軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1471 閑話:聖者観戦1/4

俺は聖者。

世界と家族と仲間の平和を願う者。

そんな俺は今日、人魚国へと訪れております。

「いーやーだー!! 武泳大会は嫌だー!!」

「こらッ、駄々こねずに席に着きなさい」

妻プラティに引っ張られながらも必死の抵抗を示す俺!!

この時期に人魚国へ行くと聞いた時から嫌な予感がしていた。

だってこの季節……。

……武泳大会の季節じゃん!!

武泳大会とは! 人魚国の男人魚たちが意地と誇りを懸けて戦う武道大会。

鍛え抜かれた技と肉体をぶつけ合い、戦って、戦って、戦い抜いて……真の最強の人魚を決めるために毎年開催される大会なのだ!!

そんなイベントの開催時期に人魚国を訪問するなんて、トラブルの予感しかしないんじゃい!

やだやだやだやだやだやだやだやだ!!

この時期だけは嫌だ!

来月でいいじゃん! せめて来週!

そしたら人魚国行くよ!

いやもう既に人魚国へは到着していた!

もう終わりだ!

俺の危機管理どうなっているんだ!?

「もー、注射打ちにいく子どもみたいに暴れないでよ。子どもらが見てるでしょう」

そうだった。

現場には我が末の息子と娘、ヨシタロウとザンカが連れ立っている。

長男ジュニアから数えて五人目と六人目の子どもだ。

この子らも体が育ってきて、そろそろ長旅にも耐えきれるだろうとのことで人魚国へ連れてきた。

他の子らは、それぞれの事情で今回の旅行には参加していない。

そんな幼い子らの前で父の醜態を見せたくはないが……。

でも武泳大会には参加したくないのは切実な願い!

やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!

我が子らよとくと見よ、この父の全力の駄々っ子ぶりを!!

「子どもに恥をさらしてどうするのよ……!」

プラティがガチで呆れている。

でもでもだって仕方ないじゃん!

それぐらい俺にとって武泳大会は鬼門!

例えて言うならスローライフ系主人公たる俺からしたらスポコンは対極なるもの!

そんなのに放り込まれて、俺のストレスがマッハになるとは思わんのですか!?

かつて実際、武泳大会に参加したことはあったけれど、あの時こそマジに必死で、ストレスでハゲるかと思ったんですからねッ!

しかも仕舞いには窒息で死にかけた!

そもそも地上の人間に海中で戦わせようということ自体に無理があるんだよ!

あそこで溺死しかけた記憶がとどめのトラウマとなって、『もー武泳大会はコリゴリだ』という強固たる意志が俺の中で形成されたんだ!

だからアロワナさんにも土下座までして『もう勘弁してください』と泣きを入れたし、それで俺の平和は守られたはずなんだ!

だからお願いだ、俺の平和を脅かさないでくれ!!

「そんな土下座して頼まなくても。アタシだって好きこのんで夫を不幸にしたりしないわよ」

ホントに?

マジで?

「なんで十年以上連れ添った夫から、こんなに信用を得ていないの?」

だってプラティだし。

「ママだしー」「かあちゃんだしー」

ホラ末の息子と娘もこう言っている。

「たしかに今回の 帰省(プラティにとっては) の目的は武泳大会だけれども。別に戦うだけが関わり方じゃないでしょう。楽しみ方は多種多様、それでこそ大きなイベントは成立するんじゃない」

多種多様?

それはつまり……。

「観戦、よ!」

観戦!?

「「かんせん?」」

子どもたちまでオウム返しで首を傾げた。

「そうよ! 観客席で激戦を見守り、見届け、歴史の証人となる! 場の興奮と一体化し、時には推しの参加者を応援し、声を振り絞って勝利を喜ぶ。これもまた立派なイベントの楽しみ方ではなくて!」

まあ、たしかにプラティの言うことも一理ある。

スポーツ観戦だって、お客が観戦料を払ってビジネスが成立するんだしな。

「そして観戦中に美味しい料理とお酒もあれば完璧ね」

完全なるスタジアム行楽のかまえだった。

「まあ行楽は別としても、ウチと人魚王家の関係上観戦ぐらいには顔出さないと差し障りがあるでしょう。親戚よウチ。さらには同盟相手でもあるし」

たしかに。

俺にとって人魚王のアロワナさんは嫁の兄、即ち義兄。

そんな義兄の誘いをぶっちって『もう勘弁してください』と参戦拒否しているんだから、せめて観戦ぐらいはしておかないと義理が立たんか。

それで一通り試合が終わったあと、一番盛り上がった試合などを挙げて感想も述べておけば、アロワナさんも満足するか。

……いや、そうやって興味を持った風を装っていたら『それなら来年は参戦をどうです?』とか言われそう嫌だ!!

