軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

147 真面目な軍人

我が名はオルバ。

魔王軍四天王『堕』のベルフェガミリア様に仕える副官なり。

私は、みずからの職務と地位に誇りを持っている。

元来魔王軍は地上最強、猛者の軍団。

その末席に所属できるだけでも生涯の誉れであるというのに、四天王補佐の座にまでのし上がることができた。

無論、実力ゆえと自惚れる気はない。

私ごとき若輩者、それ相応に運に恵まれなければ、このような栄誉に浴すること叶おうか。

私にとって何よりの幸運は、魔国における貴族の家に生まれたこと。

そこそこの有力貴族で、代々四天王を輩出する堕聖剣フィアゲルプの所有家系、その取り巻きの一つだ。

今代の四天王のお一人、『堕』のベルフェガミリア様の取り立てで副官の座に就かせていただいたのもその縁からであり、要するにコネ採用。

だからと言って私は恥じることもしないし、当然驕ることもない。

どのような形であれチャンスに巡り合ったからには、全力でそれを掴むのみ。

四天王副官の重責も果たし、みずからの限界に挑戦したいと思っている。

それこそが私の、魔王軍の軍人として戦う意義なのだ。

* * *

そんな私が今回賜った任務は、魔国領内に出没するモンスター討伐だった。

「そんじゃまー、よろしく頼むよん」

我が直属の上司である四天王ベルフェガミリア様は、いつもこんな調子で指示くださる。

怠惰、無気力、能天気、昼行燈。

それが世間から向けられる我が主への評価。

事実、ベルフェガミリア様は四天王に就いてから一度として能動的に動いたことがなく、魔王ゼダン様よりの命令を遂行するだけで、それ以上の働きをしたことがない。

自然、他の四天王が挙げたような華々しい戦功はベルフェガミリア様の手中になく、精彩不足と言われるのも仕方がない。

しかし私にとっては、尊敬すべき上司であることは間違いない。

「拝命、しかと承りました。この身に代えても任務を果たして帰ります」

「そう肩肘張らないで。適当でいいからさ。……どうせただのパトロールなんだし、異常がなければそれに越したことはないんだよ」

と言って我が上司、そのまま午睡に入ってしまった。

執務室に持ち込んだ私物のハンモックに寝転んで。

「…………ッ!」

今更私ごときが咎めたところで改める人ではない。

私は無言のまま、任務を手に退室した。

* * *

「……あの人は、あれでいいんだよ」

兵を率いて出陣。

行軍中、同行の副官バラムが言う。

四天王は大抵四、五人程度の副官を持ち、バラムは私の同僚だった。

今回の領内警備の任務は、彼との合同になる。

「怠惰で役立たずと思わせておくことが、あの人の防衛術なんだ。事実そのおかげで政戦に巻き込まれず、こないだの改革も無傷で乗り切った。四天王の中で、改革のあとも変わらずその座に就いているのはあの人だけだ」

「それはそうだが……!」

しかし四天王の座から去った三人のうち二人は、魔王ゼダン様に娶られ魔王妃となった。

いわば出世と言っていい。

失脚したのは『貪』のラヴィリアン様ただ一人で、その位置関係から見てウチのベルフェガミリア様はただ失点がなかっただけで得点があったとは……!

「リターンはリスクの裏返し。ただ生き残っただけでも立派な勝利と言っていい。それに……」

「それに?」

「これからの魔王軍では、あの人みたいな生き方こそ最大の正解になるかもしれないぜ」

……!?

バラムの言葉が私の胸に突き刺さったのは、私もそのことを薄々察していたからだろう。

「魔王ゼダン様は人間国を滅ぼし、長く続いてきた戦争に終止符を打った。それは魔族始まって以来の最大の戦果だろう。しかし最大の功労を挙げてしまったからこそ、あとに続くものがない」

「手柄は刈り尽されたと言うわけか……?」

事実、人間国がなくなった今、我々は何と戦えばいいのか?

敵のいない軍隊ほど虚しいものはない。

さらにその構成子に過ぎない私たちのような軍人に、上へ登るための機会などこの先与えられるだろうか?

