軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1486 ジュニアの冒険:水平線の終りには

僕ジュニア、海の神界へと向かう。

天界神のオリュンポス山、冥界神の冥府、そしてこれから行く海の神界で神界三種コンプリート!

ってノリじゃないんですわ!!

まったく嬉しくないんですわ!

だって一度踏み込んだら無事帰ってこれるかわからない場所ですよ!!

楽しみよりも緊張感が先に出るわい!!

『我が主が無理を言って申し訳ありませんねー』

柔らかい口調でなだめてくるのは、僕を背に乗せて大海を渡る大海獣ケートス。

ポセイドス神に仕える神獣とかそんな感じのモノらしいが、主君より大分理性的で話が通じやすい。

……のはどうしたものか。

『私の背中の乗り心地はどうでしょう? できるだけ揺らさずに泳いでおりますが気づいたことがあれば仰ってください』

あッ、いいえまったく快適です。

お気遣いいただいて申し訳ないです。

『いえいえポセイドス様の大切なお客様ですので。海神の忠実なる下僕たる私にとっては最高級のおもてなしをしなければいけません』

と殊勝なことを言ってくださる。

まったく神よりその遣いの方がニンゲン(?)できてるのどうにかならんのか?

『いやあ、これでも私だって昔はブイブイ言わせていたものですよ。美女を巡って英雄と戦ったりしましてね。その時は、まあ私が悪役だったんですが。悪役令嬢ならぬ、悪役怪獣ってね!』

何もかかってないですし上手くないです。

それに大抵の場合怪獣は悪役なのでわざわざ言い添える必要もないというか……言ってて悲しくなるな。

『ははッ、そうですね……』

いかん盛り下がってしまった!

すみません僕の話題選びが下手なばっかりに!

『いいんですよ、いつか怪獣に転生した主人公が物語の先を読んでヒーローに勝つお話が世に出ると信じていますから』

随分と遠回りな野望を胸に秘めてるんだな。

じ、実現するといいですね。

それより目的地にはまだつかないんでしょうか?

『すみません、もう少しお待ちいただきます。何しろ神界なもので、簡単にたどり着けるようでは困りますからね』

たしかに人と神とを隔絶する障壁が、そう簡単に乗り越えられては困るもんな。

神だけでなく人のためにも。

そんな中、簡単に神を呼び出せてしまうノーライフキングの先生が物凄いわけで。

だからこそ先に訪問した二つの神界は、たどり着くにも困難な場所だったし、帰還するにはなお過酷だった。

それだけ神の領域は到達不可能な場所。一度到達したら帰るのはより不可能な場所ってことなんだろう。

『海神ポセイドス様が支配する海の神界は、その名をオケアノスと言います。同じ海ではありますが、人類の住まう海とはまったくの別界。普通に泳いでたどり着ける場所ではありません』

まあ、そうだろうな。

海は広いな大きいなというけれど、さすがに神の世界に届くほど広くも大きくもないようだ。

『神の海オケアノスは、水平線の向こう側にあるのです』

水平線の……向こう側?

水平線についてはわかっている。海のずっと向こう側の、空と接しているアレだよな。

海岸が近い農場に住んでいたから毎日のように見てきた。

『それなら泳いでいけばいつかたどり着ける……とお思いでしょうか。しかし明日が明日のまま来ることはないでしょう。明日は日をまたげば今日になってやってくる。それと同じように水平線の向こうもずっと水平線の向こうにあるのです』

空間的に隔絶されているというわけか。

僕も小さな子どもの頃、どうしてどこまでも続く海に終わりがあるのか。終わりの向こうには何があるのか。

知りたくて父さんに質問してみたものだ。

その際に父さんは『地球が球状になってるものだから……いや、ファンタジー異世界は当てはまるのかコレ? そもそもこの世界は天動説なのか地動説なのかどっちだ?』と戸惑っていたが。

とすると子どもの頃に疑問だった水平線の向こう側へ、僕は今日たどり着くことができるのか?

