魔法研究会がひっくり返る歴史的大事件ですよ……?」

「しかも転移魔法を覚えたって……。元々魔族の魔法であるのを、人魚族の薬学魔法に取り込んだってことですか……? それもそれで天才の所業なんですが……?」

その場面を目撃したプラティ他、同類の人魚たちが揃って呆れ返っていた。

俺の素人目にもわかる、パッファがやってのけたことは奇跡の大安売りバーゲンセールってことなのだろう。

それを実現させた愛の力は偉大だ。