そんな景気の悪い未来を慮れば、たしかにベルフェガミリア様のような安穏とした生き方が、これからの魔族軍人に相応しい気がする。

「……まだ、わからないさ」

そう言ったのは、自分に言い聞かせるためのものでもあったか。

「魔族の敵は人間だけじゃない。モンスター。一部の擬人モンスターは魔族によって使役可能だが、それでも大多数の種が手に負えず、無差別に暴れ回る」

今回の出撃も、そうした危険なモンスターの発見報告を受けたからで、現地に赴き調査。

本当に危険度の高い魔物がいたら四天王ベルフェガミリア直属部隊の力をもって叩き潰す手はずになっている。

「我々はまだまだ必要とされている。モンスターを倒し手柄を立て、魔王ゼダン様よりお褒めの言葉を頂くさ」

「生き急ぎんなよ。お前はただでさえいいとこの坊ちゃんなんだから、戦死なんかされたら遺族への詫び入れが面倒だ」

バラムから言われてムッと来た。

「その言い方はやめろ。軍属にいる間は出自など関係ないと宣言しておいたはずだ!」

「そんなこと言ってるうちはまだまだお坊ちゃまってことなんだがな。事実お前、何だよその鎧下は?」

「!?」

戦闘任務に出る以上、私も備えとしてしっかり全身武装している。その鎧の隙間から覗く布地は、鎧の下に着る衣服。鎧下着とか鎧下とか言われる。

下着といっても全身を覆う普通の衣服と変わらず、硬い鎧に肌が直接触れてケガするのを避けたり、鎧の途切れる関節部などをガードするためにも大事な防具だ。

「超新品でピカピカの鎧下じゃねえか。聞いてるよ。この任務の直前にお袋さんが贈ってくれたんだろう? 可愛い一人息子が生還できるようにって必死の想いがこもっているんだよ」

「…………」

正直、母の心遣いは有難迷惑でもあった。

ただでさえお坊ちゃま育ちと侮られがちな中、このようにピカピカな新品鎧下を着込んではますます目立って揶揄される。

それでも母の心配がわからないほど子どもでもないので、着ないわけにもいかないというか……。

実際、前の鎧下はかなりくたびれてきていたし……。

「貴族に生まれたお前には、それなりの役割があるってことだよ。ヘタな栄達なんて望まず、手堅く軍役を務め上げて箔をつけたらさっさと引退して、家督を継いでやりな。嫁さん貰って子どもを生ませて……」

「…………」

「人族との戦争が終わって平穏な時代。ますますそっちの生き方の方が世に沿ってるぜ。とりあえず今回の任務、何のモンスターも出てこず現地人の見間違いで終わることを祈ろうや」

バラムの言うことは正しい。

これから軍人は少しずつ、過去の遺物になっていくのだろう。

用なしとなって、歴史の表舞台から消えていく。

そういえば彼女はどうしただろうか?

今は魔王妃である四天王アスタレス様の副官を務めていた彼女。

同じ四天王副官という役職ゆえか、軍議で顔を合わせることが多かったが。当然と言うべきか、上司のアスタレス様が魔王妃になられてから、まったく姿を見なくなった。

どこかへ転属になったという話も聞かないし、上司が栄達した余禄に与り、退職金を得て退役でもしたのか。

平民出身で、まったくの徒手空拳から四天王副官まで登り詰めた才覚は本物。コネ出世の私から見ればコンプレックスを抱えるほどだった。

たしか実家が被服業で、退役したら家業を継いで新たに自分の店を持ちたい、という夢を語っていた。

魔王軍から去ったということは、その夢を叶えたのだろうか?

それもいい。軍人は戦いの場を失いつつある。ならば同じ夢でも平和な夢を追い求めた方がいいではないか。

「私は、私の夢を追う……!」

私の夢はあくまで戦場にある。

差し当たってはまず、これから向かう戦場に報告以上の強いモンスターがいればよいのだが……。

* * *

そう思っていた私だが、現地入りした途端考えが変わった。

たしかに強い魔物よ出てこいと願ったが、何事にも限度は必要だ。

というか実際出てきたのはモンスターではなく、モンスターより遥かに強くて危険な相手。

堕ちた竜、レッサードラゴンだったからだ。