「その辺りはアタシが断固としてNOと言っといてあげるから心配ナッシングよ。それに今回の大会は、他にも観戦する重要な理由があるのよ」

重要な理由?

それはなんだ?

「今年の参加者の中に、アタシたちにとってとても意味あるヤツがいるってことよ。あの子を応援せずに親を名乗ることは許されないわ!」

その言い方、まさか……。

「そう、ジュニアよ」

ジュニアぁああああああッッ!?

我が息子、長男!

アイツまでもが武泳大会の餌食に!?

「こら、人聞きの悪い言い方しない」

まさか、俺が参戦を断固拒否したから標的がジュニアに移った!?

なんてこった!

親の因果が子に向かうなんて! こんな宿命を我が子に背負わせてしまうなんて!!

「武泳大会のこと悪縁みたく言うのやめてくれないかしら、お願いだから。人魚族が誇る大イベントなのよ」

失礼いたしました。

しかしそんな大イベントに可愛い長男が出ると知ったら平静ではいられない!

我が身を引き換えにしてでも守りたくなってしまう!

「大丈夫でしょう、きっと。ヤツらから見てもジュニアは可愛い甥で孫で親戚なんだし。そこまで無体な真似はしないでしょう?」

そうかあ?

人魚族って案外その辺、心のタガが外れたりしているので心配が尽きない。

ここはジュニアのためにも、注意深く見守ってやらなければ……。

……わかった。

そういうことならこの聖者、武泳大会の最初から最後までを観戦者として見届けようではないか。

我が子の安全と勝利を願って。この観戦席からあらん限りの声援と、勝利の祈りを発信する。

「ウチらもおうえん、するー」「にぃにのしょうりをー、ねがってー」

おお、ヨシタロウとザンカよ!

お前たちも一緒にジュニアお兄ちゃんの勝利を願おう!

明確に応援する相手が決まったら俄然やる気が湧いてきたぞ!!

メガホンはないのか!? 鳴り物は!?

あらかじめわかっていたらジュニアカラーの法被を用意してお揃いで着てきたのに!!

あとジュニアの応援歌を作詞作曲……するだけの音楽センスが俺にはない!

「なんか独自の応援作法を展開してきた……!?」

何を言うプラティ、応援の基本だぞ!!

あ、そうだ。

せめて本戦が始まる前にジュニアのところへ顔見せに行こうか?

俺も久々にジュニアと話したいし、応援者がいると知ればジュニアにも励みになるだろう。

「にぃに、あうー」「しったげきれい、するー」

そうかヨシタロウとザンカも久々にジュニアお兄ちゃんに会いたいよなー。

それなら早速控室に……。

武泳大会に控室ってあったか?

「そこなんだけど旦那様……」

プラティが神妙な顔で言う。

「アタシたちが来ていることはジュニアには秘密にしておかない?」

えッ? なんで?

せっかく武者修行中の息子に直に会える機会なんだから有効に活用しないと……?

「あの子はこれから真剣勝負へと向かっていくのよ。そんなタイミングで雑念を入れたらあの子のためにならないわ。あの年頃の子って、親からの干渉をウザがるっていうし……!」

ジュニアならそんな心配ないんじゃない。

そういうのは全部ノリトが一手に引き受けているノリが我が家にはある。

「それにこういうのって、陰ながら応援する方が感じが出ていいじゃない」

ううむ、それもそうか……。

たしかに勝負を目前にしてジュニアお気持ちをかき乱すのはあまりいいことではない。

きっと顔を合わせれば積もる話も噴出することだろうし、会うのは武泳大会が終わってからでも遅くない。

そういうことで、俺たちは観客席から人知れずジュニアを応援することにしよう。

また観客席も偉い立派なものをこさえているし、ここまでの群衆に紛れていたらジュニア側から俺たちを探し出すのは不可能かなあ?