『この神獣ケートスだからこそ空間を超越し、水平線というピリオドの向こう側へと行けるのです。ではそろそろ、その真価をお見せしましょう! ブッ飛ばすぜ! 気合入れろぉおおおおッッ!!』

ええッ? ひょっとしてケートスさんスピードが乗ると人格(?)変わる人!?

いや怪獣!?

うおおおおおッ!? みるみるスピードが上がっていって、空気抵抗でフッ飛ばされるぅううううううッ!!

『行くぜクリアマインド!!』

光のようにすべてを追い越すぅうううううッ!?

……。

んッ?

気が付くとそこは、慣れ親しんだものとはまったく違う海だった。

燦燦と輝く太陽が照り付けながら、それでいてジリジリとした暑さはない。

柔らかく暖かだ。

そんな中、周辺全方位を囲む海は風もなく、波穏やかでとても落ち着く風景だった。

その穏やかな海に浮かぶ怪獣ケートスさんと、さらにその上に乗る僕もまったく穏やか。

ここまで何もない海ばかりの景観にポツンと浮かぶと、自分が世界の中心にいるかのように錯覚してしまう。

『ここが神々の海オケアノスです。どうです、どことは言えませんが人間界の海とはまったく違うでしょう?』

たしかに、どことは言えないが人の世界とはまったく様相の異なる海だ。

どことは言えないが……どこがどう違うんだ?

『神々の海には、脅かすモノが一切存在しません。船を転覆させる大津波も、航海者を餓え殺す凪も、惑わせる霧も。厳しい寒風も焼き尽くす熱波もない楽園の海なのです』

とケートスさんが解説してくださる。

『まさに神が住まうに相応しい海。この海で不安に思うこと、心配することは何もありません。ホレ、試しに我が背から降りてみてください』

ええッ!?

こんな360度水平線の絶海で、唯一の陸地と言っていいケートスさんの背から降りたら、フツーに溺れて死ぬんでは?

『大丈夫大丈夫、騙されたと思って』

この場合騙されたら沈むんですが!?

しかしここまで親切に送ってくださったケートスさんを疑うのは礼儀に反する。

こうなったら出たとこ勝負だ! たとえ奈落に落ちようともレッツバンジー!

……ザッブーン! グル!

えッ!?

海に飛び込んだ瞬間、俄かに信じがたいことが起こった。

僕は脚から水面に入ったが、そのまま水中に入り我が身が取り込まれていくのは人間界の海と同じ。

しかし、足から腰、胸元まで水中に入ったところで、人の海では考えられない作用が働いた。

水面から、強力な反発が起こって僕自身の身体がポーンと跳ね上がった。

「えええええええええッ!?」

さらに重力に従って水面へ、水面からの反発力で……最初よりは幾分弱い力で跳ね上げられる。

それを何度か繰り返して、僕は海の水面の上にストンと立った。

……立った!?

『オケアノスの海は、その上に立とうと思えば立ち、潜ろうと思えば潜ることもできる。どのように振る舞うにも思うがまま自在なのです』

かつて父さんも『至高の担い手』を応用して海の上を歩行走行したことがあったが、今回のこれはそういうのとはまったく関係なく普通に立てているようだ。

『ちなみに水中に潜ったとしても、人間界の海のように“呼吸できなくなる”というような難点はありません。脅かすモノが一切ない楽園の海。それがオケアノスなのです』

危険がない海か。

たしかに楽園と呼ばれるに相応しい海だ。

しかしだとすれば……。

今、こちらに迫ってくるあの大津波は何なんでしょうかぁああああああッッ!?

『はぁ~っはっはっはっはっは!! よくぞやってきた聖者の息子よぉおおおおおお!』

『ああ、アレは……この海の君主の悪ふざけですな』

ケートスさんが半ば呆れ気味に言う。

寄せてくる津波の頂上に、人影があった。

いずれも人知では及びもつかない現象ではあるのだが。

その津波に乗った人影とは……。

『我こそ七つの海に君臨する覇者! 海でもっとも自由な神! 海神ポセイドスとは我がことよ! はははははははははは!!』

現れた、今回の震源地であり、この神海オケアノスの主となる存在が。

海神ポセイドス。

津波の上に乗って、ノリノリの波乗りジョニーのような登場の仕方だった。