軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1475 ジュニアの冒険:忠臣の家

僕ジュニア。

武泳大会の最終戦績は準決勝。

まあそこそこの結果は残せたと思っている。

父さんは初出場で決勝戦まで進んだというから、その記録には及ばなかったものの。

あんまり勝ちすぎると無用の注目を受けてしまうからな。

人魚国から見れば僕はゲストなのだし、そこで人魚国の歴史を塗り替える快挙を成し遂げてもしょうがない。

これでよかったのだ、これで……。

さて、波乱万丈目白押しで僕の人魚国での達成したクエストもだいぶ多くなってきた。

ここでできることももうそう多くはあるまい。

しかしやらねばならないことはまだ残っている。

そのために僕はここを訪れた。

人魚王アロワナの腹心、右腕、懐刀と呼び声も高い……。

ヘンドラーおじさぁんのお宅へ。

「武泳大会優勝おめでとうございます」

「ご祝辞ありがとうございます」

向かい合ってこうべを垂れ合う僕とヘンドラーおじさぁん。

礼儀を気にする者たちが集うとまれにこうなる。

ヘンドラーおじさぁんのところへはいずれ挨拶に伺う予定ではあったんですが、まさか武泳大会で直接当たって敗退して、昨日の今日で顔合わせすることになろうとは思いませんでしたよ。

いやぁ、なんだか気まずいなあ。

「お気になさらず……あのご子息との勝負、実力とはまったく関係ないところで勝敗が決まりました。私はあれを勝ちとは思いたくありません」

ヘンドラーおじさぁんらしい謙虚で真面目なセリフだった。

人魚族の貴族に生まれながら、出奔。

自分の進む道と家の方針が折り合わないための決別だと聞いているが、ヘンドラーおじさぁんは裸一貫から下積みを続けて成果を上げた。

そこでアロワナおじさんの信任を受けて彼の即位後、王様からの直接指示を受ける立場になって様々な活躍をやってのけるようになる。

そして確固とした地位が『人魚王の懐刀』。

だれもがヘンドラーおじさぁんを一目置くようになる。

家を出奔する以前とはまったく打って変わって。

ところで……。

なんだか随分とおうちが騒がしいですね?

「先日の影響が尾を引いています。武泳大会優勝の祝いといって贈り物が届いたり、本人が直接祝辞を述べに来たりと。対応で息つく暇もありません。優勝などするものではありませんな」

おおう、そんなタイミングで訪ねてきてしまって、なんか悪いですね……!

「ご子息はよいのです、農場を代表して訪ねてくださったのですから歓待しないわけにはいきません。私も農場の皆様には大変世話になりましたから」

温かみのある笑みを浮かべるヘンドラーおじさぁん。

「なにしろ妻と出会ったのも農場でしたからな。当時まだ人魚王子であったアロワナ陛下に頼まれて農場を訪れなければ彼女と結婚することもなかった。そう思えば運命の分かれ道を感じますな」

冷静沈着、沈着冷静に見えてヘンドラーおじさぁんは、かなりの愛妻家。

多くの男人魚同様に。

だから奥さんとの話になったらクールな執政官アロワナおじさんといえども、口角が上がり、目じりが下がるのも仕方ないことなのだ。

……。

ひとり者には乗りにくい話題だなあ。

ここは流れを変えるか。

「武泳大会優勝おめでとうございます」

「ご祝辞ありがとうございます」

一旦去りかけた話題を引き戻してみた。

「優勝してここまで大騒ぎになるなんて、やっぱり武泳大会は人魚族にとって意義ある大会なんですね」

「それはもちろんです。それに私にとっては武泳大会の優勝は初。我が家としても数十年ぶりの快挙になりますのでね。お祭り騒ぎもやむなしということです」

話題を戻すと急激に冷静になるヘンドラーおじさぁん。

「武泳大会に勝ちあがるということは、屈強な武を示すということでもある。それは家族や国を守る男人魚として何よりもまず示さなければいけないもの。私は奇しくも今大会、その極致に至ってしまった」

それでこのお祭り騒ぎというわけよ。

「私は、自分の力で勝ち取った者とは思っていませんがね。なにしろ準決勝も決勝も不戦勝のようなもの。これを実力と言っては我が子たちに示しがつきません」

……と、みずからに厳しい評価を下すヘンドラーおじさぁん。

彼もウチの父さんやアロワナおじさんと同じ時期に結婚して子宝にも恵まれている。

そんな我が子たちから見て誇れる父親になりたいのだろうな。

だったらなおさら今回の優勝は、子どもたちから尊敬される快挙だったのでは。

「子どもたちよりも興奮してくる輩がいるのがなあ……」

苦笑を浮かべるヘンドラーおじさぁん。

そこへバンッ、と扉を蹴破り入ってくる老紳士。

「ヘンドラーよ! よくやったぞ!! さすが我が息子!!」

誰ぞ?

年齢的にはナーガスおじいちゃんと同世代ぐらいだろうか?

