軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

172 海王子の武勇

アロワナ王子が遊びに来た。

彼は俺の妻プラティのお兄さんに当たり、俺にとってはいわば義兄。

年も近く気が合うので、もうすっかりお友だち気分だ。

なんだか凄い久しぶりなような感もあるが、そんなことはなくアロワナ王子は三日と開けずに定期的に我が農場へ遊びに来る。

そんなに頻繁に来ていいの? 人魚族の王子ってそんなに暇なの? と心配にもなっていた。

でも最近ではそんな心配も弛緩してしまって、来るたび王子を歓迎することしかしなくなってしまった。

* * *

「武泳大会で優勝した」

そんなアロワナ王子が、ある時そんな土産話を持ってきた。

「え? 本当? 凄いじゃない兄さん!」

普段は実兄を応対することのないプラティがたまたま偶然に顔を出していて、さらに話題に食いついてきたのだから珍事に珍事が重なったという感じだ。

「……何その武泳大会って?」

俺は茶の席で、お茶うけに出された柴漬けをポリポリしながら聞いた。

「人魚族に古くから伝わる武闘大会よ。男人魚たちが腕を振るって……、いいえ尾ヒレを振るって挑む試合なの」

伝え聞くところ、人魚族の戦闘法は男女で大きく違う。

女の人魚は、人魚族特有の薬学魔法で戦闘用魔法薬を作成し、それを駆使して戦う。

プラティたちが日頃行っている戦闘法がこれで、彼女たちが魔女と呼ばれる所以の一つだろう。

それに対して男人魚の戦闘法は、対照的だ。

まず男人魚は、魔法薬に頼った戦いはしない。

頼るのは主に、鋭い銛と自分自身の体。

下半身魚という形態を活かし、水中を泳ぎ進み、一定以上の速度を得て、その勢いを銛に乗せて敵を貫通する。

それが男人魚の必勝法だった。

そのための様々な補助技術も研究されている。

より速い遊泳法。巧みな銛捌き。あるいは海流を操作して自身の動きを補助したり、敵の動きを妨害する秘技まであるんだとか。

「そうした技と努力を公の場で競い合うのが、武泳大会の意義だ。一対一の試合形式で、銛で突っつきあい! 死んだ方が負け!!」

いや、そんなシビアじゃないんでしょう?

降参したら負けとか、半殺しになったら負けとかそんなルールなんでしょう?

「勝ち残った者同士で幾度となく戦い、最後の一人になるまでやる! 好成績を残すのは、男人魚にとって何よりの栄誉!」

「アロワナ兄さんは毎年、決勝トーナメントの常連だったから一応王子としての面目は保てていたけど、優勝はたしか初めてでしょう? よっぽどクジ運がよかったのね」

「わかってはいたが妹よ。我が実力ゆえという考えはないんだな?」

この兄妹。けっして仲は悪くないと思うのだが、この妹から兄へのつれなさは何が原因なのか?

「言っておくが、けっして運だけで勝ち残ったわけではないぞ! 何しろ決勝トーナメント第一回戦の対戦者は、前年優勝者のシャーク将軍だったからな!」

「だったら凄いじゃない!? あの獰猛将軍に勝っちゃったの!?」

「準決勝では前々回優勝者にして斬泳闘法の使い手タチウオ! そして決勝で戦ったのは、人魚界の生ける伝説サンマ師匠だ! どうだ? これほどの面子相手に戦い抜いた私を、クジ運だけの男とは呼ばせないぞ!?」

「兄さん、どんなズル使ったの?」

「少しも信用してくれない!?」

部外者の俺にはよくわからないが、とにかく凄い快挙をアロワナ王子は成し遂げたらしい。

プラティたちの派手さに隠れていまいち地味だけど、この人も相当凄い人魚なんだろうなあ。

「まあ……、ズル、と言えば言えないことも、ないではないが……」

「ホラあるんでしょう!? 言いなさい! 言っちゃいなさい! そして大会運営者の皆さんに謝りに行くのよ!!」

「ルール違反はしていない! 優勝の秘密は……、コレだ!」

ゴトッ、と物音を立ててアロワナ王子が持ち出したのは、巨大な亀の甲羅だった。

「ああ、それは……!?」

いつだったか、俺たちがダンジョンで倒した亀型モンスター、ロータスの甲羅じゃないか。

素材を持ち帰ったあと有効活用できないかと試行錯誤の挙句、形状が合っているということで盾に加工してみた。

それをアロワナ王子が気に入って持ち帰ったということが、過去たしかにあった!

「この盾が、実に優れものでな。元々頑強な上に、甲羅独特の丸い形状がまた具合がいい」

丸みを帯びた亀甲の盾はあらゆる攻撃を滑らせ弾き、本来の威力を殺してしまう。

「シャーク将軍の噛み殺し鋸も、タチウオの斬泳闘法も、サンマ師匠のツッコミすら凌ぐことができたのは、この盾のお陰だ。そうして必殺攻撃に耐えきった直後の反撃で勝利を掴むことができた!」

当時の興奮が甦ったのか、アロワナ王子の口調に熱が帯びる。

「プラティも言っていたが、私にとって今回が初優勝でな。長年の念願叶ったのは、聖者殿のもたらしてくれた、この盾のお陰だ。今日はその礼が言いたくての訪問だったのだ!」

いえいえ。

お話を伺うに、人魚族の威信を懸けたその大会は、秘密兵器の一つ程度でトップが取れるほど甘いものではありますまい。

それプラス、アロワナ王子の弛まぬ努力が実を結んだのでしょう。

それと同時に、俺はハンドサインでその辺通りかかったオークに甲羅の盾量産のゴーサインを出した。

有効性が実証されたからにはね。

「武泳大会に優勝し、私も父のあとを継いで人魚王となるのにまた一つ準備が整った。これからも私は、自身に課せられた責務に真摯に向き合っていきたいと思う」

「ご立派です」

「……しかし最近、私は不安に思うことがあるのだ」

「?」

何やらいきなり、アロワナ王子の声のトーンが落ちた。

「私は、果たして人魚王となるに相応しい器量があるのかと。武泳大会に優勝し、人魚王の座にまた一歩近づいたからこそ思えるのだ。私が父のあとを継ぐには、まだ足りないものがある……!」

* * *

余談だが。

このアロワナ王子優勝の快挙に、彼のことが大好きな『凍寒の魔女』パッファが大してリアクションせず静かなことを不審に思い、尋ねてみた。

さすればこんな返答が。

「アタイ会場まで行って直接観戦してたもん。その時に興奮し尽したわ」

「えー?」

パッファさんアナタ……。

一応人魚の囚人で、勝手に海に戻っちゃいけないはずですよね……?

なんでそんな公の場に……!?

「どうしても王子を応援したくてさあ。少し変装して大人しくしてたら案外バレないもんだとわかった」

さらにあとに聞いた話だが、アロワナ王子の各試合の合間、魔法薬によるサポートでケガを治したり体調を整えたりして彼を優勝まで導いた女人魚がいたとかいなかったとかで。

優勝時には王子に抱きついて喜び合ったという。

なのにその女人魚の正体は杳として知れず、『王子に謎の交際相手!?』と人魚族の口さがない層を賑わせているんだとかいないんだとか。

……アロワナ王子念願の初優勝の陰には、秘密兵器の亀甲盾だけでなく彼自身の努力鍛錬だけでなく。

彼を慕う女性の内助の功まであったとは……!!