それがなんとも馴れ馴れしくヘンドラーおじさぁんにすり寄ってくる。

「武泳大会優勝とは! 我が曽々々々祖父スプレンデス以来の快挙! ベタ家の悲願を達成してくれるとは! やはりお前が最高の息子だ! ワイルドよりもプラガットよりも!」

「父上、お客様の前です。控えてください」

「お前のような息子をもてて私も鼻が高いぞ! 幼い頃は何をやらせてもダメだったが、最後に最高の親孝行をしてくれた!! お前はやればできる子だと信じていたぞ!!」

「父上、ご自重を……!」

「我がベタ家の家系史に、お前の名をもっとも大きく書き記そう!『ベタ家最高の偉人ヘンドラー』と!! 私もまたお前の実父として名を残すのが誇らしいわ! はっはっはっはぐべぇえええええええええええええッッ!?」

うわぁッ、なんだッ!?

さっきから浮かれまくりなおじいさんが笑いながら絶叫した!?

なんて情緒不安定なんだ!?

「困りますねぇ義父上。アポイントもなしに勝手に本家に上がられては」

「ランプアイ……」

ああ、この人は……!?

ランプアイさん!

ヘンドラーおじさぁんの奥様であるランプアイさん!

前世代の魔女、狂乱六魔女傑の一人で『獄炎の魔女』と呼ばれた。

農場で働いていた経験もあるんだが、他の同世代の魔女がそうであるように彼女も結婚を機に第一線から退く。

以後はよき妻よき母としてバイタリティを発揮している。

そんなランプアイさんの夫が、このヘンドラーおじさぁん。

人魚宮廷を代表する忠臣夫妻だ。

「ジュニア様、お久しゅうございます。修行の途上益々精悍になられたようで幸甚です」

そ、そんな畏まった言い方されなくても……。

「いいえ、敬愛するプラティ様のご子息とあれば最大限の礼を尽くすが道理」

「ウチの嫁はプラティ様を崇拝していますので……」

「我が子たちにも失礼なきよう厳命しておりますので、もしジュニア様に対して舐めた口を利くようでしたらご連絡ください。すぐに躾直しますんで」

怖い周知徹底やめてくれませんかッ!?

ヘンドラーおじさぁんとランプアイさんの子どもなら、僕と同世代なんでしょうからもっとフレンドリーにお付き合いしたいですよ!

「まあ、我が子ら以前に失礼な輩がここにいるんですがね」

「何を貴様、嫁の分際でうぎゃあああああああッ!?」

ああッ、ランプアイさんの横の先端が赤熱して、あの浮かれ切ったおじいちゃんの背中に押当てられる!?

それ割とオーソドックスな拷問では!?

「ご安心ください、見た目ほど高温ではないので」

そうなんです!?

「お恥ずかしいところを見せてしまい申し訳ない。あちらは我が父、前当主であるベタ・トラディショナルです」

ヘンドラーおじさぁんのお父さんか。

たしかに世代も合いそう。

「ただ父は臣下として頭の固いところがありましてね。アロワナ陛下の世代に移っても旧いやり方に固執し、命令に従わなかった。それで兄弟で相談し、半ば強制的に引退していただいたというわけですよ」

「本当に仕方のない人ですよ」

とランプアイさん、真っ赤に輝く矛の先を、背中にジュージュー押し当てる。

「一計を案じた兄のワイルドがまず家督を継ぎ当主となりました。その時点で父は前当主としてバリバリ影響を及ぼしていくつもりだったようですがね。それを読んで兄はすかさず私に党首の座を譲りました」

「結果、義父は前々当主としてより影響力の少ない立場に追いやられたのです」

そういやヘンドラーおじさぁんは次男だというのに当主だと言われていたから疑問ではあったのだが。

そんなお家事情があったとは。

「その上、兄は父を連れて家を出て、結果的に父を我が家の中枢から離すことに成功しました。おかげで我が家は古い考えに囚われることなく自由に動けています。まあ、そのお陰で私が当主などという柄にもない地位についてしまいましたが……」

「旦那様なら務まると義兄上の判断でしょう。さすがは人魚騎士団長を務める御方」

矛で義父をグリグリしながら言うランプアイさん。

「ただこの義父が、義兄上の目を盗んでは本家に突入してくるのは困ったものです。もうここにアナタの居場所はないというのに」

「何を言うバカ嫁! 私はベタ家のために、可愛い我が子らのために!……アヂヂヂヂヂヂヂヂヂ……!」

「何もしないのが最良の選択なこともあるんですよ」

最強の嫁ランプアイさんの鉄壁シャットアウトで取り付く島もない先代当主……いや先々代当主。

ヘンドラーおじさぁんは濃い溜息を吐いた。

「ジュニア様……アナタのように素晴らしい御父上を持った人にはわかりにくいと思いますが……。厄介な親を持つと色々厄介なのですよ」

実感の伴った、重い重い発言だった。